2018年03月02日

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス(原題:Maudie)

siawase.jpg

監督:アシュリング・ウォルシュ
脚本:シェリー・ホワイト
撮影:ガイ・ゴッドフリー
美術:ジョン・ハンド
出演:サリー・ホーキンス(モード・ルイス)、イーサン・ホーク(エベレット・ルイス)、カリ・マチェット(サンドラ)、ガブリエル・ローズ(アイダ)

1930年代のカナダ東部、ノバスコシア州。幼いころからリウマチを患っていたモードは、両親が亡くなって兄が家を継いだため、叔母に引き取られた。厳格な叔母の家から出たい一心で、一人暮らしの行商人エベレットの家政婦になった。無骨なエベレットと初めはケンカばかりだったが、ともにはみだし者の2人は徐々にうちとけていき、しばらく後に正式に結婚する。モードは家事の合間に小さな家のあちこちに花や鳥の絵を描き、“綺麗”にした。エベレットはモードの手描きのポストカードを売り、モードの絵は雑誌やテレビで紹介されて評判となる。

サリー・ホーキンスは、上映中の『シェイプ・オブ・ウォーター』でも主演。クマのパディントンが居候するブラウン家のママ役でも知られています。このママは絵本作家の設定でしたが、ホーキンスの両親は絵本作家・イラストレーターなのだそうです。
ホーキンスはアシュリング・ウォルシュ監督のテレビドラマ「荊の城」(2005年)に主演、今回監督から送られてきたモードの写真と絵を見てすぐに引き受けたそうです。撮影前に素朴派の絵のを描くレッスンも受けたとか。実際に彼女が描いた絵が使われています。夫役のイーサン・ホークとは初顔合わせ。怒ってばかりいたエベレットがモードの手料理を食べるシーンがいいです。また2人の共演が観たいものです。

この作品で初めてモード・ルイスのことを知りました。アメリカのグランマ・モーゼス(1860- 1961)はよく知られているのですが。やはり素朴な絵で評判になったモーゼスは、年を取ってからリウマチのリハビリのために絵を描くようになり、本格的に筆をとったのは75歳。1940年に80歳のときに個展を開き、絵を描き続けて101歳で亡くなっています。
同じ頃にカナダにはモードがいて、ほとんど遠くに出ることもなく自分の街と身の回りのものを描き続けていたんですね。モードは1970年67歳で亡くなってしまいましたが、モーゼスのように長命であったならもっとたくさんの絵を描いたでしょう。特に習ったわけでもないというモードの絵は、混色の少ない綺麗な色使いです。厳しい暮らしの中、不自由な手に絵筆を持ち続けるのも一苦労であったはずですが、ただただ描く楽しさに溢れています。絵が売れるようになっても、多くを望まない2人のつましい生活は変わらなかったとか。
ありとあらゆるところに絵が描かれたあの小さな家(ホントは4.1m×3.8mですって!)はノバスコシアの美術館に保存されているそうです。HPにその写真とモードの絵がありますのでご覧下さい。(白)


2016年/カナダ・アイルランド合作/カラー/シネスコ/116分
配給:松竹
(C)2016 Small Shack Productions Inc. / Painted House Films Inc. / Parallel Films (Maudie) Ltd.
http://shiawase-enogu.jp/
★2018年3月3日(土)ロードショー

●展覧会のおしらせです

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」映画展
*会期が延長されました!
2018年2月1日(木)〜 3月29日(木)
平日:午前10時から午後5時半まで 
土、日は休館
★モードが絵を描いた缶や映画に使われた小道具、複製絵画などが展示されます。
大使館内ギャラリーなので、入館の際「顔写真入の身分証明書」が必要です。

場所: カナダ大使館高円宮記念ギャラリー
(東京都港区赤坂7-3-38 地下鉄「青山1丁目」駅より徒歩5分)
入場: 無料
共催:松竹(株)
詳細はこちら
posted by shiraishi at 23:40| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月10日

彼女が目覚めるその日まで(原題:Brain on Fire)

kanojo.jpg

監督・脚本:ジェラルド・バレット
原作:スザンナ・キャハラン「脳に棲む魔物」(KADOKAWA刊)
撮影:ヤーロン・オーバック
音楽:ジョン・パエザーノ
出演:クロエ・グレース・モレッツ(スザンナ・キャハラン)、トーマス・マン(スティーヴン・グリウォルスキ)、リチャード・アーミテージ(トム・キャハラン)、ジェニー・スレイト(マーゴ)、キャリー=アン・モス(ローナ・ナック)

憧れのニューヨーク・ポスト紙に採用されたスザンナは、仕事もスティーヴンとの恋愛も充実、幸せな日々を送っていた。スザンナの両親は離婚していたが、それぞれのパートナーと共にスザンナの誕生日パーティに集まってくれた。そのとき初めて目眩をおこし、体の変調にきづく。そして単独インタビューできることになった大切な日、全く取材を忘れていたスザンナは大失敗をしてしまう。幻聴や幻覚に悩まされ仕事もままならなくなったスザンナは病院で精密検査を受けるが、原因も病名も特定できなかった。医師は次第に悪化し、壊れていくかに見えたスザンナを精神病院へ転院するようにと言う。しかし、両親と恋人のスティーヴンはあきらめずに彼女を見守る。

原作は原因不明の難病に冒された女性記者スザンナ・キャラハンの闘病記「脳に棲む魔物」。先に書いてしまいますが、“抗NMDA受容体自己免疫性脳炎”という病名で、10年ほど前にわかった(概念が確立)したものだそうです。それまでに原因も治療法も不明なまま、悪魔憑きとか狐憑きとか言われていたものも含まれるのかもしれません。映画『エクソシスト』のモデルとなった少年の映像にこの病気の特徴が見られるそうです。映画原題の“Brain on Fire”は「燃える脳」でいいんでしょうか。想像するだけでも辛く凄まじい感じがします。
自分の大切な人がある日突然豹変してしまったら、家族や恋人の嘆きや悲しみはいかばかりでしょう。本人にもわからず、悪化すれば訴えたくとも身体が動かず、声も出せないのです。幸いスザンナ・キャラハンご本人は回復して闘病記を書き、この病気のことをもっと知ってもらうために活動中。本作にもプロデューサーとして参加、役作りにも全面協力しています。同じ16日に公開されるやはり実話をもとにした日本映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(瀬々敬久監督/佐藤猛、土屋太鳳主演)も同じ病気だそうなので、両方見比べるのも良いかも。(白)


2017年/カナダ・アイルランド合作/カラー/シネスコ/89分
配給:KADOKAWA
(C)2016 ON FIRE PRODUCTIONS INC.
http://kanojo-mezame.jp/
★2017年12月16日(土)より角川シネマ有楽町ほか全国公開
posted by shiraishi at 16:55| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月01日

アンダー・ハー・マウス(原題:Below Her Mouth)

under.jpg

監督:エイプリル・マレン
脚本:ステファニー・ファブリツィ
撮影:マヤ・バンコヴィッチ
音楽:ノイア
出演:エリカ・リンダー(ダラス)、ナタリー・クリル(ジャスミン)、セバスチャン・ピゴット(ライル)

ダラスは大工として男性に混じって働き、仕事を終えると毎晩好みに合う相手を探して一夜を共に過ごしている。同じ相手と長く続かないのだ。ジャスミンはファッション誌の編集者として成功し、婚約者のカイルと結婚を間近に控えて幸せに暮らしていた。カイルが出張で不在のある晩、ダラスとバーで出会い、女性に惹かれる自分に戸惑う。ダラスもこれまでの相手と違ってジャスミンへの気持ちが急速につのっていく。

エリカ・リンダ―はスウェーデン出身のユニセックスのトップモデル。ダラス役を探していたマレン監督は、レズビアンで演技のできる女性を探し続け、Googleで検索してエリカの画像に釘付けになったそうです。スウェーデン人の彼女が「英語ができますように」と祈るような気持ちだったとか。セクシーで自信家のエリカはダラスにぴったり。婚約者がいながらダラスに心惹かれていくジャスミンを演じるのはカナダの女優ナタリー・クリル。揺れる気持ちを繊細に表現しました。
マレン監督をはじめ、この作品のスタッフは全て女性です。「女性の視点から語る」ことを重視して、これまでにないリアルなラブストーリーになったとマレン監督。愛は自由でどんな形でも愛は愛、自分の心に正直に生きる彼女たちの姿は心にひびくはず。レインボーリール映画祭のゲストとして来日したマレン監督のインタビューはこちら。(白)


2016年/カナダ/カラー/シネスコ/92分
配給:シンカ
c 2016, Serendipity Point Films Inc.
http://www.underhermouth.jp/
★2017年10月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他、全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 20:01| Comment(1) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月05日

たかが世界の終わり  原題:Juste la fin du monde

takaga sekai.jpg

監督・脚本:グザヴィエ・ドラン (『Mommy マミー』『わたしはロランス』)
原作:ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ

若手人気劇作家のルイ(ギャスパー・ウリエル)は、12年ぶりに実家に向かっていた。重い腰をあげたのは、家族に「もうすぐ死ぬ」と伝えるためだ。
母マルティーヌ(ナタリー・バイ)は、息子の好きな料理を食卓に並べている。妹シュザンヌ(レア・セドゥ)は、小さい頃に別れた兄の記憶はないが、お洒落をして待ち構えている。一方、兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)は、久しぶりに会う弟に素っ気ない。兄の妻カトリーヌ(マリオン・コティヤール)とは初対面。ぎこちない雰囲気の中で、カトリーヌは気をつかって、話題を探してルイに話しかける。
デザートを食べ終わったら、皆に話そうと思っていたルイだが、タイミングを逸してしまう・・・

12年も帰郷してなかったルイ。どこかぎくしゃくした家族の会話。過去に何があったのか?
一番印象に残ったのは、話し下手なのに、一生懸命ルイに話しかけようとするカトリーヌを演じたマリオン・コティヤール。映画ごとに違った顔を見せてくれて、驚かされる。
プレス資料に、グザヴィエ・ドランが本作を撮ろうと思ったのは、カンヌ国際映画祭でマリオン・コティヤールに出会ったのがきっかけだったとあった。鬼才ドランが引き出したマリオン・コティヤールの違った魅力。
それにしても、なんとももどかしい家族の風景! (咲)



640.jpg

(C)Shayne Laverdiere, Sons of Manual


第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品、若き天才ドラン監督の最新作。映画のタイトルどおり、愛が終わることに比べたら、たかが世界の終わりなんて… 共感することこの上ない。ましてや家族なんだし… 夫婦なら離婚できるけど家族はそうそう別れられない。私も昔、実兄と喧嘩した時に「兄弟は他人のはじまり」と言われ大変ショックを受けたことを思い出し、つくづく血が繋がっている家族より赤の他人とのほうが分かり合えるなんて、と複雑な気持ちを抱いたことがあり、それは今でもトラウマになっている。これって世界共通のフラグだったのか…。 (千)





2016年/カナダ・フランス/99分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル
配給:ギャガ
提供:ピクチャーズデプト、ギャガ、ポニーキャニオン、WOWOW、鈍牛倶楽部
後援:カナダ大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
公式サイト:http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/
★2017年2月11日(土)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA 、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次ロードショー



posted by sakiko at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月31日

すべての政府は嘘をつく  原題:ALL GOVERNMENTS LIE - Truth, Deception, and the Spirit of I.F. Stone

subeteno seifu.jpg

オリバー・ストーン製作総指揮
監督:フレッド・ピーボディ
出演:ノーム・チョムスキー(マサチューセッツ工科大学名誉教授)、マイケル・ムーア(映画監督)、エイミー・グッドマン(報道番組『デモクラシー・ナウ!』創設者)、カール・バーンスタイン(元『ワシントン・ポスト』記者)、グレン・グリーンウォルド(元『ザ・ガーディアン』記者/ニュースサイト『ジ・インターセプト』創立者)、ほか

◇2016年トロント国際映画祭正式招待
◇2016年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭正式招待

公益よりも私益に走り、権力の欺瞞を追及しない大手メディア。それに抗い、鋭い調査報道で真実を伝えるフリー・ジャーナリストたちが今、世界を変えようとしている。彼らに多大な影響を与えたのが、1940〜80年代に活躍した米国人ジャーナリストのI. F.ストーンだった。I. F.ストーンは「すべての政府は嘘をつく」という信念のもと、組織に属さず、地道な調査によってベトナム戦争をめぐる嘘などを次々と暴いていった。本作はそんな彼の報道姿勢を受け継いだ、現代の独立系ジャーナリストたちの闘いを追ったドキュメンタリーである。

【クロスメディアによる一斉公開スケジュール】
◆2/1(水)・2(木)NHK BS1 「BS世界のドキュメンタリー」(23:00〜)にて放映
http://www6.nhk.or.jp/wdoc/

◆2/3(金)アップリンク・クラウドにて配信スタート
予約受付中
視聴価格:1,200円/1年間(10%OFFの予約割引あり。1,200円→1,080円)
予約割引プロモーションコード:ALLGOVSLIE10 (2/3(金)13:59まで有効)
http://www.uplink.co.jp/cloud/

◆2/4(土)、2/15(水)、2/24(金)アップリンク渋谷にて劇場プレミア上映
3/18(土)より本上映スタート
http://www.uplink.co.jp/movie/2017/47397

【公開記念シンポジウム】
[日 時] 2月4日(土) 開場18:15/上映18:30〜20:05/シンポジウム20:10〜22:00
[会 場] アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル)
[ゲスト] 岩上安身(IWJ代表/ジャーナリスト)、津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)、竹下隆一郎(ハフィントンポスト日本版編集長)
[司 会] 浅井隆(アップリンク 代表)

★シンポジウムのみ2月4日20:10からIWJにてライブストリーミング中継されます。ご視聴はこちらから。
<YouTube>
https://www.youtube.com/user/IWJMovie/videos?shelf_id=4&view=2&sort=dd&live_view=501
<CAS>
http://twitcasting.tv/iwakamiyasumi

2016年/92分/カナダ/英語/5.1ch/日本語吹替
配給・宣伝:アップリンク
c 2016 All Governments Lie Documentary Productions INC.
公式サイト:www.uplink.co.jp/allgovernmentslie
posted by sakiko at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする