2018年01月27日

サファリ    原題:SAFARI

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監督:ウルリヒ・ザイドル(パラダイス3部作『愛』『神』『希望』)
出演:ゲラルド・アイヒンガー、エヴァ・ホフマン、マニュエル・アイヒンガー、ティナ・ホフマン、マンフレート&インゲ・エリンガー、マリタ&フォルカー・ネーマン、マルコルフ・シュミット

南アフリカ、ナミビアのハンティング・ロッジ。
瀟洒な部屋でカタログを見ながら値段を口にする老夫婦。料金はここで取り扱う動物の狩猟料だ。
サファリスタイルの若いカップルが、案内人のあとを静かに行く。今だ!と、木陰から獲物に銃口を向ける。命中。仕留めたシマウマと嬉しそうに記念写真を撮るカップル。
一転、カメラはシマウマの皮を手馴れた様子で剥ぐ黒人の男たちを映し出す。
肉の塊を貰って帰り、粗末な家の一室で焼いて食べる男・・・

本作はナミビアでハンティングをするドイツとオーストリアのハンターたち、ハンティング・ロッジを経営するオーナー、そして、サファリをガイドする原住民たちを追ったドキュメンタリー。

“トロフィー・ハンティング”という言葉を初めて知った。
獲物の毛皮や頭だけを目的に動物を狩猟するレジャー。現在、サハラ沙漠以南のアフリカ24カ国で野生動物の狩猟が許可されていて、年間1万8500人のハンターがトロフィー・ハンティングを楽しんでいるそうだ。収益は年間約217億円。アフリカ諸国では、一大観光収入源として積極的にハンティングを許可しているという。
本作は、淡々と映し出しているだけで、是非を語るわけではない。だからこそ、こうした享楽にお金を投じられる者と、黙々と動物を捌く者の対比が、なんとも虚しく胸に迫ってくる。(咲)


2016年/オーストリア/90分/DCP/カラー/16:9/5.1ch/ドイツ語、オーストリア語
配給:サニーフィルム
後援:オーストリア大使館 / オーストリア文化フォーラム
公式サイト:https://www.movie-safari.com/
★2018年1月27日(土)シアター・イメージ フォーラムほか全国劇場ロードショー




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2018年01月21日

ジュピターズ・ムーン  原題:Jupiter holdja 英題:Jupiter's Moon

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監督:コーネル・ムンドルッツォ(『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲ラプソディ』)
出演:メラーブ・ニニッゼ、ギェルギ・ツセルハルミ、ゾンボル・ヤェーゲル、モーニカ・バルシャイ

シリアの少年アリアン・ダシュニは、父ムラッドと共に貨物列車でハンガリー国境近くにたどり着く。川を船で渡り国境を目指すが、国境警備隊のラズロに撃たれ、父ともはぐれてしまう。瀕死の状態で難民キャンプに運び込まれるアリアン。
医師シュテルンは、医療ミスで将来有望なアスリートを死なせてしまい、今は難民キャンプで働いている。遺族からの訴訟を取り下げさせる賠償金稼ぎに難民を違法に逃していた。 アリアンを担当したシュテルンは、彼が重力を操り浮遊できることを知り、これで金儲けできると難民キャンプから連れ出す。一方、国境警備員のラズロは違法に撃ってしまったアリアンを探しだし、シュテルンに違法な銃撃について口封じしようとする。そんな折、アリアンは見失った父の手がかりをつかみ、飛び出していく・・・

