2017年10月15日

鉱 ARAGANE

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監督・撮影・編集:小田香
監修:タル・ベーラ監督(『ニーチェの馬』)
プロデューサー:北川晋司/エミーナ・ガーニッチ

ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ近郊のブレザ炭鉱の今を追ったドキュメンタリー。ヨーロッパ有数の埋蔵量を誇り、第二次世界大戦、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦を乗り越え、100年にわたり操業を続けている。

閑散とした建物。地中深く降りて行くエレベーター。
そこは闇の世界。
坑夫たちはヘッドライトのわずかな光を頼りに黙々と仕事をこなしている・・・

映画の中では、淡々と炭坑で働く人たちを映して、余計な説明は一切ない。
仕事を終えて、暗い闇の中の世界を抜け出し、シャワーを浴び談笑する姿からは、一日を無事終えた歓びが伝わってくるよう。
最後に映し出される一面の銀世界。地中の闇との対比が際立つ。

監督の小田香さんは、『ニーチェの馬』を最後に引退したタル・ベーラ監督が後進の育成のために設立した映画学校「film.factory」で3年間学んだ日本人。
『ニーチェの馬』が多くを語らず、圧倒的な映像美で人が生きて行くことの凄まじさを語っていたように、『鉱 ARAGANE』も闇の世界で働く人たちの思いが、モノクロの美しい映像から静かに伝わってくる作品。(咲)


*山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 アジア千波万波部門特別賞

2015年/ボスニア・ヘルツェゴビナ、日本/68分/DCP
配給:スリーピン
提供:film.factory/FieldRAIN
★2017年10月21日(土)より 新宿 K’s cinemaにてロードショー



posted by sakiko at 13:25| Comment(0) | ボスニア・ヘルツェゴヴィナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月09日

鉄くず拾いの物語   (原題:Epizoda u zivotu beraca zeljeza  英題:An Episode in the Life of an Iron Picker)

監督:ダニス・タノヴィッチ(『ノー・マンズ・ランド』)

出演:セナダ・アリマノヴィッチ、ナジフ・ムジチ

 

ボスニア・ヘルツェゴヴィナに住むロマのナジフと妻セナダ。二人の娘に恵まれ、貧しいながらも幸せな日々を送っていた。ある日、3人目を身籠っているセナダが腹痛に見舞われる。ナジフは車を借りてセナダを病院に連れていくが、5ヶ月の胎児がお腹の中で既に亡くなっていて、直ぐに手術しないと命に係わると診断される。鉄くずを拾って細々生計を立てているナジフは保険証もなく、手術代980マルク(約500ユーロ)はとても払えない額だ。分割払いでなんとか手術してくれないかと懇願するも、拒否されてしまう。ナジフは妻の命を救うことができるのだろうか・・・

 

家族を守るために、必死になって駆けずり回るナジフの姿に、なんとかしてあげて〜と心の中で叫んでいました。東京フィルメックスで上映された折に、実話に基づく話とは知っていたのですが、演じたのがまさにナジフさんたち一家そのものと後から知ってびっくり。手術を拒否した医師以外は、皆、実在の人たちが当時を再現して撮影に応じたそうです。なによりナジフさんの粗野だけど暖かい人柄に惹かれます。ベルリン国際映画祭で、みごと銀熊賞・主演男優賞を受賞。ナジフさんは地元のヒーローとなり、定職にも就いたそうです。奥さんのセナダさんも幼い二人の少女たちも、カメラを意識しない自然な演技。というか、普段の姿をそのまま見せています。
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東京フィルメックスの上映後のQ&Aで、ダニス・タノヴィッチ監督は、「人間誰しも役者。例えばお母さんと恋人では接し方が違いますよね。人は常に演技してるといえます」と語りました。また、各国で差別を受けているロマの人たちですが、ユーゴスラビアから独立した新生ボスニア・ヘルツェゴヴィナでも、ロマの90%以上が正式雇用されず、その日暮らしの生活を送っているそうです。生きていくことは大変! それでも、ナジフさんたちの表情が柔らかいのは、家族の絆が強いからでしょうか。(咲)

 

2013年/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ=フランス=スロベニア/74分/ビスタサイズ

配給:ビターズ・エンド


2014111日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次 ロードショー!

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tetsukuzu/