2018年07月29日
ヒトラーを欺いた黄色い星(原題:Die Unsichtbaren)
監督:クラウス・レーフレ
脚本:クラウス・レーフレ、アレハンドラ・ロペス
撮影:イェルク・ヴィトマー
音楽:アレハンドラ・ロペス
出演:マックス・マウフ(ツィオマ・シェーンハウス)、アリス・ドワイヤー(ハンニ・レヴィ)、ルビー・O・フィー(ルート・アルント)、アーロン・アルタラス(オイゲン・フリーデ)
第2次大戦下のベルリン。両親と暮らしていたツィオマ・シェーンハウスは、移送命令を受けたが、咄嗟の機転で収容所行きを免れた。ドイツ兵になりすまし、転々と場所を変えながら身分証の偽造を始める。ユダヤ人を支援する男性と友人に助けられ、この闇仕事を続ける。
ルート・アルントは家族と懇意のゲール夫人宅に匿われる。戦争未亡人を装って友人と外出したルートは帰宅できなくなり、ドイツ国防軍の大佐のメイドとなって働くことになった。大佐はユダヤ人と気づきながらも追求せず、それとなく守ってくれた。
オイゲン・フリーデは、母親がドイツ人と再婚したため、家族の中で1人だけユダヤ人として黄色い星をつけなくてはいけない。1人潜伏するために家を出て、活動家の家に引き取られ、周囲に怪しまれないようヒトラー青少年団の制服を着るはめになった。収容所を脱走した男からナチスのユダヤ人虐殺の実態を聞き、反ナチスのビラ作りを手伝う。
孤児となったハンニ・レヴィは、金髪に染めて別人として暮らす。戦地行きを控えた男性と知り合い、その母親のもとで匿われた。
1943年6月19日、ナチスの宣伝相ゲッペルスはベルリンのユダヤ人を一掃したと正式に宣言。しかし、実際は約7000人のユダヤ人が各地に潜伏し、そのうちの1500人が終戦まで生き延びていました。クラウス・レーフレ監督は生存者の調査を行い、個々に取材し4つのサバイバルストーリーを選び、映画化しました。冷酷なドイツ兵ばかりではなかったこと、相互監視の中、自分が生き延びるために同胞を売ること、戦時中という特別なときだけでなく、起こり得ることでしょう。終戦までの2〜3年を過ごした彼らは、薄氷を踏むような日々であったはず。それぞれのストーリーを本人が語る場面があります。若き日の写真と交互に見ていますとさらに感慨深いです。(白)
2017年/ドイツ/カラー/シネスコ/110分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion (C)Peter Hartwig
http://hittler-kiiroihoshi.com/
★2018年7月28日(土)ロードショー
2018年06月24日
ワンダーランド北朝鮮 原題:Meine Bruder und Schwestern im Norden
監督:チョ・ソンヒョン
韓国出身のチョ・ソンヒョン監督が、韓国籍を放棄してドイツのパスポートで北朝鮮に入国し、エンジニア、兵士、農家、画家、工場労働者など、北朝鮮で暮らす人たちの日常を追ったドキュメンタリー。
上空から眺める北朝鮮の大地。
ここにはどんな人たちが住んでいるのだろう?
北朝鮮の人は角の生えた赤い鬼と聞かされて育った1966年生まれのチョ・スンヒョン監督。
地元の協力者に従っての取材で、何が見られるのか?
韓国出身の私は、どう見られるか?
不安に思いながら北朝鮮に降り立った監督。
まず、白頭山に向かう。
朝鮮民族の生まれた地。金日成の生誕地でもある。
ぞじて、北朝鮮に住む「普通の」人たちに会う。
プール勤務のエンジニアの男性。地熱発電を利用したウォータースライダーもある大規模プール。一日2万人が訪れる。
26歳の軍人。16歳から軍に入り、今は軍幹部として家で暮らせる。婚約したら除隊するという。
公務員画家。工場で働く女性を描いているが、モデルより美しい顔。なにごとも美しく描くのが北朝鮮流?
縫製工場で働く若い女性。独創的な服を作りたいという。それがデザイナーという職種だと知らない。
平壌から80キロ南にある800世帯が暮らす共同農場。堆肥を有効に循環利用したエコな暮らし。
将軍様の写真が飾られた幼稚園では、子どもたちが元気に学ぶ・・・
撮影:宮崎暁美
韓国籍を放棄して『ワンダーランド北朝鮮』を撮った女性監督チョ・スンヒョンさんトークイベント
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460168743.html
常に北朝鮮当局が監視する中での取材。これはプロパガンダだと指摘されることも多々あると来日したチョ・ソンヒョン監督は語っていた。確かに、この映画に出てくる人たちは皆、穏やかな語り口で、それなりに幸せそうだ。「将軍様のお蔭で」という言葉も出てくるので、つい色眼鏡で「洗脳されている」と思ってしまう。脱北者が語る北朝鮮とのギャップに、そう勘ぐってしまうけれど、外から余計な情報が入らない中で、何も疑問に思わず平穏に暮らしている人たちがいるのも事実だと思った。
チョ・ソンヒョン監督が、韓国籍のまま取材したとしたら、その後、韓国に帰国するのに身の危険が伴う恐れがあるので、あえてドイツ籍を取得して取材に臨んだとのこと。もとは同じ民族。お互いが自由に行き来できる時代はいつ来るのだろう。(咲)
ドイツ在住の韓国人監督による北朝鮮の人々の姿をとらえたドキュメンタリー。
経済制裁下にある北朝鮮の人々の暮らしぶりを捕らえている。
「あなたの知らないもう一つの北朝鮮の姿が明らかになる」と宣伝文にあるけど、やはり韓国語を話す同胞に語りかけている人たちの姿は、これまでの北朝鮮の庶民の姿を捉えてきた作品とは一味違うような気がした。
安心感、信頼感があるように感じる。
それでも、日本では、もしかして韓国より北朝鮮の人々を撮った映像が公開されてきているのかもしれないと思った。これまで数々の北朝鮮の庶民の姿を描いた作品を観てきた気がする。
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が核廃絶をアピールしたけど、ほんとに実行するのか世界中の人々が注目する北朝鮮の動向。『ワンダーランド北朝鮮』と、これらの作品を観て、北朝鮮と韓国の関係、朝鮮半島が抱えている問題を考えてみてはいかがでしょう(暁)
*これまで日本で公開されてきた北朝鮮の人たちを描いた作品
『金日成のパレード』(1989)
『ディア・ピョンヤン Dear Pyongyang』(2006)
『愛しきソナ』(2011)
『北朝鮮強制収容所に生まれて』(2012)
『シネマパラダイス★ピョンヤン』(2012)
『北朝鮮・素顔の人々』(2014)
『太陽の下で -真実の北朝鮮-』(2015)
*南北分断、朝鮮戦争などを描いた作品
『JSA』『シュリ』『ブラザーフッド』『シルミド』『高地戦』『その年の冬は暖かかった』『キルソドム』『太白山脈』
◆シアター・イメージフォーラム 初日・2日目の上映後トーク◆
(15分〜20分程度)
6月30日(土)11:00〜上映後トーク
宮西有紀さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)コリア事業担当)
6月30日(土)13:15〜上映後トーク
礒?敦仁さん(慶應義塾大学 准教授(北朝鮮政治)「北朝鮮入門」著者)
7月 1日(日)11:00〜上映後トーク
菱田雄介さん(写真家/最新写真集「border | korea」)
7月 1日(日)13:15〜上映後トーク
高英起さん(北朝鮮情報サイト「デイリーNKジャパン」東京支局長)&うねこさん(先軍女子)
▼プロフィール・詳細はこちら▼
http://unitedpeople.jp/north/archives/15534
2016年/109分/ドイツ・北朝鮮
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://unitedpeople.jp/north/
★2018年6月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
2018年04月08日
女は二度決断する 原題, Aus dem Nichts. 英題:IN THE FADE
監督:ファティ・アキン(『そして、私たちは愛に帰る』『消えた声が、その名を呼ぶ』『50年後のボクたちは』)
出演:ダイアン・クルーガー 、デニス・モシットー、ヨハネス・クリシュ、ヌーマン・エイカー、ウルリッヒ・トゥクール
ドイツ、ハンブルク。カティヤは麻薬売買で収監されていた恋人でトルコ系移民のヌーリの出所を迎えに行く。足を洗い真面目に働くと誓ったヌーリと結婚し、息子ロッコも生まれ、幸せな日々を送っていた。ある日、ヌーリに息子を預けるため事務所に立ち寄ったとき、店の前で新しい自転車に鍵もかけずにとめて立ち去ろうとする女性がいて、カティヤは思わず声をかける。が、気にせず立ち去る若い女。その日、店の前で爆弾が爆発し、ヌーリとロッコが犠牲になる。警察の捜査で、人種差別主義のドイツ人によるテロであることが判明する。容疑者が逮捕され裁判が始まる。カティヤが見かけた女性も一味だ。しかし、裁判では被害者である夫ヌーリが、移民二世であることや前科があることから、なかなか思うように進まない。あげく、証拠不十分で容疑者は無罪放免になってしまう。
真新しい自転車の上に置かれた荷物は爆弾だったと確信するカティヤ。愛する者を奪われ、絶望に暮れる彼女は、思い切った決断をくだす・・・
ファティ・アキン監督は、トルコ移民2世だが、ベルリン、カンヌ、ヴェネチア、世界三大国際映画祭すべてで主要賞受賞した、今やドイツを代表する名匠。
今回は移民ではなく、ドイツ女性をヒロインに据え、しかもそれをハリウッドで活躍するドイツ人女優ダイアン・クルーガーに演じさせている。
アキン監督は、ドイツ警察の戦後最大の失態と言われるネオナチによる連続テロ事件から本作を発想したという。初動捜査の見込み誤りから、10年以上も逮捕が遅れ、その間、犯人は殺人やテロ、強盗を繰り返したのだ。
戦後、多くの移民を受け入れてきたドイツだが、昨今の移民難民排斥の動きはドイツにも押し寄せている。そんな中で、これからも起こりかねないテロ事件。その犠牲になるのは、平穏に暮らしをしていた庶民。幸せを崩され、いつカティヤのような行動に出ることになるかわからない世の中。ファティ・アキン監督の憂いをずっしり感じた一作。(咲)
★第75回ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
★第90回アカデミー賞 外国語映画賞 ショートリスト
★第70回カンヌ国際映画祭 主演女優賞受賞!!
2017年/ドイツ/106分/ビターズ・エンド/DCP
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ketsudan
★2018年4月14日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
2018年01月14日
5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生(原題:Mein Blind Date mit dem Leben)
監督:マルク・ローテムント
原作:サリヤ・カハヴァッテ
脚本:ルート・トマ
出演:コスティア・ウルマン(サリヤ)、ヤコブ・マッチェンツ(マックス)、アンナ・マリア・ミューエ(ラウラ)、ヨハン・フォン・ビューロー(クラインシュミット)
サリヤは真面目で成績優秀な青年だったが、先天性の目の病気で視力の95%を失ってしまった。それまで描いていた将来への希望も打ち砕かれたかと思ったが、一流のホテルマンになりたいという夢を諦めることはできなかった。サリヤは5%しか見えないのを隠して、ミュンヘンの5つ星ホテルでの面接に臨んだ。面接に遅れて来たマックスの窮状を救ったことから、彼はサリヤの心強い味方となる。見習いの第一関門を通過したが、今後の研修には多くの課題が待っている。マックスや事情を知ったホテルのスタッフの助けを得て、人一倍の努力を続け研修課題を次々とクリアしていった。
自分の視野が突然狭まっていき、ぼんやりとしか見えなくなってしまったらどうするでしょう。私を含め、殆どの人が目からの膨大な情報を当たり前のこととして受け取っているはずです。こんな風に夢をあきらめずにいられるでしょうか??この映画が実話を基にしているというのに驚きました。ほんとにこんなことができてしまうとは!!
5%しか見えないのに動くということは、周りの状況が全て頭に入っていなければなりません。慣れ親しんだところならともかく、たくさんの人が出入りするホテルで、どうやって?という心配や疑問は是非映画でお確かめください。
悩んだり、苦しんだり、少しも思い通りにならず人生は楽ではありません。それでも諦めないで生きていこうよ、とそっと肩を叩いてもらえる作品です。(白)
2017年/ドイツ/カラー/シネスコ/111分
配給:キノフィルムズ
(C)ZIEGLER FILM GMBH & CO. KG, SEVENPICTURES FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH
http://eiga.com/jump/ks5mm/
★2018年1月13日(土)ロードショー
はじめてのおもてなし 原題:Willkommen bei den Hartmanns 英題:Welcome to Germany
監督:サイモン・バーホーベン
出演:センタ・バーガー、ハイナー・ラウターバッハ、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、パリーナ・ロジンスキ、エリヤス・エンバレク
ミュンヘンの瀟洒な一軒家。教師を定年退職したアンゲリカは、子どもたちも成人して家を出て、大病院の医長を務める夫リヒャルトと二人暮らし。時間を持て余したアンゲリカは、難民を受け入れることを思いつく。子どもたちも帰ってきた日曜日のディナーの場で唐突に発表すると、夫も子どもたちも大反対。アンゲリカは夫を説き伏せ、一緒に難民センターへ面接に行く。二人はディアロというナイジェリアからやって来た亡命申請中の青年を受け入れることを決める。
アンゲリカはディアロにドイツ語を教えたり、一緒に庭仕事したりと、水を得た魚のように生き生きとした毎日を取り戻す。一方、リヒャルトはストレスがたまって、病院で部下にあたりちらし、そろそろ引退をとほのめかされていたのに拍車がかかる。
そんなある日、誤解からディアロが警察沙汰を引き起こしてしまう。家の前には、難民排斥のプラカードを持った者たちまで現われる・・・
今、ヨーロッパ各地で押し寄せる難民を排斥する動きがありますが、本作はそのことに対して声高に物申すものではなく、ディアロという難民を受け入れた家族の一人一人が抱えている問題をコメディータッチで浮き彫りにしていく物語。定年退職後の過ごし方を模索する妻、忍び寄る老いに悩む夫、仕事優先で妻に逃げられ子育てするシングルファーザーの息子、30過ぎても大学を卒業できないでいる娘。観る人によって、誰かしらに共感できる物語。もちろん、難民問題にも目を向けさせてくれます。2016年度ドイツ映画興行収入NO.1を記録したお薦めの一作。(咲)
配給:セテラ・インターナショナル
2016年/ドイツ/ドイツ語/116分
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/welcome/
★2018年1月 13日(土) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開