☆インドネシア大特集+注目の作品(東南アジアを中心に)
インドネシア映画の特集上映では[マジック☆インドネシア] として公式招待作2本をふくむ全8本、今までの国内で最大規模の特集上映が組まれている。
巨匠ガリン・ヌグロフから、リリ・リザの初期作品、世界の映画祭で活躍する30代の若手までインドネシア映画の歩みも伺える、幅広くユニークでそして貴重なセレクションだ。
アジアフォーカスでは近作がほぼ毎回上映されているリリ・リザ、昨年の最新作『ジャングル・スクール』(14)は観客賞に輝いた。
今回の監督作はインドネシア・ニューシネマ初期の作品『シェリナの大冒険』(00)と、『クルドサック』(98)の2本。前者はお転婆なジャカルタからの転校生の少女が主人公の大ヒット長編デビュー作、後者はスハルト体制崩壊の後、国内映画界も困難に直面していた頃、リリ・リザ、ミラ・レスマナら4人の若手の監督がそれぞれの感性で撮られた短編が、大都市の片隅で映画や音楽などそれぞれの夢を追って苦悩する物語の流れを紡ぎ当時の社会の閉塞的(クルソダック=行き詰まりの意味)雰囲気を描いている。この時期は映画人自身がインドネシア映画界を盛り上げるべく、若手監督の自主上映企画等地道な努力を開始した時代でもある。
数年前、筆者は運よくジャカルタで、ずいぶん年季の入ったフィルム上映で『シェリナの大冒険』と二作目『アリアナ、アリアナ』を見る貴重な機会に恵まれた。後者はデビュー作とは打って変わって大都市ジャカルタの孤独な母と子の物語。夜のシーンが美しいアート色の強い作品だ。
インドネシアの映画公開システムは独特のものがあって、いわゆる公式チャート等は無く、街の映画館の集客数?でざっくりと公表される。商業作ではホラーやゴースト、恋愛ものが多く、日本人がぱっと思うようなアジア最大のイスラム教徒人口のインドネシアの一般的イメージからは大分開きがある。もっとも国際映画祭に出品されるようなアート系やヒューマンドラマも、検閲の制限はありながらも、多彩なテーマの作品が次々に撮られている。インドネシアのもつ多様性と寛容性は豊富な映画の滋養となっているに違いない (例えばリリ・リザ監督『GIE』(05)は60年代の華人系の学生運動家が主人公で、スハルト体制以前は絶対のタブーだったテーマ。) もっとも、今でも国内一般公開では国内向け別バージョンや検閲によるカット、封切り後、主にモラルに接するとしてイスラムの宗教団体からの圧力により中止等も時折あるようだ。当時は典型的な’やんちゃな’自身の学生時代の日常生活がモデルと言うリリ・リザ監督『永遠探しの3 日間』では国内公開版は「大胆(ずたずた) に」カットされたと、映画祭来日時語っていた。
ジャカルタ等大都市では、やはり現在はシネコン中心で、映画市場は国産外国映画共にこの数年で急速に増加している。ましてや総人口2億5000万に達しようかという多民族・文化のインドネシアが今世紀アジアの映画大国になるのは不思議では無い。一方ガリン・ヌグロフ監督は、詩的で時にアート性が難解とも言われ興行的には難しい作品もあるが、広大なインドネシア各地、諸島を巡る学校や地方コミュニティ上映のネットワークも確立していて、民族・社会性が高いナイーブな作品を丁寧に巡回上映して、継続して動員を獲得していると言う。
『動物園からのポストカード』
『空を飛びたい盲目のブタ』
彼らの次の世代として、インディペンダントなスタイルでスタートし、短編からカンヌ、ベルリンと世界の映画祭で注目され評価を高めていったのが、エドウィン監督。78年、インドネシア第二の都市スラバヤ生まれの華人系インドネシア人という背景は、その比類なきユニークな、特にシュールで不思議な映像の世界を生んだ素地になっている。今回の『動物園からのポストカード』と言い、デビュー作『空を飛びたい盲目のブタ』と言い、寓話的て錯綜するストーリーの中で、どこか自分のアイデンティティーや社会の立ち位置に不安をもつ登場人物が模索・妄想し、もがく?姿が風刺の効いたユーモアで描かれるのだ。
今回のオープニング作品『黄金杖秘聞』はスンバ島の雄大な自然を舞台に、インドネシア伝統武術の伝承を巡る弟子たちの激闘の物語。リリ・リザとミラ・レスマナが製作したインドネシア版ブロック・バスター映画。
ジャワ島〜東南亜地域で6世紀頃から伝承されている伝統武術プンチャック・シラットは『ザ・レイド』のヒットで世界的に認識され、インドネシア国内でも再発見された映画ジャンルとなり新たな観客・ファンを呼び込んでいる。
『黄金杖秘聞』では、初の試みとして日本アニメ会社現地法人とのコラボでコンテンツ(公式グッズ、フィギア、ケーム等)を展開するとの事。
ところで主役の一人であり、今回映画祭ゲストとして来日するコニラス・サプトラは、既に数多くのリリ・リザの作品(『GIE』『永遠探しの3 日間』)やインドネシア映画として日本初の一般公開作であり主演・デビュー作『ビューティフル・デイズ』でもおなじみ。当時はまだ建築専攻の大学生、ドイツ人の父とジャワ人の母を持ちいわゆるハーフタレントのアイドルとして一躍スターとなったが、インドネシアの多様性そのままに多彩な役をこなし(華人の学生運動家/GIE、信仰深いイスラム青年、フィルムを運ぶバイク便の兄ちゃん・・etc)俳優として成長し、またMCや映画祭審査員、広告等である種の文化人としてのステータスも確立している。実はエドウィン作品には短編から参加していて、『動物園からのポストカード』では動物園育ちのヒロインを外の世界に連れ出す謎の手品師というはまり役?を演じている。実はエドウィン作品のヒロイン、ミューズとも言えるラドヤ・シェリルとは『ビューティフル・デイズ』で共演している。若い世代のインドネシア映画人はジャンルを超えて結びつきが密接なようだ。
インドネシア特集の一環で来日するジェコ・シォンポのJeckoSDANCE。
パプア州(パプアニューギニア州の西半分インドネシア領)出身のジェコは、『オペラジァワ』でも踊っているが、その持ち味は’アニマル・ポップ’と自ら名づけたパプアの民族的バックグラウンドとヒップホップとコンテンポラリーダンスのスタイルを自由自在にフュージョンしたストリートなダンス。ジェコのダンスグループは街の兄ちゃんお姉ちゃんが家族のように団結している。ジャカルタではテレビや野外イベントでもしょっちゅう見かけるほど親しまれている存在。インドネシアの都市ポップカルチャーの今を体現する比類ないアイコンと言える。
アジアフォーカスの上映作品も沢山、’アジア映画の玉手箱’
(以下アーカイブ等について)
25回目を迎えたアジアフォーカスだが、多くの上映作品が福岡市総合図書館のアーカイブに収容されている。映像ホール・シネラで映画祭の過去作品を地域や監督テーマで特集上映もたびたび組まれている。福岡在住のアジア映画ファンが非常に羨ましい点です!!
今年は2〜3月にかけ東京・フィルムセンターでも、数年に一度のアジアフォーカス作品を中心としたアーカイブからのセレクション上映が組まれた。
筆者的には、特に映画祭常連のベトナムのダン・ニャット・ミン監督の唯一未見だった中越戦争時代国境の町ランソンを舞台とした劇映画デビュー作『射程内の街』(82)と、記念すべき第一回アジアフォーカスで上映された『十月になれば』(84)を再び鑑賞出来た。前者は中国との関係を配慮して長く国外上映が許されていなかったと言う。後者は観たベトナム人のおそらく誰しも?が涙を流さずには居られない、心の故郷的な作品だそうだ。
抑制の効いたトーンながら、特にベトナム女性、ベトナム人の生き様、感性を美しく、時には音楽や踊りを幻想的に構成して織り成す ヒューマニティ溢れる映像世界はデビュー作から確かに見て取れる。監督本人が当時の(実在の人物)赤旗ハノイ駐在記者役で出演しているのも興味深い。『きのう、平和の夢を見た』は09年の観客賞に輝いた。従軍看護婦の日記が原作。(翻訳『トゥイーの日記』)
今年「あなたが選ぶアジアフォーカス ザ・ベスト」に選ばれたパキスタンのショエーブ・マンスール監督『神に誓って』(07)と『BOL 〜声をあげる〜』(11)は、正に’ザ・アジアフォーカス’な監督、作品。共にアジアフォーカスでプレミア国内プレミア上映、観客賞受賞している。
アジアフォーカスな(初めて紹介した、特集した)監督、各国の作品は本当に沢山あるが、東南アジアでは第二回のベトナム映画特集ではじめて英語字幕つきの6本のニュープリントが、その後世界の多くの映画祭を巡回した。
またペン・エーク監督のデビュー作『ファン・バー・カラオケ』(96)、同じくオキサイド・パン『運命からの逃走』(97)、実は彼ら新世代を映画祭に紹介したのがやはり映画祭の顔だったタイの巨匠故・チャード・ソンスィー監督だった。
気になる監督・国/地域の過去の上映作品情報はこちらからチェックできます。
(関連企画のアジア美術館・アジア賞等の作品も含む。)
またアジアフォーカスでは福岡・九州に関連(ロケ地やテーマ)した作品が毎年上映されているが、昨年では佐賀全域でロケを敢行したノンスィー・ニブミット監督『タイムライン』、福岡フィルム・コミッションの支援により市内女子高校で撮影された杉野希妃プロデュース・主演のセンシティブなテーマの作品『SALA(アジアフォーカスプレミア上映タイトル/禁忌』も印象的な作品だった。
今年上映されるフィリピン映画『インビジブル』は、12年に『Amok』が上映されたローレンス・ファハルド監督が福岡、旭川とロケーションして在住フィリピン人のサバイバルな生き様を描いている。アジアフォーカスの先輩格でもあり、世界三大映画祭の受賞監督ブリランテ・メンドゥーサの総指揮、国際交流基金アジアセンターのサポートで完成した大注目の作品である。
☆福岡でのアジア各国からのロケ作品等、情報がアップされています。
東南亜のカルチャー街角や田んぼあたりを逍遥継続中。
by Maco(Mali)Studioscentcat