2017年03月03日

汚れたミルク/あるセールスマンの告発  原題:Tigers

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監督 ダニス・タノヴィッチ
脚本 ダニス・タノヴィッチ、アンディ・パターソン
撮影 エロル・ズブツェヴィッチ
編集 プレールナー・サイガル
音楽 プリータム
出演 イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、カーリド・アブダッラー、アディル・フセイン

大手グローバル企業を告発した男の実話に基づく物語。
パキスタンの国産製薬会社の営業マンだったアヤン。1994年、多国籍企業の台頭で国産の薬が売れなくなり、経験を活かし多国籍企業に転職する。「結果を残せ」と賄賂用のお金も渡され、粉ミルクを販売するトップセールスマンとなる。
1997年、親しい医師より、粉ミルク育ちの赤ちゃんの多くが汚い水で薄めたことが原因で死亡していると聞かされる。カラチのスラムで実態を見て、医師の言葉を理解したアヤン。上司は、「政府が水道を整備しないから」という。知っていて販売させていたのかと、アヤンは会社を辞め、多国籍企業を相手に闘う日々が始まる・・・

ダニス・タノヴィッチ監督がこの告訴のことを聞いたのは、2006年。すぐにパキスタンに飛び、事実関係を調べる。いまだに貧困層の母親たちが安全とはいえない粉ミルクを買うよう促されている実態を知り、映画化を決意する。
映画の冒頭、製作側とアヤンが、映画化は、お互いにリスクがあることをスカイプで顔を見ながら確認する場面がある。まさに監督にとっても、この題材は大きなリスク。『めぐり逢わせのお弁当』製作チームとタッグを組み、インドで撮影していて、印パ紛争が起こるのではと心配にもなります。
特定できる大企業を扱っている為、2014年に完成したものの、上映がなかなか叶わず、今回の日本公開が世界初公開だそうです。(ほんとうの社名が一瞬出るのをお見逃しなく!)

アヤンのモデルであるセイッド・アミール・ラザは、身の危険を感じて祖国パキスタンを離れ、7年間、家族にも会えず、親を看取ることもできなかったとのこと。映画の中で、彼のお父さんは「領収書のオリジナルは必ず保管しておくこと」とか「告訴状は、一カ所のポストじゃなくて、別のポストから届けなさい」など、とても知恵者。そのお父様を看取れなかったのですね。現在は、家族とも再会。カナダのトロントでタクシー運転手をしながら家族と暮らしているそうです。覚悟して声をあげた勇気を褒め称えたい。政府の規制が何よりの解決策という思いで映画化した監督にも拍手を送りたい。

もう30年程前に、トルコの旅の帰りにカラチで赤痢を拾ったことがあるのを思い出しました。数年後、シリアからカラチ経由で帰る時には、トランジットホテルでの食事は避けて、駐在員の方のご自宅でお世話になりました。その時に、水が悪いので歯を磨いて口をゆすぐのも湯冷ましを使っていると聞かされました。歯ブラシを洗うのも、もちろん蛇口の水は駄目。
それでも庶民がちゃんと生きているのは、長年住むうちに免疫ができるから。生まれたばかりの赤ちゃんは一発でやられてしまうようです。母乳で育てれば問題ないとのこと。売らんかなの企業精神が庶民を犠牲にした功罪はほんとに大きい。でも、それは衛生状態の良し悪しに関係なく、私たちも知らないうちに身体に悪いものを口にさせられているのではないでしょうか。(咲)


☆『ノーマンズランド』で監督デビューしたボスニア・ヘルツェゴビナ出身のダニス・タノヴィッチ監督。最新作『サラエヴォの銃声』(2017年)が本作に引き続き3月25日(土)より新宿シネマカリテで公開される。

配給 ビターズ・エンド
2014年/インド=フランス=イギリス//94分/シネマスコープ
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tanovic/
★2017年3月4日(土) 新宿シネマカリテにてロードショー
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2017年02月26日

アシュラ   原題:阿修羅

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監督/脚本:キム・ソンス
主演:チョン・ウソン、ファン・ジョンミン、チュ・ジフン、クァク・ドウォン、チョン・マンシク

悪の渦巻くアンナム市。刑事ハン・ドギョン(チョン・ウソン)は、街の利権を牛耳る市長パク・ソンベ(ファン・ジョンミン)のために裏の仕事を引き受け手間賃を貰っている。難病の妻の治療費を稼ぐために始めたことだったが、今や、市長の犬に成り下がっていた。
一方、悪徳市長の逮捕に燃える検事キム・チャイン(クァク・ドウォン)がドギョンを脅し、市長の不正の証拠を掴もうと必死だった。ドギョンは警察を辞めて市長のもとで働く予定だったが、検察ににらまれた状態では辞めることもできず、自分を兄と慕う後輩刑事ムン・ソンモ(チュ・ジフン)を説き伏せて、市長のもとに送り込む・・・

冒頭、「人間が嫌いだ」というチョン・ウソンの声が聴こえたときから、ぞくぞく。
今回のチョン・ウソンは、もう、ぼろぼろ。悪徳市長には尻尾を振り、可愛がっていた後輩には裏切られ、これでもかというくらい、みじめな姿を見せつけてくれます。でも、やっぱりウソンさまはウソンさま! また一段と、役者魂を感じさせてくれました。
キム・ソンス監督といえば、『ビート』(1997)や『太陽はない』(1998)で、チョン・ウソンをスターダムに押し上げた監督。また違った魅力を引き出してくれました。
そして、悪徳市長役として、ほんとに嫌な奴を演じきったファン・ジョンミン! いい人も悪い人も、どっちも地?と思わせてくれる名優ですね。可愛いお尻も見せてくれます。(見たくないって?!)
チュ・ジフンも、先輩を裏切る調子のいい奴を演じきってます。
あ〜、凄かったけどキツイ映画でした。(咲)


2016年/韓国/133分/韓国語/原題:아수라
配給:CJ Entertainment Japan
公式サイト:http://asura-themovie.jp
★2017年3月4日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー 
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お嬢さん  原題:AGASSI  英題:HANDMAIDEN

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監督:パク・チャヌク(カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞『オールド・ボーイ』)
出演:キム・テリ、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ

1939年、日本統治下の朝鮮半島。
華族の令嬢・秀子(キム・ミニ)は、幼い時に両親を失い、後見人の叔父(チョ・ジヌン)の厳格な保護のもと、大きなお屋敷で暮らしている。毎日、おじと向き合い声を出して本を読むのが日課だ。
一方、盗賊団に育てられた孤児の少女スッキ(キム・テリ)は、藤原伯爵と名乗る男(ハ・ジョンウ)から、華族のお嬢さん(アガシ)である秀子の下女として屋敷に住み込み、自分が秀子と結婚できるよう助けて欲しいと頼まれる。そして、結婚できた暁には、お嬢さんを精神科病院に入れて財産を奪い、一緒に逃げようと持ちかけられる。
スッキは献身的に秀子に仕え、秀子もスッキに心を開いていく。やがて、藤原伯爵は、スッキの手助けもあって、秀子との結婚にこぎつける・・・

自称伯爵は、もちろん詐欺師。ハ・ジョンウは、こういう役が実によく似合います。
日本統治下で日本を信奉する男を演じたチョ・ジヌンは、実年齢より上に見せるため、18キロ痩せて臨んだそう。和風に洋風をミックスしたお屋敷の地下の隠れた大きな書庫に、怪しげな本を所蔵しているエロおやじを好演。
男たちに支配されるお嬢さんや下女も、叔父の留守には、地下の書庫に忍び込み、きわどい書物を楽しむしたたかさも。
3部構成の本作、次々に明かされるからくりに驚かされ、最後の最後に、さらにまた驚かされました。(咲)


2016年/韓国/145分/シネマスコープ/5.1ch/R-18
配給:ファントム・フィルム
公式サイト:http://ojosan.jp
★2017年3月3日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他ロードショー

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2017年01月07日

愛を歌う花  原題:解語花(ヘオファ)   英題:Love,Lies

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監督:パク・フンシク(『メモリーズ 追憶の剣』『私にも妻がいたらいいのに』  
出演:ハン・ヒョジュ(『ビューティー・インサイド』「トンイ」)、ユ・ヨンソク(『尚衣院−サンイウォン−』『ビューティー・インサイド』)、チョン・ウヒ(『サニー 永遠の仲間たち』)、パク・ソンウン(『新しき世界』『鬼はさまよう』)

日本統治末期の1943年。京城唯一の妓生養成学校で学ぶソユル(ハン・ヒョジュ)とヨニ(チョン・ウヒ)。幼馴染の二人は、共に美声と美貌に恵まれた親友どうし。ソユルは、愛する作曲家ユヌ(ユ・ヨンソク)の作曲した「朝鮮の心」を歌うことで、妓生ではなく歌手になりたいと願う。ところが、ユヌは偶然耳にしたヨニの歌声に魅了され、「朝鮮の心」をヨニに歌わせレコードを出す。そのことを知って激しく嫉妬するソユル。3人の運命が大きく狂い始める・・・

