2018年08月05日

英国総督 最後の家   原題:Viceroy's House

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監督・脚本:グリンダ・チャ―ダ(『ベッカムに恋して』)
出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニシュ・ダヤル、フマー・クレイシー、マイケル・ガンボン

英領インドがインドとパキスタンに分離独立するまでの激動の6ヶ月を、総督官邸を舞台に描いた物語。

1947年2月、インドからの撤退を決めた大英帝国の最後の総督マウントバッテン卿が主権譲渡の任務を帯びてデリーに着任する。
パンジャーブ出身のヒンドゥー教徒のジートは、友人のツテでマウントバッテン卿の秘書官となる。ラホールの刑務所で勤務していたが、国の将来を思う政治犯を監禁していることに嫌気がさしての転職だった。総督官邸で、ジートはラホールの刑務所に父親が収監されていたアーリアというイスラーム教徒の女性とすれ違う。父親との面会を許されない彼女の手紙や差し入れを預るうち、恋心を抱くようになった女性だ。アーリアは、マウントバッテン卿の娘パメラの世話係として官邸に着任したのだった。
マウントバッテン卿は最良の主権譲渡をしたいと願い、独立後について、統一インドを望む国民議会派のネルーやガンディー、分離してパキスタン建国を望むムスリム連盟のジンナーと話し合いを続けるが、ついに印パ分離独立を決意する。主権譲渡の時期も予定より10ヶ月も早め、1947年8月と決める。それまでに人々は、自分の国をどちらにするか決めなければならない。人々の大移動が始まり、各地で暴動が起こる。
アーリアはジートを愛していたが、実はアースィフという親の決めた婚約者がいて、父親と共に彼の実家のあるパキスタンとなるラホールへ行くことを決める。アーリアを見送ったジートは、彼女が乗った夜行列車で大虐殺が起きたと報じる新聞を目にする。ジートはアーリアの安否を確認しに国境に向かう・・・

印パ分離独立にいたるまでの各派の動きや、民族大移動の大混乱の様子が当時のモノクロ映像で挟み込まれます。国民会議派のネルーやガンディー、ムスリム連盟のジンナーを演じている役者さんが、まるでアーカイヴ映像からそのまま出てきたようにそっくりで驚かされます。
統一インドの初代首相をジンナーにと進言したガンディーの思いにもかかわらず、分離独立という形になり、今なお両国の関係はぎくしゃくしています。故郷を離れなければならなかった多くの人々、そして移動中の混乱の中で命を落とした人々・・・ 
シク教徒の家庭に生まれたグリンダ・チャ―ダ監督自身の祖父母や親戚も、今はパキスタンとなった地から移住を余儀なくされた当事者でした。政治家の決めた分離独立が、どれだけ多くの人たちの人生を翻弄させたのか・・・ 本作は、分離独立にいたるプロセスを背景に、宗教の違う二人の恋の行方を劇的に見せて、庶民の受けた痛みをみごとに描き出しています。

実は、マウントバッテン卿が国境線の詳細について、両国指導者に明かしたのは、独立宣言直後の8月18日でした。大混乱を恐れてのことだったそうです。そんなマウントバッテン卿ですが、分離独立を決めた時、すでに2年前にチャーチル首相が分離独立を予測して国境線を考えていたことを知ります。天然資源の積出港としてカラチをパキスタンの領土とすることで、独立後の英国に有利になるよう画策していたのです。
パキスタンの独立式典に赴いたマウントバッテン卿に、ジンナーが「チャーチルが来るべきだった。パキスタンの助産婦だから」と語る場面が映画に出てきます。ジンナーは「私も騙された。もっと領土がほしかった」とも語ります。パンジャーブやベンガルなど、宗教の比率が五分五分の州は、インドとパキスタンに分割されてしまったことにも恨みがあるでしょう。住民の大半がムスリムで、マハラジャがヒンドゥーだったカシミールにいたっては、いまだに帰属が確定していません。

さて、この総督官邸ですが、数百人の使用人が必要なほど大きな邸宅。着任したマウントバッテンの夫人が、「バッキンガム宮殿より立派ね」とつぶやきます。
大英帝国の威光を感じさせる総督官邸が完成したのは、1929年。20年も経たないうちに、インドの国家元首の官邸になると、誰が予想したでしょう。
本作の邸宅の撮影の大部分は、ジョードプルのマハラジャの館ウメイド・バワン・パレスで行われましたが、本物の元総督官邸の外観の撮影許可が出て、その威光を見ることができます。 
余談ですが、一部がホテルとなっているウメイド・バワン・パレスに泊まったことがあって、懐かしく拝見! 大理石の床の広々とした部屋!(咲)


★印パ分離独立の際の大混乱については、イスラーム映画祭3 『熱風』上映後の麻田豊氏トークを是非参照してください。

イスラーム映画祭3 『熱風』  印パ分離独立に翻弄されたムスリム一家を描いた名作 
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/459740338.html

2017年/イギリス/カラー(一部モノクロ)/2.39 : 1/106分/5.1ch/英語、パンジャービー語・ヒンディー語
配給:キノフィルムズ/木下グループ   後援:日印協会
公式サイト:http://eikokusotoku.jp/
★2018年8月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー





posted by sakiko at 03:33| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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