2017年09月10日
サーミの血(原題:Sameblod)
監督・脚本:アマンダ・シェーネル
撮影:ソフィア・オルソン、ペトリュス・ショーヴィク
音楽:クリスティアン・エイドネス・アナスン
出演:レーネ=セシリア・スパルロク(エレ・マリャ)、ミーア=エリカ・スパルロク(ニェンナ)、マイ=ドリス・リンピ(クリスティーナ/エレ・マリャ)、ユリウス・フレイシャンデル(ニクラス)、ハンナ・アルストロム(教師)、オッレ・サッリ(オッレ)
1930年代、スウェーデン北部のラップランド地方。先住民族のサーミ人は、スウェーデン人より劣った民族とみなされ、偏見と差別を受けていた。サーミ人の少女エレ・マリャはトナカイを飼う親元から離れ、妹と学校の寄宿舎に暮らしている。成績優秀なエレは進学したいと教師に申し出るが「サーミ人は進学できない、伝統を守って暮らしなさい」という返答。エレはショックを受けるが、逆に挑戦する気持ちが強くなる。スウェーデン人のふりをして夏祭りに出かけたエレは、都会の少年ニクラスと出会い恋に落ちる。止める家族を振り切り、ニクラスを頼って一人村を出ていく。
第29回東京国際映画祭のコンペ作品としていち早く観て深く印象に残った作品です。審査員特別賞と最優秀主演女優賞を受賞したほか各地の映画祭で受賞多数。アマンダ・シェーネル監督は、サーミ人の父とスウェーデン人の母の間に生まれ、自分のルーツをたどり作品にすることを使命と感じている方でした。作中に描かれる様々なエピソードは当時を知る人に取材したもので、小さな真実を積み重ねたフィクションと言えます。
身体検査の場面で外から覗く男の子がいるのにエレは声をあげず、トナカイのように耳を傷つけられても誰にも訴えません。それがちょっと納得できませんでしたが、エレの矜持であったのかもしれません。向学心があり、強い性格のエレですが、妹には優しい姉でした。家を出たきり、帰らなかった故郷にしぶしぶ戻ったのは妹の葬儀のためでした。スウェーデン人の社会に出て、どんな人生を歩んできたのか年老いたエレ役のマイ=ドリス・リンピの表情が語っているような気もしますが、やはり続編を期待しています。(白)
2016年/スウェーデン、ノルウェー、デンマーク/カラー/シネスコ/108分
配給:アップリンク
(C)2016 NORDISK FILM PRODUCTION
http://www.uplink.co.jp/sami/
★2017年9月16日(土)より、新宿武蔵野館、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
2017年08月13日
いつも心はジャイアント(原題:Jatten)
監督・脚本:ヨハネス・ニホーム
撮影:ヨハン・ルンボリ
音楽:ビョルン・オルソン
出演:クリスティアン・アンドレン(リカルド)、ヨハン・シレーン(ロランド)、アンナ・ビェルケルード(エリザベス)、リンダ・フェイス(リナ)
骨が変形する難病を抱えて生まれたリカルド。母親は精神を病んで子どもを育てられず施設に入り、リカルドも別の施設で育った。母の愛を知らないままだったが、母を恋しく思う気持ちは人一倍強かった。言葉が不自由なことや外見から差別を受けながらも、夢見る心は自由。リカルドは自分が巨人になってはるか下界を見下ろし、闊歩するところを想像する。リカルドはペタンクという球技と出会い、多くの仲間を得た。夢中になったロランドだったが、練習中にケガをしてしまう。リカルドを理解してくれる唯一の友人ロランドは、一緒にペタンクでスウェーデン代表になろう、と励ましてくれるのだった。
どういう病気かの説明はありませんが、リカルドは胎内にいるころからの奇形なのか、頭部が大きく変形し目も口の動きも不自由です。ロランドのように限られた人としか会話ができません。けれども自由に想像の羽を広げてはばたくことは、どんな状況でも誰にも邪魔されることはありません。生活のようすはドキュメンタリータッチで、リカルドの想像部分はスウェーデンの雄大な景色を背景にした色鮮やかなファンタジータッチです。その差が大きいほどちょっと辛い気持ちになるのですが。
ペタンクは2チームで木製のボールを標的に金属のボールを投げてより近づけるのを競うスポーツです。フランスで生まれて老若男女が楽しめるスポーツとして日本にも普及しました。実際に試合をしているのを見たのはこの映画が初めてでした。大きなビー玉遊びみたいな感じです。ゆっくり狙いをつけて投げるので、障害のあるリカルドも楽しく挑戦することができます。投げるボールが重そうなので危ないなぁと思っていた矢先に事故が。リカルドは実際の障がいのある方かと思ってしまいましたが、長時間かけた特殊メイクをした俳優さんが演じています。母親の住む雑然とした部屋がまるで自分の部屋のようで、愕然。私も病んでいるのか??
スウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞で作品賞を含む3部門を受賞。(白)
2016年/スウェーデン、デンマーク/カラー/90分
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)2016 Garage Films SE. ALL RIGHTS RESERVED.
http://www.giant-movie.jp/
★2017年8月19日(土)より新宿シネマカリテ他全国順次公開
2016年12月11日
幸せなひとりぼっち 原題:En man som heter Ove 英題:A MAN CALLED OVE
監督・脚本:ハンネス・ホルム
出演:ロルフ・ラスゴード、バハー・パール(バハール・パールス)、フィリップ・バーグ,アイダ・エングヴォル,カタリナ・ラッソン
原作:フレドリック・バックマン訳:坂本あおい(ハヤカワ書房刊)
59歳のオーヴェは、妻を亡くし、郊外の住宅地で妻の思い出が詰まった家でひとり暮らし。ある日、43年間勤めていた鉄道局から突然クビを言い渡される。かつては町内の自治会長も務めていたが、選挙で落選。もともと厳格な性格のオーヴェは、暇に任せて共同住宅地の敷地内の規律が守られているか見回る日々。それも虚しく、首を吊ろうとしたところに、子ども連れの家族が騒々しく隣りに引っ越してくる。夫パトリックの運転する車がオーヴェ宅の郵便受けを壊してしまい、お詫びにと、妻パルヴァーネは故国イランの料理を差し入れる。「美味しかった」とメモをつけ器を返すオーヴェ。少しずつだが、パルヴァーネや二人の娘たちと打ち解けていくオーヴェ。
ある日、倒れたオーヴェのために家に入ったパルヴァーネは、台所の作りが低めなことより、オーヴェの妻ソーニャが車椅子生活だったことを知る・・・
妻のもとに行こうと首を吊るオーヴェの頭に、母を早くに亡くし、育ててくれた父も残念な事故で亡くした過去や、妻ソーニャと出会った頃のことが走馬灯のように駆け巡ります。頑固で偏屈な性格のオーヴェを、パッと咲いた花のような笑顔で包み込むソーニャ。そのソーニャが車椅子生活を余儀なくされるようになった事故。教師として働きたいソーニャのためにオーヴェがしてあげたこと等々、オーヴェの人生が次第に明かされていきます。
共同住宅地に住み始めた頃、規律を一緒に作った性格の似たルネが、今や認知症になり、強制的にケアハウスに入れられようとしているのを助けたりもします。
私にとっては、何より、隣りに越してきた一家の若い身籠った奥さんがイラン人ということに興味津々。オーヴェに差し入れたのは、サフランを使ったイラン料理。さて、どの料理かなと想像を巡らしてしまいました。演じたBahar Parsさんは、1979年イランのシーラーズ生まれ。10歳の時に家族でスウェーデンに移住。28歳の時、女優として本格的デビューした後、舞台と映画で活躍。近年、映画監督としても活躍しているそうです。
バハー・パールと表記されていますが、バハール・パールスが近いと思います。バハールは「春」の意味。役名のパルヴァーネは、映画の中でも自身で語っていますが「蝶々」のこと。時々、ペルシャ語で独りごとを言うのですが、娘たちにもペルシャ語で話しかけています。二人の娘たちも「yek do seh(ペルシャ語で、1,2,3)」と言いながら縄跳びをしていて、スウェーデンに居ても、母親の母国語も使っているのが嬉しいです。
本作を観て、最近だんだん薄れているご近所付き合いの大切さを思いました。素敵な一作です。(咲)
2015 年/スウェーデン/HD/116 分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/スウェーデン語・ペルシャ語
配給:アンプラグド
公式サイト:http://hitori-movie.com/
★2016年12月17日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ 渋谷ほかにて全国順次公開