2015年07月25日
それでも僕は帰る 〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜 原題:Return to Homs
監督:タラール・デルキ
2011 年に始まった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動の波。
シリアでも「シリア革命の首都」と呼ばれた街・ホムスで、2人の青年が立ち上がった。
一人は、サッカーのユース代表チームでゴールキーパーとして活躍し、将来を嘱望されていた当時19歳の青年バセット。歌うことで平和を訴え、そのカリスマ性から若者を惹きつけ、民主化運動のリーダーになっていく。もう一人、彼の友人で、市民カメラマンである24歳のオサマ。撮影したデモの様子をインターネットで公開し、民主化運動を広げようとしていた。非暴力で抵抗運動を先導していたが、2012年2月、政府軍の攻撃によってホムスの市民170人もが無差別に殺害されたのを機に、バセットと仲間たちは武器を持って戦い始める・・・
外国人ジャーナリストが容赦なく排除されているシリア。本作は、シリア人であるタラール・デルキ監督が、2011年の夏から反体制派の拠点のひとつであるホムスで二人の青年を追い続けてきたもの。内側からだからこそ撮れた映像には、政府軍の理不尽な攻撃の様子が映し出されている。女性や子どもも、銃で撃ったあと、とどめに剣を突き刺すという惨い行為に、もう、言葉もない。そして、廃墟と化したホムスの街。
アサド大統領の独裁のもと、シリアの市民は生きる権利すら奪われていることを、本作はひしひしと伝えてくれる。想像を絶する惨状に、観終わったあと、自分が平穏に暮らしていることが申し訳なくなった。将来の夢も捨てて抵抗運動に身をやつすバセットとオサマ。彼らの、「この映像を観て、国際社会がなんとか動いてほしい」という言葉を伝えるしか、私にできることがないのが虚しい。
バセットたちが、「我々はハーリドの子孫」と語る姿が数回でてきた。ウマイヤ朝時代の武将ハーリド・ビン・ワリードを、自分たちの誇りとしていることを知り、アサド大統領が歴史も伝統も踏みにじっていることへの抵抗の源なのだと思った。
シリアには、昭和63年の秋に訪れたことがある。ダマスカスのウマイヤモスクも、アレッポの伝統あるスークも、今やどの程度原型を留めているのだろうという状態。いつかまたゆっくり訪れたいと思っていたけれど、こんな旅人の夢は叶わなくても、シリアの人々が心安らかに暮らすことのできる日が来ることを願ってやまない。(咲)
◆トークイベント◆
8月1日(土)
朝日新聞、現ニューデリー支局長・前中東特派員 貫洞欣寛さん
国境なき医師団日本 白川優子さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/448
8月2日(日)
フォトジャーナリスト 川畑嘉文さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/412
8月8日(土)
TRANSIT 編集長 加藤 直徳(かとう・なおのり)
http://unitedpeople.jp/homs/archives/510
8月23日(日)
シリア支援団体サダーカ 代表 田村雅文さん
http://unitedpeople.jp/homs/archives/421
*サンダンス映画祭2014 ワールド・シネマ ドキュメンタリー部門 グランプリ
国際共同制作:Proaction Film / Ventana Film / NHK / SWR / SVT / TSR / CBC 他
シリア/2013年/89分/アラビア語/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:http://unitedpeople.jp/homs/
★2015年8月1日( 土)より渋谷アップリンク、中洲大洋映画劇場他にてロードショー!
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック