2017年06月04日
セールスマン 原題:forushande 英題:Salesman
監督アスガー・ファルハディ
出演:シャハブ・ホセイニ、タラネ・アリドゥスティ
無秩序に開発の進む大都市テヘラン。小さな劇団に所属している国語教師エマッドと妻ラナ。二人の住むアパートが、隣の土地を掘り起こしている影響で崩壊の危機に。そのことを知った劇団仲間に、空いている部屋があると紹介されて引越すが、そこには前の住人の荷物がまだ残されていた。
「セールスマンの死」の初日舞台を終えて、舞台化粧も落とさないまま先に帰宅した妻が、浴室で何者かに襲われる。置き忘れていた車の鍵から、近くに止めてあったトラックの主が犯人だろうと目星をつけて追うエマッド。ラナは、襲われたことを知られたくないので不問にしたい・・・
ベルが鳴って、てっきり夫が帰ってきたと思って、インターフォンで確認しないままドアの解錠ボタンを押してしまったラナ。隣人たちの言葉の端から、前の住人は娼婦だったらしいと判明する。どうやら犯人は、馴染みの客。しかし、夫エマッドがおびきよせた男は、予想もしない人物だった・・・と、サスペンスの要素もたっぷり。最後の最後まで固唾をのんで見守りました。
思いもかけない出来事から、夫婦の気持ちが微妙にすれ違い始めるのは、どこの世界でもありえること。「名誉」を重んじたい女心や、「恥」から逃げたい男心も描かれていて、昨今の日本で報じられるニュースが頭をよぎります。
普遍的なテーマが根底に流れている一方、ご近所付き合いの密なところ、パン屋さん、乗り合いタクシーなどイラン人の日常も垣間見られるのも、作品の魅力。
エマッドの受け持つ国語の授業では、Gholam-Hossein Saediの小説「牛」が取り上げられていて、映画を観たいなという生徒たちの要望で、メヘルジューイー監督の名作『牛』(1969年)を見せる場面も出てきます。娯楽映画がもてはやされた革命前のイランでは珍しい社会派の映画。「次の週までに詩を暗記してきて」という言葉も出てきて、詩を大切にしてきた伝統が今でも生きていることを感じます。乱開発される大都会との対比とも見て取れるでしょうか。(咲)
6月10日の公開にあわせて、主演女優タラネ・アリドゥスティさんが来日します。
登壇するイベントも盛りだくさん。詳細については、こちらで確認ください。
http://cinemajournal.seesaa.net/article/450516265.html
第69回カンヌ国際映画祭 脚本賞・主演男優賞W受賞
第89回アカデミー賞R外国語映画賞受賞
2016年/イラン・フランス/124分
配給スターサンズ/ドマ
公式サイト:http://www.thesalesman.jp
★2017年6月10日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
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