2015年10月04日

光のノスタルジア   原題:Nostalgia de la luz

hikarino nostarsia.jpg

監督・脚本:パトリシオ・グスマン
プロデューサー:レナート・サッチス
撮影:カテル・ジアン
編集:エマニュエル・ジョリー
天文写真:ステファン・ガイザード
製作:アタカマ・プロダクションズ

チリ北部、アタカマ砂漠。太平洋とアンデス山脈の間、標高3000メートルに位置し、空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まっている。パラボラアンテナが並ぶ様は圧巻である。一方、砂漠には、2000年以上前の村の廃墟や、19世紀の鉱夫たちがそのままにした列車も残る。また、ピノチェト独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもある。天を仰ぐ学者たちのかたわらで、行方不明の肉親の遺骨を探して地を掘り返す女性たちがいる・・・

息を呑むような美しい映像と裏腹に、語られるのは、あまりにも悲しい独裁政権下で犠牲になった人たちと、その家族の物語。
チリでは、1970年の大統領選挙でサルバドール・アジェンデが当選。世界史上初めて、選挙によって社会主義政権が成立する。アジェンデ大統領は、銅産業の国有化など様々な改革政策を実施するが、保守派は反発。銅企業を無償接収された米国の後押しもあって、1973年9月11日、軍事クーデターでピノチェト政権が成立し、アジェンデ派は徹底的に弾圧された。本作で描かれるアタカマ砂漠の強制収容所はその象徴である。19世紀の硝石工場の宿舎を利用した収容所内では、学者が天文学の講義を行い、人々は星を眺めて心にせめてもの自由を得たという。だが、星座を頼りに逃亡するのを恐れて、軍は天文学の講義を中止させたそうだ。
独裁政権下で行われた暗殺の60%が未解決だという。本作と同時に公開される『真珠のボタン』では、南のパタゴニアの海に沈められた人たちのことが描かれる。
グスマン監督自身、1973年のクーデター直後、サンチャゴのナショナル・スタジアムに2週間監禁され、その後、出国した経験を持つ。
チリの暗黒の時代を、かくも美しく描いた監督。犠牲になった方々への深い思いを感じさせられる2作品を続けさまに観て、指導者の資質がかくも多くの人々の人生を変えることに胸が痛んだ。(咲)


2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀作品賞を受賞
映画祭上映時タイトル:『光、ノスタルジア』

2010年/フランス、ドイツ、チリ/16:9/90分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:http://uplink.co.jp/nostalgiabutton/
★2015年10月10日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開
posted by sakiko at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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