2014年03月01日

チスル  英題:Jiseul

監督・脚本:オ・ミヨル
出演:ヤン・ジョンウォン、イ・ギョンジュン、ソン・ミンチョル、ホン・サンピョ、ムン・ソクポン、パク・スンドン、カン・ヒ

歴史から抹殺された韓国現代史最大のタブー

1948年年4月3日、南北に分割統治されていた朝鮮半島で、米国が後押しする南朝鮮だけの単独選挙に反対して、済州島の一部島民が武装蜂起する。分断国家誕生を認めることになるからだ。それに対し、米軍と韓国軍は、「海岸線5Km以外にいる人間は暴徒と見なし、無条件で射殺する」という焦土作戦を実行する。弾圧は1954年まで続き、3万人以上が無差別虐殺の犠牲になった。この「済州四・三事件」の悲劇を描いたのが本作である。

 
冒頭、祭事に使う道具が床に散らばっている。監督は、本作を事件の犠牲者や残された方への供養となる映画にしたいと、韓国の祭事方式に沿って、神位、神廟、飲福、焼紙の四つの場面で描いている。

 
<神位>(シンニィ=魂を祭る)
“霊魂を呼び起こす”という意味。映画では、194811月に戻り軍人から村人までを現在に呼び戻す。
<神廟>(シンミョ=魂がとどまるところ)
当時の生き様と彼らが死に至るまでの過程を見せる。
<飲福>(ウンボク=魂が残した食べ物を分け合って食べること)
ムドンの母が軍人に殺害され息絶える時に抱えたジャガイモを洞窟の中の人々が分け合って食べる場面とも一脈相通ずる。
<焼紙>(ソジ=神位を焼きながら唱える願い)
カメラは巫女となり、理由なく逝かれた罪のない人々の魂を慰める。65年ぶりに彼らの存在に目を向けその恨(ハン)を少しでも取り除こうという思いである。紙を燃やし供養をする事で祭事を終える。 
jiseul.jpg
(C) 2012 Japari Film

タイトルの「チスル」は、済州方言でじゃがいものこと。ハルモニ(老婆)が穴に潜む人々や兵士にじゃがいもを分け与える場面がある。ハルモニが燃やされた家屋に残ったじゃがいもを持って来て、皆で泣きながら食べた話を知った監督が脚本に入れ込んだものだ。

モノクロのシュールな映像。静かな中に激しさを秘めた映画である。
兵士たち自身が、島民に銃を向ける理由がわからず苦悩している姿から、虚しい焦土作戦であることは、しっかり伝わってきた。が、事件に至る経緯について説明が少なく、わかりづらい。映画を観た後でもいいので、ぜひ公式サイトなどで事件の歴史的背景を確認いただければと思う。

一昨年、済州島に旅した時、帰りの空港で「済州四・三平和記念館」のリーフレットを見て、初めて事件のことを知った。詳細を知りたいと思いつつ、時が過ぎ、『チスル』に出会った。
米国が、自国の主義に反攻する「危険人物」が潜んでいることを理由に攻撃し、多くの無実の庶民を犠牲にする行為は、世界各地で見られる。それが済州島でも起こっていたことを今になって知った。どんな理由があっても、武力で解決することはあってはならないと憤りを感じる。(咲)

◎受賞
2013 米サンダンス映画祭 ワールドシネマ・グランプリ受賞
2013 仏ヴュソル国際アジア映画祭 ゴールドサークル賞受賞
2012 韓国釜山国際映画祭 4部門受賞
(ネットパック賞、市民評論家賞、韓国映画監督組合賞、CGVムービーコラージュ賞)

配給:SUMOMO 配給協力:太秦/ユーロスペース
2012年/韓国/108分/B&WDCP5.1ch

公式サイト:www.u-picc.com/Jiseul
2014329日より ユーロスペースほか全国順次ロードショー

posted by sakiko at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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