2016年04月10日
緑はよみがえる 原題:torneranno i prati
監督:エルマンノ・オルミ (『木靴の樹』
撮影監督:ファビオ・オルミ
出演:クラウディオ・サンタマリア、アレッサンドロ・スペルドゥティほか
1917年冬、第一次世界大戦下の北イタリア、アジア―ゴ高原。雪深い山の尾根でナポリ民謡を歌うイタリア兵。鉄条網の向こうの塹壕の中からオーストリア兵がアンコールの声をかける。束の間の停戦のひと時。お互い塹壕の中で出撃命令を待っている。
鼠の走る劣悪な塹壕。唯一の楽しみは、家族や恋人からの手紙。カンテラの灯を頼りにむさぼり読み、返事を綴る兵士たち。
ある日、少佐が若い中尉と共に司令部の命令を携えてやってくる。通信が傍受されているので新たなケーブルを引けというが、山の起伏を考慮せずに地図に線を引いただけの理不尽な計画。大尉は命令を受けられないと軍位を返上する。後を任されたのは若い中尉。命令を果たすべく塹壕から出た兵士たちが狙撃兵にやられる。
「犠牲者の遺体は、雪の中にまとめて葬るのでなく、一人一人名前を確認して」と声がかかる。せめてもの礼儀。母への手紙に「生き延びた者も目にした死を忘れられない」と認める若い兵士・・・
本作は、83歳になるオルミ監督が、少年時代に父からよく聞かされた戦争のつらい体験を映画にしたもの。19歳で従軍した父は多くの死を目の当たりにし、そのことが一生忘れられなかったという。
「敵は鉄条網の向こうにいるのではない、理不尽な命令をぬくぬくとした部屋から発している上層部こそ戦地に送られた若者たちの敵だ」という言葉も、まさにそうだと心に残った。
100年前の戦争は、塹壕に潜んで機を狙ってお互いが殺しあうものだった。現在の戦争は攻撃する側は遠隔操作でボタンを押すだけ。我が身に危険は及ばない。敵の死も直接見るわけでないから心の痛みも少ない。これでは強い者が戦争をやめるはずがない。
戦争とは、人の命を意味なく奪うものであること、そして、いかに人間の尊厳を傷つけるものなのか、市井の人を殺人者にする権力者にこそ観て欲しい映画である。(咲)
2014年/イタリア/80分/1:1.85/5.1ch/DCP
後援:イタリア大使館 特別協力:イタリア文化会館
配給:チャイルド・フィルム/ムヴィオラ
公式サイト:http://www.moviola.jp/midori/
★2016年4月23日(土)岩波ホールほか全国順次ロードショー
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