2018年02月05日

願いと揺らぎ

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監督:我妻和樹 プロデューサー:佐藤裕美
撮影:我妻和樹 編集:我妻和樹

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震災後、被災地の各地で地域の伝統行事が復活し、それらの多くは復興を加速させる吉報として取り上げられた。しかしその過程にあった地域の人びとの混乱や葛藤を具体的に知る機会は非常に少ない。本作は、宮城県三陸町の小さな漁村「波伝谷(はでんや)」に生きる人びとにとって最も大切な行事である「お獅子さま」復活の過程を、さまざまな立場の人に密着しながら追いかけたドキュメンタリー。津波によって集落が壊滅しコミュニティが分断されてしまった波伝谷では、ある若者の一声からお獅子さま復活の機運が高まる。それは唯一自分たちの本来の姿を象徴する存在として、先行きの見えない生活の中で人びとの心を結びつける大きな希望となるはずだった。
しかし波伝谷を離れて暮らしている人、家族を津波で失った人、さまざまな人がお獅子さま復活に想いを寄せる一方で、集落の高台移転、漁業の共同化など、多くの課題に直面して一向に足並みの揃わない波伝谷の人びと。震災によって生じたひずみは大きく、動けば動くほど想いはすれ違い、何が正解なのかも分からぬまま、多くの摩擦や衝突を重ねて最終的に「お獅子さま」は復活する。そして時が流れ、仮設住宅から高台へと移り、波伝谷で生きて行くことを決意した主人公は、改めて当時の地域の混乱と葛藤を振り返ることになる。
震災から6 年、かつての姿は二度と同じ形では取り戻せないという現実の中で迷い、もがきながら、それでも復興に向けて歩み続けた被災地の“願いと揺らぎ”を鮮烈に映す−−

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本作が公開2本目となる我妻和樹監督。大学生時代に民俗学のフィールドワークとして波伝谷に入り、以来、密度の濃い交流を続けて来た。震災を機にドキュメンタリー映画作家としてキャリアを積み上げて行くことになるその経緯そのものが、何か大きなものに導かれているような、希有な作家だと思った。映画それ自体が、監督を通して何かを表現したがっているような不思議な感じがある。これは、土地の人々に、そして「映画を撮る」「作品を創る」ということに、誠心誠意、心をこめて向き合おうとする我妻監督の素直で誠実な性格があればこそのことではないだろうか。だから、波伝谷の人々が監督を信頼し受け入れたように、作品に触れるわたしたちも、「信頼できる誠実な映画」に出会ったと思う。人間は「願い」の中でみんな「揺れて」いる。人間の深い所に刻み込まれているのに、今では忘れ去られてしまったような何か。あたりまえだったはずなのに、見失ってしまったかもしれない、とてつもなく大切な何か。この作品には、それが映っているかもしれない。我妻監督の映画にはこれからも注目し、応援したいと思った。 (せ)
山形国際ドキュメンタリー映画祭でのレポート
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yamagata/index.html

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C)ピーストゥリー・プロダクツ
2017年/日本/配給:ピーストゥリー・プロダクツ
公式 https://negaitoyuragi.wixsite.com/peacetree
★2018年2月24日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開



posted by chie at 00:00| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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