2018年03月04日

ニッポン国 VS 泉南石綿村

劇場公開日 2018年3月10日ユーロスペース他全国順次公開

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(c)疾走プロダクション

監督・撮影:原一男
製作・構成:小林佐智子
編集:秦岳志
音楽:柳下 美恵 
整音:小川 武
イラストレーション:南奈央子
キャスト 泉南市の方々、弁護士さん

アスベストによる健康被害を国に訴えた大阪・泉南の人々を追った8年半の記録


『ゆきゆきて、神軍』から31年。原一男監督の最新作は『ニッポン国VS泉南石綿村』。数々の尖った作品を生み出してきた原監督は、2006年大阪泉南地域の石綿(アスベスト)工場の元労働者や、家族、近隣の住民らが損害賠償を求め、国を相手に起こした訴訟を記録した長編ドキュメンタリーを製作。
明治時代から石綿産業で栄えた泉南地域。最盛期には200以上の工場が密集し「石綿村」と呼ばれていた。石綿は繊維状の鉱物で、耐火・耐熱性に優れ、安価に生産でき「奇跡の鉱物」と呼ばれ、多くの工業製品や建物等に使用されてきた。しかし、吸い込むと長い潜伏の後、中皮腫や肺癌などを発症することが判明。現在は生産が禁止されている。国は調査を行い健康被害を把握していたのに、経済発展を優先し規制や対策を怠った。その結果、多くの人々が肺を患い発症した。
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(c)疾走プロダクション

カメラは「市民の会」の裁判闘争や原告たちの生活に密着し、日本だけでなく韓国への調査にも同行。そして、単に裁判闘争を描いただけでなく、被害者を出してきた差別構造をも映し出す。原告の多くは地方出身者や在日コリアンであり、劣悪な労働条件の下、対策も知らされぬまま身ひとつで働いていた。
しかし、一審で勝訴するも国は控訴を繰り返し、長引く裁判は原告たちの身体をむしばみ、原告は次々と亡くなっていった。原監督のカメラは8年に渡り密着同行し、裁判闘争や原告たちの人間模様を記録した。
監督は「自分たちの映画は、その時代から問われて、自らの生き方を探るために作ってきた」と語っているが、215分という長さを感じさせない圧倒的な人間ドラマである。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017のインターナショナル・コンペティション部門に出品され、市民賞(観客賞)を受賞。2017年、第18回東京フィルメックスでは特別招待作品として上映され、観客賞を受賞した。

シネマジャーナルHP 『ニッポン国 VS 泉南石綿村』関連記事

山形国際ドキュメンタリー映画祭2017
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yamagata/index.html
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yamagata/index.html#p03
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原一男監督 山形国際ドキュメンタリー映画祭2017 授賞式で

第18回東京フィルメックス
http://www.cinemajournal.net/special/2017/filmex/index.html
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原一男監督 第18回(2017)東京フィルメックス授賞式で

215分! 長い映画が好きでない私は、そんなに長い時間必要なの?と思ったけど、力作でした。8年以上にも渡る裁判闘争を表すには、このぐらいの時間が必要でした。監督は原告団の人たちの日常を丁寧に追い、石綿の被害を明らかにしていった。 アスベスト被害と朝鮮半島とのつながりも目から鱗だった。映画で表現することで、劣悪な環境で働いていた人々のことを表に出すことができた。圧倒的な人間ドラマであり、現代日本を作ってきた人々のことを伝えていた。
私は山形で初めて観たけど、山形の大きな会場がいっぱいだった。上映後、村松昭夫弁護士が「まだ戦っています。アスベスト問題での一番の被害者は建設現場。ここが解決されない限り、日本のアスベスト被害者は救われない。10月27日に東京高裁で初めて建設アスベスト訴訟の判決が出ますが、それまでまだまだ困難な状況は続きます。でも行政に判断させるのではなく、司法で対等に議論すること。そこに裁判が持っている社会を動かしていく原動力があると思います。いつまで続くか分かりませんが最後までやり続けたい。そして、情報をオープンにした方が、知恵と力が集まると皆さんに言いたい」と力強く語ると、会場から拍手が沸き起こっていた。壇上での監督のQ&Aが終わったあとは、会場の外で被害者の方たちも加わってトークが続いていた.
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Q&Aで監督は製作を振り返り、「お手上げでした。私はこれまで尖った人たちにカメラを向けてきましたが、今回は普通の人たち。だから撮影しながら面白い映画になるはずがないと完成後もずっと思っていました。皆さんに面白いよと言ってもらうのを待っているんです(笑)」と言っていたが、見事観客賞を受賞。授賞式の時には「実は密かに観客賞を狙っていました」と語っていた。そして東京フィルメックスでも「観客賞」を獲得し、「皆さん、面白いと思ってくれたんだと、自信を持ちました」と語っていた。
皆さん、ぜひ観てくださいね。(暁)

製作年2017年 日本 上映時間215分
助成:大阪芸術大学 芸術研究所 JSPS科研費
製作・配給:疾走プロダクション
配給協力:太秦 宣伝協力:スリーピン
オフィシャルサイト
posted by akemi at 19:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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