2015年03月22日

パプーシャの黒い瞳   原題:Papusza

papusha.jpg

監督:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演:ヨヴィタ・ブドニク、ズビグニェフ・ヴァレリシ、アントニ・パヴリツキ

ポーランドの女性詩人ブロニスワヴァ・ヴァイス(1910-1987)の物語。
文字を持たないジプシーの一族に生まれた彼女は、愛くるしさから“パプーシャ(人形)”の愛称で呼ばれて育つ。幼い頃から、言葉に惹かれ、文字を学びたいと願う。やがて詩を詠み、ジプシー女性として初めての詩人となる。
父の意向で年のはるか離れたジプシー音楽家と結婚。詩人イェジ・フィツォフスキが秘密警察に追われ、逮捕から逃れるためジプシーに匿ってもらおうと彼女の夫のところにやってくる。イェジ・フィツォフスキはパプーシャの詩人としての才能に気づく。フィツォフスキの逮捕状が取り下げられ、彼女のもとを去るが、彼は彼女の詩を出版する。しかし、そのことで彼女は古くから伝わるジプシーの秘密を外部にさらしたとして、ジプシー社会から追放される・・・

パプーシャが生きた時代のポーランドは、第二次世界大戦をはさみ、激動の時代。ポーランドの現代史を背景に、ジプシーの女性がたどった運命が、モノクロの美しい映像と、ジプシーの切ない音楽で語られる。
文字を持たない社会に生まれた彼女が、なんとか文字を学びたいと努力する姿が素晴らしい。一方で、ジプシーの人たちが波乱の歴史の中で被った運命を知り、涙。(咲)
4/12追記:
ジプシー(ロマ)の人たちが、インド西部から世界に散らばり、ヨーロッパ各地にもいることは知っていたのですが、ポーランドにも多くのジプシーの人たちがいることを知ったのは本作を通じてのことでした。
『ジプシー・キャラバン』(2006年)のジャスミン・デラル監督にインタビューした折に、「流浪して千年以上経っていますが、言葉に共通項は?」と伺ったら、「もちろん! 各地で変化はしているけれど、ロマ語がきちんと話されています。インドのサンスクリット系の言葉。私自身インドを知っているので、聴いた感じでわかります。あと、すべてのロマの人たちに共通するのが、老人を敬うこと。これは、欧米に比べものにならないですね。伝統的に、なによりも家族が最優先。No.1以上。No.1から2、3、4、5まで、とにかく家族が一番。女性はその中で順列があるけど、特定の女性は敬われていて、母親は特に敬われています。女性が映画監督になろうだとか、議員になろうだとかいったことは大変。ロマの女性が社会進出をするのはかなり難しいことですね」と答えておられました。パプーシャが詩人として認められるにいたったのは、大変なこととあらためて思います。
「世界中のロマの人たちが、いろいろなチャットルームを作っていて、共通のロマ語で会話しています」ともおっしゃっていて、住む場所が違っても、口伝えで言葉が連綿と繋がっていることを感じました。
インタビュー記事はこちら
http://www.cinemajournal.net/special/2008/gypsycaravan/index.html
ウルドゥー文学研究者の麻田豊氏も、「『パプーシャの黒い瞳』は全編を通してほぼIndic語派のロマニー語で語られるが、案の定いくつかのヒンディー/ウルドゥーと共通する単語が聞き取れた。pani, dekh, sunなど」とおっしゃっている。もう一度、ちゃんと台詞を聴きとりしなくちゃ!(咲)


この作品を観て、あまりにジプシーのことを知らないのに気づいて愕然としました。流浪の民、長いスカートとスカーフ、音楽と占いなどなど、昔少女マンガで得た印象から少しも増えていないのです。実在の女性詩人の一生に、胸を痛めながらもなぜ?と思うことも多く、わからないことばかり。
プレスに紹介されていた「立ったまま埋めてくれ―ジプシーの旅と暮らし」(イザベル・フォンセーカ著くぼたのぞみ訳/1998年青土社刊/430p)を図書館で探して読み、やっとおぼろげながら納得しました。言語や慣習など独自の文化を頑なに守ってきた民族であることが詳細に綴られています。大戦時に虐殺されたジプシーの人々もかなりの数にのぼったこと、各国で受け入れられず辛酸をなめてきたこと、今も差別の根は存在していることがわかりました。著者はユダヤ系アメリカ人の女性で、実際に彼らと暮らして言葉を学び、東欧諸国を旅した上で書かれたというのにも感銘を受けました。この本の最初の章がパプーシャについてなのです。映画の前でも後でも楽しみを損なうことはありません。より深く理解するのに役立ちます。(白)


配給:ムヴィオラ
後援:ポーランド広報文化センター
2013年/ポーランド/ロマニ語&ポーランド語/2時間11分/モノクロ/1:1.85/5.1chデジタル/DCP
公式サイト:http://www.moviola.jp/papusza/
★2015年4月4日より、岩波 ホールほか全国順次公開
posted by sakiko at 10:48| Comment(0) | TrackBack(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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