2018年09月09日

モアナ 南海の歓喜    原題:MOANA with Sound

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監督:ロバート・フラハティ
共同監督:フランシス・フラハティ、リチャード・リーコック

100年前のモノクロ無声映画が、音と色で生き生きと蘇った!

南太平洋サモアの自然豊かな島で、のどかに暮らすペンガー家。
長男モアナと次男ペアは、常食のタロイモ採りや、野獣の生け捕りをして日々暮らしている。珊瑚礁の岸辺では魚や貝や海老もとれる。母親は、息子たちのとってきた食材で食事を作ったり、桑の木の皮を剥いで布を作ったりして、家族の帰りを待っている。
長男モアナと婚約者ファアンガセとの結婚式の日が近づく。モアナは痛みに耐えながら入れ墨を施され、大人となる。ほら貝の音を皮切りに、太鼓が打ち鳴らされ、村の人々総出で歌と踊りで二人の結婚を祝う・・・

1922年に製作した『極北のナヌーク』によって、ドキュメンタリー映画の始祖と呼ばれるロバート・フラハティ監督。第二作として1926年に公開された『The Love Life of a South Seas Siren(南海の美女の愛の生活』は、1923年に家族と共に訪れたサモアの人々の自然豊かな暮らしを映像に収めたもの。およそ半世紀後の1975年に娘のモニカが現地で民謡や会話を録音。父の撮った映像に音を重ね、『モアナ』(サウンド版)として1980年に完成させる。そして、本作は、それをデジタル復元作業を経て、100年前の映像に色や音を加えて、より美しく蘇らせたものである。

テレビもインターネットもなく、自分たち以外の社会の姿を知ることもなく、祖先から受け継いだ風習や儀式を大切に守ってきた時代が長く続いてきたことに思いが至った。
この100年のめざましい科学技術の発展が、このようにかつての映像に音や色までつけてしまったのは、ちょっと皮肉でもあるけれど、独自の伝統を知る貴重な資料。失われてしまうかもしれない風習や儀式を映像に収めたいというロバート・フラハティ監督の思いが、ひしひしと伝わってくる。(咲)

『モアナ』の上映が始まったとたん、『あまねき旋律』(2017年インド、2018年10月6日公開予定)を思い出した。山のタロイモ畑での刈り取り作業の時も、海での漁の時も、島の人たちは作業に合わせて歌を歌っていた。そして、約100年後の映画『あまねき旋律』でも歌をうたいながら農作業をしている光景がたくさん出くる。今はほとんどの国でほとんど歌われなくなってきている労働歌だけど、原点ともいえる映画の中でもそういう光景が残されていたとは。嬉しかった(暁)


★『モアナ 南海の歓喜』公開記念前夜祭
『アラン島の小舟』上映とトーク

日時:2018年9月14日(金)19時より(開場18時)
場所:Loft9 Shibuya(渋谷・ユーロスペースのあるキノハウス1階)

【上映作品】
『アラン島の小舟』(2011/アイルランド=イギリス/監督マック・ダラ・オー・クライン/84分) 
2013年山形国際ドキュメンタリー映画祭クロージング上映作品

トーク 20:30〜
【ゲスト】
 阿武野勝彦(東海テレビプロデューサー)
 伊勢真一(映画監督)
 北條誠人(ユーロスペース支配人)
【進行役】
 渡辺勝之(Japan Docs)

予約¥1200 / 当日¥1500
※学生¥1000
※別途ドリンク代(¥500から)が必要です。

予約ページ→ロフト9渋谷


1926、1980、2014年/アメリカ/98分/スタンダード/サモワ語/モノクロ/モノラル
配給:グループ現代
協賛:福岡アジア文化センター/後援:日本オセアニア学会/宣伝:スリーピン
公式サイト:https://moana-sound.com/
★2018年9月15日(土)岩波ホールにて公開






posted by sakiko at 21:23| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

プーと大人になった僕(原題:Christopher Robin)

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監督:マーク・フォースター
キャラクター原案:A.A.ミルン、E.H.シェパード
出演:ユアン・マクレガー(クリストファー・ロビン)、ヘイリー・アトウェル(イヴリン)、ジム・カミングス(プー声/ティガー声)

クリトファー・ロビンが寄宿学校に行くことになった。それまで毎日遊んでいた“100エーカーの森”に住んでいる親友のプーや仲間たちと別れなくてはならない。いつまでも忘れないよ、戻ってくるよと約束したのだけれど。クリストファー・ロビンは大人になり、忙しい毎日を送っている。無理難題を押し付けられて、奥さんと娘と週末に過ごす約束も破ってばかり。一人公園のベンチでぼんやりしていると、なんと背中合わせにプーが座っていた!「森に誰もいなくなってしまった、一緒に探して」という。プーと森に入って懐かしい仲間たちに再会したが、すぐ仕事に戻らなくてはいけない。慌てたクリストファー・ロビンは大事な書類入りの鞄を置き忘れてしまう。プーは仲間と一緒にロンドンへ忘れ物を届けにいく。

ぬいぐるみのプーさんの物語はミルンが自分の息子のクリストファー・ロビンのために書いたお話です。出版された後ディズニーがアニメーションにして大ヒット。世界中の子どもたちの友だちになりました。私は絵本の挿絵が大好きです。
本作は仕事と家族の間にはさまれて、疲労困憊している大人のクリストファー・ロビンが主人公です。昔と少しも変わらないプーさんは、彼に何がほんとうに大事なのか、気づかせてくれます。生活のために頑張って無理してきたけど、生活って何? これが一番したかったこと?と自分に問い直すのはなんだか辛い。目をつむって流されていても一日は一日。ネジ巻かないで何にもしない一日を作ってみたら、肩の凝りも目の疲れも頭の痛いのも少しは良くなるかも。

公式サイトにプーさんのひとことがアップされています。
「何もしないって、最高の何かにつながるんだ」
「何もしないって無理っていうけど、僕は毎日何もしない、をやってるよ」
プーさんと仲間のピグレット、ティガー、イーヨー、カンガルーのぬいぐるみとE.H.シェパードが描いたオリジナルの水彩画が、現在ニューヨーク公立図書館にあるそうです。
主演のユアン・マクレガーが先日初来日して、吹替え版で声をあてた堺雅人さんと並んだ画像をHPのニュースで拝見。ちょと見てみたかったなぁ。(白)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/104分
配給:ディズニー
(C)2018 Disney Enterprises, Inc.
https://www.disney.co.jp/movie/pooh-boku.html
★2018年9月14日(金)ロードショー

本人を本名で登場させたばっかりに、クリストファー・ロビンはずーっと大変な思いをしたようです。
そのストーリーが実写版映画化され、日本ではDVD発売されています。
タイトル『グッバイ・クリストファー・ロビン』出演:ドーナル・グリーソン、マーゴット・ロビー
単行本も8月24日より発売。
グッバイ・クリストファー・ロビン:『クマのプーさん』の知られざる真実  アン・スウェイト著/国書刊行会
posted by shiraishi at 17:03| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪(原題:Peggy Guggenheim: Art Addict)

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監督:リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
撮影:ピーター・トリリング
音楽:スティーブン・アーギラ
インタビュー出演:ペギー・グッゲンハイム、ジャクリーン・ボグラッド・ウェルド、ラリー・ガゴシアン、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、マリーナ・アブラモヴィッチ、ロバート・デ・ニーロ、マーセデス・ルール、アーネ・グリムシャー、ジョン・リチャードソン、ニッキー・ハスラムほか

ペギー・グッゲンハイム(1898〜1979)は、アメリカで当代随一の影響力を持った現代美術のコレクターであり、芸術家の支援者であり、紹介者であった。大富豪の祖父を持って、父はタイタニック号の事故で死亡。巨額の財産を継いだペギーは、ヨーロッパで生涯の大半を過ごした。パリに住んでロンドンとニューヨークにギャラリーを、ヴェネツィアに邸宅を構える。彼女が収集し続けたアート作品は「ペギー・グッゲンハイム・コレクション」として開放。近代美術を集めた重要な美術館となった。彼女の華やかで奔放な半生を、多くの人間が語っている。

登場するアーティストも綺羅星のごとし。ペギーが見い出し、支援したことで後に名声を得た人々が多々。サミュエル・ベケット、コンスタンティン・ブランクーシ、アレクサンダー・カルダー、パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、マルセル・デュシャン、マックス・エルンスト、アルベルト・ジャコメッティ、ピエト・モンドリアン、ジャクソン・ポロック、フレデリック・キースラーほか。
現代アートのどこがいいのか私にはさっぱりわかりませんが、ペギーは慧眼であったのでしょう。彼女の資産は35億とか(ブルゾンちえみさんを思い出しますね)、それを入れるだけの器を持たない庶民には到底使い道も思いつかない額です。ないところへただ寄付したり、物資を送ったりするのでなく、才能ある人を支援するというのはいいなぁ。あなただったら何をしますか? 想像するのにお金はかかりません。さあどうぞ。(白)


2015年/アメリカ/カラー/DCP/96分
配給:SDP
(C)Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada
http://peggy.love/
★2018年9月8日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
posted by shiraishi at 16:32| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ブレス しあわせの呼吸(原題:Breathe)

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監督:アンディ・サーキス
脚本:ウィリアム・ニコルソン
製作:ジョナサン・カヴェンディッシュ
撮影:ロバート・リチャードソン
音楽:ニティン・ソーニー
出演:アンドリュー・ガーフィールド(ロビン・カヴェンディッシュ)、クレア・フォイ(ダイアナ)、トム・ホランダーブロッグス/デイビッド・ブラッカー)、スティーブン・マンガンクレメント・エイトケン博士)、ディーン=チャールズ・チャップマン(ジョナサン22歳)、ハリー・マーカス(ジョナサン10代)

ロビンとダイアナは互いを「運命の人」と感じ、たちまち恋に落ちる。幸せを満喫していたある日、出張先のナイロビで突然ロビンが倒れてしまった。病名はポリオ。首から下は動かせず、呼吸器がなければ生きていけなくなってしまった。ベッドから天井を見るだけの毎日を嘆くロビンを、気丈なダイアナは励まし続ける。子どもにも恵まれ、父としての生き様を息子に見せたいロビン。周囲の人々とロビンは自宅で使える呼吸器、車椅子と一緒に移動もできる呼吸器と、次々と必要な機器を考案していく。
28歳で病魔に襲われ、余命数ヶ月と宣告されたロビンはそれから36年、人工呼吸器と家族と大切な人々と共に幸せに生き続ける。

『ブリジット・ジョーンズの日記』などのヒットを生んだ名プロデューサー、ジョナサン・カヴェンディッシュの両親の実話がもとだそうです。実話!ポリオは小児麻痺と呼ばれ、日本でもかつて子どもたちが多数罹患したことがあったそうですが、ワクチンの投与で激減。今や新しい患者は出ていないようです。この映画の時代、アフリカあたりではまだウィルスが生きていて、人から人へと感染していたようです。多くは風邪の様な症状のみでおさまるのが、まれに麻痺が起こるのだとか。ロビンは中でも重症です。
アンディ・サーキス監督の名にすぐ気づいた方は映画好きですよね。『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(2001〜2003)のゴラム役をモーション・キャプチャーで演じて話題になりました。その後『キング・コング』のコング、新『猿の惑星』のシーザーも。初メガホンを取ったのは、やはりジョナサン・カヴェンディッシュが製作にあたった『モーグリ(仮題)』ですが、こちらの『ブレス』が公開第1号です。これまでに自分が出演した映画とは違う趣ですが、彼のお父さんは医師、お母さんは福祉関係の仕事。この全身麻痺のロビンが、それまで誰もしなかった戦いに挑んでゆくのに、おおいに心揺さぶられたのだとか。暖かくて勇気と冒険に満ちた物語です。命がけの日々を、互いの愛とユーモアをもって生き抜いた両親。息子のプロデューサーさんはおおいに自慢していいですよね。(白)


2017年/イギリス/カラー/シネスコ/118分
配給:KADOKAWA
(C)2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute. All Rights Reserved
http://breath-movie.jp/
★2018年9月7日(金)より角川シネマ有楽町ほかロードショー
posted by shiraishi at 16:19| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

500ページの夢の束(原題:Please Stand By)

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監督:ベン・リューイン
原作・脚本:マイケル・ゴラムコ
撮影:ジェフリー・シンプソン
音楽:ヘイター・ペレイラ
出演:ダコタ・ファニング(ウェンディ)、トニ・コレット(スコッティ)、アリス・イブ(オードリー)

自閉症のため施設で暮らすウェンディにはすでに両親はなく、肉親は姉のオードリーだけ。わけあって一緒には暮らせずにいる。ウェンディは大のトレッキアン(スタートレックマニア)で、その知識は膨大だ。「スター・トレック」の脚本コンテストに応募するのにオリジナルストーリーを500ページ書き上げた。すぐに郵送したかったが、休日で郵便局は開いていない。締め切りにまにあうには自分でハリウッドのスタジオまで届けるしかない、と初めて一人で遠出することにした。
ケースワーカーのスコッティに見つからないよう、こっそりと施設を抜け出すウェンディ。うまくいったはずが、愛犬のピートが後を追いかけてくる。しかたがないので、バッグに入れて連れていく。他人とコミュニケーションをとるのが苦手なウェンディには、チケット1枚買うのもおおごと。果たして映画会社にたどり着けるのか?原稿は間に合うのか?

『セッションズ』(2013年)のベン・リューイン監督作。このごろは妹のエル・ファニングをよく観ますが、天才子役と言われたダコタ・ファニングが自閉症のウェンディ役。細かくこだわるところ、いつも不安なでたまらないところを演じて上手いです。この世界での生き辛さを感じている人には、ウェンディの気持ちが、家族なら姉の気持ちがしみてくるでしょう。そして「スター・トレック」のファンならば、たくさん仕込まれたネタに気づけて、何倍も面白く観られるはず。トレッキアンのお巡りさんすてき!
しかし、一人出かけてしまったウェンディを探す人たちはどんなにか心配だったことか。可愛い子には旅させよ、というけれど、ウェンディには過酷な旅。無事に見つかるまで胸のつぶれる思いだったに違いない。(白)


2017年/アメリカ/カラー/シネスコ/93分
配給:キノフィルムズ
(C)2016 PSB Film LLC
http://500page-yume.com/
★2018年9月7日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 15:24| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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