2016年08月14日
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた(原題:Song of the Sea)
監督:トム・ムーア
脚本:ウィル・コリンズ
音楽:ブリュノ・クレ、KiLA
日本版主題歌:中納良恵(EGO-WRAPPIN')
声の出演(日本語吹き替え):本上まなみ(ベン)、リリー・フランキー(父コナー)、中納良恵(母ブロナー)
ベンは灯台の家でお父さんとお母さん、愛犬のクーと暮らしています。お母さんのおなかには赤ちゃんがいて、弟か妹が生まれるのを楽しみにしていました。けれども、ある晩お母さんは産まれたばかりの妹をおいていなくなってしまいました。お父さんはすっかり元気をなくし、ベンは妹のシアーシャのせいでお母さんが消えてしまったと思い、意地悪ばかりしてしまいます。
シアーシャは6歳になりましたが、おしゃべりができません。お誕生日のお祝いにやってきたおばあちゃんは、息子と孫たちを心配しています。シアーシャはその夜ふしぎな光に誘われ、お父さんが隠していた“セルキー”のコートを見つけました。海に入ったシアーシャはアザラシたちと楽しく泳ぎ回りますが、おばあちゃんに見つかり、二人は町にあるおばあちゃんの家に預けられました。どうしても家に帰りたくなって二人はこっそりと抜け出します。ところが途中でフクロウの魔女にシアーシャがさらわれてしまいました。ベンは妹を救うため魔法世界へと向かうのでした。
アイルランドに古くから伝わるお話を元にしたアニメーション。お母さんを愛するあまり、妹にやつあたりするお兄ちゃんが主人公です。ここはふつうの生活でもありそうです。さらに妖精や魔女が登場して、兄妹は知らず知らずに大冒険の世界に足を踏み入れて行くことになります。
日本の羽衣伝説、鶴女房のような「異類婚姻譚」は世界中にあるようですが、アイルランドに伝わる“セルキー”は海ではアザラシ、陸上では皮を脱いで人間の姿になる妖精だそうです。セルキーの母親が残した貝の笛をベンが吹いても音は出ませんが、口のきけないシアーシャは吹くことができました。その音色が二人を導き、ベンが母から教わって忘れなかった歌も大きな力となりました。妻が失踪してふさいでしまうお父さんがちょっと情けないですが、子どもたちの成長に後押しされ、親の自覚を取り戻しますのでご安心ください。アニメーションによく合った音楽もまた美しいです。
昨年の「アニメアワードフェスティバル2015」で上映、長編部門でグランプリを受賞しました。アカデミー賞 長編アニメ映画賞にもノミネートされたほか、いくつもの受賞を果たしています。(白)
2014年/アイルランド、ルクセンブルク、ベルギー、フランス、デンマーク合作/カラー/ビスタ/93分
配給:チャイルド・フィルム、ミラクルヴォイス
(C)Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Norlum
http://songofthesea.jp/
★ 2016年8月20日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で順次ロードショー
2016年06月26日
ブルックリン(原題:Brooklyn)
監督:ジョン・クローリー
原作:コルム・トビーン
撮影:イヴ・ベランジェ
脚本:ニック・ホーンビィ
出演:シアーシャ・ローナン(エイリシュ・レイシー)、ジュリー・ウォルターズ(キーオ夫人)、ドーナル・グリーソン(ジム・ファレル)、エモリー・コーエン(トニー・フィオレロ)、ジム・ブロードベント(フラッド神父)、ジェーン・ブレナン(メアリー・レイシー)、フィオナ・グラスコット(ローズ・レイシー)
アイルランドの田舎町で母と姉ローズと暮らすエイリシュ・レイシー。街に女性の働く場所は少なく、エイリシュは口うるさい女主人の店で我慢しながら働いている。大人しく控えめなエイリシュは、会計士をしている美人で聡明な姉ローズを尊敬し憧れていた。そんな妹にチャンスを、とローズはアメリカに行って働くことを薦める。思い切って渡米したエイリシュは、姉の知り合いのフラッド神父の口利きで、ニューヨーク、ブルックリンのキーオ夫人の下宿に住み、高級デパートの店員となった。しかし故郷とあまりにも違う環境に、自信を失いホームシックになってしまう。
心配した神父の薦めで大学の会計士コースを受講し、アイルランド出身者のダンスパーティに参加したエイリシュは、イタリア系の青年トニーに出会った。次第に自信と笑顔を取り戻していった矢先、故郷から悲報が届く。
1950年代にアイルランドからアメリカに渡った少女が職を得て、恋人に巡り合い、成長していくストーリーが前半。一度懐かしい故郷に戻り、悲しい思いをする反面、新しい出会いに心揺れるのが後半。人生はいろいろな岐路に立ち、どの方向に行くか選択・決断する連続だと思いますが、この物語もまさにそうです。ヒロインのエイリシュ本人だけでなく、周りの人々の決断も互いに影響しあいます。エイリシュに渡米を薦めたローズは、自分が残るほうを選びますし、大勢の中からエイリシュに声をかけたトニーもまた選択しているわけです。エモリー・コーエン演じる明るくて愛嬌のあるトニー、ドーナル・グリーソン演じる家柄の良い落ち着いた物腰のジムの二人…あなたもきっと「う〜〜む」と迷ってしまうはず。
シアーシャ・ローナンはニューヨーク生まれですが、3歳で両親の故郷アイルランドに戻っています。新天地を求めて海を渡った祖父母や両親世代のことなので、深く理解したようです。すっかり大人の女性になった彼女がほんとに美しいです。心情と成長ぶりが現れる彼女の衣装にもぜひ注目を。エイリシュのコートはアイルランドのナショナルカラーの緑。故郷と共にあるかのように自分を守るようにきっちりと着ています。この緑がとても目立ちます。
作品中で歌われるアイルランド語の民謡が哀切で印象に残りました。ホームレスの老人たちに食事がふるまわれるシーンです。国を捨てて出てきてきつい労働をしてアメリカに貢献したけれど、仕事がなくなって貧しくなり、かといって帰るところもない移民たちです。少女の成長とラブロマンスだけでなく、アメリカにやってきた移民の歴史やアメリカとの関わりも知ることのできる作品でした。(白)
2015年/アイルランド、イギリス、カナダ合作/カラー/ビスタ/112分
配給:20世紀フォックス映画
(C)2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
http://www.foxmovies-jp.com/brooklyn-movie/
★2016年7月1日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
フラワーショウ! 原題:Dare to Be Wild
監督:ビビアン・デ・コルシィ
出演:エマ・グリーンウェル、トム・ヒューズ。クリスティン・マルツァーノ
監督:ビビアン・デ・コルシィ
出演:エマ・グリーンウェル、トム・ヒューズ。クリスティン・マルツァーノ
エリザベス女王が総裁を務める英国王立園芸協会が主催するチェルシー・フラワーショー。世界最古にして最高峰の豪華絢爛たる舞台に、あえて雑草とサンザシの木だけという質素なコンセプトで挑んだアイルランドの若き女性の実話に基づく物語。
アイルランドの田舎で育ったメアリー・レイノルズ。野草を愛し、自然を活かした庭をデザインして世に出したいと夢見ていたメアリーは、著名なガーデン・デザイナー、シャーロットのスタッフとして仮採用になり、首都ダブリンで働き始める。やがてメアリーのデザインした庭園はセレブな顧客たちに提供されるが、シャーロットはメアリーの名を表に出すことはなかった。挙句の果てにクビになってしまう。「こうなったら、チェルシー・フラワーショーで金メダルを獲るしかない!」とひらめく。2000人の応募の中から、たった8人の出展枠に選ばれたメアリー。でも、実際に出展するのには、25万ポンドの資金を調達し、80日後には施工を開始、3週間で仕上げなくてはならない。さて、メアリーは無事出展できるのか・・・
メアリーのデザインした「ケルトの聖域」は、“平凡な日常を忘れ、自然の力を感じられる魔法の地”というコンセプト。華やかさはないけれど、大地に根ざしたダイナミックな力を感じさせてくれる庭園。異色さに興味を持ちましたが、この映画でもっと神秘的でダイナミックさを感じさせてくれたのは、エチオピアのキリスト教の儀式。実は、ふっと寝てしまって、気がついたらエチオピアの場面でした。なぜエチオピア?と思ったら、施工を頼みたい植物学者のクリスティが仕事のためエチオピアに行ったのを追いかけてのことでした。そして、恋に落ち・・・と、どこまで実話なのかわかりませんが、そこは映画を面白くするため?
実在のメアリー・レイノルズは、1974年生まれ、1997年にランドスケープの学位を取得し、同年、ランドスケープ・デザインの会社を設立。2002年、チェルシー・フラワーショーのショー・ガーデン部門に初エントリーして金賞を受賞しています。シャーロットにこき使われたり、デザインを盗まれたりした話も、もしかしたら映画のための作り話? エチオピアに行ったことも、監督のアイディアだとしたら、それはよかったなと。(咲)
2014年/アイルランド/100分/カラー/DCP5.1ch/シネマスコープ
配給・提供:クロックワークス
公式サイト:http://flowershow.jp
★2016年7月2日 (ヒューマントラストシネマ有楽町、 YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
2016年04月03日
ルーム(原題:Room)
監督:レニー・アブラハムソン
原作・脚本:エマ・ドナヒュー
撮影:ダニー・コーエン
出演:ブリー・ラーソン(ジョイ)、ジェイコブ・トレンブレイ(ジャック)、ジョアン・アレン(ナンシー)、ショーン・ブリジャース(オールド・ニック)、ウィリアム・H・メイシー(ロバート)、トム・マッカムス(レオ)
小さな部屋にママと2人きりで暮らしているジャックは、目がさめると部屋中のものに「おはよう」と挨拶する。5歳の誕生日にママが作ってくれたケーキにロウソクがなくて、ジャックはだだをこねた。ママは悲しそうだった。ここにはないものがいろいろある。天井の小さな窓からは空が見えるだけ。一つきりのドアはニックがかぎをかけていて、ジャックは外の世界を知らない。テレビの中の風景はニセモノ、本物なのはこの部屋とママと、ときどき食料を持ってくるニックだけだ。ニックが来る前にジャックはクローゼットに入って、声を出さないようにする。ママとの約束だから。
ママは初めてジャックにこの外には広い広い世界があると言った。ママは7年もの間ニックにこの部屋に閉じ込められていて、ジャックを妊娠し、産んだのだった。ママはジャックが死んだことにして外に出られるようにする。そして逃げるのよ、と言い聞かせる。
レニー・アブラハムソン監督は『FRANK-フランク』(2014)でハリボテの被り物で音楽活動を続けた風変わりな男性(実在のモデルがいる)を描きました。今回も尋常じゃない設定の中の母子です。
原作「部屋」を書いたエマ・ドナヒューが自ら名乗りを上げて脚本も書きました。監禁という異常な事態の中、産まれたジャックを一人で育て上げたジョイにまず胸をつかれました。緊迫した脱出劇にハラハラし、母子のこれまでとこれからに涙しました。ブリー・ラーソンは『ショート・ターム』でその確かな演技力を観ていましたが、キモとなる子役のジェイコブ・トレンブレイには脱帽です。素でやればいいというものではなく、部屋の中しか知らないジャックが外に出た瞬間、広くなっていく世界を観る驚きを演じなければなりません。後半も母と子が互いに思いあう絆の深さに胸が震えます。ぜひ劇場で小さな部屋と広い世界を体感してください。(白)
決死の思いで脱出したママとジャックを待ち受けていたのは、それまでの静かな日々と一転、好奇な目にさらされる日々。
つい先日、誘拐・監禁されていた少女が2年ぶりに脱出に成功しましたが、心に受けた傷はあまりにも大きいと胸が痛みます。ご両親の、そっと遠くから見守ってほしいとの言葉を、周囲にいる人たちも、マスコミの人たちも心に刻んでほしいと切に願います。
それにしてもつくづく思ったのは、どんな場所であれ、生まれ育った場所がやはりふるさとなのだなぁ〜ということでした。あの殺風景な部屋で、一つ一つのアイテムにさよならの挨拶をするジャックに、じ〜んとしました。
もっとすごいのは、あのような状況で生んだ子にも、愛情を注げる母性というのもの。私には子どもを生んだ経験がないので想像でしか言えませんが、どんな相手の子であっても、自分のお腹の中で育った子には違いないと愛情が持てるものなのなのかなぁ〜と。 (咲)
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2015年/アイルランド・カナダ合作/カラー/シネスコ/118分
配給:ギャガ
(C)Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
http://gaga.ne.jp/room/
★2016年4月8日(金)TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズシャンテ他全国順次公開
2016年03月06日
ロブスター(原題:The Lobster)
監督・共同脚本・製作:ヨルゴス・ランティモス(『籠の中の乙女』)
出演:コリン・ファレル(デヴィッド)、レイチェル・ワイズ(近視の女)、レア・セドゥー(独身者たちのリーダー)、ベン・ウィショー(足の悪い男)、ジョン・C・ライリー(滑舌の悪い男)
突然妻に去られたデヴィッドは、あるホテルに送られた。この国では「独身は罪」であり、独身者が集められるここで45日間のうちに配偶者を見つけなければ、動物に変えられてしまう。入居にあたって面接があり、パートナーを見つけられなかったとき「なりたい動物」を聞かれたデヴィッドは「ロブスター」と答える。一緒に連れてきた犬は元は兄だった。犬の希望者は多く、増えすぎて今は受け付けられない。規則に反対し、独身を貫く者たちは追っ手に捕まらないように山中に隠れ住んでいる。
ヨルゴス・ランティモス監督の前作『籠の中の乙女』(2009年)はカンヌ映画祭「ある視点部門」グランプリを獲得。2012年に日本公開されています。新作のこちらもかなり奇妙な設定の世界のお話です。「おひとりさま」が罪としたら罪人だらけになり、動物が一挙に増えてしまいます。まあよくしたもので(?)、この規則に抗うグループもちゃんと存在しています。『美女と野獣』で美しいドレス姿を見せたレア・セドゥがこのリーダー。ただしその中にも規則があり、それに外れてしまう者が必ず出てくるんですね。ジャンル分けすると、これはとっても皮肉をきかせたコメディ作品。公式サイトのトップに「あなたの動物占い」がありますので、試してみてはどうでしょうか。私は「マニアックなイヌ ひとりが好きで、自分の流儀を持っている。身内びいきで、初対面ではとっつきにくい」でした。(白)
2015年/アイルランド、イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ合作/カラー/ビスタ/118分
配給:ファインフィルムズ
http://www.finefilms.co.jp/lobster/
(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film,
The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.
★2016年3月5日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開