2016年05月28日
シリア・モナムール 原題:Silvered Water, Syria Self-Portrait
監督/脚本:オサーマ・モハンメド、ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン
撮影:ウィアーム・シマヴ・ベデルカーン、約一千人のシリア人、オサーマ・モハンメド
アラブの春の動きを受けて、独裁政権に対して自由を求めデモを行うシリアの市民たち。
その非武装の市民たちに発砲する政府軍。
拷問される青年。焼き殺される人たち・・・
2011年5月、カンヌ映画祭のパネルディスカッションで、シリア政府軍に不当に逮捕された人々の釈放を訴えたオサーマ・モハンメド監督。脅迫を受け、フランスへの亡命を余儀なくされる。YouTubeで故国の人々の惨状を目の当たりにしながら、自分は安全な場所にいて何もできないでいることに苦悩する日々。パリで迎えたクリスマス、SNSを通じて知り合ったホムス在住のクルド人女性映像作家ウィアーム・シマヴ・ベデルカーンから、「もしあなたがシリアにいたら、何を撮りますか?」と問いかけられる。この言葉に、孤独から解き放たれたオサーマ監督。シリアにいるシマヴ(クルド語で銀の水)と対話しながら、シリアの人たちが実情を伝えようと命をかけて撮った映像の数々を綴って一つの作品に仕上げた。
詩情溢れる語りとともに映し出される映像には、あまりにも惨く直視できないものもあります。命を絶たれた人々の無念な思いがずっしりと伝わってきて、声を失います。
なぜ、これほど酷い仕打ちを自分の国民にできるのでしょう。
毎日、大勢のシリアの人たちが愛する故郷を離れ、難民と化しています。
シリアで何が起こっているのでしょう?
漏れ聞こえてくる政府軍やイスラム国による市民の弾圧。
外国人ジャーナリストを排除している今、現地にいるシリアの人たちからの発信でしか知りえない実情。
昨年公開された『それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』(監督:タラール・デルキ)でも、本作のシマヴと同じホムスに住む青年たちが内戦の惨さを伝えてくれました。
本作の冒頭に、「1000と一人が撮った映像」とあって、思い起こしたのは、「千夜一夜物語」。一夜を共にした女性を殺してしまう王様に、続きを聞きたくなる話を聞かせて、王様を改心させ、殺すのをやめさせた宰相の娘シェヘラザードの物語。1000と1は、正確に1001というだけではなくて、無数という意味も。
幾千というシリアの人たちの声が、非情な独裁者に届く日が、いつか来ることを願ってやみません。
シマヴは、町を破壊され、学ぶ場を失った子どもたちのために、学校を作ります。
「町は包囲されているけど、頭の中は自由だからね」
チャップリンの映画『街の灯』を観て、ひと時笑いを取り戻す子どもたち。
人々が笑って暮らせる日が来ることを切に祈ります。(咲)
2015年山形国際ドキュメンタリー映画祭優秀賞
(*『銀の水 ― シリア・セルフポートレート』のタイトルで上映された)
2014年/シリア・フランス/96分/カラー/16:9, 4:/5.1ch
配給:テレザとサニー 協力:山形国際ドキュメンタリー映画祭
公式サイト:http://www.syria-movie.com
★2016年6月18日よりシアター・イメージフォーラム ほか全国劇場ロードショー!
2015年07月25日
それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜 原題:Return to Homs
監督:タラール・デルキ
2011 年に始まった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動の波。
シリアでも「シリア革命の首都」と呼ばれた街・ホムスで、2人の青年が立ち上がった。
一人は、サッカーのユース代表チームでゴールキーパーとして活躍し、将来を嘱望されていた当時19歳の青年バセット。歌うことで平和を訴え、そのカリスマ性から若者を惹きつけ、民主化運動のリーダーになっていく。もう一人、彼の友人で、市民カメラマンである24歳のオサマ。撮影したデモの様子をインターネットで公開し、民主化運動を広げようとしていた。非暴力で抵抗運動を先導していたが、2012年2月、政府軍の攻撃によってホムスの市民170人もが無差別に殺害されたのを機に、バセットと仲間たちは武器を持って戦い始める・・・
外国人ジャーナリストが容赦なく排除されているシリア。本作は、シリア人であるタラール・デルキ監督が、2011年の夏から反体制派の拠点のひとつであるホムスで二人の青年を追い続けてきたもの。内側からだからこそ撮れた映像には、政府軍の理不尽な攻撃の様子が映し出されている。女性や子どもも、銃で撃ったあと、とどめに剣を突き刺すという惨い行為に、もう、言葉もない。そして、廃墟と化したホムスの街。
アサド大統領の独裁のもと、シリアの市民は生きる権利すら奪われていることを、本作はひしひしと伝えてくれる。想像を絶する惨状に、観終わったあと、自分が平穏に暮らしていることが申し訳なくなった。将来の夢も捨てて抵抗運動に身をやつすバセットとオサマ。彼らの、「この映像を観て、国際社会がなんとか動いてほしい」という言葉を伝えるしか、私にできることがないのが虚しい。
バセットたちが、「我々はハーリドの子孫」と語る姿が数回でてきた。ウマイヤ朝時代の武将ハーリド・ビン・ワリードを、自分たちの誇りとしていることを知り、アサド大統領が歴史も伝統も踏みにじっていることへの抵抗の源なのだと思った。
シリアには、昭和63年の秋に訪れたことがある。ダマスカスのウマイヤモスクも、アレッポの伝統あるスークも、今やどの程度原型を留めているのだろうという状態。いつかまたゆっくり訪れたいと思っていたけれど、こんな旅人の夢は叶わなくても、シリアの人々が心安らかに暮らすことのできる日が来ることを願ってやまない。(咲)
◆トークイベント◆
8月1日(土)
朝日新聞、現ニューデリー支局長・前中東特派員 貫洞欣寛さん
国境なき医師団日本 白川優子さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/448
8月2日(日)
フォトジャーナリスト 川畑嘉文さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/412
8月8日(土)
TRANSIT 編集長 加藤 直徳(かとう・なおのり)
http://unitedpeople.jp/homs/archives/510
8月23日(日)
シリア支援団体サダーカ 代表 田村雅文さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/421
*サンダンス映画祭2014 ワールド・シネマ ドキュメンタリー部門 グランプリ
国際共同制作:Proaction Film / Ventana Film / NHK / SWR / SVT / TSR / CBC 他
シリア/2013年/89分/アラビア語/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://unitedpeople.jp/homs/
★2015年8月1日( 土)より渋谷アップリンク、中洲大洋映画劇場他にてロードショー!