2018年12月06日
パッドマン 5億人の女性を救った男 原題:Padman
監督・脚本:R.バールキ
出演:アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカー・アープテー
北インドの小さな村。結婚式を挙げたばかりのラクシュミは、新妻ガヤトリを喜ばせようと、自動玉ねぎカット機を手作りしたりするアイディアマン。妻が生理になった時、部屋を穢してはいけないと廊下で寝ている上、清潔とはいえない古布を使っていることを知って衝撃を受ける。市販のナプキンはあまりに高価で、妻は使えないというのだ。愛する妻のために、なんとか清潔で安価なナプキンを作りたい! 試行錯誤してナプキンを作るラクシュミを村人や妻の家族たちは変人扱い。ガヤトリは実家に連れ戻されてしまう。ラクシュミは都会インドールに出て研究を続ける。ついに、セルロース・ファイバーを素材にしてナプキンを作る簡易製作機を発明する。たまたまデリーからイベント出演のためにやってきた女子大生パリーが、ナプキンの観客第一号となる。パリーは、ラクシュミをデリーでの発明コンペに出場させて賞金を獲得させる。パリーと共に、農村の女性たちにナプキン製造から販売までを行うことができるよう、起業も手助けする。やがて、ラクシュミたちの草の根活動に注目した国連から講演依頼が舞い込み、ラクシュミはパリーと共にニューヨークへ赴く・・・
「パッドマン」として知られる社会企業家アルナーチャラム・ムルガナンダム氏をモデルにした映画。1962年、南インドのタミル・ナードゥ州コインバトールで機織り職人の家に生まれたムルガナンダム氏。低コストで衛生的な製品を製造できるパッド製作機の発明者。2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。また、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリも授与されている。
本作では、ムルガナンダム氏をモデルにしたラクシュミだけでなく、パリ―という聡明で積極的に事業をサポートする女性も描いていて、爽快。映画を通じて、インドの女性たちの自立を促すマイクロ・クレジット(小規模融資)などのプログラムの認知度もあがったという。
この映画を観て思い出したのが、父方の祖父のこと。昭和の初めの頃、祖父は友人と共に生理用ナプキンを開発して、「レデーメン」と名付けて東京で売っていたのです。祖母も営業を手伝って留守がちだったそうです。そして、まだ小学生だった父も、近くの家や、時には電車に乗って渋谷まで届けに行ったことがあるとか。その後、祖父は、漢字の書き取り帳を作り、それが東京中の小学校で採用される大ヒット。父は、「書き取り屋の息子」とからかわれていたそうですが、祖父が書き取り帳を作らなければ、「レデーメン屋の息子」と言われていたかもしれません。
思えば祖父は、その後、別の仕事をしていたようなので、父に聞いてみたら、昭和11年、226事件のあと、物資の統制が厳しくなり、紙が手に入らなくなって、レデーメンも書き取り帳も作れなくなってしまったとのこと。時代ですねぇ・・・(咲)
◆公式サイトに掲載されている松岡環さんによる“『パッドマン』をより楽しむための7つの知識”を是非お読みください。
2018年/インド/2時間17分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:http://www.padman.jp/site/
★2018年12月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
2018年10月21日
ガンジスに還る 原題:Mukti Bhawan 英題:HOTEL SALVATION
監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニ、
バロミ・ゴーシュ
77歳になる父ダヤ。息子夫婦と孫娘と食卓を囲んでいる時に、「死期が近づいたのを感じている。明日、牝牛を寄進し、明後日にはバラナシに行く」と宣言する。ガンジス河の畔の聖地バラナシの「解脱の家」で人生の最期を迎えたいというのだ。一人で行かせるわけにもいかず、息子ラジーヴは仕方なく会社を休み付き添っていく。
「解脱の家」では、安らかな死を求める人々が規則を守りながら、思い思いに過ごしている。解脱できなくても滞在期間は15日までだ。12日目、ラジーヴの妻ラタと孫娘スニタが会いに来る。まだ元気なダヤの姿に安心し帰っていく二人。一方、会社を休み顧客を逃したことが気になるラジーヴ。15日目になり、別名で滞在を延長できると知ったダヤは息子に「象は死期が近づくと群れを離れる」と語り、ラジーヴを帰宅させる・・・
解脱の家で息子と二人で過ごしていた父は、息子に「お前は詩をそれはそれはよく書いていたのに、才能を伸ばしてやれなかった」と謝ります。また、結婚式を間近にした孫娘が結婚に乗り気でないことを察したダヤは、「心のおもむくままに生きなさい」と語りかけます。自身の人生を振り返って、今にして悟る、こうすればよかったというダヤの思いが胸に切々と迫ります。
ラジーヴが散歩している時に、薪がうず高く積まれた場所を通ります。充分な量の薪が買えないと、火葬しても灰にならなくて形のあらわな骨をガンジスに流すことになるそうです。「バラナシとガンジス河、どちらが神聖?」という問いに、「ガンジスなら近くでも拝める」と答える場面があります。ヒンドゥー教徒にとって、バラナシで人生の最期を迎え、ガンジスに流してもらうことが最高の幸せなのだなぁと思いました。
ガンジス河を眺めながら、溶けそうなアイスクリームを家族で食べる場面がなんとも愛おしいです。しみじみと味わい深い一作です。(咲)
死期を悟り解脱を求める父と、その父に付き添いながらも携帯が手放せない息子。世俗の垢にまみれた息子の姿が他人事には思えない。親に感謝の気持ちはあるものの、言いたい文句もたくさんある。最期を前にぶつけたことで、お互いの気持ちを分かり合う。
死をテーマにした作品だが、重苦しさはない。監督自らバラナシに行き、解脱の施設を回ってリサーチし、バラナシで死を迎えたい人の願いは家族と一緒に来ることだと気がついたことがきっかけで物語を作ったという。2人が過ごす最期の時間を丁寧にすくい取る。弱冠27歳の監督とは思えない手腕に脱帽である。(堀)
2016年ヴェネチア国際映画祭 エンリコ・フリキニョーニ賞
2016年/インド/99分/シネスコ
配給:ビターズ・エンド、協力:エア インディア
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ganges/
★2018年10月27日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開!
2018年09月30日
あまねき旋律(しらべ) 原題:kho ki pa lü 英題:Up Down & Sideways
監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール
製作:ウ・ラ・ミ・ル プロジェクト
インド東北部ナガランド州ペク県。急な斜面に作られた棚田や、山間の道には、いつも歌が轟いている。農作業をする時にも、重い荷物を運ぶ時にも、そして恋をする時にも、ここの村人たちの生活は歌と共にある。
ミャンマー国境近く位置するこの地に住む民族「チャケサン・ナガ」の民謡で、「リ」と呼ばれる歌は、南アジアの音楽文化では極めてまれなポリフォニー(多声的合唱)で歌われる。二部合唱から最大では混成八部合唱。
共同監督の、アヌシュカ・ミーナークシとイーシュワル・シュリクマールは、インドの南部出身。インド各地の踊りや歌のパフォーマンスを取材する中で、ナがランドの労働歌に魅せられて、1本のドキュメンタリーに仕立て上げた。
イーシュワル・シュリクマール監督(左)とアヌシュカ・ミーナークシ監督 (撮影:宮崎暁美)
監督のお二人が来日されたのは、8月初め。暑い熱い真っ只中でした。「私たちは、もっと暑いところから来ましたら大丈夫」とにっこり。
プレス資料に、この映画に魅了され、日本公開に一役買った大澤一生さんによる、詳細なインタビューが掲載されていて、取材時間をいただいたものの、さて、それ以上に何をお伺いすればいいのかと思いながら、お二人にお会いしました。
(大澤さんの充実のインタビューの掲載されたパンフレットが、劇場でも入手できます。)
インタビューの詳細は別途お届けしますが、印象的だったことを、ここで少しだけ披露します。(咲)
*キリスト教のはたした役割
村の中で、ひときわ目立つ白い大きな教会。キリスト教が入ってきて、冠婚葬祭はキリスト教式のものにすっかり変わっています。ですが、決してキリスト教が伝統を壊してしまったわけではなく、価値ある伝統は何なのかを気づかせてくれた存在になっていると思います。また、民族祭り開催に資金的サポートをしています。
一番人口の多いのがバプテスト教会。リバイバル(復興)教会の会派の人たちは伝統的なことを歌に歌ってはいけないので旋律だけ残しています。
*伝統的衣装を写真に残す意味
写真家が外国からきた歴史が英国統治時代からありました。民族衣装のまま畑仕事をしている写真が出たりしていますが、年に1回くらいは正装することはありますが、日常は違います。
「撮る」と言うと、着がえてくる! インド軍がナガランドの80%を焼き尽くした時に、民族衣装やアクセサリーがずいぶん消えてしまったので、ナガランド独自のものを写真に残すことは大きな意味があります。
アヌシュカ&イーシュワル監督インタビュー 全容はこちらで!
