2016年02月21日
ディバイナー 戦禍に光を求めて 英題:THE WATER DIVINER
監督:ラッセル・クロウ
出演:ラッセル・クロウ(『グラディエーター』『ノア 約束の舟』)、オルガ・キュリレンコ(『007/慰めの報酬』『オブリビオン』)、ジェイ・コートニー『ダイ・ハード/ラスト・デイ』『ターミネーター:新起動/ジェネシス』、イルマズ・アルドアン
1915年12月、第一次世界大戦下のトルコ。ガリポリの塹壕に潜むオスマン帝国軍が「アッラー アクバル!」と飛び出していく。軍楽隊もちゃんといる。開戦から7ヶ月 ようやく撤退の時期を迎えたのだ。その間、13万人以上の戦死者を出した激戦だった。
1919年、ガリポリの戦いから4年。オーストラリアの乾いた大地で暮らすディバイナー(水脈を探し当てる職人)のジョシュア・コナー。息子3人がガリポリの戦地から帰らぬことに絶望して妻が自殺してしまう。せめて妻のそばに息子たちの骨も埋葬したいとトルコに向かう。コナーは3ヵ月かけてイスタンブルにたどり着き、ガリポリに行こうとするが、許可を取れと埒が明かない。はたして、息子たちは見つかるのか・・・
コナーがイスタンブルの船着場で、客引きの少年に「お湯も出るしドイツ人もいないよ!」と荷物を奪われるようにして連れて行かれたのはこざっぱりした小さなホテル。少年の母である宿の女主人アイシェは、オーストラリア人と聞いて、「部屋はない」という。オスマン帝国にとって、大英帝国の一員であるオーストラリアは敵だったのだ。そばにいた男が「客は選べない」と諭し、泊めてもらうことになる。この男は夫かと思ったら、後の会話で音楽家の夫はガリポリで戦死していて、アイシェを第二夫人にと迫っている夫の兄とわかる。
また、アイシェの父(義父?)が、「昔、皇帝の痔を治した」とつぶやいていて、一家はオスマン帝国時代、いい暮らしをしていたらしい。
どうしてもガリポリに行きたいコナーだが、ギリシャ軍が攻めてきていることもあって許可が下りない。アイシェが「チャナックからダーダネルス海峡を小船で渡ってガリポリ近くのチャナッカレの町に行ける」と教える。「チャナッカレでは7万人が亡くなって町全体が墓場よ。そんな町に行きたい?」とアイシェがいう。
チャナッカレは、1983年に初めてトルコを訪れた時、最初の夜に泊まった町。海辺の佇まいの美しい町にそんな悲しい歴史があったとは・・・
こうしてコナーはガリポリにたどり着くが、イギリス軍からは、許可なく来たので帰れと見放される。途方に暮れるコナーに、「死亡日から場所は推測できる」と手を差し伸べたのはオスマン帝国軍のハサン少佐。オーストラリアから参戦したコナーの息子たちにとっては敵方だった少佐が手助けするという物語に、映画を公平なものにする工夫が感じられる。冒頭、塹壕の中で祈りを捧げていたのはハサン少佐だったのだと思い当たる。
コナーが町を歩いている時に、「イギリスは出て行け!」と叫ぶ民族運動のデモを見かける。やがてハサン少佐は民族運動家達とアンカラでのムスタファ・ケマルの総会に赴く。オスマン帝国が終焉を迎え、トルコ共和国建国へと向かっている時代が垣間見られる映画にもなっていて興味深い。
ハサン少佐役のイルマズ・エルドガンは、ゴバディ監督の『サイの季節』で詩人の妻に横恋慕し仲を引き裂いたアクバルを演じたトルコのクルド人俳優。本作では元敵方の兵士の父を思いやるイイ男だ。
アイシェ役のオルガ・キュリレンコは『007/慰めの報酬』や『オブリビオン』が有名だが、私には『故郷よ』(ミハル・ボガニル監督)で演じたウクライナ女性役が印象深い。本作では、なかなか上手なトルコ語を駆使して奮闘している。
本作は、戦地から帰らぬ息子を探す父親の思いを軸に、戦争で敵だった相手を許す心を描いたラッセル・クロウ渾身の作品。
ブルーモスクで祈りを捧げる人々や、少年の割礼を賑やかにお祝いする光景もあって、トルコの文化も味わえる映画となっていて嬉しい。
一方で、塹壕の中で殺し合い、暗くて敵も味方もわからない状況が語られ、いかに戦いが虚しいものかも思い知らされる。(咲)
2014年/オーストラリア・アメリカ・トルコ/英語・トルコ語・ギリシャ語/111分/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル
提供:日活
配給:東京テアトル
公式サイト:http://diviner-movie.jp
★2016年2月27日(土)有楽町スバル座ほか全国順次ロードショー
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