監督・脚本・製作:クリスティアン・ムンジウ(『4ヶ月、3週と2日』、『汚れなき祈り』)
出演:アドリアン・ティティエニ、マリア・ドラグシ
何者かに石を投げ込まれ窓を割られた朝、医師ロメオは、体調の悪い妻の代わりに娘エリザを学校に送っていく。急いでいたロメオは、学校に入る手前でエリザを降ろす。工事現場の脇を通って学校に向かう娘の後姿を見送り、愛人である英語教師サンドラの家に急ぐロメオ。サンドラと過ごしているロメオのところにエリザが暴漢に襲われたと電話が入る。病院に駆けつけると、妻も既に到着していて、エリザは大事には至らなかったが、両親の前で泣き崩れる。翌日に卒業試験を控えていて、それに受からないと、既に航空券も用意している英国への留学が出来なくなるのだ。ロメオの友人の警察署長は必ず犯人を捕まえると約束する。
翌日、エリザは一日目の試験を受けるが、事件のショックで思うような点が取れない。その結果を知ったロメオは、自分の職権で副市長に便宜を図ることで、2日目の試験の点数を操作する約束を取り付ける。ロメオは、娘に名前の脇に印をつけるよう指示する・・・
エリザには恋人がいて、どうしてもイギリスに留学したいわけではないのに、父親は不正を犯してでも留学させたいと必死。1991年の民主化の折、ロメオは妻と共に外国から帰ってきたのに、期待したような社会にならず、娘には外国に出て自分らしい人生をおくってほしいと願っているのです。
白昼、女性が暴漢に襲われても無関心な人たち。そして、すべてがコネで動く社会。
切羽詰った息苦しい空気がずっしり迫ってきた『4ヶ月、3週と2日』は、民主化の前のルーマニアが舞台だったけど、民主化後のルーマニアでも、違った意味の息苦しさがあることを感じさせられる映画。娘を思う父親の思いはずっしり伝わってくるのですが、壊れきった夫婦の姿があまりに虚しい。その虚しさは、ムンジウ監督が今のルーマニアに感じているものを象徴しているのでしょうか。(咲)
2016/ルーマニア・フランス・ベルギー/カラー/ルーマニア語/128分
配給:ファインフィルムズ
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/eliza/
★2017年1月28日(土)より新宿シネマカリテ、 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開