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/462148044.html
◆ポレポレ東中野 トークイベント
(※トークは全て上映後)
・10/6(土)12:30〜 アヌシュカ・ミーナークシ & イーシュワル・シュリクマール監督スカイプトーク (インドから中継)
・10/7(日)12:30〜 村山 和之 (中央大学・和光大学講師)
・10/7(日)19:00〜 今福 龍太(文化人類学者・批評家)×金子 遊(映像作家、批評家)
・10/11(木)19:00〜 望月 優大 (ライター/編集者)
・10/12(金)19:00〜 木村 真希子 (津田塾大学学芸学部准教授)
・10/13(土)19:00〜 藤井 美佳 (字幕翻訳者)
・10/14(日)12:30〜 松岡 環 (アジア映画研究者)
・10/15(月)19:00〜 鎌仲 ひとみ (映像作家)
・10/19(金)19:00〜 纐纈 あや (映画監督)
・10/20(土)17:00〜 井口 寛 (レコーディングエンジニア) ×大石 始 (ライター/エディター)
山形国際ドキュメンタリー映画祭(日本)・アジア千波万波部門 奨励賞/日本映画監督協会賞
2017年/インド/83分/チョークリ語/16:9/カラー
配給:ノンデライコ
公式サイト:http://amaneki-shirabe.com/
★2018年10月6日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
2018年07月20日
人間機械 原題:MACHINES
監督・脚本:ラーフル・ジャイン
インド、北西部グジャラート州にある繊維工場。
機械の大きな音が響く中、黙々と働く人々。
化学染料の取り扱いにも、それほど気を使ってない。
汗まみれになって彼らが作り出すのは、美しい花柄の布。
まさに機械としてしか見られていない、そこで働かざるをえない人々・・・
「故郷で働くことが出来れば、ここには来ない」
「1600キロ離れた地から、36時間すし詰めの列車で来た」
家族を養うため、家族と離れて、過酷な環境の中で働く人たちの言葉に、もう虚しさしかない。
ここで働く人たちの楽しみは、嗜好品のパーン。一日2ルピーの楽しみ。煙草は、5〜10ルピーもするので買えないのだ。映画大国インドだけど、彼らにとって映画館で映画を楽しむ余裕もないのだろう。
ラーフル・ジャイン監督は、小さい頃、祖父の所有する繊維工場を遊び場にしていたという。繊維工場を初監督作品の舞台にしたのは、その強烈な記憶。地獄のような劣悪な環境の中で働く人々のことを知らしめ、世の中を動かしたいという思いもあるのだろう。けれども、その地獄をあまりに芸術的に描いていて、所詮、富める層のおごりと感じてしまう。
もちろん、このような世界があることを知らないよりは知ったほうがいい。ボリウッド映画や『バーフバリ』でインドに目覚めた方には、対極にある『人間機械』もぜひご覧いただきたい。(咲)
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017上映作品
2016年/インド・ドイツ・フィンランド/DCP/カラー/71分
配給:株式会社アイ・ヴィー・シー/配給協力:ノーム
公式サイト:http://www.ivc-tokyo.co.jp/ningenkikai/
★2018年7月21日(土) 渋谷ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー
2018年04月01日
ダンガル きっと、つよくなる(原題:Dangal)
監督・脚本:ニテーシュ・ティワーリー
撮影:サタジット・パンデ
音楽:プリータム・チャクラボルティー
出演:アーミル・カーン(マハヴィル)、サークシー・タンワル(ダーヤ)、ファーティマー・サナー(ギータ青年期)、サニヤー・マルホートラバ(バビータ青年期)、ザイラー・ワシーム(ギータ幼少期)、スハーニー・バトナーガルバ(バビータ幼少期)、アパルシャクティ・クラーナー(オムカル)
レスリングを愛するマハヴィルは、生活のため選手の道を諦めなければならなかった。彼の夢は息子を金メダリストにすること。しかし生まれてきたのは、4人連続で女の子だった。夢を叶えられずがっかりしたマハヴィルだったが、ある日、上の娘2人が男の子とケンカして負かしたことを知る。格闘技のセンスはちゃんと受け継がれていた。女の子でもレスリングができると、マハヴィルは長女のギータと次女のバビータをコーチとして鍛え始める。娘2人はスパルタ指導をする父に逆らえず、女の子らしいお洒落も遊びもできないことに抵抗するが・・・。オリンピック出場を目指す父には全く通じなかった。
実際にオリンピックに出場した父と娘のストーリーを元にした作品。『きっと、うまくいく』(2013)『PK ピーケイ』(2016)のアーミル・カーンが、娘達を熱血指導する父親を演じています。『きっと、うまくいく』の大学生を演じたのは40代でそれにも驚きましたが、今回も引き締まった身体の若いときから、充分に中年体型となったときまで実際に体重を増減させたそうで(70kg-97kg-70kg)、役者魂に脱帽。あのぜい肉は自前です。また娘役の女の子たちも実際に細心の注意を払ってウエイトトレーニング+試合のためのトレーニングをしていて、試合もガチです。
ギータが友だちに愚痴る場面がありますが、その友だちは親の決めた相手と結婚しなければなりません。それが女の子には普通のことでした。友だちはギータに素晴らしいお父さんだと言います。
マハヴィルは娘たちに夢を託しましたが、それは自分のためだけではありません。才能を認めて男子と同様に機会を作ってくれたのです。実話に上手くユーモアをまぶしてあり気持ち良く泣かせてもらいました。見終わった後に「ダンガル♪ダンガル♪」が頭の中でヘビロテすること必至。(白)
2016年/インド/カラー/シネスコ/140分
配給:ディズニー、ギャガ
(C)Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016
★2018年4月6日(金)TOHOシネマズシャンテ他全国公開