2017年12月24日
クイーン 旅立つわたしのハネムーン(原題:Queen)
監督:ビカース・バール
脚本:ボーべエス・シークほか
音楽:アミ・トリヴェーディー
出演:カンガナー・ラーナーウト(ラーニー)、ラージクマール・ラーオ(ヴィジャイ)、リサ・ヘイドン(ヴィジャイラクシュミ)
インドの首都デリー。保守的な家庭で生まれ育ったラーニーは、一人で外出したこともない晩生な娘。積極的なヴィジャイにアタックされて婚約したが、デートにも弟がついてくる。結婚式の用意も整って、嬉しさいっぱいのラーニー。しかしヴィジャイから突然婚約破棄を告げられる。ラーニーはショックで部屋に閉じこもって泣き暮らす。ようやく部屋から出てきたラーニーは、心配して見守っていた家族に、新婚旅行を取り消さず、自分ひとりで行くと宣言する。
楽しみにしていたパリでは食事の注文も思うようにできず、2人で行くはずだった凱旋門が目に入って、ますます孤独になってしまう。ホテルのインド系の従業員ヴィジャイラクシュミと知り合い、自由で逞しく生きている彼女に励まされた。次に訪れたアムステルダムのゲストハウスは満室で、やむなく男性3人との相部屋になってしまった。
結婚式直前にドタキャンされて、茫然自失のヒロインが、一大決心をして新婚旅行のはずだったヨーロッパへ(インドの方は英語が使えるのでいいなぁといつも思います)。婚約者は失ったけれども、一歩踏み出したおかげで結婚していたら出会うはずもなかった人々や文化に出会い、たくさんの経験をして自分の殻を破っていきます。
カンガナー・ラーナーウトはじめどのキャストも好演で、次第に背筋が伸びて笑顔が多くなるラーニーにとても嬉しくなります。ヴィジャイを演じたラージクマール・ラーオも人気俳優だそうですが、今回は女性に総スカンにあいそうな憎まれ役。「あれでは破談になってかえってよかったね」と、試写で一緒になった(咲)さんと。
ゲストハウスで出会う3人の中に“日本人のタカ”さんがいました。セリフの感じでは中華系の方かなと思いましたが、資料に説明はありませんでした。ヨーロッパの人にはアジア人はみな同じに見えるのかもしれませんが(その逆もあり)日本人役の俳優さんはやはり気になります。試写は短くしたバージョンでしたが、劇場ではオリジナル完全版での上映。(白)
2013年/インド/カラー/シネスコ/146分
配給:ココロヲ・動かす・映画社 ◯
(c)Viacom 18 Media Pvt Ltd & Phantom Films Pvt Ltd
https://www.cocomaru.net/queen
★2018年1月6日(土)シネマート新宿、ココロヲ・動かす・映画館◯ロードショー
2017年12月17日
バーフバリ 王の凱旋(原題:Baahubali 2: The Conclusion)
監督・脚本:S・S・ラージャマウリ
原案:V・ビジャエーンドラ・プラサード
音楽:M・M・キーラバーニ
出演:プラバース(シヴドゥ/バーフバリ)、アヌシュカ・シェッティ(デーヴァセーナ)、ラーナー・ダッグバーティ(パラーラデーヴァ)、ラムヤ・クリシュナ(シヴァガミ)、ナーサルビッジャラ(デーヴァ)
はるか遠い昔、インドに栄えたマヒシュマティ王国。シヴドゥは自分が伝説の英雄アマレンドラ・バーフバリの息子であると知った。父の家臣だったカッタッパから父の辿った悲劇を聞く。
国母シヴァガミから王位継承の命を受けたバーフバリは、忠臣カッタッパと共に国の視察の旅に出る。クンタラ王国のデーヴァセーナ姫と出会って恋に落ちるが、彼を恨むパラーラデーヴァは2人を引き裂く策略を練っていた。パラーラデーヴァが王位につき、バーフバリと生まれたばかりの息子の命が狙われる。
今年4月に公開した『バーフバリ 伝説誕生』の続編。プラバースがバーフバリ父子を一人で演じているので、あれどっちの話だっけ?とわからなくなるのですが、周りの顔ぶれで判断してください(え?)。前編はほぼ息子バーフバリ、今回の後篇は時を遡り父バーフバリの話が半分以上で、全てを知った息子バーフバリが父の復讐にたちあがる熱い熱いストーリーです。
装備なしでも動きも力もハリウッド映画の超人なみのバーフバリ、普通死んでますって!という場面が何度あったことか。流れるような超絶アクション、奇想天外な武器や戦車、ここぞというときのスローモーションに、キメポーズ。過剰に見える演出もインド映画ならでは。数を頼んだ陣形の戦闘シーンは中国映画にも似ていますが、とにかく主人公は雨あられと降る矢にもあたりません。今回も女優さんが強くて逞しくて美しい!(白)
おさらい
本作予告編
2017年/インド/カラー/シネスコ/141分
配給:ツイン
(C)ARKA MEDIAWORKS PROPERTY, ALL RIGHTS RESERVED.
http://baahubali-movie.com/
★2017年12月29日(金)新宿ピカデリー、丸の内TOEIほか全国順次ロードショー
2017年07月02日
裁き 原題:Court
監督:チャイタニヤ・タームハネー
出演:ヴィーラー・サーティダル、ヴィヴェーク・ゴーンバル
インド、ムンバイ。アパートの一室で子どもたちに勉強を教え終え、広場での「ワドガオン虐殺抗議集会」に急ぐ初老の男。民衆詩人カンブレだ。特設舞台に立ち、カースト、民族、宗教等々、我々は差別の森にいると力強く歌っている途中で、警察に連行される。マンホール内で下水清掃人の死体が見つかり、カンブレの扇動的な歌が自殺を促したという容疑だった。
下級栽培所で裁判が始まる。
人権擁護派の若手弁護人は、それなりに背景を探る。中年の女性検察官は有罪と決め付け、裁判よりも今夜の献立の事で頭がいっぱい。裁判官は、もうすぐやってくる1ヵ月の休暇が待ち遠しく、さっさと決着をつけたい・・・
裁判は、最初マラーティー語で質疑応答が行われていたのに、途中で英語かヒンディー語でと指示が出て、マラーティー語しかわからない被告のカンブレは困ってしまいます。多言語国家インドならではの光景。
*注 マラーティー語:インド西部のマハーラーシュートラ州の公用語。州都ムンバイ(ボンベイ)で作られる、いわゆるボリウッド映画は主としてヒンディー語(インド全体の連邦公用語)で作られている。また、英語は準公用語。
『court』という原題から、法廷での場面が続くのかと思ったら、物語は被告人、弁護人、検察官、裁判官の法廷外の日常を映し出していきます。弁護人が訪ねていく死んだ下水清掃人の遺族の住むアパートは狭苦しく、人々も貧しい身なり。女性検察官の住まいは、中流らしく、そこそこの広さ。裁判官は瀟洒な豪邸に住んでいて、貧富の差の激しさを見せつけてくれます。カーストの壁が立ちはだかって、職業も好きに選べないインド。被告人カンブレにいたっては、そのカーストの外に位置づけられる不可触民。こぶしを挙げて、声高らかに歌うカンブレの姿がやるせない。(咲)
2015年のアジアフォーカス福岡国際映画祭上映作品。
2014年/インド/カラー/2.35:1/マラーティー語、ヒンディー語、英語、グジャラート語/116分
配給:トレノバ
公式サイト:http://sabaki-movie.com/
★2017年7月8日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー
2016年10月22日
PK ピーケイ 原題:PK
監督:ラージクマール・ヒラーニ(『きっと、うまくいく』)
出演:アーミル・カーン(『きっと、うまくいく』)、アニュシュカ・シャルマ(『命ある限り』)、スシャント・シン・ラージプート、サンジャイ・ダット、ボーマン・イラーニー
ラージャスターンの沙漠に着陸した宇宙船から降り立った裸の男。黄色いターバンの男に首から下げたメダルを盗られてしまう。メダルは宇宙船を呼ぶリモコン。これがないと自分の星に戻れない。途方に暮れる裸の男。
同日、ベルギーの水の都ブルージュ。「俳優アミターブ、父の詩を詠む」の会場にやってきたインドの留学生の女の子ジャグー。チケットは売り切れ。ダフ屋が高値で売りつけようとする。そこにやって来たパキスタンの青年サルファラーズと半分ずつ出しあってシェアすることにするが、まんまとインドの老人にチケットを買われてしまう。意気投合し、たちまち恋に落ちた二人。ヒンドゥーとイスラームという宗教の違いから、親に打診すれば反対されること間違いなし。同意を得ないで教会で結婚式を挙げてしまおうとするが、約束した日、教会でサルファラーズを待つジャグーに「家族の問題があって結婚できない」とのメッセージが届く。失意のジャグーは帰国し、テレビ局で働き始める。
ある日、ジャグーは地下鉄の中で「神様を探しています」のビラを配る風変わりな男を見かける。いろいろな宗教のシンボルを身に着けている。黄色いヘルメットを被っているのは、神様が自分を見つけやすいようにと言う。身の上話を聞いたジャグーは、そのPKと呼ばれる男を手助けしてメダルを見つけてくれる神様を探しはじめる。
さて、神様は見つかるのか? そして、無事メダルを取り戻してPKは故郷の星に帰ることができるのか・・・
宗教によって、良しとするもの、禁じているものが違うことを、PKという純粋無垢な宇宙人の目を通して愉快に描き出していきます。また、外見でその人の宗教を判断してしまうことに警鐘を鳴らしてくれます。「偽の神様は金を要求する」と、宗教を利用してお金を稼ぐ人たちがいることに苦言も呈しています。どんな神様でも信じる心が大切とPKは教えてくれます。
地球で親切にしてくれたジャグーにどうやら恋してしまったらしいPK。恋は実るでしょうか・・・ そして、ブルージュで恋に落ちた二人のその後は?
あちこち伏線がはってあって、なるほど〜とお楽しみがいっぱい。
PKがインドの人たちと言葉を交わせるようになるプロセスにも、思わず唸ります。
ジャグーを演じたアニュシュカ・シャルマ、そしてサルファラーズを演じたスシャント・シン・ラージプート、どちらもとても爽やかで、素敵。濃いインドの俳優さんたちを見てきた目に新鮮です。(咲)
なぜ宇宙人の彼がPKと呼ばれるようになったかは、アジア映画巡礼の松岡環さんの解説をどうぞ!
◆『PK』の公開を前に、ラージクマール・ヒラーニ監督が初来日
2016年7月28日、インド大使館で監督を迎えて記者会見&試写会が開かれました。
日本で大ヒットした『きっと、うまくいく』の監督来日に、大勢のファンの声援が飛びました。
監督の言葉から:
インドの映画学校で日本の映画に出会いました。『7人の侍』をはじめとして、黒澤明監督作品は見逃したものはないはずです。製作会社を作って「デンフィルム」と名付けたのですが、『どですかでん』から取った名前です。黒澤と出会って25年、今、初めて家族と日本に来ることができました。
息子が、日本で電話に出たときに最初に「もしもし」というのを、ハローの意味と聞いていて、日本に着いて空港で皆に「もしもし」と言ったのですが、皆が笑顔で迎えてくれました。礼節の国ですね。
この映画は、大切なメッセージを込めています。
神や宗教の見方を示しています。我々が神を見守る必要はない。神は自分で守れます。
人が皆、共存していくことができれば、平和になります。
山崎貴監督と女優の檀れいさんが、監督とスジャン・R・チノイ駐日インド大使への花束贈呈ゲストとして登壇。
上映前だったので、内容に触れないよう気を遣いながら、感動した思いを伝えてくださいました。
2014年/インド/153分/カラー/シネスコ
配給:REGENTS
公式サイト:http://pk-movie.jp
★2016年10月29日(土)新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
2016年08月29日
聖なる呼吸 ヨガのルーツに出会う旅 原題:Breath of the Gods
監督:ヤン・シュミット=ガレ
出演:T.クリシュナマチャリアの子供たち、K.パタビジョイス、B.K.S.アイアンガー
本作は、現代ヨガの源流T.クリシュナマチャリア(1888-1989)に興味を持ったドイツ人の監督が、南インドに赴き、直弟子や、子どもたちを訪ね、クリシュナマチャリアの生涯や教えに迫ったドキュメンタリー。
クリシュナマチャリアは、南インドでバラモン(司祭階級)の家の長男として生まれた。ヴェーダ聖典の有名な教師だった父からサンスクリット語とヨガを厳しく指導されるが、10歳の時、父は亡くなる。曽祖父の住むマイソールに引越し、高僧だった曽祖父から直々に学び、大学でヒンドゥーの六派哲学すべてで最高学位を取得。31歳の時、ヒマラヤのカイラス山麓に住むヨガの導師に弟子入りし、7年間修行する。マイソールに戻ると、彼の噂を聞いたマイソール君主クリシュナ・ラージャ4世に呼ばれ宮仕えすることになる。ヨガを一般に広めたいという君主の意向で、インド各地で講義と実演も行った。
ラージャ4世の死後、跡を継いだ王はヨガへの関心が薄く、1947年にインドが英国から独立するとマハラジャの権力も縮小。1950年、宮殿のヨガ学校は閉鎖される。62歳で失業するも、その後、101歳で亡くなるまで、一人一人の体調や能力に合わせたヨガの個人指導を続けた・・・
今年4月に公開された『永遠のヨギー ヨガをめぐる奇跡の旅』では、1920年代にヨガと瞑想の奥義を西洋に伝えたパラマハンサ・ヨガナンダの存在を知りました。 今回、本作を観て、実は、インドでもヨガは、20世紀初頭、少数の年配者や僧侶のものだったことを知り、意外でした。これほどまでに世界的に広く知られるようになったヨガ。その陰には、自分を磨き、地道に指導を続けてきた人たち、そして、その人たちを支えた君主がいたことを知りました。
その人にあった指導をしていたというクリシュナマチャリアですが、かなり厳しく指導された人物の証言も出てきて、そこまで厳しくしたのは、その人物を見抜いていたから?と思わず思ってしまいました。(咲)
2011年/ドイツ、インド/105分/カラー、モノクロ/英語、カンナダ語、テルグ語、タミル語/
字幕監修:ケン・ハラクマ
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/seinaru/
★2016年9月3日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、9月10日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開
出演:T.クリシュナマチャリアの子供たち、K.パタビジョイス、B.K.S.アイアンガー
本作は、現代ヨガの源流T.クリシュナマチャリア(1888-1989)に興味を持ったドイツ人の監督が、南インドに赴き、直弟子や、子どもたちを訪ね、クリシュナマチャリアの生涯や教えに迫ったドキュメンタリー。
クリシュナマチャリアは、南インドでバラモン(司祭階級)の家の長男として生まれた。ヴェーダ聖典の有名な教師だった父からサンスクリット語とヨガを厳しく指導されるが、10歳の時、父は亡くなる。曽祖父の住むマイソールに引越し、高僧だった曽祖父から直々に学び、大学でヒンドゥーの六派哲学すべてで最高学位を取得。31歳の時、ヒマラヤのカイラス山麓に住むヨガの導師に弟子入りし、7年間修行する。マイソールに戻ると、彼の噂を聞いたマイソール君主クリシュナ・ラージャ4世に呼ばれ宮仕えすることになる。ヨガを一般に広めたいという君主の意向で、インド各地で講義と実演も行った。
ラージャ4世の死後、跡を継いだ王はヨガへの関心が薄く、1947年にインドが英国から独立するとマハラジャの権力も縮小。1950年、宮殿のヨガ学校は閉鎖される。62歳で失業するも、その後、101歳で亡くなるまで、一人一人の体調や能力に合わせたヨガの個人指導を続けた・・・
今年4月に公開された『永遠のヨギー ヨガをめぐる奇跡の旅』では、1920年代にヨガと瞑想の奥義を西洋に伝えたパラマハンサ・ヨガナンダの存在を知りました。 今回、本作を観て、実は、インドでもヨガは、20世紀初頭、少数の年配者や僧侶のものだったことを知り、意外でした。これほどまでに世界的に広く知られるようになったヨガ。その陰には、自分を磨き、地道に指導を続けてきた人たち、そして、その人たちを支えた君主がいたことを知りました。
その人にあった指導をしていたというクリシュナマチャリアですが、かなり厳しく指導された人物の証言も出てきて、そこまで厳しくしたのは、その人物を見抜いていたから?と思わず思ってしまいました。(咲)
2011年/ドイツ、インド/105分/カラー、モノクロ/英語、カンナダ語、テルグ語、タミル語/
字幕監修:ケン・ハラクマ
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/seinaru/
★2016年9月3日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、9月10日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開