監督:オフィル・ラウル・グレイツァ
出演:ティム・カルクオフ、サラ・アドラー、ロイ・ミラー、ゾハル・シュトラウス
ベルリン。ケーキ職人のトーマスの営むカフェ。エルサレムに住むオーレンは、出張でやって来るたび、このカフェのシナモンクッキーをお土産に買って帰る。ある時、オーレンが息子へのお土産をトーマスに相談したことから急接近し、出張のたびに一緒に過ごし愛し合うようになる。ところが、「また一ヵ月後に」と帰っていったオーレンが、いつまでたってもやって来ない。意を決してエルサレムに赴いたトーマスは、オーレンが交通事故で亡くなったことを知る。
一方、オーレンの妻アナトは、夫の死亡手続きを済ませ、休業していたカフェを再開し、息子を育てながら切り盛りしていた。客としてやって来たドイツ人のトーマスが、職探しをしていると知り雇い入れる。ある日、厨房でシナモンを見つけたトーマスは、アナトの息子のためにシナモンクッキーを作る。ところが、店に来たオーレンの兄モティは、非ユダヤ人のトーマスが勝手に厨房を使ったことに激怒。食物規定(コシェル)に反すると捨てさせる。トーマスの作るクッキーの美味しさを知ったアナトは、食物規定に沿って作れば大丈夫と店のメニューに加える。愛する人を失った者どうし、いつしかお互い心のよりどころになっていた・・・
金曜日の夕方、安息日の始まりを告げるサイレンが鳴る。肉用と乳製品用が別になったユダヤ仕様の台所のアパートも出てきて、さすがユダヤ人のために作られた国と興味深い。
アナトは、営むカフェに食物規定(コシェル)認定の表示を掲げているが、安息日の金曜の夜、家ではオーブンを使って料理し、コシェルにもこだわらない。非ユダヤ人が勝手に厨房で作ったというだけで捨てさせる厳格なユダヤ教徒のモティと対照的だ。かように、イスラエルには、宗教にこだわるユダヤ人と、宗教規定を気にしない世俗的なユダヤ人の両方が暮らしている。実は、オフィル・ラウル・グレイツァ監督自身、信心深い父と、宗教に無頓着な母に育てられたことが、この映画に反映されているそうだ。監督自身、ゲイ。宗教に厳格な父親からどのように思われているのか想像がつく。人間らしく生きたいという思いが、この物語の原点なのだろう。(咲)
東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門 「イスラエル映画の現在 2018」で上映され、プロデューサーのイタイ・タミールさんが上映後のQ&Aに登壇。来日できなかった監督に代わって、出来る限り答えますとQ&Aに臨んでくださった。可愛い息子さん二人が同席して、父親の答える姿を見守っていたのが印象的だった。
本作の原点には、監督が学生の頃の経験があるとのこと。監督が短編映画を製作中に知り合ったイタリア人の男性と親密な関係になり、トスカーナの自宅に招かれたところ、彼女と一緒に住んでいたため、彼のことを諦めたそうだ。その彼女から数年後、彼が亡くなったことを知らせてきたのだが、二人の親密なメールなどのやりとりを見てのことだったという。
宗教が出てきたのは、同性愛を批判するためではなく、主張したいことを宗教を加えることで、さらに幅を持たせることができると思ったらから。また、宗教自体を批判するためでもない。同性愛については、イスラエルではLGBTのパレードもよく行われ、オープンな国と強調した。
(撮影:景山咲子)
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2017年/イスラエル・ドイツ/ヘブライ語・ドイツ語・英語/カラー/DCP/109分
配給:エスパース・サロウ
公式サイト:http://cakemaker.espace-sarou.com/
★2018年12月1日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開