2018年04月14日

カーキ色の記憶   英題:A Memory in Khaki

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監督・シナリオ・編集:アルフォーズ・タンジュール

シリアの悲劇は2011年に始まったわけではない。
1980年代にアサド体制に反対した多くの若者が当局に追われ、国を去らざるを得なかった。監督の個人的な物語が、他の4人の語り手の物語と重なり合う。くすんだ軍服に象徴される沈黙や恐怖、戦慄の記憶。赤い風船に託されたと自由と抵抗。何故シリア社会が爆発し、革命が始まったのか、その背景に迫る。
過去を語りながら、未来を見すえるシリア人の物語。(公式サイトより)

国を出ざるを得なかったシリアの知識人、短編小説家、画家、通訳者、映画監督を通じて、1980年代以来、アサド独裁政権下のシリアで何が起こったかを検証した作品。
美しい映像と裏腹に、シリアの人たちの抱えている憂いはあまりにも深いと胸が痛みました。
『ラッカは静かに虐殺されている』の感想にも書きましたが、昭和63年(1988年)にツアーで、ヨルダンから陸路でシリアに入ったときに、ヨルダンの人々が明るかったのに比べ、シリアの人々は全般に暗いという印象を受けました。当時は考えがおよびませんでしたが、国の支配者の違いが人々の暮らしにも影を落とすのだと思い当たりました。
さらに混迷を極めるシリア。人々が平穏に幸せな暮らしを営める日の来ることを切に願います。

山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞を受賞した直後、10月13日に早稲田大学で開かれた上映会で監督のお話も伺いました。レポートを書きたいと思いながら、さぼってしまいました。この上映会後のトークで、聞き手を務められた岡崎弘樹氏(アラブ政治思想)が奔走して、公開が実現したとのことです。
岡崎氏より、「タルコフスキーに負けずとも劣らない素晴らしいものなので、是非多くの方に見ていただきたいと願っております」とのメッセージもいただいております。
ほんとに素晴らしい映像です。
また、字幕は山形で上映された版とは違い、アラビア語から訳し直した新字幕です。
ぜひ足をお運びください。(咲)


★シリア映画割¥900 (『ラッカは静かに虐殺されている』または『ラジオ・コバニ』の全国共通鑑賞券ご提示)

シネマジャーナル 山形国際ドキュメンタリー映画祭 報告
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yamagata/index.html

カーキ色の記憶アルフォーズ・タンジュール.JPG
アルフォーズ・タンジュール監督 (撮影:宮崎暁美)

2016年/カタール/108分/アラビア語/BD
配給:アップリンク
公式サイト:http://www.memory-khaki.com/
★2018年4月14日(土)〜20日(金)アップリンク渋谷 
★2018年5月19日(土)〜 横浜シネマリン にて公開




posted by sakiko at 10:36| Comment(0) | 中東 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月08日

女は二度決断する    原題, Aus dem Nichts.  英題:IN THE FADE

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監督:ファティ・アキン(『そして、私たちは愛に帰る』『消えた声が、その名を呼ぶ』『50年後のボクたちは』)
出演:ダイアン・クルーガー 、デニス・モシットー、ヨハネス・クリシュ、ヌーマン・エイカー、ウルリッヒ・トゥクール

ドイツ、ハンブルク。カティヤは麻薬売買で収監されていた恋人でトルコ系移民のヌーリの出所を迎えに行く。足を洗い真面目に働くと誓ったヌーリと結婚し、息子ロッコも生まれ、幸せな日々を送っていた。ある日、ヌーリに息子を預けるため事務所に立ち寄ったとき、店の前で新しい自転車に鍵もかけずにとめて立ち去ろうとする女性がいて、カティヤは思わず声をかける。が、気にせず立ち去る若い女。その日、店の前で爆弾が爆発し、ヌーリとロッコが犠牲になる。警察の捜査で、人種差別主義のドイツ人によるテロであることが判明する。容疑者が逮捕され裁判が始まる。カティヤが見かけた女性も一味だ。しかし、裁判では被害者である夫ヌーリが、移民二世であることや前科があることから、なかなか思うように進まない。あげく、証拠不十分で容疑者は無罪放免になってしまう。
真新しい自転車の上に置かれた荷物は爆弾だったと確信するカティヤ。愛する者を奪われ、絶望に暮れる彼女は、思い切った決断をくだす・・・

ファティ・アキン監督は、トルコ移民2世だが、ベルリン、カンヌ、ヴェネチア、世界三大国際映画祭すべてで主要賞受賞した、今やドイツを代表する名匠。
今回は移民ではなく、ドイツ女性をヒロインに据え、しかもそれをハリウッドで活躍するドイツ人女優ダイアン・クルーガーに演じさせている。
アキン監督は、ドイツ警察の戦後最大の失態と言われるネオナチによる連続テロ事件から本作を発想したという。初動捜査の見込み誤りから、10年以上も逮捕が遅れ、その間、犯人は殺人やテロ、強盗を繰り返したのだ。
戦後、多くの移民を受け入れてきたドイツだが、昨今の移民難民排斥の動きはドイツにも押し寄せている。そんな中で、これからも起こりかねないテロ事件。その犠牲になるのは、平穏に暮らしをしていた庶民。幸せを崩され、いつカティヤのような行動に出ることになるかわからない世の中。ファティ・アキン監督の憂いをずっしり感じた一作。(咲)


★第75回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
★第90回アカデミー賞 外国語映画賞 ショートリスト
★第70回カンヌ国際映画祭 主演女優賞受賞!!

2017年/ドイツ/106分/ビターズ・エンド/DCP
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ketsudan
★2018年4月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開



posted by sakiko at 10:32| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ラッカは静かに虐殺されている   原題:City of Ghosts

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監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン(『カルテル・ランド』)
製作総指揮:アレックス・ギブニー(アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞『闇へ』監督)

様々な勢力が台頭し混迷を極めるシリア情勢。そんな中で、2014年6月、過激派「イスラム国」(IS ※注)がシリア北部の町ラッカを制圧し、首都と定める。女性たちは布ですっぽり身体を隠すよう強要され、厳しい解釈でのイスラームの規範のもと公開処刑が行われているらしいことが漏れ聴こえてくる。メディアが町に入ることもシャットアウトされ、ラッカで何が起こっているのか闇の中だ。死の恐怖と隣り合わせの惨状を国際社会に伝えようと、市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)が秘密裡に結成される。スマホで撮った動画をSNSに投稿し、ラッカで何が起こっているかを発信、その惨状に世界は騒然となる。RBSSの活動に脅威を感じたISは、直ちにメンバーを割り出し、暗殺を実行していく。魔の手は、ドイツに逃れたメンバーにも忍び寄る・・・

※イスラム国の表記について (公式サイトより)
本編字幕における「イスラム国」の呼称に関して、シリア人が発言している部分は、初出の「ダーイシュ」にISとルビを振り、 以降はISとしています。これは、アラビア語圏ではISに敵対する立場から、アラビア語での組織名(Islamic State in Iraq and al-Sham)の頭字語をとった(ダーイシュ)という呼び名が定着しているためです。ダーイシュは、(ダーイス=踏みにじる者)や(ダーヒス=裏切り者)といった否定的な ニュアンスのある語に近い発音や綴りを有しています。また、 「イスラム国」自身の発言部分については、そのまま「イスラム国」としています。

そこで何が起こっているか、外部メディアが入れない場合、現地からの発信がない限り、ほんとうのことはわかりません。まさに命がけで実態を伝えようとするラッカの人たちの勇気に涙が出ました。人々の手に町が戻っても、町がかつての姿を取り戻すことは不可能なくらい破壊し尽されたことにも胸が痛みます。

実はラッカを訪れたことがあり、まさかこんなことでラッカの名前を聞くことになるとは思いもよりませんでした。私がラッカの町を訪れたのは、昭和63年9月。旅行中に昭和天皇が病に倒れられたので、訪れた時期を忘れることのないシリアの旅でのことです。どこの旅行会社のツアーにするか(といっても、3社位しか選択肢はなかったのですが)決め手になったのは、ラッカに泊まるからでした。古くはアッバース朝の宮殿があったところで、町の散策を楽しみにしていたのですが、宿泊はラッカではなく、デリゾールという別の町になり、がっかり。それでも、昼食を取りにラッカに寄ったので、町並みに興味津々。“かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街”と、プレス資料にありますが、私の印象は、ただただ乾いた町。気温が50度近くありました。昼食後、ほんの少しレストランの周りを散策しましたが、これといった記憶が残念ながらありません。
ツアーは、ヨルダンに先に入り、その後陸路でシリアに入るという旅程だったのですが、ヨルダンの人々が明るかったのに比べ、シリアの人々は全般に暗いという印象を受けました。思えば、すでにその頃から独裁政治が人々の性格にも影を落としていたのかもしれません。シリアの人たちが平和に暮らせる日の早く来ることを切に願うばかりです。(咲)


2017年/アメリカ/92分/英語・アラビア語/1:2.35/5.1ch/DCP
配給:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/raqqa/
★2018年4月14日(土)よりアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開






posted by sakiko at 09:29| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月07日

港町

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監督・制作・撮影・編集:想田和弘

岡山・牛窓。想田監督は前作『牡蠣工場』を撮りつつ、合間に小さな港町を歩き回った。
そこに暮らす人々と言葉を交わしながら日常を写していく。音楽も説明のナレーションも入らない淡々とした白黒の画面が続く。

想田監督7作目の観察映画。東野英治郎さん似の漁師ワイちゃん、世話好き・お喋り好きのクミさん始め、トラックで家々を回る魚屋さん、代々の墓を守るおばちゃんたちにカメラはついていきます。時折はさまれる監督からの質問に答える声を聞きながら、散歩している気分になります。クミさんの突然の告白のほかは、ほとんど静かな映画なのに、居眠りもせず空気にとっぷりとひたりました。知らない町なのに懐かしさを感じました。試写にいらした想田監督が挙げられた「観察映画の十戒」をせっせとメモしましたが、HPにちゃんとありました。こちらにも貼っておきます。(白)

1 被写体や題材に関するリサーチは行わない。
2 被写体との撮影内容に関する打ち合わせは、原則行わない。
3 台本は書かない。作品のテーマや落とし所も、撮影前やその最中に設定しない。行き当たりばったりでカメラを回し、予定調和を求めない。
4 機動性を高め臨機応変に状況に即応するため、カメラは原則僕が一人で回し、録音も自分で行う。
5 必要ないかも?と思っても、カメラはなるべく長時間、あらゆる場面で回す。
6 撮影は、「広く浅く」ではなく、「狭く深く」を心がける。「多角的な取材をしている」という幻想を演出するだけのアリバイ的な取材は慎む。
7 編集作業でも、予めテーマを設定しない。
8 ナレーション、説明テロップ、音楽を原則として使わない。それらの装置は、観客による能動的な観察の邪魔をしかねない。また、映像に対する解釈の幅を狭め、一義的で平坦にしてしまう嫌いがある。
9 観客が十分に映像や音を観察できるよう、カットは長めに編集し、余白を残す。その場に居合わせたかのような臨場感や、時間の流れを大切にする。
10 制作費は基本的に自社で出す。カネを出したら口も出したくなるのが人情だから、ヒモ付きの投資は一切受けない。作品の内容に干渉を受けない助成金を受けるのはアリ。


2017年/日本、アメリカ/カラー/シネスコ/122分
配給:東風、gnome
(c)Laboratory X, Inc.
http://minatomachi-film.com/
★2018年4月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー、他全国順次公開
posted by shiraishi at 17:22| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ミスミソウ

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監督:内藤瑛亮
原作:押切蓮介 「ミスミソウ 完全版」(双葉社刊)
脚本:唯野未歩子
撮影:四宮秀俊
音楽:有田尚史
主題歌:タテタカコ
出演:山田杏奈(野咲春花)、清水尋也(相場晄)、大谷凜香(小黒妙子)、大塚れな(佐山流美)、中田青渚(橘吉絵)、紺野彩夏(加藤理佐子)、櫻愛里紗(三島ゆり)、遠藤健慎(久賀秀利)、大友一生(真宮裕明)、遠藤真人(池川努)、玉寄世奈(野咲祥子)、森田亜紀(南京子)、寺田農(野咲満雄)

東京から地方の中学に転校してきた野咲春花は、妙子を中心としたグループにいじめにあっていた。女性の担任は知っていながら、無気力でなんの対処もしない。先に転校してきた相場晄(あいばみつる)だけが春花の味方だった。男子グループも加わっていじめはエスカレートしていく。晄を支えに耐えてきた春花だったが、家族が放火により焼死したことで、限界を越える。

試写が終わってため息をつく人、出たところで「いや〜すごかったね」と言い合う人が何人も。内藤瑛亮監督は映画美学校初等科の創業制作『牛乳王子』が、2009年の学生残酷映画祭でグランプリを受賞。その後発表した『先生を流産させる会』(2012)『ライチ☆光クラブ』(2015)など注目されてきました。そんな監督が“トラウマ漫画”と称された原作の実写版のメガホンをとりました。ありえない方向にエスカレートしていくいじめ描写に半分眼をつぶりたくなりますが、そこに至るまでの中学生達の心理もそれぞれに丁寧に描いています。初め高校生の話かと思っていましたが、一番心と身体のバランスのとれない危うい時期は中学生なんですね。
春花が来る前に標的にされていた流美(るみ)が流れを変えて、壊れていく春花とともに眼を奪います。雪景色の白と流れる血の赤が強烈。キャストが無表情に暴力を振るう場面は、血糊が凍るほど過酷だった現場が、凄絶さを倍化させたさせたに違いありません。監督の演出と若い俳優さんの頑張りに拍手。原作キャラの絵が公式HPに出ていますが、丸顔で可愛らしいのに眼が怖い。映画はR15+です。トラウマになりそうな方はまず予告編をご覧下さい。(白)


2017年/日本/カラー/シネスコ/114分
配給:ティ・ジョイ
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
http://misumisou-movie.com/
★2018年4月7日(土)新宿バルト9ほか全国公開
posted by shiraishi at 15:34| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする