2016年09月11日

みかんの丘  原題:Mandarinebi

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監督・脚本:ザザ・ウルシャゼ
キャスト:
イヴォ:レムビット・ウルフサク
マルガス:エルモ・ニュガネン
アハメド:ギオルギ・ナカシゼ
ニカ:ミヘイル・メスヒ
ユハン:ライヴォ・トラス

ジョージア(グルジア)の西部にあるアブハジア自治共和国でみかん栽培をするエストニア人の集落。ジョージアからの独立を求めるアブハジアとの間に紛争が勃発し、多くの人はエストニアに帰国したが、イヴォとマルガスは残っている。マルガスはみかんの収穫が気になるからだが、みかんの木箱作りのイヴォは本当の理由を語らない。
ある日、戦闘で傷ついた二人の兵士をイヴォは自宅に匿うことになる。ひとりはアブハジアを支援するチェチェン兵アハメド、もうひとりはジョージア兵ニカ。敵同士の二人は殺意に燃えるが、イヴォは家の中では戦わないことを約束させる。数日後、アブハジアを支援するロシアの小隊がやってくる・・・

2015年のEUフィルムデーズで『タンジェリン』の題で上映された作品。

エストニア人がアブハジアに移住してきて、開墾し集落を築いたのは、19世紀後半のロシア帝政時代とのこと。イヴォやマルガスにとって、エストニアは先祖の故郷で、自分たちにとってはアブハジアが生まれた地。そこをめぐる戦いに、さまざまな民族がかかわっている。
時代は、同時期に公開される『とうもろこしの島』と同じく、1992年頃。
どちらも、戦争の虚しさがぐさりと胸にささる。なぜ、人は戦うのか・・・ 大きな力に戦わされていることに気づいて、末端で戦う人がまず戦うことをやめることができればと思う。(咲)


2013年/エストニア・ジョージア合作/87分/カラー/ロシア語・エストニア語/シネスコ
配給:ハーク
後援:在京エストニア共和国大使館 在日ジョージア大使館
『とうもろこしの島』『みかんの丘』2作品共通公式サイト
http://www.mikan-toumorokoshi.info/
★2016年9月17日(土)より11月11日(金)まで岩波ホールにて 全国順次公開

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とうもろこしの島   原題:Simindis Kundzuli

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監督:ギオルギ・オヴァシュヴィリ
キャスト
老人:イリアス・サルマン
少女:マリアム・ブトゥリシュヴィリ
ジョージア兵:イラクリ・サムシア
アブハジア士官:タマル・レヴェント

黒海に流れるエングリ川の中洲にとうもろこし畑を作る老人。両親を亡くした孫娘を引き取り、二人暮らしだ。ある日、とうもろこし畑に負傷した兵士を見つける。言葉が通じない兵士を老人と少女は匿う。このエングリ川は、ソ連崩壊後に成立したジョージア(グルジア)からの独立を目指すアブハジアとの境にある。ジョージア、アブハジア、ロシアの兵士が行き交い、銃弾が飛び交うこともある。1992年ごろのことだ。
やがて暴風雨が中州を襲う・・・

2014年の東京国際映画祭で『コーン・アイランド』の題で上映された作品。

少女が匿った兵士に話しかけると、ジョージア語で「アブハズ語はわからない」と字幕が出る。老人と少女はアブハズ人、兵士はジョージア人らしいとわかる。分け隔てなく負傷した兵士を世話する少女の姿に、もともとは、この地でも違う民族が平穏に共存していたことを思わせてくれる。自分と異なる者に対して、嫌悪感や対抗心を持って戦うようになるのは、それによって利益を得る者の存在があるからだと思うけど、その姿が末端で戦う者に見えにくい。犠牲になる多くは、その末端で戦う人たちなのに。(咲)

2014年/ジョージア・ドイツ・フランス・チェコ・カザフスタン・ハンガリー合作/100分/カラー/アブハズ語・ジョージア語・ロシア語/シネスコ
配給:ハーク
後援:在日ジョージア大使館
『とうもろこしの島』『みかんの丘』2作品共通公式サイト
http://www.mikan-toumorokoshi.info/
★2016年9月17日(土)より11月11日(金)まで岩波ホールにて 全国順次公開
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2016年08月20日

不思議惑星キン・ザ・ザ  デジタル・リマスター版

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監督:ゲオルギー・ダネリヤ
出演:ウエフ(太め):エヴゲーニー・レオノフ
ビー(ノッポ):ユーリー・ヤコヴレフ 
マシコフ(おじさん/建築技師): スタニスラフ・リュブジン
ゲデバン(バイオリン弾き/学生)レヴァン・ガブリアゼ

冬のモスクワ。妻に買い物を頼まれたマシコフは、街角でバイオリンを抱えた青年に「あそこに自分のことを異星人だという男がいる」と言われ、二人で声をかける。「この星の座標を教えてくれ」と裸足で震える自称異星人。彼の持つ〈空間移動装置〉をマシコフがうっかり押し、マシコフと青年は砂漠のど真ん中にワープしてしまう。
やがて奇妙な音を立てて釣鐘型の宇宙船がやって来て、こぎたない男が二人降りてくる。ロシア語はもちろん、英語もフランス語も通じない。返ってくるのは「クー」という言葉ばかりで埒が明かない。マシコフがタバコを喫おうと、マッチを擦った瞬間、マッチを欲しがる男たち。「街まで宇宙船に乗せてくれるなら、“クー”だ」と交渉するマシコフ。
二人がワープしたのはキン・ザ・ザ青雲のプリュク星。ここではマッチが貴重品らしいと悟ったマシコフ。ポケットにある二箱のマッチで、なんとか地球に帰れるのではと画策する・・・

ソ連時代のジョージア(グルジア)で製作され、完成時の試写で批評家には酷評されたのに、当時のソ連で大ヒットしたSFコメディ。日本では89年に都内で行われた「ソビエトSF映画祭」で紹介され、2001年にニュープリントで劇場公開。この度、デジタル・リマスター版で公開。

「クー」だけで、会話が成り立つ不思議惑星。脱力系SFコメディと、宣伝文句にある通り、なんともほんわかしたSFです。
思えば、言葉の通じないどうし、言葉の抑揚や顔や動作でお互いの気持ちは通じるもの。
10月に公開されるインド映画『PK』では、アーミル・カーン演じる宇宙人がインドの沙漠に降り立ち、握手を交わしてインドの言葉を吸収しますが、こちらの「クー」だけで会話が成り立つ方が自然かも。
それにしても、地球と同じように、「人間」が住む星はあるのでしょうか・・・ (咲)


製作:モスフィルム・スタジオ c Mosfilm Cinema Concern, 1986 
提供・配給:パンドラ + キングレコード
1986年/ソ連+ジョージア共和国/カラー/デジタル/135分
公式サイト:http://www.kin-dza-dza-kuu.com/
★2016年8月20日(土)〜新宿シネマカリテにてレイトショー!


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2015年12月09日

独裁者と小さな孫  英題:THE PRESIDENT

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監督:モフセン・マフマルバフ
脚本:モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ
出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ

とある国の大統領。命令一つで国の灯を消せることを孫に自慢するが、孫はそんな力よりもアイスが欲しいと駄々をこねる。命令しても灯が再びつかず、大統領は革命が起こり失脚したことを知る。孫を連れ、平民のボロ服を着て逃げるうち、国民が自分の圧政に苦しんできたことを知る・・・

現在、ロンドンに居をおき亡命生活を送るイランの巨匠マフマルバフ監督が、ジョージア(旧グルジア)で撮った本作は、マフマルバフらしいダイナミックな架空の世界。イラクのサダム・フセイン失脚や、アラブの春の後の混乱、アフガニスタンやシリアなど、混迷の世界情勢に思いが至ります。
人々は本作の孫のように、甘いアイスを食べられる幸せを求めているだけなのに、なぜ争いが絶えないのでしょう。悲しいし、虚しい。
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公開を前に来日したマフマルバフ監督にお話を伺う機会をいただきました。インタビューの詳細は、Web版シネマジャーナル特別記事でお届けしていますが、下記の言葉が印象に残りました。
「暴力を起こすのは、普通の国民。生まれた時には、皆、純粋な人間だった。大きくなるにつれ、自分たちの中には、純粋さと共に独裁者も存在するようになる。権力を手にすれば、独裁者になるかもしれない。映画を観て、自分の中に存在している独裁者の部分を見つめ直して悪いところを変えていこうと思っていただければと思う」
世界の権力者や暴力を好む人たちに観て貰いたい一作です・・・と、2014年東京フィルメックスの報告記事に書いたのですが、この言葉を聞いて、私自身も独裁者だったとドキッとしました。もっと周りの人たちを気遣わなくては! (咲)


2014年、東京フィルメックスで『プレジデント』のタイトルで上映され観客賞を受賞した折に寄せた監督メッセージ:

『プレジデント』の平和のメッセージに与えられた観客賞は、私にとっても非常に大きな意味があります。人間はお互いに殺し合うために生まれたのではない。地球は生が存在するたった一つの星。お互いを愛するために生まれたのだと思います。しかし今、世界には暴力が溢れています。エボラと闘う為5千人の手助けが必要という国連の声に応える人はとても少なかったのに、ISIS(イスラーム国)の暴力的な作戦の為に、一万五千人が集まりました。世界には暴力の為に命さえ差し出す人が多いことを示しています。これには大きな理由があると思います。平和を大切にする文化の存在はとても弱いということです。芸術、特に映画は暴力的な世界に平和のメッセ―ジを伝える大きな力を持っていると思います。モフセン・マフマルバフ

*監督の願いも虚しく、今や、さらに混迷の世界情勢。いつ、皆が平穏に暮らせる日がくるのでしょう・・・

http://www.cinemajournal.net/special/2015/president/index.html

2014年/ジョージア・フランス・イギリス・=ドイツ/ジョージア語/カラー/ビスタ/デジタル/119分
配給:シンカ 提供:シンカ 朝日新聞社 
後援:ジョージア大使館
公式サイト:http://dokusaisha.jp
★2015年12月12日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町 他全国公開!!
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2015年12月03日

放浪の画家ピロスマニ  デジタルリマスター版  原題:Pirosmani

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監督:ギオルギ・シェンゲラヤ
脚本:ギオルギ・シェンゲラヤ、エルロム・アフヴレディアニ
出演:アヴタンディル・ヴァラジ、ダヴィト・アバシ、ギヴィ・アレクサンドリア

一杯の葡萄酒と乾し草のベッド グルジアは私のキャンパス
古い歴史、豊かな山河 ―― 美しい映像で語る孤高の画家への追憶

グルジアを代表する画家ニコ・ピロスマニ(1862年-1918年)。
ロシア帝政下のグルジアのチフリス(現在の首都トビリシ)。幼い頃に両親を亡くしたピロスマニ。長年世話になっていた家の娘に恋文を送ったことから騒ぎとなり、その家族のもとを離れ、鉄道員として全国を旅した後、友人ディミトリと乳製品の店を開く。やがて、故郷の姉夫婦の取り持つ縁で結婚式を挙げている最中に、彼の金が目当てだとわかり式を抜け出し、姉とは仲たがい。ディミトリとも関係が悪化し、ピロスマニは店の商品を貧しい人々に分け与えて店を閉める。その後は、画材を抱えて酒場を回り、酒代の代わりに店の看板や壁に飾る絵を描く放浪の日々。ある日、フランスからきた女優マルガリータに一目惚れするが、報われない愛に、ピロスマニは一層孤独に陥る。やがて、彼の絵が中央の画壇に注目されるようになるが、それも長くは続かない・・・

乳製品の店が繁盛していても、乾し草の上で寝転がっているほうが好きなピロスマニ。
パブロ・ピカソに「私の絵はグルジアには必要ない。なぜならピロスマニがいるからだ」と言わしめたピロスマニの絵は、なんともユニーク。上手なのか下手なのか、どことなくユーモアの漂う牛の絵が微笑ましいです。また、最後の作品となった『カヘティの叙事詩』からは、当時のグルジアの村の様子が目に見えるようです。この絵を画くことになった経緯が映画で描かれていますが、人の優しさを知ることのできるエピソードです。
ピロスマニは、貧しい絵描きと女優の哀しい恋を歌った「百万本のバラ」のモデルでもあるそうです。孤独のまま病に倒れ最期を迎えたピロスマニ。自分の人生が歌や映画になるなんて夢にも思ってみなかったことでしょう。
本作はソ連時代の1969年に製作され、日本では1978年に『ピロスマニ』のタイトルでロシア語吹き替え版が劇場公開されています。今回は、デジタルリマスター版がオリジナルのグルジア語で37年ぶりに劇場公開となりました。
お薦めの1作、紹介がすっかり遅くなりました。(咲)


1969年/グルジア(現ジョージア)/グルジア語版/カラー・スタンダード/87分
配給:パイオニア映画シネマデスク
岩波ホールの作品サイト:
http://www.iwanami-hall.com/contents/now/about.html#info3
★2015年11月21日より岩波ホール他全国順次公開
posted by sakiko at 08:14| Comment(0) | TrackBack(0) | グルジア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする