2016年05月22日
裸足の季節 原題:Mustang(野生の馬)
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
音楽:ウォーレン・エリス
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、イライダ・アクドアン、ニハル・コルダシュ、アイベルク・ペキジャン
イスタンブルから1000km離れた黒海沿岸の小さな村。13歳のラーレは、10年前に両親を亡くし、祖母のもとで4人の姉たち、長女ソナイ、次女セルマ、三女エジェ、四女ヌルと、独身の叔父エロルと共に暮らしている。
ラーレの大好きなディレッキ先生がイスタンブルに転勤になった日。学校の帰り道、姉妹は海で男の子たちと騎馬戦をして無邪気に遊ぶ。家に帰るとお祖母さんから次々とおしおきを受ける。男の子の肩にまたがっていたことを近所の人が告げ口したのだ。叔父さんも、「傷物になっていたら、どうする?」と激怒。姉妹たちを病院に連れていき処女検査を受けさせる。この日以来、自由な外出を禁じられ、家で花嫁修業をさせられる姉妹たち。
そんなある日、どうしてもサッカーの試合を観たいラーレたちは、家を抜け出しトラブゾンまで行く。ところが、応援席にいる姿がテレビに映ってしまい、お祖母さんは卒倒。もう孫娘たちを結婚させるしかないと強行手段に出る。上から順にと、お見合いの場を設けるが、長女ソナイには相思相愛の相手がいた・・・
自分らしく生きようと羽ばたく少女の姿が実に眩しい!
結婚まで純潔を守らせるために、自由な外出までも禁じる祖母と叔父。ささやかに抵抗する姉妹たち。やがて次々と結婚を決めさせられる姉たち。その姿を見ながら、末っ子ラーレが自由を求めて着々と準備を進める姿の、なんといじらしいこと!
家を抜け出してサッカーを見に行く場面では、イラン映画『オフサイド・ガールズ』(2006年、ジャファール・パナヒ監督)を思い出しました。会場に向かうバスの中から、すでに熱く応援する姿がそっくりでした。でも、イランでは、女性がサッカー場に行くことすら禁じられているので、男装して忍び込むのです。どこの社会でも、禁止されると、それを突破する勇気ある人たちがいるものです。
処女検査といえば、昨年の東京国際映画祭で上映されたイラン映画『ガールズ・ハウス』(2015年、シャーラム・シャーホセイニ監督)で、結婚式前日に処女検査の為に医者のもとに連れてこられたことを知った花嫁が道路に飛び出し事故にあって亡くなるという場面がありました。身に覚えがあって拒否したのではなく、尊厳を傷つけられたからだと思わせてくれるエピソード。
(ちなみに、『ガールズ・ハウス』は、イラン国内での上映を禁止されました。内容が過激だったからか、古臭い因習を描いたからかどうかは不明)
パレスチナ映画『オマールの壁』(2013年、ハニ・アブ・アサド監督)では、オマールが親友のアムジャドから、オマールの恋人であるナディアを妊娠させたと聞いて、ナディアの名誉を守るため、自分の貯金をアムジャドに差し出してまで結婚を急がせます。アムジャドに早産だったことにしろとアドバイスしたり、ナディア本人に妊娠したのかと尋ねたりしないのも、彼女のことを尊重しているから。
また、イスラーム圏の映画でよくあるのが、初夜を過ごした翌朝に血のついたシーツを処女の証に見せる光景。『裸足の季節』でも、次女セルマが初夜に血が出なかったと、医者に連れて行かれる場面があります。医者に「世界中の男と寝た」と豪語するセルマ。小気味いい場面です。
出来ちゃった結婚を隠すこともない、今の日本からみると、ものすごく古臭い考えのように思えます。でも、世界には、婚外交渉を認めない社会も存在するのです。
デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督は、トルコ生まれ、フランスやアメリカで育ち、パリで映画を学び、現在フランス在住。公式サイトにあるインタビューに、「トルコに毎回帰国するたびに、驚くほどの閉塞感を感じます。女性であることに関するすべてが、絶えず性的なものに落とし込められているのです。(中略)女性を家事にだけ従事させて子供を生産する機械に貶めるという社会的思考も現れています。トルコは1930年代という早い時代に女性に参政権を与えた国の一つだったのに、哀しいことです」とあります。
いろいろな形で自由を奪われている女性たちに向けて、勇気を与える映画を作った監督の原点を感じさせてくれる言葉です。ぜひ公式サイトでインタビュー全文をお読みください。
トルコは、宗教的に保守的で伝統的な価値観を持って暮らしている人もいれば、西洋的な生活をしている人もいるという二極化した社会。さて、この映画、トルコでそれぞれの立場の人にどう受け止められたのか気になるところです。(咲)
2015年/フランス・トルコ・ドイツ/97分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/hadashi/
★2016年6月11日(土) シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
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