2016年04月10日
アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち 英題:The Eichmann Show
監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
出演:マーティン・フリーマン、アンソニー・ラパリア、レベッカ・フロント
1961年、イスラエル、エルサレムで行われた《アイヒマン裁判》。
イスラエルの諜報機関は元ナチス親衛隊将校アドルフ・アイヒマンを逃亡先のアルゼンチンで拘束する。ナチスによるユダヤ人撲滅計画(ホロコースト)を推進した責任者であるアイヒマンの罪を問う裁判が4ヶ月にわたって行われた。
米国の若き敏腕プロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)は、いち早くテレビ放映権を獲得する。監督に指名したのは、ロシア移民のドキュメンタリー監督レオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)。ワケありでブラックリストに載って仕事に恵まれないでいたが、マルチカメラを用いたスタジオ放送の草分け的存在だった。法廷の壁を改造して、見えない場所にカメラを設置し、フルヴィッツはフルックマンが集めた精鋭メンバーに撮影の指示を出していく・・・
ホロコーストの実態は、今や皆が知っているが、世界がおぞましい事実を初めて知ったのは、このアイヒマン裁判だった。
本作は、その世紀の裁判を撮影してテレビ放映し、世界にホロコーストの真実を伝えたテレビマンたちの実話を描いたものである。
衝撃的な映像や証言の数々に世界は驚くが、防弾ガラスの壁の中に座るアイヒマンは微動だにせず、淡々と罪状を否定し続ける。変化のない映像に苛立つフルックマンは、「裁判全体を撮れ!」と叫ぶが、フルヴィッツはアイヒマンにフォーカスし続ける。
このせめぎあいに真実を伝えたいという信念をずっしりと感じた。映像はどうにでも捏造できる。ずっとアイヒマンを捉え続けてこそ、表情一つ変えなかったことが事実だと証明できるのだ。報道のあり方を考えさせられたエピソードである。
もう一つ、本作を観て、はっと思ったことがある。
フルヴィッツがイスラエルで泊まった宿の女主人ミセス・ランドー(レベッカ・フロント)は、ホロコーストの経験者。最初、そのことを口にすることはなくフルヴィッツにもぶっきらぼうな態度だったが、裁判が進むにつれ、自らの過去を話し出す。これまではとても信じてもらえなかったおぞましい経験。放送を機に、話す勇気が出たと感謝を述べる。
イスラエルといえば、ユダヤ人のために出来た国。ホロコーストでひどい目にあって生き残り、イスラエルに移民してきた人たちには手厚いフォローがあるものだと思っていた。
昨年、イスラエル映画『ハッピーエンドの選び方』のシャロン・マイモン監督&タル・グラニット監督インタビューした折に、ホロコーストサバイバーへの政府としての施策を伺ったら、「イスラエル政府としてホロコーストサバイバー等は無視してきました。今の政府になって、少し政策を打ち出しましたが、遅すぎるし、あまりに小さな政策です」という回答があって、驚いたのを思い出した。
ユダヤ人政治思想家ハンナ・アレントが、アイヒマン裁判をベングリオン首相がユダヤ人意識を強化する場として利用したと指摘していることも思い出した。
アイヒマン裁判を機に、ホロコーストの実態が明かされても、公的に癒されることはなかったホロコーストを生き抜いた人たち・・・ なんとも虚しい。(咲)
配給:ポニーキャニオン
2015年/イギリス/96分/ カラー/ビスタサイズ
公式サイト:http://eichmann-show.jp/
★2016年4月23日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBIS GARDEN CINEMA他全国ロードショー
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック