監督:アンジェイ・ワイダ
脚本:アンジェイ・ワイダ、アンジェイ・ムラルチク
撮影:パヴェウ・エデルマン
出演:ボグスワフ・リンダ、ゾフィア・ヴィフラチュ
ポーランドの前衛画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの悲劇的な後半生を描いた物語。
中部の都市ウッチの造形大学で教鞭をとっていたストゥシェミンスキは、ユニズム理論の共同提唱者で、近代絵画の救世主として崇められていた。
第二次大戦後、ポーランドはソ連の影響下におかれ、スターリンによる全体主義の中で、芸術は政治理念を反映すべきものだと強制されていく。そんな中、彼は決して屈することなく芸術の自由を求めて闘った。その結果、大学教授の地位を追われ、食料配給も、画材の購入資格も剥奪されてしまう。どん底に陥った彼は、病に罹るが、大学関係者は見放す。前衛詩人ブシポシなど一握りの友人や学生が彼を尊敬し支える。学生たちの助力で市役所に雇われるが、その仕事はプロパガンダ看板を描くという屈辱的なものだった。やがて絵筆を握ることも許されなくなり、ショーウィンドゥのマネキンの飾り付けの仕事をさせられる・・・
2016年10月9日に享年90で急逝したアンジェイ・ワイダ監督の遺作となってしまった『残像』。個人の自由が全体主義に押し殺されていく様をひしひしと感じさせてくれました。
冒頭、戸外の丘の上での絵画の授業を終えて、足の不自由なストゥシェミンスキが、笑いながら草の上を転がって降りるのをみて、生徒たちも一緒に転がって降りるのですが、のびのびとした自由を象徴しているように見えました。
別れた妻が亡くなり、ひっそりとした葬列を、娘が赤いコートで追います。極寒の中、母親の葬儀に赤いコートしか着ていくものがない娘・・・ やるせない思いがぐっと迫ります。
レジスタンスの体験を基にした『世代』(54)、対ソ連の地下抵抗運動を描いた『地下水道』(56)、第2次大戦前後のポーランド社会の流転を描いた『灰とダイヤモンド』(58)など、「抵抗3部作」で国際的な評価を獲得したワイダ監督。
晩年の作品では、『カティンの森』や『ワレサ 連帯の男』が印象的です。『残像』は、時代に翻弄される個人を描いた作品。まだまだ描きたい題材があったことと惜しまれます。いつしか、こういうテーマの映画が作れなくなる時代が来るかもしれないことにも思いが至ります。(咲)
2016年/ポーランド/ポーランド語/98分/カラー/シネスコ/ドルビー5.1ch/DCP
後援:ポーランド広報文化センター 提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式HP:http://zanzou-movie.com/
★2017年6月10日(土)、岩波ホールほか全国順次公開
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