空中に浮遊する少年の物語はファンタジーでありながら、難民問題を背景にしていて、まさに現代社会を描いたものと感じました。
コーネル・ムンドルッツォ監督は、「本作は“alien(宇宙人、外国人、よそ者)"についてのアイディアを描いたもので、一体誰がよそ者なのかを問いかけたもの。”信用”や“奇跡”“周りとは違う”ということに対して新たな問題を提起するには、木星の遠く離れているイメージが適していると思った」と語っています。
私が印象に残ったのは、出身地を尋ねられたアリアンが、シリアのホムスで、自分の部屋もあったし、なんでも持っていたと語っていた場面。何不自由なく幸せに暮らしていても、いつ自分も難民になるかもしれないことを誰しもが思えば、他者への思いやりも自然に生まれるでしょう。
空から眺めたブダペストの町や鎖橋、オスマン帝国が遺したトルコ風呂(水を抜いた場面も!)など、ハンガリー映画ならではの場面も楽しみました。(咲)



『ジュピターズ・ムーン』 タイトルの由来:
木星(ジュピター)に67ある衛星の一つ「エウロパ」は、ガリレオ・ガリレイが発見したもので「ヨーロッパ」の語源となったラテン語「EUROPA」と同じ綴り。生命体が存在する可能性があり、人類や生命体の「新たな命の揺りかご」となり得るかもしれない衛星。
コーネル・ムンドルッツォ監督は、その「エウロパ」の名の下に、現在、そして近未来のヨーロッパ、ひいては世界の物語として観てもらうことに意義があるとして本作を『ジュピターズ・ムーン』と名付けたとのことです。

2017年/ハンガリー・ドイツ/128分/シネマスコープ /カラー/DCP/5.1ch/PG-12
配給:クロックワークス
公式サイト:http://jupitersmoon-movie.com/
★2018年1月27日(土)より新宿バルト9ほか全国公開



posted by sakiko at 19:42| Comment(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月15日

オン・ザ・ミルキー・ロード  英題:ON THE MILKY ROAD

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監督・脚本:エミール・クストリッツァ(『パパは、出張中!』『アンダーグラウンド』)
音楽:ストリボール・クストリッツァ
出演:モニカ・ベルッチ、エミール・クストリッツァ、プレドラグ・“ミキ”・マノイロヴィッチ、スロボダ・ミチャロビッチほか

ガチョウが走り回り、ロバがいななく、どこにでもありそうな村の風景。
でも、そこは銃弾がいつ飛んでくるかわからない戦争の真っ只中。
コスタは毎日、ロバに乗って前線にいる兵士たちにミルクを届けにいく。右肩に乗せたハヤブサが相棒だ。
コスタを雇っているミルク屋の娘ミレナは器量もよくて村一番の人気者。一途にコスタのことを思っている。母親が兵士の兄ジャガのために花嫁候補の娘を村に呼んだというので、兄と同じ日にコスタと結婚したいと夢見ている。なのに、ミレナが告白してもコスタは素っ気ない。
やがて、ジャガの花嫁候補がやってくる。ローマからセルビア人の父を探しに来て、戦争に巻き込まれたという絶世の美女だった。彼女とコスタは会った瞬間、激しい恋に落ちる。
そんなある日、突然の休戦協定。ジャガも戻ってきて、ミレナはダブル結婚式をと、コスタの気持ちはさておき、おおはしゃぎ。
ところが、ジャガの花嫁をかつて狂おしく愛していたという多国籍軍の英国将校が彼女を連れ去ろうと特殊部隊を村に送り込み、村を焼き払う。運良く生き残ったコスタは花嫁を連れて羊の群れに紛れ込んでの逃避行を決行する・・・


戦争中も人々の日々の営みは平時と同じように続き、恋もする。
ユーモア溢れる語り口の中に、戦争の悲哀をたっぷり感じさせてくれるエミール・クストリッツァ監督らしい作品。『パパは出張中』や『ライフ・イズ・ミラクル』が懐かしい。
主人公コスタを演じているのは、エミール・クストリッツァ監督ご本人。
そして、一目惚れして決死の逃避行を共にする絶世の美女には、監督が切望してモニカ・ベルッチを起用。
コスタにはつれなく振られてしまうミレナも実に魅力的。とてもパワフルな女性なのです。
そして、もっとパワフルなのがジャガとミレナの母親。狂ってばかりいる大時計に挑んで歯車にはさまれてしまう姿にあっぱれです。(咲)


2016年/セルビア・イギリス・アメリカ/2時間5分/アメリカンビスタサイズ/カラー
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:http://onthemilkyroad.jp/
★2017年9月15日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開


【ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!2017】
9月16日(土)〜29日(金) 東京都 YEBISU GARDEN CINEMAにて

<上映作品>
『アンダーグラウンド 完全版』
『アンダーグラウンド 通常版』
『ジプシーのとき』
『黒猫・白猫』
『SUPER8』
※『アンダーグラウンド 完全版』は前編と後編に分けて上映。鑑賞にはそれぞれのチケットが必要
公式HP:http://mermaidfilms.co.jp/unzaunza/
提供:ディスクロード、マーメイドフィルム 
配給:コピアポア・フィルム 宣伝:VALERIA 
後援:セルビア共和国大使館


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2017年01月21日

エゴン・シーレ 死と乙女  原題:Egon Schiele: Tod und Madchen

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監督:ディーター・ベルナー
出演:ノア・サーベトラ、マレシ・リーグナー、ファレリエ・ペヒナー、ラリッサ・アイミー・ブレイドバッハ

20世紀初頭、ウィーン画壇に彗星のごとく現われ、スキャンダルな逸話の数々と挑発的な名画を残し、28歳の若さで世を去った天才画家エゴン・シーレの半生を描いた物語。

1910年、ウィーン美術アカデミーを退学したエゴン・シーレは画家仲間アントンたちと「新芸術集団」を結成。16歳の妹ゲルティをモデルにした裸体画で頭角を現す。
やがてシーレは、場末の演芸場で知り合った褐色の肌のモアに惹かれ、モアをモデルに裸体画を描くようになる。嫉妬した妹ゲルティは当て付けるようにアントンと契りを結び、それを許せないシーレ。新芸術集団は解散する。
1911年、尊敬するクリムトから、若すぎる少女を描くのは危険だとして、17歳のモデル、ヴァリを紹介される。赤毛のヴァリとたちまち恋に落ちたシーレは同棲生活を始める。半年後、シーレは13歳の少女タチアナを誘拐した罪に問われるが、ヴァリの証言で禁固刑を免れる。が、幼児性愛者の汚名を着せられ、パトロンの多くが去っていく。
やがて、第一次世界大戦が勃発。兵役に就くことになったシーレは、結婚すれば兵舎でなく、ホテルで妻と過ごせることを知り、同棲していたヴァリではなく、近所に住む良家の娘エディットと結婚する。シーレはヴァリに「結婚しても僕たちの関係は変わらない」と言うが、嫉妬深いエディットが二人の関係を許すはずもなく、シーレはヴァリをモデルに最後の絵を描く。後に「死と乙女」と名付けられることになった絵だった・・・

監督がシーレ役に抜擢したノア・サーベトラが、美形でスキャンダラスな天才画家を体現していて、ぐっと惹かれます。
映画俳優志望なれど、演技経験はなく、写真のモデルの経験があるだけだったノア・サーベトラに非凡なエネルギーを感じた監督。彼を1年間演劇学校に通わせます。ついには有名なエルンスト・ブッシュ演劇大学の入学試験にも合格。 さらに、彼は映画の中で自分で絵を描けるようにと、芸術アカデミーの「彩色画と素描」の講義を2学期間受講したとのこと。今後が楽しみな魅力溢れる俳優です。
エゴン・シーレという画家も、この映画で初めて知りました。その人生は、本人の起こしたスキャンダラスな事件よりも、戦争に翻弄されたものだと感じました。戦争が起こってなければ、もっと多くの作品を残したのではないでしょうか。(咲)



2016年/オーストリア・ルクセンブルク/109分/シネマスコープ/デジタル5.1ch
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://egonschiele-movie.com/
★2017年1月28日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラスト有楽町ほか全国順次ロードショー
posted by sakiko at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 欧州 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする