2018年12月15日

私は、マリア・カラス(原題:Maria by Callas) 

watasiha.jpg

監督:トム・ボルフ
朗読:ファニー・アルダン
出演:マリア・カラス、グレース・ケリー、イブ・サン=ローラン、アリストテレス・オナシス

世界的な歌姫として知られるマリア・カラス(1923-1977)。トム・ボルフ監督は3年をかけてマリアの友人を訪ね、これまで目に触れることのなかった多くの手紙や映像の存在を知る。殊にマリア自身による言葉の力強さに感銘を受け、マリアの映像と未完の自叙伝、手紙を中心にこの作品をまとめあげた。浮かび上がるのは率直で自制心に富んだ努力家、歌と人を愛した一人の女性の姿。

マリアの手紙などを朗読しているのは『永遠のマリア・カラス』 (2002)で、晩年のマリアを演じたファニー・アルダン。それまでアーカイブで観・聞きしていたマリアの声とそっくり(2002年の作品を観ていなかった)なので、観ながら「これは誰〜?」と思っていました。さすがにベテランの女優さん、感情もこもっていて本人かと思うほどでした。
マリアは子どものころは強圧的な母、若くして結婚してからは年上の夫のマネージメントで働きづめでした。ようやく心から愛する人に出会ったかと思えば、手ひどく裏切られ、バッシングやスキャンダルにもさらされます。「間違っていた」と戻ってきたオナシスを看取り、復帰を目指していたはずなのに、急死とは残念でなりません。オペラの知識がなくとも、その人生に心を寄せることができるとても濃密な1本です。(白)


過去の公演やインタビュー映像、プライベート映像には自叙伝や友への手紙の朗読を被せて、マリア・カラスを紐解く。若い頃の弾けるような美しさが歳を重ねて豊かさを身につけていくのが一目瞭然。それに伴い、声に艶も感じられるようになる。
オナシスとの出会いと別れ、許しが彼女を支え、成長させた。亡くなる前にオナシスが伝えた言葉は何よりの愛情表現。
バッシングを受けることが多かったが、反論はせず。自らを高めることに意識を向けた生き方は誰にでもできることではない。舞台に立つために最後まで努力を続けた生き様に後悔はなかっただろう。(堀)


私は歌や音楽は好きだけど、オペラやミュージカルはどうも苦手。でも、さすがにマリア・カラスの名前だけは知っていました。でも、スキャンダルばかりが有名で、彼女の歌声を聴いたことはほとんどなかった。この作品で彼女の歌っているところや、歌声を聴き、やはりすごい歌手だったのだと思いました。そして、これまではわがままで、高慢な人なのかと誤解していたのかもしれないとも思いました。やはりこういう芸術家は繊細なのだなと感じ、この作品で遅ればせながら、彼女が生きた時代と人生に思いを馳せることができました(暁)。

2018年/フランス/カラー、白黒/114分
配給:ギャガ
(C)2017 - Elephant Doc - Petit Dragon - Unbeldi Productions - France 3 Cinema
https://gaga.ne.jp/maria-callas/
★2018年12月21日(金)TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー
posted by shiraishi at 15:05| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年12月02日

マダムのおかしな晩餐会(原題:Madame) 

madame.jpg


監督:アマンダ・ステール
原作:アマンダ・ステール
脚本:アマンダ・ステール、マシュー・ロビンス
撮影:レジス・ブロンド
編集:ニコラ・ショドールジュ
音楽:マチュー・ゴネ
出演:トニ・コレット、ハーヴェイ・カイテル、ロッシ・デ・パルマ

エレガントなパリの都に越してきた、裕福なアメリカ人夫婦のアン(トニ・コレット)とボブ(ハーヴェイ・カイテル)。セレブな友人たちを招いてとびきり豪華なディナーを開こうとするが、手違いで出席者が不吉な13人に!
大慌てでスペイン人メイドのマリア(ロッシ・デ・パルマ)を“ミステリアスなレディ”に仕立て上げ、晩餐会の席に座らせる。ところが、緊張のあまりワインを飲みすぎたマリアはお下品な“ジョーク”を連発、逆にこれが大ウケしてダンディーな英国紳士から求愛されてしまう。今更正体を明かせないアンとマリアたちのから騒ぎの行方は・・・?

セレブな生活を堪能するアン。それは全て、歳の離れた夫の経済力があるからこそ。しかし、勝気な主人公は高齢の夫を労わることはない。他人事ながら「そんなことで大丈夫?」と心配になる。案の定、夫婦の関係は微妙な模様。数合わせでテーブルにつかせたマリアがいい思いをするのを許せないのは、自分が満たされていないからではないか。しかも、略奪婚をしたアンには「次は略奪されるかもしれない」不安もあるだろう。一度手に入れた立場を手放すのは受け入れがたい。人間の弱さを見た気がする。
一方、マリアは初めこそ裕福な男性のアプローチに戸惑っていたが、デートのときにマダムと呼ばれて気持ちが大きくなり、次第に振る舞いも大胆に。自信は人を魅力的にする。マリアが自分で考え、行動する姿はなんと凛々しいことか。しかし、これはかつてのアンの姿でもある。マリアはこれからどうなっていくのか。興味深い。(堀)


2016年/フランス/英語・フランス語・スペイン語/カラー/スコープ/5.1ch/91分
配給:キノフィルムズ
(C) 2016 / LGM CINEMA ? STUDIOCANAL ? PM - Tous Droits Reserves
http://www.madame-bansankai.jp/
★2018年11月30日(金)よりロードショー
posted by shiraishi at 20:53| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月19日

おかえり、ブルゴーニュへ(原題:Ce qui nous lie)

おかえり、ブルゴーニュへ.jpg

監督:セドリック・クラピッシュ
脚本:セドリック・クラピッシュ、サンティアゴ・アミゴレーナ
撮影:アレクシ・カヴィルシーヌ
音楽:ロイク・デュリー
出演:ピオ・マルマイ(ジャン)、アナ・ジラルド(ジュリエット)、フランソワ・シヴィル(ジェレミー)ほか

フランス・ブルゴーニュで、自らブドウ畑を所有し、栽培・醸造・瓶詰を一貫してワイン作りを行うドメーヌの長男ジャン(ピオ・マルマイ)は、10年前、世界を旅するために故郷を飛び出し、家族のもとを去った。その間、家族とは音信不通だったが、父親が末期の状態であることを知り、10年ぶりに故郷ブルゴーニュへと戻ってくる。
家業を受け継ぐ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)と、別のドメーヌの婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)との久々の再会もつかの間、父親は亡くなってしまう。残されたブドウ畑や自宅の相続をめぐってさまざまな課題が出てくるなか、父親が亡くなってから初めてのブドウの収穫時期を迎える。 3人は自分たちなりのワインを作り出そうと協力しあうが、一方で、それぞれが互いには打ち明けられない悩みや問題を抱えていた・・・。

放浪していた兄、ワイナリーを継いだ妹、婿養子に出た弟。それぞれが問題を抱える。それを互いにそっと見守る距離感が絶妙。向こうに見える妹の会話を兄と弟が想像してしゃべるシーンは心が和む。離れて暮らしていてもひとたび顔を合わせれば気持ちを共有できる。長年培ってきた家族の絆があればこそ。
父亡き後、初めての収穫を迎えた。収穫日の判断が味を左右する。繊細なワイン作りの苦労を知る。また、先を見据えた畑の維持管理も必要。ワイン作りは一朝一夕にはできない。人間関係と同じ。弟が舅に対してはっきり意見を述べるシーンは思わず応援してしまう。自分の意見を伝えてこそ、家族となっていくのだ。(堀)


2018年/フランス/カラー/スコープサイズ/113分
配給:キノフィルムズ=木下グループ
(C) 2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
http://burgundy-movie.jp/
★2018年11月17日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 15:15| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月14日

アラン・デュカス 宮廷のレストラン(原題:La quete d'Alain Ducasse)

alan.jpg

監督:ジル・ドゥ・メストル
脚本:エリック・ルー、ジル・ドゥ・メストル
製作:ジル・ドゥ・メストル、ステファン・サイモン
製作総指揮:キャサリン・カンボード
撮影:ジル・ドゥ・メストル
録音:ヴィンセント・コソン
編集:ミシェル・ホランダー
音楽:アルマン・アマール
ポストプロダクション:ドリス・ヨバ
出演:アラン・デュカス

ミシュラン史上最年少で3ツ星を獲得し、今では18ツ星に輝くフランス料理界の巨匠アラン・デュカス。彼の新たな挑戦はヴェルサイユ宮殿内に宮廷レストラン〈オーレ〉をオープンさせること。開店準備をベースに、精力的に世界各地を訪れ、最高の食材と調理法を探し求めるアラン・デュカスを追ったドキュメンタリー作品。

ラフな服装で気軽に世界各地を巡る。アラン・デュカスの飽くなき好奇心と美味しいものを食べたときの喜びあふれる笑顔はまるで少年のよう。どれも食べてみたくなる。
その一方、若手を育て、厨房を任せながら18ツ星に輝く。その秘訣も作品の中で映し出す。料理人としてだけでなく、経営者としても学ぶべきことがたくさんあるようだ。
さらに、廃棄食品を利用したプロジェクトに協力し、フィリピンの恵まれない子供たちのための料理学校を創設する。幸せをみんなで分かち合おうとする精神に感服。

1年に4、5回は来日するという。本作でも東京と京都を訪れる。まずはNHKの人気番組にゲスト出演し、テレビカメラの前で、鮮やかな手さばきでオムレツを完成させた。最近では「料理は頭の中でする」ようになり、実は滅多に料理をしないので、とても貴重なシーンだろう。京都では、新京極にある鰻の老舗「京極かねよ」でランチをし、厨房を見学。夜は嵐山の近くにある「天ぷら 松」の割烹料理に舌鼓を打つ。フランス料理の巨匠が美味しいというお店が日本にあるうれしさ! 機会があったらぜひ堪能したい。(堀)


2017年/フランス/カラー/110分
配給:キノフィルムズ
(C) 2017 OUTSIDE FIMS - PATHÉ PRODUCTION - JOUROR FILMS - SOMECI.
http://ducasse-movie.jp/

★2018年10月13日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 13:00| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

負け犬の美学(原題:SPARRING)

makeinu.jpg

監督・脚本:サミュエル・ジュイ
出演:マチュー・カソヴィッツ、オリヴィア・メリラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン

40代半ばを迎えたスティーブは盛りをすぎた中年ボクサー。これまでの成績は49戦13勝3分33敗。最後に勝ったのは3年前になる。たまに声のかかる試合とバイトで家族をなんとか養っていたが、ピアノを習ってパリの学校に行きたいという娘の夢を叶えたい一心で、誰もが敬遠する欧州チャンピオンのスパーリング・パートナーになることを決意する。
ボロボロになりながらも何度でも立ち上がり、スティーブはスパーリング・パートナーをやり遂げた。そして、ボクサー人生の有終の美を飾るチャンスを得る。

thumbnail_負け犬メイン画像.jpg

主人公のスティーブを演じるのは『アメリ』(2001年)でヒロインが恋する相手を演じたマチュー・カソヴィッツ。スティーブがスパーリング・パートナーをつとめるチャンピオン役を元WBA世界王者のソレイマヌ・ムバイエが演じた。通常のボクシングシーンでは、ボクサーがどう動くか、細かく決まっている。しかし、本作ではマチュー・カソヴィッツが本格的にボクシングに入れ込み、振り付けもリハーサルもなしでファイトシーンに臨んだという。
ボクシングに限らず、スポーツの世界でトップになれるのは、ほんの一握り。しかし愛する家族に支えられながらリングに上がり続けることができるのも幸せである。本作で描かれているのは試合の勝ち負けではなく、ボクサーを職業に選んだ男の生き様。特に娘との関係が見どころになっている。
子どもは親の背を見て育つもの。スティーブの娘は父の背中からどんなメッセージを受け取ったのか。最後の試合が終わってからのスティーブたちに余白を残しつつ、モヤモヤ感は残らない演出は後味最高!(堀)


2017年/フランス/カラー/シネマスコープ/95分/ DCP5.1ch
配給:クロックワークス
(C)2017 UNITÉ DE PRODUCTION - EUROPACORP
http://makeinu-bigaku.com/

★2018年10月12日(金)シネマカリテほか全国順次ロードショー
posted by shiraishi at 12:52| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする