2018年12月16日
家(うち)へ帰ろう 原題:El ultimo traje 英題:The Last Suit
監督・脚本:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、ナタリア・ベルベケ、フリア・ベールホルド、オルガ・ボラス
ブエノスアイレスで仕立て屋を営んできたアブラハム。88歳となり右足は不自由だ。娘たちは彼を老人ホームに入れることを決め、家も売ってしまった。明日は老人ホームに入るという夜、アブラハムはそっと抜け出し、故郷ポーランドを目指す。戦争中、ユダヤである自分を匿ってくれた親友に、彼のために仕立てたスーツを届けるという約束を果たしにいくのだ。
知人に切符の手配を頼むが、すぐに飛べるのはスペインのマドリッド行き。そこからはフランスを経由してポーランドに列車で行けるという。ところが、パリからはドイツ経由だとわかり、決してドイツの土は踏みたくないアブラハム。ポーランドで無事、親友に会えるのだろうか・・・
ちょっと頑固なアブラハム爺さんの、人生最後の願いを叶える旅。
孫娘とのユダヤらしい駆け引きや、旅先でのハプニングをユーモアを交えながら描いていて、大いに笑わせていただきました。
アブラハムのモデルになったのは、パブロ・ソラルス監督の父方と母方の双方の祖父。特に、父方の祖父はアルゼンチンに来る前のポーランド時代のことを一切語らなかったそうです。ホロコーストを生き抜いたお祖父さまにとって、口にしたくない、あまりに悲惨な時代。
映画の中では、文化人類学者のドイツ人女性が、イディッシュ語でアブラハムに語りかけ、ドイツの土を踏みたくない彼の願いを叶えます。わだかまりが、少し溶ける瞬間。今を生きる私たちは、忌まわしい歴史を忘れることなく、お互いを敬うことが共存の一歩なのだと思います。(咲)
70年前に交わした約束を守るため、主人公はアルゼンチンからポーランドに向かう。老いた病身には行くだけでも辛いが、トラブルも起こる。それでも心優しき人々の助けを受け、友との再会を果たすべく旅を続ける。
ドイツ、ポーランドの国名を発したくない。ドイツの土地に1pたりとも足を踏み入れたくない。ナチスの迫害を受けた人々の悲しみは今なお癒えていないことを知る。そんな主人公がドイツ人に助けられ、ドイツを受け入れたときに未来の可能性を感じた。
冒頭で主人公が子や孫に「老いを受け入れるのは難しいが向き合っていく」『家族には迷惑をかけないで生きていきたい」と語る。これは誰もが思うこと。しかし実現は難しい。(堀)
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018で、『ザ・ラスト・ス―ツ(仮題)』のタイトルで上映され、観客賞を受賞。その折に来日したパブロ・ソラルス監督にお話を伺う機会をいただきました。(白・咲)
パブロ・ソラルスインタビュー
スタッフ日記
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018 Q&A
2017年/アルゼンチン・スペイン/スペイン語他/カラー/スコープサイズ/5.1ch/93分
配給:彩プロ
公式サイト:http://uchi-kaero.ayapro.ne.jp/
★2018年12月22日(土)シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開
2018年12月02日
ピアソラ 永遠のリベルタンゴ 原題:Piazzolla, los anos del tiburon
監督:ダニエル・ローゼンフェルド
出演:アストル・ピアソラほか
踊るためのタンゴから、聴くためのタンゴへ。
アルゼンチン・タンゴに革命を起こしたアストル・ピアソラ(1921年〜1992年)。
71歳で亡くなり、没後25周年にあたる2017年、母国アルゼンチンで開催された回顧展にあわせ、ピアソラの功績と家族の絆を紡いだドキュメンタリー。
4歳の時、音楽愛好家だった父の独断で、アルゼンチンからニューヨークへ一家3人で移住。貧困と暴力が渦巻く環境の中で、父は幼いピアソラに中古のバンドネオンを買い与え、息子の奏でる音に聞き惚れていたという。アルゼンチンに帰国し、本場のタンゴを聞きまくり、当時大人気だったトロイロ楽団に入団。妻となるデデと出会い、娘ディアナと息子ダニエルに恵まれる。自身の楽団を立ち上げるが、革新的なタンゴは非難をあび、古巣のニューヨークに舞い戻る。そして、故国から届いた愛する父の訃報。30分で書き上げた父に捧げた曲「アディオス・ノニーノ」は、後にピアソラの代表曲となる。アルゼンチンに帰国し、五重奏団を結成。ようやく耳の肥えた音楽ファンに注目されるようになる・・・
ピアソラというと、私が思い浮かべるのは、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』で流れた2曲。なんともけだるいムーディな曲。あの音色は、バンドネオンの奏でるものだったのだと知りました。
息子ダニエルが語る父の姿。ダニエルが幼い頃の8mmフィルムの映像も多用されていて、郷愁をそそられます。ですが、1966年2月に、ピアソラは家族を残して家を出てしまいます。息子の目から見た父親の歴史なので、その後の女性遍歴などは、さすがに語られていません。
世に数々の名曲を遺したピアソラにも不遇の時代があったこと、それを支えた家族がいたこと、彼の生きた時代のことなどが、憂いあるメロディーとともに語られ、なんとも切ない思いにかられました。(咲)
2017年/アルゼンチン・フランス/英語・フランス語・スペイン語/94分/カラー(一部モノクロ)
配給:東北新社 クラシカ・ジャパン
後援:アルゼンチン共和国大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京
公式サイト:http://piazzolla-movie.jp/
★2018年12月1日(土)Bunkamuraル・シネマ ほか全国順次ロードショー.
