インド映画界の巨匠サタジット・レイ。1921年インド・カルカッタ(現コルカタ)生まれ、1992年没。日本では、岩波ホールで公開された「オプー三部作」と言われるベンガルを舞台にしたリアリティ溢れる『大地のうた』(1966)『大河のうた』(1970)『大樹のうた』(1974)の3作が特に有名です。映画監督だけでなく、小説家、音楽家、グラフィックデザイナーなど、多才な才能をもつサタジット・レイ。映画も社会派作品だけでなく、ミュージカル、SFからドキュメンタリーは、まで幅広いジャンルを手がけています。
この度、サタジット・レイ監督デビュー60周年記念として、中期の代表作『チャルラータ』と『ビッグ・シティ』のデジタルリマスター版が同時上映されます。いずれも大女優マビド・ムカージーが主演。『チャルラータ』は、1975年の日本公開から40年ぶりのリバイバル上映。同時上映される『ビッグ・シティ』は、1976年に『大都会』のタイトルで日本公開された作品です。ベンガルを舞台にした魅力溢れる重厚な作品を是非スクリーンで味わってみてください。
◆『チャルラータ』 原題:CHARULATA
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
原作:ラビンドラナート・タゴール
出演:マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージほか
配給:ノーム、サンリス
1964年/インド/119分/B&W/ベンガル語/DCPリマスター
1880年、カルカッタの瀟洒な大邸宅。刺繍をして過ごすチャルラータ。夫ブパチは、新聞を発行して国家に尽くすと息巻いていて仕事に忙しく、妻をかまおうとしない。何不自由ない暮らしだが、なにか物足りない日々だ。そんなある日、夫の従弟のアマルが大学の休暇で訪ねてくる。詩を詠み、文学に詳しいアマルと過ごす至福の時。アマルもまた、チャルラータの文才に気付き、ほのかな思いを寄せるようになる。そんな折、新聞社の経理を任されていたチャルラータの兄が会社の金を持ち逃げしてしまう。夫はチャルラータには言えずにいる。このことを契機に夫とチャルラータとアマルの3人の関係に変化が訪れる・・・
裕福だけど心が満たされない女性の思いを丁寧に描いた作品。一昔前は、女性に知識は不要と学ばせて貰えない時代がどこの社会にもあったことを教えてくれます。そんな中でも、詩や文学を学び、自分でもたしなむ試みをするチャルラータ。そして、その才能を引き伸ばしてあげようとするアマル。夫ブパチは、妻の文才を人から知らされたと呆然とします。「あなたに言う時間もなかったわ」というチャルラータ。夫婦の会話の時間もないほど、夫は仕事一筋だったのですね。この夫婦、この先どうなるのでしょう・・・
ベンガルの誇るタゴールの原作の詩的な世界をみごとに体現していて、うっとりさせられました。「オプー三部作」の、どちらかというと暗いイメージと違って、華麗な感じ。それは富裕層を舞台にしているからかもしれませんが、サタジット・レイ監督の力量を存分に感じさせてくれます。こんなに重厚な作品を観てしまったら、最近の映画がなんだか薄っぺらくみえてしまいました。もちろん、今も良質な作品は作られているのですが・・・ (咲)
◆『ビッグ・シティ』 原題:MAHANAGAR
(1976年日本公開タイトル『大都会』
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
原作:ナレンドラナート・ミットラ
出演:マドビ・ムカージー、アニル・チャタージーほか
1963年/インド/131分/B&W/ベンガル語/DCPリマスター
1953年のカルカッタ。病気の父親を抱えながら、しがない稼ぎしかない銀行の係長であるシュブラトを夫に持つ妻アラチは、あまりにも苦しい家計をみかねて働きに出ようとする。まだ主婦が外で働くことが一般的でない時代。同居する夫の父の制止を振り切って、上流家庭に編み機を営業して回るようになる。はじめは苦労するものの、やがて営業の才能を発揮するアラチは、次第に自信を身につけていく。そんなアラチの姿を、夫である面目を保てず、内心気が気でなく見つめるシュブラト。
2人の関係にも次第に変化が生じてきていた。そんなある日、シュブラトの銀行が倒産してしまい...
配給:ノーム、サンリス
公式サイト: http://www.season-ray.com/
★2015年9月12日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー