2017年11月18日
まともな男(原題:Nichts passiert)
監督・脚本:ミヒャ・レヴィンスキー
撮影:ピエール・メネル
音楽:マルセル・ブラッティ
出演:デーヴィト・シュトリーゾフ(トーマス)、マレン・エッゲルト(マルティナ)、アニーナ・ヴァルト(ザラ)、ロッテ・ベッカー(ジェニー)、マックス・フーバッヒャー(セヴェリン)、シュテファヌ・メーダー(セヴェリンの父親)、ベアト・マルティ(ザラの父親)
平凡なサラリーマンのトーマスは、妻のマルティナ、15歳の一人娘ジェニーと恒例の家族旅行でスイスのスキー場に向かっている。上司の娘のザラも連れていくことにしぶしぶ同意してくれた妻と娘に肩身が狭い。到着した晩、旧知の青年セヴェリンとパーティに出かけた娘たちを迎えに行くと、ザラが見当たらない。ようやく見つけたザラのただならぬ様子に問いただすと「セヴェリンにレイプされた。誰にも言わないで」と告白された。ザラに良かれと妻にも打ち明けないトーマス。しかし嘘は嘘を呼んで、のっぴきならない事態に陥っていく。
冒頭にセラピーを受けるトーマスの様子が出てきて、どうもお酒で失敗したらしいとわかります。人が良くて頼まれたら断れない平凡なサラリーマンが、上司の娘を預かったばかりに陥る悲劇のスパイラル。ところはスイスで主人公はドイツ人ですが、どこの国でもありそうな問題がちりばめられています。家族、仕事、レイプされた少女、ストレスと飲酒、暴力 etc,etc...。
初めにボタンを掛け違えたばかりに、次々と問題に直面する「まともな男」は自分であり、家族であるかもしれません。観終わってすっきりするのでなく、宿題をもらったような感じが残ります。一緒に観た人と、自分ならどうする?と話題が沸騰しそうです。スイスでヒットし、映画祭では数々の受賞を果たしています。
今回初来日したミヒャ・レヴィンスキー監督に本日お話を伺いました。(白)
急ぎスタッフ日記にインタビュー記事アップしました。こちら。
●シネジャHP特別記事に画像を加えてアップしました。こちら
2015年/スイス/カラー/92分
配給:カルチュアルライフ
(C)Cultural Life & PLAN B FILM. All Rights Reserved.
http://www.culturallife.jp/matomonaotoko
★2017年11月18日(土)より 新宿K‘s cinemaほか全国公開中!
2017年10月15日
ソニータ 原題:Sonita
監督:ロクサレ・ガエム・マガミ
出演:ソニータ・アリザデ、ロクサレ・ガエム・マガミ
製作総指揮:ゲルト・ハーク
音楽:ソニータ・アリザデ、セパンダマズ・エラヒ・シラジ
テヘランの下町。少女たちを前に歌う18歳のソニータ。アフガニスタンの両親のもとを離れ、イランで難民として暮らしている。夢は有名なラッパーになること。
難民支援団体の教室で、理想の国籍や名前をと先生に言われ、「名はソニータ・ジャクソン。欲しい国籍はアメリカ」と書きながら、アメリか国籍じゃイランに入れないと笑う。
ソニータがイランに逃げてきたのは、父親がアフガニスタンの慣習に従って、強制的に結婚させようとしたからだった。娘を嫁がせればしばらく食うに困らないという父。花嫁の値段は9000ドル! 額にバーコードを書いて「売り物」とアピールしながら歌うソニータ。
監督は、ソニータの夢を叶えさせてあげたいと、スタジオで録音する。ラップのコンテストで最優秀賞も貰うが、イランの法律で女性のソロは認められていない。アメリカの支援者を見つけ、アメリカにわたることにするが、パスポートも持っていないソニータ。パソポートを取得するため数年ぶりにヘラートの両親の家に帰る・・・
本作のロクサレ・ガエム・マガミ監督は、テヘラン芸術大学で映画製作とアニメーションを学んだイラン女性。従兄弟がソーシャルワーカーとして働く子ども支援団体で、ソニータと知り合い、歌手になりたいという彼女の映画を撮ることを決意。女性のソロが許されていないイランで、ソニータが歌う姿を撮る監督にも大きなリスクがある。
