2018年10月14日
エンジェル、見えない恋人(原題:Mon ange)
監督・脚本:ハリー・クレフェン
撮影:ジュリエット・バン・ドルマル
音楽:ジョージ・アレクサンダー・バン・ダム
出演:フルール・ジフリエ(マドレーヌ)
エリナ・レーベンソ(ルイーズ・エンジェルの母)
マヤ・ドリー(マドレーヌ/10代)
ハンナ・ブードロー(マドレーヌ/幼少期)
フランソワ・バンサンテッリ(エンジェルの父)
ゴーティエ・バトゥー(エンジェルの声/成人)
レオ・ロルレアック(エンジェルの声/10代)
ジュール・マイニー(エンジェルの声/幼少期)
ルイーズの恋人はマジシャン。ある日姿を消したまま、いくら待っても戻ってこなかった。ルイーズの心はすっかり弱ってしまい、施設で暮らすことになった。可愛い息子が授かったが、透明な体で生まれた彼は誰にも見えなかった。ルイーズはエンジェルと名づけて愛し、優しい少年に成長した。エンジェルは近所のお屋敷に住む目の見えない女の子マドレーヌと出会った。マドレーヌはエンジェルの声や匂いを敏感に感じとり、エンジェルには初めての友達ができる。そして恋人になった。マドレーヌは目の手術をしてあなたの顔が見たいという。エンジェルは本当のことを打ち明けられない。
“透明人間”というとH.G.ウエルズの小説に出てくる“帽子にコート、包帯を巻いて眼鏡をかけた姿”が浮かびます。この作品では、布に残る身体の輪郭、波紋、ぬれた足跡や相手の表情でエンジェルの存在がわかります。
この特殊効果は極力CGを少なくして、昔ながらの手法を工夫したのだとか。技術スタッフは全てCGにするより難しい“CGと実写との融合”に苦労したようです。エンジェルの視線からのカメラと引いたカメラの映像で、母と息子、大きくなったエンジェルとマドレーヌのロマンスが描かれていきます。光あふれる戸外の風景、遊び戯れるマドレーヌとエンジェルの幸せな日々が美しいです。
製作にあたったのは、『神様メール』(2015)監督のジャコ・ヴァン・ドルマル。そちらは神様の娘と少年が外界の危機を救うストーリーでした。意表をつくストーリーは、こちらの作品も同じ。以前来日したドルマル監督がおっしゃっていた通り、ベルギー人のユーモアは独特。で、そこが好き。(白)
2016年/ベルギー/カラー/ビスタ/79分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2016 Mon Ange, All Rights Reserved
http://angel-mienai.com/
★2018年10月13日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2017年10月22日
KOKORO
監督:ヴァンニャ・ダルカンタラ
出演:イザベル・カレ、國村隼、安藤政信、門脇麦
フランス。アリスは、夫の仕事も順調で何不自由ない暮らしをしている。ある夜、夫に誘われ気の乗らないパーティに行くが、途中で抜けて一人で家に帰ると、笑い声が聞こえてくる。長らく不在にしていた弟ナタンが日本から帰ってきて、子どもたちと戯れていた。腕に「久美子」の入れ墨をした弟は、ダイスケという人物に出会って、生きる意味を教わった、日本にまた戻るので一緒に行こうという。姉の満ち足りてない心を察しての誘いだったが、家庭があるからとアリスは断ってしまう。
数日後、バイクに乗っていた弟が交通事故に巻き込まれ、亡くなってしまう。遺留品のナップザックの中に、日本人の恋人・久美子との幸せそうなツーショットを見つけたアリスは、日本で何が弟の人生を変えたのかを探りに旅立つ。
久美子を訪ねあて、弟と出会った離島の崖のそばで、自殺志願者に声をかけて思い留ませるダイスケという元警察官のことを聞かされる。アリスは、ダイスケの見守る崖に向かう・・・
ベルギーの女性監督ヴァンニャ・ダルカンタラが、日本を舞台に描いた心の再生の物語。外国人が日本で撮影すると、こんな風になるのかと興味深い。美しい風景とともに、都会の雑踏も捉えている。圧倒的な大自然を前に、心静かに人生を振り返り、何人もの人に自殺を思いとどまらせたダイスケと接することで、あらたな一歩を踏み出すアリスに寄り添った物語。なんともいえない不思議な余韻。ただ、ダイスケを演じる國村隼さんも、島の女子高校生を演じる門脇麦さんも、英語がとても流暢で、ちょっと違和感。
自殺名所の絶壁というと、真っ先に思い浮かぶのが東尋坊。本作では、各地を巡った結果、島根県隠岐の知夫里島(ちぶりじま)の知夫赤壁(ちぶせきへき、ちぶりせきへき)を撮影地に選んだとのこと。一般には赤壁(あかかべ)と呼ばれているところで、30年以上前に一度訪れたことがあるが、まさに絶景。まだまだ生きていたいと思わせてくれる壮大な光景!(咲)
2016年/ベルギー・フランス・カナダ/95分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:ブースタープロジェクト
公式サイト:http://www.kokoro-movie.jp/
★2017年11月4日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
2017年10月08日
ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ 原題:The Price of Desire
監督:メアリー・マクガキアン
出演:オーラ・ブラディ、ヴァンサン・ペレーズ、ドミニク・ピノン、アラニス・モリセット
アールデコからモダニズムへと時代が変わった1920年代。
家具デザイナーとして脚光を浴びていたアイリーン・グレイは、恋人の建築家であり評論家のジャン・バドヴィッチと共に、建築デビュー作として南フランスのカップ・マルタンの海辺にヴィラ E.1027を完成させる。それは、ル・コルビュジエが提唱してきた「近代建築の 5 原則」を具現化した、まさにモダニズムの記念碑といえる傑作だった。ル・コルビュジエはアイリーンの才能を絶賛し、親交を深める。が、賞賛の思いはやがて嫉妬に変わり、アイリーンの留守中にル・コルビュジエは壁に下品なフレスコ画を描く。彼女は激怒し、彼らの関係は断たれ、E1027は放置されてしまう・・・
本作は、長い間ル・コルビュジエの作とされてきたヴィラE1027を軸に、モダニズムの時代を先導した二人の人物を描いたもの。
戦後、すっかり荒れ果てたE1027が競売にかけられた時、自分のものにしようと奔走したル・コルビュジエ。1965年、E1027を見晴らすカップ・マルタンで海水浴中に心臓発作で亡くなっている。なんとも皮肉な運命!
ル・コルビュジエといえば、2016年に近代建築への顕著な貢献として、世界各地16の建築作品が世界文化遺産登録された建築家。日本では上野の国立西洋美術館が有名。以前からル・コルビュジエの手がけた建物として知っていたけど、どこがいいのかわからなかった建築物。本作を観て、ル・コルビュジエという人物、建物同様、どうにも好きになれないと思った、一方で、本作を通じて、アイルランド出身のアイリーン・グレイという才能豊かな女性のことを知ることができた。生涯にわたって自分のスタイルを貫いた女性とのこと。頼もしい。(咲)
2015年/ベルギー・アイルランド/108分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給トランスフォーマー
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/lecorbusier.eileen/
★2017年10月14日(土)Bunkamura ル・シネマほか、全国順次公開
2017年04月09日
午後8時の訪問者(原題:La fille inconnue)
監督・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:アデル・エネル(ジェニー)、オリビエ・ボノー(ジュリアン)、ジェレミー・レニエ(ブリアンの父)、ルカ・ミネラ(ブリアン)
将来を嘱望されている女医のジェニーは、今勤めている小さな診療所を近々出て、大きな病院へ移る予定だった。高待遇が約束され、歓迎会も知らされたばかり。診療時間を大幅に過ぎた午後8時、帰リ支度をしていると誰かがベルを鳴らす。研修医のジュリアンが応対しようとしたが、ジェニーは「出なくていい」と彼を制止する。翌日、近くで身元不明の少女の遺体が発見された。警察が少女の足取りを調べ、診療所のカメラに残った画像から、ベルを押していた少女だとわかる。ジェニーは{あのときドアを開けていたら死なせずに済んだのではないか」と自分を責める。名前も知らない少女の顔写真を携帯に保存し、ジェニーは彼女を知る人を探し始めた。
「あのときああすれば」という経験は、誰もが大なり小なりしているはずです。この作品では見知らぬ少女が死んでしまったことで、自責の念にかられる若い女医が主人公です。医師は常に沈着冷静な判断を期待され、感情に流されないことも大切な職業。しかし、ジェニーはこの事件後、少女の身元を知りたいと捜し歩き、危険な目にあってもやめません。次第に真実に近づくまでサスペンスタッチで進みます。ジェニーの患者から思わぬ手がかりを得、話が広がり収束しラストにもっていくストーリーがうまいです。そういえばヒロインが人を訪ね回る『サンドラの週末』も同じダルデンヌ監督作品でした。
ジェニー役のアデル・エネルは『水の中のつぼみ』(2007)から見ていますが、今も高校生役ができそうなほど若々しいです。昨年のTIFF“東京グランプリ”受賞作品『ブルーム・オヴ・イエスタディ』(クリス・クラウス監督)にも主演していましたが、そっちはいつ公開になるのかな。(白)
2016年/ベルギー・フランス合作/カラー/ビスタ/106分
配給:ビターズ・エンド
(C)Christine Plenus
http://www.bitters.co.jp/pm8/
★2017年4月8日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
2016年05月22日
神様メール(原題:Le tout nouveau testament)
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
脚本:トマ・グンジグ、ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ブノワ・ポールヴールド(父・神様)、カトリーヌ・ドヌーヴ(マルティーヌ)、フランソワ・ダミアン(フランソワ)、ヨランド・モロー(母・女神)、ピリ・グロワーヌ(娘・エア)
この世界を作った神様はブリュッセルのアパートに妻と娘とともに住んでいる。神様は酒飲みで乱暴、おとなしい妻にどなりちらし、娘のエアを生まれてから10年間アパートから出さずにいる。毎日何をしているかというと、パソコンで気まぐれに人間世界に災厄を起こし、人の運命を弄んで楽しんでいる。エアはいじわるで横暴な父が大嫌い。兄のJC(イエス・キリスト)の協力を得て、たった一つ外界へ通じる出口を知った。家出の前にすきを見て父のパソコンから全人類へ余命を知らせるメールを送信し、神様がすぐ使えないように細工をする。脱出したエアは兄の助言にしたがい、6人の使徒を探し始める。
なんとも奇想天外で面白い設定!神様がアパートに住んでいてパソコン一つで世の中を支配しているなんて。不条理のあれもこれもこの神様のしわざだったのか!?
これは宗教の映画ではなく、支配する人される人の関わり、余命を知った人間がどう生きるのか、という物語です。余命を知ってパニックが起きている人間世界で、エアが出会うのは何かを失った人ばかり。そんな人たちへ神様の娘のエアが小さな奇跡を届けていきます。
パソコンが使えなくなって慌てて後を追ってきた神様が陥る危機には、今までの仕打ちを思うと当然!と大いに溜飲が下がります。
ドルマル監督の公開作品は『トト・ザ・ヒーロー』(1991)、『八日目』(1996)、『ミスター・ノーバディ』(2009)、どれも独創的な作品でしたね。ほかに未公開の短編やドキュメンタリー作品が何本もあるようです。見る機会がないかな、と思っていたら朗報!「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2016」では、ドルマル監督のショートプログラム『乗り出し危険』(1985)の上映があります。『ミスター・ノーバディ』の元になった作品だそうですよ。(白)
2015年/ベルギー.フランス,ルクセンブルク/カラー/スコープサイズ/115分
配給:アスミック・エース
http://kamisama.asmik-ace.co.jp/
(C)2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Apres le deluge/Jul iette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
★2016年5月27日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー