2018年10月21日
ガンジスに還る 原題:Mukti Bhawan 英題:HOTEL SALVATION
監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニ、
バロミ・ゴーシュ
77歳になる父ダヤ。息子夫婦と孫娘と食卓を囲んでいる時に、「死期が近づいたのを感じている。明日、牝牛を寄進し、明後日にはバラナシに行く」と宣言する。ガンジス河の畔の聖地バラナシの「解脱の家」で人生の最期を迎えたいというのだ。一人で行かせるわけにもいかず、息子ラジーヴは仕方なく会社を休み付き添っていく。
「解脱の家」では、安らかな死を求める人々が規則を守りながら、思い思いに過ごしている。解脱できなくても滞在期間は15日までだ。12日目、ラジーヴの妻ラタと孫娘スニタが会いに来る。まだ元気なダヤの姿に安心し帰っていく二人。一方、会社を休み顧客を逃したことが気になるラジーヴ。15日目になり、別名で滞在を延長できると知ったダヤは息子に「象は死期が近づくと群れを離れる」と語り、ラジーヴを帰宅させる・・・
解脱の家で息子と二人で過ごしていた父は、息子に「お前は詩をそれはそれはよく書いていたのに、才能を伸ばしてやれなかった」と謝ります。また、結婚式を間近にした孫娘が結婚に乗り気でないことを察したダヤは、「心のおもむくままに生きなさい」と語りかけます。自身の人生を振り返って、今にして悟る、こうすればよかったというダヤの思いが胸に切々と迫ります。
ラジーヴが散歩している時に、薪がうず高く積まれた場所を通ります。充分な量の薪が買えないと、火葬しても灰にならなくて形のあらわな骨をガンジスに流すことになるそうです。「バラナシとガンジス河、どちらが神聖?」という問いに、「ガンジスなら近くでも拝める」と答える場面があります。ヒンドゥー教徒にとって、バラナシで人生の最期を迎え、ガンジスに流してもらうことが最高の幸せなのだなぁと思いました。
ガンジス河を眺めながら、溶けそうなアイスクリームを家族で食べる場面がなんとも愛おしいです。しみじみと味わい深い一作です。(咲)
死期を悟り解脱を求める父と、その父に付き添いながらも携帯が手放せない息子。世俗の垢にまみれた息子の姿が他人事には思えない。親に感謝の気持ちはあるものの、言いたい文句もたくさんある。最期を前にぶつけたことで、お互いの気持ちを分かり合う。
死をテーマにした作品だが、重苦しさはない。監督自らバラナシに行き、解脱の施設を回ってリサーチし、バラナシで死を迎えたい人の願いは家族と一緒に来ることだと気がついたことがきっかけで物語を作ったという。2人が過ごす最期の時間を丁寧にすくい取る。弱冠27歳の監督とは思えない手腕に脱帽である。(堀)
2016年ヴェネチア国際映画祭 エンリコ・フリキニョーニ賞
2016年/インド/99分/シネスコ
配給:ビターズ・エンド、協力:エア インディア
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ganges/
★2018年10月27日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開!
この記事へのコメント
コメントを書く