イランでの撮影中、「もうスカーフをはずして寝たいからカメラを止めて」とソニータがいう。髪の毛を出した姿が流出した時に家族に迷惑がかかるからというソニータの心遣い。そも、イランでは女性が髪の毛を出した映像は流せない。
ソニータも監督も、アメリかに行き、髪の毛を堂々と出して闊歩している。
監督にとっても、本作は勇気ある一歩を踏み出したもの。
ソニータの将来と共に、監督の将来も楽しみだ。(咲)
サンダンス映画祭2016 ワールドシネマ部門グランプリ & 観客賞
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)2015 観客賞
シェフィールドドキュメンタリー映画祭ヤング審査員賞 ほか受賞多数
2015年 / 91分 / スイス・ドイツ・イラン
制作:TAG/TRAUM
共同製作:INTERMEZZO FILM、 ロクサレ・ガエム・マガミ、NDR、RTS、
SRG SSR、DR
配給:ユナイテッドピープル
後援:国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所、Girl Power、ハリウッド化粧品
公式サイト:http://www.unitedpeople.jp/sonita/
★2017年10月21日(土)よりアップリンク渋谷他にてロードショー
2014年07月11日
大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院 原題, DIE GROSSE STILLE 英題:INTO GREAT SILENCE
フィリップ・グレーニング監督・脚本・撮影・編集
フランス、アルプスの山合いにあるグランド・シャルトルーズ修道院。カトリック教会の中でも厳しい戒律で知られるカルトジオ会の男子修道院。
撮影申込みから16年後、ようやく許可を得たドイツのフィリップ・グレーニング監督。修道会との約束に従い、礼拝の聖歌のほかに音楽をつけず、ナレーションもつけず、照明も使わず、ただ一人カメラを携えて、6カ月にわたり修道士とともに暮らして彼らのありのままの姿を捉えたドキュメンタリー。
本作を観ながら思い出したのが、今年3月に経験した奈良・東大寺二月堂の修二会。修行僧たちが唱えるお経と、修道士たちの聖歌、いずれも男声の重唱が心に響いて、宗教に帰依する人たちの崇高な思いを感じたものです。
黙々と修行を続ける修道士たちが唯一言葉を交わすことを許されるのが、日曜の昼食後の散歩の時間。ある雪の日、修道士の服装のまま、雪の坂をある者はソリで、ある者は立ったまま滑り降りて戯れる姿が映し出されました。観ている人たちから思わず笑い声が漏れました。厳しい修行をする修道士も、私たちと変わらない人間なのだと、なんだかほっとした場面でした。
かつて、スペインのクェンカの町の広間に面した建物に何気なく入ったら、20名程の修道女が瞑想中でした。微動だにしない彼女たちの姿は不気味にも思えました。宗教の持つ不思議な力を感じた一瞬でもありました。
修行の道を選ぶ人たちの思いは様々。私の叔母がカトリックの修道院で修行していたことがあって、格子越しに面談したことがあったのを思い出しました。小学生の頃のことです。その後、叔母は修道院を出ましたが、今も神様との結婚を貫いています。その原動力が何なのか・・・ それも宗教の力としかいいようがないのでしょうね。(咲)
2005年/フランス・スイス・ドイツ/カラー/ドキュメンタリー/2時間49分/ビスタ
配給・宣伝:ミモザフィルムズ
公式ページhttp://www.ooinaru-chinmoku.jp/
★2014年7月12日(土)より岩波ホール他全国順次ロードショー