原題『解語花』(直訳「人の言葉を理解する花」)は、美しさと強さ全てを持つ女性という意味。妓生を例える言葉。
大衆歌謡が黄金期を迎えた終戦前夜。“券番”と呼ばれる妓生養成学校に所属する妓生の中から、民衆の心を癒す歌を歌いたいと次々と歌手がデビュー。一方で、日本軍は民族意識を扇動したという理由で大衆歌謡を抑圧したそうです。
そんな時代背景の中で、一人の男性をめぐる二人の女性の思いが描かれていて、切ないです。
純情なイメージの強いハン・ヒョジュが嫉妬に狂うさまも絶品。(咲)


2016年/韓国/120分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:クロックワークス
公式サイト:http://aiuta-movie.com
★2017年1月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかロードショー
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2017年01月06日

The NET 網に囚われた男  英題:THE NET

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監督:キム・ギドク
出演:リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、イ・ウヌ

韓国との国境近くの村で妻と幼い娘と共に貧しいながらも平穏な日々を送る漁師ナム・チョル。いつものようにモーターボートで漁に出るが、網がエンジンに絡まってしまい、思うように船を操縦できず韓国側に流されてしまう。韓国の警察に拘束され、スパイ容疑で厳しい尋問を受ける羽目になる。あげく、脱北させようと、ソウルの繁華街・明洞に連れて行かれる。目を閉じて、決して周りを見ないようにするチョル。
チョルの監視役である若い警護官オ・ジヌは、チョルの様子を見ているうちに、スパイなどではなく、真に家族の元に帰りたがっている漁師だと信じるようになる・・・

東京フィルメックスの折に、時間的に映画を観ることができなかったのですが、キム・ギドク監督のQ&Aに参加しました。「憂鬱な映画をお見せして申し訳ない。これが南北の現実です」と開口一番。北と南、どちらがいい悪いを描いたわけでもなく、暴力的なシーンの裏に語りたい真実があるとも語っていました。キム・ギドク監督作品を初めて観た友人からは、あまりにつらい場面が続いて、目を閉じていたとも聞かされていました。きっと重く残忍な映画なのだろうと思っていました。実際に映画を観てみたら、これまでのキム・ギドク作品に比して、それほど暴力的でも残忍でもなく、物語の流れも実にわかりやすいものでした。
確かに執拗に尋問する場面が続いて、つらいものがありました。この尋問にあたっているのが、キム・ギドク作品でお馴染みのキム・ヨンミン。嫌な奴を実にうまく演じています。
そして、本作で何より癒されたのが、チョルを温かく見守る若い警護官オ・ジヌ。先日、韓国KBSワールドの「芸能街中継」を見ていたら、オ・ジヌを演じたイ・ウォングンが若手注目俳優として取り上げられていて、本人も出演。「カンヌでレッドカーペットを歩けたのが嬉しかった」と無邪気に語り、キム・ギドク監督と共に歩く姿が映し出されました。ドラマや映画に引っ張りだこで、私も今後注目したい俳優です。

さて、本作ですが、繁華街に連れていかれたチョルは、裏通りで逃げ惑う若い女性に出会います。家族を養うため、身を売るしかない事情を知ります。自由に見える資本主義社会の抱える闇の部分。
やがてチョルはスパイ容疑が晴れて、北に帰ることができるのですが、南を見てきたことで、北でも執拗な取調べを受けることになります。政治に翻弄される庶民を象徴しているようでした。
かつて、韓国を旅した時に、イムジン河越しに北朝鮮を眺めたことがあります。
韓国のガイドさんから、こちらから見える部分の家は綺麗に作ってあると説明を受けました。いかに酷い状況かも語られましたが、同じ民族のことを、そこまで悪く言うとはと悲しくなりました。南北統一どころか、南北分断による歪みはいつになったら修復することができるのかと暗澹たる気持ちになったのを思い出しました。(咲)


第17回東京フィルメックス上映時の記録は、こちらでどうぞ!
*舞台挨拶およびQ&A(テキスト)
http://filmex.net/2016/news/the_net

*舞台挨拶(動画)
http://filmex.net/2016/news/broadcast/1119the_net_ba

*Q&A(動画)
http://filmex.net/2016/news/broadcast/1119the_net_qa

配給:クレストインターナショナル
2016年/韓国/112分/カラー/1:1.85/5.1 SRD
公式サイト:http://www.thenet-ami.com
★2017年1月7日(土)よりシネマカリテほか全国順次公開
posted by sakiko at 09:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする