2018年12月09日
マチルダ 禁断の恋 原題:Mathilde
監督:アレクセイ・ウチーチェリ
出演:ラース・アイディンガー、ミハリナ・オルシャンスカ
ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世と、伝説のプリマドンナ、マチルダとの許されない恋。
1890年代後半のサンクトペテルブルグ。ロシアで約300年続いたロマノフ王朝の次期王位継承者ニコライ2世。ある日、帝国旅団のための競技会の見物に来ていたバレエ団一行の中の一人に、ニコライ2世の目は釘付けとなる。その美しいバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤと瞬く間に恋に落ち、二人は逢瀬を重ねる。だが、ニコライ二世は、王位継承者として、ヴィクトリア女王の孫娘、ヘッセン大公女アリックスとの結婚を受け入れるしかなかった。しかし、マチルダへの思いを断ち切れず、彼女のもとに戻ろうと決意する。マチルダに片思いし、執拗に追いかけているヴォロンツォフ大尉は嫉妬に狂い、ニコライ二世の目の前でマチルダの乗ったボートに火を放つ。マチルダが亡くなったと思い込んだニコライ2世は、王座につくことを受け入れ、戴冠式に臨む。そこに、マチルダが現われる・・・
ロシア最後の皇帝とバレリーナの恋のことを、本作を通じて初めて知りましたが、ロシアでは皆が知っている事実。ロシア革命で、ニコライ2世は銃殺され、殉教者として聖人となったことから、映画製作中に聖人のスキャンダルを描くことに対して抗議の声が女性国会議員からあがったそうです。
サンクトペテルブルグのエカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場、モスクワのクレムリンの中にあるウスペンスキー聖堂で撮影した息を飲む美しい映像に、プーチン大統領も「監督を尊敬している」と絶賛。その発言に、映画に対する抗議の声は止むどころか強まったのは、ロシアにも民主主義があると実感したと監督。
映画の中で、マチルダがニコライ二世に対して、「私を捨ててアリックスと結婚したらあなたは破滅するわよ」と語る場面があります。まさに、アリックスと結婚し、王位を受け入れたために、革命でニコライ二世は銃殺されることになったので、マチルダを選んでいれば別の人生があったことでしょう。
冒頭、王室専用列車が脱線し、父アレクサンドル2世が瀕死の重傷を負います。迫力ある場面に度肝を抜かれますが、思えば、この大事故が既にニコライ2世の運命を暗示しているかのようです。贅を尽くした宮殿や聖堂での場面が、さらにロシア帝国の最期を際立たせています。自分の気持ちに従って恋にまい進したニコライ二世の人間的な姿を垣間見て、王位継承者という立場にあった不幸を思わずにいられませんでした。(咲)
荘厳な雰囲気の中、戴冠式が執り行われる。ヒロインが愛する人を一目見ようと警備の目を潜り抜けて大聖堂に入り込んだ。気がついた側近がそれを追う。冒頭から緊迫した空気が満ち溢れ、その恋がどれだけ危険なものなのか、強烈に伝わってくる。
2人を引き裂くのは国家の圧力だけではない。愛は時折、狂気を生み出す。叶わないほど燃え上がる愛の炎。さまざまな愛がサスペンスフルに紡がれる。
監督はもし、この恋が成就したらロシア革命は起こらなかったかもしれないという。そんな「もしも」を言うのなら、別の「もしも」も頭に浮かぶ。この恋が生まれる前に、ニコライ2世は来日し、大津で警官に斬りつけられた。いわゆる「大津事件」である。ここでロシアが怒って、日露戦争が起こっていたら、マチルダとの恋どころでなかったはず。そして、日本はロシアに勝てなかっただろう。そうしたら、ロシア革命は起きずに、今頃、私たちはロシア人と呼ばれていたかもしれない、などとあり得ないことをふと考えてしまった。(堀)
2017年/ロシア/カラー/ロシア語/108分
配給: シンカ
後援: ロシア文化フェスティバル組織委員会、駐日ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁、ロ日協会、ロシアン・アーツ
公式サイト:http://www.synca.jp/mathilde/
★2018年12月8日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー!
2018年11月09日
アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語 原題:Anna Karenina. Istoriya Vronskogo 英題:Anna Karenina. Vronsky’s Story
監督:カレン・シャフナザーロフ
原作:レフ・トルストイ + ヴィケーンチイ・ヴェレサーエフ
出演:エリザヴェータ・ボヤルスカヤ、マクシム・マトヴェーエフ、ヴィタリー・キシュチェンコ、キリール・グレベンシチコフ、マカール・ミハルキン
1904年、日露戦争が始まり、軍医として戦地満州に赴いたセルゲイ・カレーニン。ある日、アレクセイ・ヴロンスキーという名の大佐が運び込まれてくる。ほかでもない、この男のために母アンナは、自分と父を捨てたあげく、鉄道に飛び込み命を絶ったのだ。かつては殺したいほど憎んでいた男だが、セルゲイも年齢を重ね、母が自殺に至った真実を知りたいと尋ねる。ヴロンスキーは、「人は記憶を捏造する。愛の真実は無数にある」と、自分にとってのアンナ・カレーニナとの愛の真実を語り始める・・・
ヴロンスキーから語られるのは、1872年の冬、モスクワ駅で初めてアンナを知った時のことから。政府高官カレーニンの妻と知りながら、恋に落ちてしまったヴロンスキーの側から描かれるアンナ・カレーニナ。
あまりにも有名なトルストイの「アンナ・カレーニナ」ですが、家にある世界文学全集で読んだのが中学生の時のこと。もちろん、すっかり忘れています。今一度、読んでみたくなりました。
なお、この映画は、トルストイの原作に、ヴィケーンチイ・ヴェレサーエフの日露戦争の体験記を取り入れて、アンナ・カレーニナの亡くなった後がどうだったのかも描いたもの。ロシアらしい重厚な映画で、小説「アンナ・カレーニナ」を知らなくても、存分に愛の物語を味わえます。(咲)
2017年/ロシア/ロシア語/カラー/1.85:1/5.1/138分
配給:パンドラ
後援けロシア文化フェスティバル
公式サイト:http://anna2017.com/
★2018年11月10日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
2018年07月05日
ボリショイ・バレエ 2人のスワン(原題:Bolshoy)
監督:バレーリー・トドロフスキー
脚本:アナスタシア・パルチコバ
音楽:パーベル・カルマノフ
出演:マルガリータ・シモノヴァ(ユリア・オルシャンスカヤ)、アンナ・イサエヴァ(カリーナ・クルニコヴァ)、アリーサ・フレインドリフ(ガリーナ・ミハローヴナ)、アレクサンドル・ドモガロフ(ウラジミール・ポトツキ)、ニコラ・ル・リッシュ(アントワーヌ・デュバル)
ロシアの名門、ボリショイのバレエ・アカデミーに入学したユリアとカリーナ。カリーナは富裕層の家に生まれて、何不自由なく育った。ユリアは貧しい炭鉱町の出身。酔いどれの元バレエダンサーに才能をかわれて、ここまでやってきたのだ。カリーナは講師の誰もが認める完璧な踊りと優雅さを身につけていたが、ユリアを認めたのは伝説のプリマだったガリーナただ1人。孤立無援のユリアにあれこれと援助する。ユリアとカリーナは過酷なレッスンに耐えてプリマの座を目指していく。
私たちが見るのは舞台上の優雅なプログラムですが、そこに立つまでの足跡が詳しく描かれています。子どものころから厳しい練習を積み、多くの競争相手の中から抜きん出ないと舞台に上がることができません。勝ち上がらねばならない点ではスポーツと変わりません。よほどの思いと才能が必要です。その他に財力も必須。この作品では全く違う環境で育った二人の少女が、バレエ学校という同じラインに立ったところから、熾烈な競争を重ね、プリマになるまでが描かれます。ユリア役のマルガリータ・シモノヴァは、30歳の現在もポーランド国立バレエ団在籍中の現役バレエ・ダンサー。カリーナ役のアンナ・イサエヴァは2013年までロシア・ナショナル・バレエ劇場で古典的作品の全てに出演していましたが、現在は講師として活動中。
2人が憧れるエトワール、アントワーヌ・デュバル役はニコラ・ル・リッシュ。友人が大ファンでパリ・オペラ座の公演に行くのを楽しみに働いていたのを思い出します。『エトワール』(2000)で20代の彼の姿が観られます。
バレエというと思い出すのが昨年の7月に公開された『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』です。作品中で紹介される「Take Me To Church」を踊る彼を奏楽堂の舞台で見たのは宝物のような思い出です。(白)
2017年/ロシア/カラー/シネスコ/132分
配給:アットエンタテインメント
(C)Valery Todorovsky Production Company
http://bolshoi-ballet-movie.com/
★2018年7月7日(土)ロードショー
2018年04月01日
ラブレス(原題:Nelyubov)
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
脚本:オレグ・ネギン、アンドレイ・ズビャギンツェフ
撮影:ミハイル・クリチマン
音楽:エフゲニー・ガルペリン
出演:マリヤーナ・スピヴァク(ジェーニャ)、アレクセイ・ロズィン(ボリス)、マトヴェイ・ノヴィコフ(アレクセイ)、マリーナ・バシリエバ(マーシャ)、アンドリス・ケイシス(アントン)
一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャは離婚協議中の夫婦。12歳の息子アレクセイがいるが、2人には新しいパートナーがすでにいて早く新生活を始めたい。その前にどちらが息子を引き取るかでもめている。2人の言い争いを毎日聞いているアレクセイは、自分が両親には必要のない子どもだとわかってしまう。いつもの時間に学校へと向かったアレクセイは、そのまま戻らなかった。
おざなりな食事を出して、息子の顔を見もせず、いつもいつも手元の携帯に眼を落としている母親。父親の若い恋人は妊娠していて、父親はそちらに入りびたり、めったに家に帰りません。目下の心配は厳格な原理主義者の上司のこと。離婚がばれるとクビになるので戦々恐々としています。2人とも自分の都合ばかりで、目の前のアレクセイの幸せなどツメの先ほども考えていません。アレクセイが可哀想で、行方不明になる前から泣けてしまいました。
失踪した子どもを捜す市民ボランティアチームがいるということは、それだけ多いということなのでしょうか? 寒々しい風景にアレクセイを呼ぶ声が響いても、応える声は期待できずさらに冷え冷えとします。
アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の作品はこれまでも『父、帰る』(2004)『ヴェラの祈り』『エレナの惑い』(2014)『裁かれるは善人のみ』(20015)を観てきました。心にぐっさりと刺さり、観終わって身体が重くなるのですが、観ずにいられません。どの作品も世界的に高く評価されています。この作品は昨年の第70回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しました。
日本の行方不明者は年間8万人という数字(平成21年度)をネットで見つけましたが、98%が1年以内に見つかっているようです。見つからない人はどこに?(白)
行方不明になった息子を探す過程で、ジェ―ニャが身籠ったとき母親から中絶するよう言われたけれど、その母親から離れたいために妊娠を口実に結婚したことが明かされます。愛のない結婚。そして、我が子にも愛をそそがず、自分の幸せだけを求める身勝手さ。
ウクライナ侵攻のニュ―スが流れる中、高級マンションのバルコニーで自転車を漕ぐジェ―ニャ。戦争や災害でつらい思いをしている人たちがいても、自分に関係がなければ無関心な社会の風潮。いえ、自分さえよければいいという私自身の姿を見せつけられた思いがしました。(咲)
2017年/ロシア、フランス、ドイツ、ベルギー/カラー/シネスコ/127分
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES
(c)2017 NON-STOP PRODUCTIONS - WHY NOT PRODUCTIONS
http://loveless-movie.jp/
★2018年4月7日(土)新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー
2017年07月30日
アトラクション 制圧(原題:Attraction)
監督:フョードル・ボンダルチュク
出演:イリーナ・ストラシェンバウム(ユリア)、アレクサンドル・ペトロフ(チョーマ)、リナル・ムハメトス(ヘイコン)
流星群が見えるという日。北欧の上空に突如未確認飛行物体・宇宙船が出現した。ロシアの首都モスクワに近づき、重ねての警告にも応答はない。領空を犯し接近してくるそれを迎撃すると、高層の建物をなぎ倒し墜落する。その間市民たちは逃げるところもなく、なんの防御もできなかった。
軍の大佐の娘ユリアは、厳しい父の目を盗んでボーイフレンドのチョーマとベッドの中だった。倒壊した建物に宙づりになるが九死に一生を得る。ロシア政府は戒厳令を発布し、多数の被害を出した宇宙船を取り囲む。異星人はあちこちに散り、母船に帰還しようとしていた。
2005年の戦争映画『スターリングラード』のフョードル・ボンダルチュク監督の新作SF作品。「カリコレ2017/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017」(17年7月15日〜8月18日)上映作品のひとつ。トップレベルの視覚効果スタッフ、アーティストを集めて完成した大作です。CGとわかっていても「うわあぁ」です。
これを観ると某国のミサイル攻撃に備えて屋内待機とか言ってるのは「無理×無駄」としか思えません。何かあったとき民衆にはなんの選択肢もありません。遠隔地からボタン一つでピンポイント爆撃ができるという映像はいやになるほど見て来ました。各大国トップの皆様には知恵を絞って地球人同士の対話につとめていただきたいものです。地球はひとつしかないんですから。
さて宇宙人の話でした。ユリアは宇宙人に遭遇し、会話をすることができました。地球に降り立ったというだけでも、地球人より数段優れた能力と知性があると思うべきですよね。地球人はまだ生物のいる星を見つけていませんし、『メッセージ』(2016)のようなコンタクトもとれません。
粗暴で俺様な彼氏のチョーマよりヘイコンが素敵だったので、ユリアのロマンスが許せます。(白)
2017年/ロシア/カラー/シネスコ/117分
配給:プレシディオ
(C)Art Pictures Studio
http://www.attraction-movie.com/
★2017年8月8日(火)新宿シネマカリテほか全国順次公開