監督/撮影/編集 小森はるか
プロデューサー 長倉徳生 秦岳志
出演 佐藤貞一
ひとりのたね屋が綴った、彼の町の物語
岩手県陸前高田市。東日本大地震による津波で流され荒涼とした大地に道路が走り、その脇にぽつんとたたずむ一軒の種苗店「佐藤たね屋」がある。自宅兼店舗を流された佐藤貞一さんが跡地に自力でプレハブを建て営業を再開している。廃品や瓦礫を使ったユーモラスな手描きの看板や苗木のカート。水は缶詰の空き缶で手掘りしたという井戸からポンプで汲みあげ、山の落ち葉や鶏糞をまぜた苗床の土を作る。種を植え芽が出て葉が増え苗木になる。そんな、創意工夫の生活の中から苗木を作り販売しながら、佐藤さんはその合間に地震の時の自らの体験や状況、その後の生活や想いを綴り、独習した英語で書き自費出版した。さらに、その後の想いや、陸前高田の歴史や文化なども盛り込んだり足して、どんどんページが増え改訂版?も作っているらしい。
タイトルは「The Seed of Hope in the Heart」。佐藤さんがその一節を朗々と読みあげるシーンは、まるで壮大な物語の語り部のよう。さらに、中国語版やスペイン語版も作ろうと挑戦する姿も映し出される。
佐藤さんは、なぜ不自由な外国語で書き続けるのか? そこには何が書かれているのだろうか? 日々の種屋の生活や祭りの光景なども描かれ、復興され底上げされてゆく土地も迫ってくる。この種屋の土地も底上げのため、そろそろたたまなくてはならない。そして佐藤さんは、また別の土地で新たに種屋を再会する準備に取り掛かる。
小森はるか監督は2011念の震災の後、大学の同級生である瀬尾夏美とともにボランティアとして訪れたことをきっかけに、この地に通うようになり、2012年の春陸前高田市のとなり町に引っ越し、映像記録を撮り続けている。
「緑が萌えると人は勇気づくでしょ。慰められるんだよ。だからたね屋は前向きでいられるのかもね。」と佐藤さんは笑っていました。でも「この緑は、たくさんの人が流した涙を吸って芽吹いた命の色だと思うよ」と優しく付け足しました。津波によって失ったものも、まちの人々が抱えた悲しみも、佐藤さんはたね屋の目線で見ることに徹底していました。わたしは、英語で震災の手記を書く人ではなく、「たね屋」としての佐藤さんを記録したいと思うようになりましたと語っている。
独学で勉強したという佐藤さんの外国語だが、佐藤さんが朗読する英語や、中国語で歌う歌の発音はとても上手。とても独学とは思えない。天性の才能を感じた。そして、あるものを使ってうまく再利用する姿や、生活を楽しくするためのユーモアになんだかとても癒される。ほんとは、大変な生活なのだけど、そんなことは意に介せず、もくもくと生活する姿に頼もしさも感じる。ロビンソン・クルーソーのようにも、ドン・キホーテのようにもみえる佐藤さんの姿だが、最後には再生と復興の象徴にも見えて、種屋の生活が至高のものに感じられるようになった。(暁)
(C) 2016 KASAMA FILM+KOMORI HARUKA
公式HP www.ikinoato.com
2016年/日本/93分
配給 東風