2017年09月10日
笑う故郷(原題:El ciudadano ilustre)
監督・撮影:マリアノ・コーン、ガストン・ドゥプラット
脚本:アンドレス・ドゥプラット
音楽:トニ・M・ミル
出演:オスカル・マルティネス(ダニエル・マントバーニ)、ダディ・ブリエバ(アントニオ)、アンドレア・フリヘリオ(イレーネ)、ノラ・ナバス(ヌリア)
アルゼンチン出身の作家ダニエルは、長くスペインで暮らしている。ノーベル賞文学賞を受賞後、故郷の田舎町サラスから「名誉市民」の称号を授与したいと招待状が届く。40年ぶりに帰郷し、懐かしい友人知人の温かい歓迎を受けるダニエル。公園には胸像が設置され、絵画コンクールの審査員になり、講演会を依頼され、と充実した毎日となる。しかし、いつしか感傷気分を覆す事態に陥っていく。
ノーベル賞作家が故郷に戻ったばかりに巻き込まれる悲喜劇。第29回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門では『名誉市民』の邦題で上映。主演のオスカル・マルティネスは、ヴェネチア国際映画祭主演男優賞に輝いています。
作家が散々ネタにして書いた故郷にしっぺ返しをくらうのですが、もとはといえば自分が蒔いた種。誰にも文句は言えません。スネに傷持つ人はうっかり帰郷などしないほうが身のため?! ワッハッハーと笑いつつ、故郷は遠きにありて思うもの…と思わず口ずさんだのでありました。オスカル・マルティネスは『人生スイッチ』(2014)にも出演。そちらも濃くて熱い作品でした。(白)
2016年/アルゼンチン、スペイン/カラー/スペイン語/117分
配給:パンドラ
http://www.waraukokyo.com/
★2017年9月16日(土)より岩波ホールにて公開予定
2016年07月03日
ラスト・タンゴ(原題:Un tango mas)
監督・脚本:ヘルマン・クラル
撮影:ヨー・ハイム、フェリックス・モンティ
音楽:ルイス・ボルダ、セステート・マジョール
出演:マリア・ニエベス、フアン・カルロス・コペス、パブロ・ベロン
アレハンドラ・グッティ(マリア・ニエベスの壮年時代)
アジェレン・アルバレス・ミニョ(マリア・ニエベスの青年時代)
パブロ・ベロン(フアン・カルロス・コペスの壮年時代)
フアン・マリシア(フアン・カルロス・コペスの青年時代)
アルゼンチンタンゴの魅力を世界的に広めたマリア・ニエベス(80歳)とフアン・カルロス・コペス(83歳)。14歳と17歳で出会い、時には愛しあい、時には憎しみをもち、50年近くも一緒にタンゴを踊ってきた彼らが歩んだ愛と葛藤の歴史。何度も別れを繰り返しながらも、また手を取り合って踊ってきた二人だったが、今は一緒には踊っていない。
現在の2人の証言や、若いダンサーによる再現ドラマとダンスシーン、時にはディスカッションを通して、官能的で情熱に満ちたタンゴの魅力が映像に描かれる。監督の師であるヴィム・ヴェンダース監督を製作総指揮に迎えて製作された。
昨年(2015年)、山形国際ドキュメンタリー映画祭の折に来日したヘルマン・クラル監督にインタビューさせていただきました。シネジャHP特別記事にアップいたしました。(暁)
2015年/アルゼンチン、ドイツ合作/カラー//85分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)WDR / Lailaps Pictures / Schubert International Film / German Kral Filmproduktion
http://last-tango-movie.com/
★2016年7月9日(土)より)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
2015年07月19日
人生スイッチ(原題:Relatos salvajes)
監督・脚本:ダミアン・ジフロン
製作:ペドロ・アルモドバル
出演:リカルド・ダリン
オスカル・マルティネス、レオナルド・スバラーリャ、エリカ・リバス、リタ・コルテセ、フリエタ・シルベルベルグ、ダリオ・グランディネッティ
人生には決して押してはならない「スイッチ」がある。それを押してしまったために、悪夢の連鎖に巻き込まれた男女6人のエピソード。
『アナと雪の女王』にダブルスコアの大差でアルゼンチン歴代興行収入ナンバー1の座を勝ち取ったブラックコメディ。ラテンの血がそうさせたのか、わびさびの国に育った我々には想像できないオチに口がポカーンと開いてしまいました。すごく濃い作品。(白)
2014年/アルゼンチン・スペイン合作/カラー/シネスコ/122分
配給:ギャガ
(C)2014Kramer & Sigman Films / El Deseo
http://jinseiswitch.gaga.ne.jp/
★2014年7月25日(土)ヒューマントラスト有楽町、シネマライズ 他 全国順次公開
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