2017年05月03日
トトとふたりの姉(原題:Toto si surorile lui)
監督・脚本・撮影・編集:アレクサンダー・ナナウ
ルーマニアの首都ブカレスト。その郊外に見捨てられたようなロマ・コミュニティがある。おんぼろのアパートの1室には10歳の少年トトと姉二人、アナ17歳、アンドレア14歳が住んでいる。母親は麻薬売買の罪で服役中。父親はいない。母親の弟が子どもたちの面倒を見てくれるはずだったが、ドラッグや酒を持ち込んで悪友とたむろするばかり。男たちが注射を打っているのを目にしながら、ベッド代わりの椅子で眠るトト。アンドレアはそんな家に寄りつかず、友達の家を泊まり歩いている。アナは先が不安でドラッグに手を出し、逮捕されてしまった。アンドレアは監督から渡されたカメラに向かって、誰にもいえなかった胸の内を語り始める。トトはヒップホップのダンスを知って、初めて夢中になれるものを見つけた。
子どもは生まれてくる家も親も選べません。それしか知らなければどんな環境であろうと、それが日常で生活の場になります。『ムーンライト』のシャロンは、母親が麻薬中毒・売春で薬代を稼ぐような家で育ったけれど、他人のフアンとテレサからたくさんの愛情を注がれました。
ところがこのドキュメンタリーの姉弟には、そんな大人が身近にいません。まともな仕事も希望もない大人は、酒やドラッグに浸り過酷な現実から一時でも逃れようとしています。トトの目に希望の光が灯ったことで、アンドレアが少し変わります。明るくて暖かい方へと向かうのは自然の理なのでしょう。各地の映画祭で絶賛されたそうですが、あの子たちは今どうしているのか、その後が気になります。(白)
2014年/ルーマニア/カラー/93分
配給:東風、gnome
(C)HBO Europe Programming/Strada Film
http://www.totosisters.com/
★2017年4月29日(土)ポレポレ東中野にて上映中 ほか全国順次公開
2017年01月22日
エリザのために 原題:BACCALAUREAT 英題:GRADUATION
監督・脚本・製作:クリスティアン・ムンジウ(『4ヶ月、3週と2日』、『汚れなき祈り』)
出演:アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ
何者かに石を投げ込まれ窓を割られた朝、医師ロメオは、体調の悪い妻の代わりに娘エリザを学校に送っていく。急いでいたロメオは、学校に入る手前でエリザを降ろす。工事現場の脇を通って学校に向かう娘の後姿を見送り、愛人である英語教師サンドラの家に急ぐロメオ。サンドラと過ごしているロメオのところにエリザが暴漢に襲われたと電話が入る。病院に駆けつけると、妻も既に到着していて、エリザは大事には至らなかったが、両親の前で泣き崩れる。翌日に卒業試験を控えていて、それに受からないと、既に航空券も用意している英国への留学が出来なくなるのだ。ロメオの友人の警察署長は必ず犯人を捕まえると約束する。
翌日、エリザは一日目の試験を受けるが、事件のショックで思うような点が取れない。その結果を知ったロメオは、自分の職権で副市長に便宜を図ることで、2日目の試験の点数を操作する約束を取り付ける。ロメオは、娘に名前の脇に印をつけるよう指示する・・・
エリザには恋人がいて、どうしてもイギリスに留学したいわけではないのに、父親は不正を犯してでも留学させたいと必死。1991年の民主化の折、ロメオは妻と共に外国から帰ってきたのに、期待したような社会にならず、娘には外国に出て自分らしい人生をおくってほしいと願っているのです。
白昼、女性が暴漢に襲われても無関心な人たち。そして、すべてがコネで動く社会。
切羽詰った息苦しい空気がずっしり迫ってきた『4ヶ月、3週と2日』は、民主化の前のルーマニアが舞台だったけど、民主化後のルーマニアでも、違った意味の息苦しさがあることを感じさせられる映画。娘を思う父親の思いはずっしり伝わってくるのですが、壊れきった夫婦の姿があまりに虚しい。その虚しさは、ムンジウ監督が今のルーマニアに感じているものを象徴しているのでしょうか。(咲)
2016/ルーマニア・フランス・ベルギー/カラー/ルーマニア語/128分
配給:ファインフィルムズ
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/eliza/
★2017年1月28日(土)より新宿シネマカリテ、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
2014年06月21日
『私の、息子』(原題:POZITIA COPILULUI)
監督: カリン・ピーター・ネッツァー
出演: ルミニツァ・ゲオルギウ(コルネリア)、 ボクダン・ドゥミトラケ(バルブ)、イリンカ・ゴヤ(カルメン)、ブラド・イヴァノフ(ディヌ)
ブカレストに住むセレブのコルネリアは、30になっても自立していない息子バルブが悩みの種。誕生日パーティにも顔を出さず、子持ちのカルメンを恋人にしているのにも腹が立つ。買い与えたマンションに家政婦を掃除にやってそれとなく探らせている毎日だ。そんな中、バルブが交通事故を起こしたと知らせが入る。前の車を追い越そうとスピードを上げ、飛び出した子どもをよけきれず死なせてしまったという。
コルネリアは思いつくだけのコネクションとお金の力で、バルブを助けようと画策する。
第63回ベルリン国際映画祭で金熊賞受賞。
子離れできない母と親離れできない1人息子の愛憎半ばするドラマ。
密着していた時代はあるはずもなかった距離と溝が、30才にもなればできてあたりまえ。それを認められないコルネリアは、息子が離れていくのは恋人のせいだと思い、自分の愛情が息子を苦しめていることに気づかない。
超セレブな家庭の話ながら、母親ならば誰でも少しは思い当たるふしがあるはず。生まれたときからそばにいるわが子は、いくつになっても「私の子」だから。けれど普通は進学したり、就職したり、結婚したりで順当に親離れしていく。この母子はその機会を逸してしまったのでしょう。
ルミニツァ・ゲオルギウの存在感が日本なら杉村春子さんかな、というくらい凄い。ルーマニアを代表する女優で、日本公開されたルーマニア映画『4ヶ月、3週と2日』(2007)、『汚れなき祈り』(2012)にも出演していた(すみません、記憶は彼方へ)そうです。コルネリアをゆする目撃者ディヌのブラド・イヴァノフは、『4ヶ月、3週と2日』で、堕胎医役でした。『オーケストラ!』や『スノーピアサー』にも出演と海外作品でも活躍中。(白)
配給・宣伝:マジック・アワー
(C)Parada Film in co-production with Hai-Hui Entertainment All rights reserved
http://www.watashino-musuko.com/
6月21日(土)よりBnukamuraル・シネマほか全国順次公開