2018年08月26日
テル・ミー・ライズ 原題:Tell Me Lies
監督:ピーター・ブルック
出演:マーク・ジョーンズ、ポーリーン・マンロー、ロバート・ラングドン・ロイド、グレンダ・ジャクソン、イアン・ホッグ
1968年、ロンドン。ベトナム戦争で傷ついた子どもの写真に何か行動を起こさなければと歌う若者。コミックやロックで表現する者。デモする人たち・・・ 舞台演出家であるピーター・ブルックは、ベトナムについて、歴史や兵士の証言、テレビニュース、アメリカ上院の審議の議事録等々、出来る限りの資料を集め、さらに様々な国籍のジャーナリスト、戦争レポーター、アメリカ大使館の公務員、歴史家、僧侶などを呼び寄せる。それぞれが混迷を深めるベトナム戦争への思いを語る・・・
本作は、カンヌ映画祭で上映されることになっていたのに、その後、どういう理由からかは不明ながら上映が取り下げられました。5月革命で、結局、カンヌ映画祭自体が中止になってしまった時のこと。
当時は、社会が右派か左派かに分極化し、ベトナム戦争に反対するということは、左派の全ての考えに全面的に賛同することを意味していた時代。本作は右派左派どっちの視点も取ってないと酷評もされたそうです。
ヴェネツィア映画祭で審査員特別賞とルイス・ブニュエル審査員賞の2部門受賞した後、アメリカやイギリスの一部の劇場で公開されましたが、様々な妨害を受け、短期間しか上映できなかった上、本編も紛失してしまいました。2011年に本編が発見され、修復し2012年に復活上映。50年の時を経て、日本で公開されることになりました。
どっちの視点も取ってないことが、逆にいろいろなことを考えさせてくれます。
ベトナム戦争は終わりましたが、世界の各地で戦争は絶えません。世の中から戦争がなくなってほしいと思う人も多い一方、他者を排除しようという風潮も強くなっているような気がします。
本作の中では、どうすればいいかわからないけれど、純粋にベトナム戦争を終わらせたい思いで、いろいろな行動を起こした人々の姿をみることができます。今や、声をあげる人も少なくなっているのではないでしょうか。(咲)
表向きはベトナム反戦映画ですが、こういう分極化はあらゆる時代と場所で起きたのではないかと思います。
二つの選択肢しかないように追い込まれた状況下で繰り返されてきた葛藤を、演劇的な手法を駆使して描いた作品でした。
分極化の渦中にいながら複雑な視点を持って問題に対峙する姿勢、解決できない問題や矛盾とともにあろうとする態度、時折訪れる静かな場面がよかったです。
それから私自身が舞台作品をよく観るので、オリジナルの演劇と映画の変化を想像しながら観ました。
おそらく舞台の方は俳優の身体や佇まいが、映画にはないユーモアを醸し出していたと思います。
一方で、映画の終盤に「最大の快楽、最小の痛み」と言うコートの男は、二次元独特のフラットさで身体性がうまく消えていました。映画の中の人物として台詞を言っているのではなく、スクリーンのこちら側の本音を喋っているような効果が出ていました。
舞台のメイキングのドキュメンタリー「Benefit of the Doubt」も、いずれ機会があれば観てみたいです。(Simone)
イギリス/1968年/英語/DCP/ビスタサイズ/98分
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://tellmelies.jp/
★2018年8月25日(土)シアターイメージフォーラムにてロードショー
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