2018年12月09日
輪違屋糸里 京女たちの幕末
監督:加島幹也
原作:浅田次郎
脚本:金子成人、門間宣裕、加島幹也
撮影:江原祥二
音楽:平原誠之
出演:藤野涼子(天神糸里)、溝端淳平(土方歳三)、松井玲奈(吉栄)、佐藤隆太(平山五郎)、田畑智子(お梅)、塚本高史(芹澤鴨)、石濱朗(隠居)、榎木孝明(松平容保)
幕末の京都島原。遊郭の輪違屋(わちがいや)で働く糸里(いとさと)。姉のように糸里を可愛がってくれた音羽太夫が新選組筆頭局長 芹澤鴨に無礼打ちされてしまった。理不尽な制裁に怒りがおさまらない糸里たちだったが、武士の力の前に屈するしかなかった。
その場を収めたのは切れ者の新選組副長・土方歳三。新選組には農民出身の近藤勇と、生まれながらの武士の芹澤鴨という二人の局長がいて両派は対立を深めていた。糸里は土方歳三を秘かに慕い、糸里と仲の良い芸妓吉栄は芹澤の腹心の部下、平山五郎と恋仲だった。そして芹澤鴨の愛人お梅。男たちの抗争に女たちも巻き込まれてゆく。
浅田次郎の同名小説が原作。これまで数多くの新選組のドラマが発表されてきましたが、男性中心のものが多かったですね。この原作は、彼らに関わった数人の女性の目線で書かれたもので、とても面白く読みました。主演の天神糸里を『ソロモンの偽証』(2015)で1万人の中から映画未体験ながらヒロインに選出された藤野涼子。役名をそのまま芸名にしています。花街で生きねばならない女の哀しさと強さを体現していて、すっかり大人の女優になられたんだなーと、またまた遠縁のおばちゃんのような思いで観ていました。(白)
2018年/日本/カラー/シネスコ/116分
配給:アークエンタテインメント
(C)2018 銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会
http://wachigaiya.com/
★2018年12月15日(土)有楽町スバル座ほか全国順次ロードショー
春待つ僕ら
監督:平川雄一朗
原作:あなしん
脚本:おかざきさとこ
撮影:小松高志
音楽:高見優
主題歌:TAOTAK
出演:土屋太鳳(春野美月)、北村匠海(浅倉永久)、小関裕太(神山亜哉)、磯村勇斗(若宮恭介)、杉野遥亮(多田竜二)、稲葉友(宮本瑠衣)
春野美月は、これまで友達ができず一人寂しい思いをしてきた。高校入学をきっかけに自分から働きかけるように努力するが、なかなか「ぼっち」から抜け出せない。バイト先のカフェが唯一の自分の場所だった。ある日そのカフェに、バスケ部のイケメン四天王とよばれている1年の永久(とわ)、瑠衣、2年の恭介と竜二がやってくる。くったくのない彼らは美月を仲間に引き込んで、なにかと一緒にすごすようになる。そんな美月を幼馴染の亜哉(あや)が見守っていた。亜哉はアメリカに留学し、バスケの超有名選手となって戻ってきていた。
イケメンのスポーツ選手と引っ込み思案の女子、そこへ幼馴染がからんでくるという青春王道もの。人気の若手が揃ったこのメンツ、「え、高校1、2年生かい!」と突っ込みました。いくら制服が強力アイテムとはいえ、高校3年でも大学生の設定でもいいんじゃない?同名原作漫画(絵柄が可愛い。累計380万部突破!?すごい)がそうなのですが、もっと年齢相応の役をやらせてあげたいです。ちょうどの、もっと若手はいないのか?
とはいえ、おくてな美月と天然の永久、戻ってきた幼馴染の亜哉との今後が気になるストーリーです。このメンバーで続編ができるのでしょうか?なんやかや言いましたが、やっぱり先が観たいです。(白)
2018年/日本/カラー/シネスコ/109分
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)あなしん/講談社 (C)2018 映画「春待つ僕ら」製作委員会
http://wwws.warnerbros.co.jp/harumatsumovie/
★2018年12月14日(金)ロードショー
マチルダ 禁断の恋 原題:Mathilde
監督:アレクセイ・ウチーチェリ
出演:ラース・アイディンガー、ミハリナ・オルシャンスカ
ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世と、伝説のプリマドンナ、マチルダとの許されない恋。
1890年代後半のサンクトペテルブルグ。ロシアで約300年続いたロマノフ王朝の次期王位継承者ニコライ2世。ある日、帝国旅団のための競技会の見物に来ていたバレエ団一行の中の一人に、ニコライ2世の目は釘付けとなる。その美しいバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤと瞬く間に恋に落ち、二人は逢瀬を重ねる。だが、ニコライ二世は、王位継承者として、ヴィクトリア女王の孫娘、ヘッセン大公女アリックスとの結婚を受け入れるしかなかった。しかし、マチルダへの思いを断ち切れず、彼女のもとに戻ろうと決意する。マチルダに片思いし、執拗に追いかけているヴォロンツォフ大尉は嫉妬に狂い、ニコライ二世の目の前でマチルダの乗ったボートに火を放つ。マチルダが亡くなったと思い込んだニコライ2世は、王座につくことを受け入れ、戴冠式に臨む。そこに、マチルダが現われる・・・
ロシア最後の皇帝とバレリーナの恋のことを、本作を通じて初めて知りましたが、ロシアでは皆が知っている事実。ロシア革命で、ニコライ2世は銃殺され、殉教者として聖人となったことから、映画製作中に聖人のスキャンダルを描くことに対して抗議の声が女性国会議員からあがったそうです。
サンクトペテルブルグのエカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場、モスクワのクレムリンの中にあるウスペンスキー聖堂で撮影した息を飲む美しい映像に、プーチン大統領も「監督を尊敬している」と絶賛。その発言に、映画に対する抗議の声は止むどころか強まったのは、ロシアにも民主主義があると実感したと監督。
映画の中で、マチルダがニコライ二世に対して、「私を捨ててアリックスと結婚したらあなたは破滅するわよ」と語る場面があります。まさに、アリックスと結婚し、王位を受け入れたために、革命でニコライ二世は銃殺されることになったので、マチルダを選んでいれば別の人生があったことでしょう。
冒頭、王室専用列車が脱線し、父アレクサンドル2世が瀕死の重傷を負います。迫力ある場面に度肝を抜かれますが、思えば、この大事故が既にニコライ2世の運命を暗示しているかのようです。贅を尽くした宮殿や聖堂での場面が、さらにロシア帝国の最期を際立たせています。自分の気持ちに従って恋にまい進したニコライ二世の人間的な姿を垣間見て、王位継承者という立場にあった不幸を思わずにいられませんでした。(咲)
荘厳な雰囲気の中、戴冠式が執り行われる。ヒロインが愛する人を一目見ようと警備の目を潜り抜けて大聖堂に入り込んだ。気がついた側近がそれを追う。冒頭から緊迫した空気が満ち溢れ、その恋がどれだけ危険なものなのか、強烈に伝わってくる。
2人を引き裂くのは国家の圧力だけではない。愛は時折、狂気を生み出す。叶わないほど燃え上がる愛の炎。さまざまな愛がサスペンスフルに紡がれる。
監督はもし、この恋が成就したらロシア革命は起こらなかったかもしれないという。そんな「もしも」を言うのなら、別の「もしも」も頭に浮かぶ。この恋が生まれる前に、ニコライ2世は来日し、大津で警官に斬りつけられた。いわゆる「大津事件」である。ここでロシアが怒って、日露戦争が起こっていたら、マチルダとの恋どころでなかったはず。そして、日本はロシアに勝てなかっただろう。そうしたら、ロシア革命は起きずに、今頃、私たちはロシア人と呼ばれていたかもしれない、などとあり得ないことをふと考えてしまった。(堀)
2017年/ロシア/カラー/ロシア語/108分
配給: シンカ
後援: ロシア文化フェスティバル組織委員会、駐日ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁、ロ日協会、ロシアン・アーツ
公式サイト:http://www.synca.jp/mathilde/
★2018年12月8日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー!
2018年12月06日
パッドマン 5億人の女性を救った男 原題:Padman
監督・脚本:R.バールキ
出演:アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカー・アープテー
北インドの小さな村。結婚式を挙げたばかりのラクシュミは、新妻ガヤトリを喜ばせようと、自動玉ねぎカット機を手作りしたりするアイディアマン。妻が生理になった時、部屋を穢してはいけないと廊下で寝ている上、清潔とはいえない古布を使っていることを知って衝撃を受ける。市販のナプキンはあまりに高価で、妻は使えないというのだ。愛する妻のために、なんとか清潔で安価なナプキンを作りたい! 試行錯誤してナプキンを作るラクシュミを村人や妻の家族たちは変人扱い。ガヤトリは実家に連れ戻されてしまう。ラクシュミは都会インドールに出て研究を続ける。ついに、セルロース・ファイバーを素材にしてナプキンを作る簡易製作機を発明する。たまたまデリーからイベント出演のためにやってきた女子大生パリーが、ナプキンの観客第一号となる。パリーは、ラクシュミをデリーでの発明コンペに出場させて賞金を獲得させる。パリーと共に、農村の女性たちにナプキン製造から販売までを行うことができるよう、起業も手助けする。やがて、ラクシュミたちの草の根活動に注目した国連から講演依頼が舞い込み、ラクシュミはパリーと共にニューヨークへ赴く・・・
「パッドマン」として知られる社会企業家アルナーチャラム・ムルガナンダム氏をモデルにした映画。1962年、南インドのタミル・ナードゥ州コインバトールで機織り職人の家に生まれたムルガナンダム氏。低コストで衛生的な製品を製造できるパッド製作機の発明者。2014年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。また、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリも授与されている。
本作では、ムルガナンダム氏をモデルにしたラクシュミだけでなく、パリ―という聡明で積極的に事業をサポートする女性も描いていて、爽快。映画を通じて、インドの女性たちの自立を促すマイクロ・クレジット(小規模融資)などのプログラムの認知度もあがったという。
この映画を観て思い出したのが、父方の祖父のこと。昭和の初めの頃、祖父は友人と共に生理用ナプキンを開発して、「レデーメン」と名付けて東京で売っていたのです。祖母も営業を手伝って留守がちだったそうです。そして、まだ小学生だった父も、近くの家や、時には電車に乗って渋谷まで届けに行ったことがあるとか。その後、祖父は、漢字の書き取り帳を作り、それが東京中の小学校で採用される大ヒット。父は、「書き取り屋の息子」とからかわれていたそうですが、祖父が書き取り帳を作らなければ、「レデーメン屋の息子」と言われていたかもしれません。
思えば祖父は、その後、別の仕事をしていたようなので、父に聞いてみたら、昭和11年、226事件のあと、物資の統制が厳しくなり、紙が手に入らなくなって、レデーメンも書き取り帳も作れなくなってしまったとのこと。時代ですねぇ・・・(咲)
◆公式サイトに掲載されている松岡環さんによる“『パッドマン』をより楽しむための7つの知識”を是非お読みください。
2018年/インド/2時間17分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:http://www.padman.jp/site/
★2018年12月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
2018年12月02日
ピアソラ 永遠のリベルタンゴ 原題:Piazzolla, los anos del tiburon
監督:ダニエル・ローゼンフェルド
出演:アストル・ピアソラほか
踊るためのタンゴから、聴くためのタンゴへ。
アルゼンチン・タンゴに革命を起こしたアストル・ピアソラ(1921年〜1992年)。
71歳で亡くなり、没後25周年にあたる2017年、母国アルゼンチンで開催された回顧展にあわせ、ピアソラの功績と家族の絆を紡いだドキュメンタリー。
4歳の時、音楽愛好家だった父の独断で、アルゼンチンからニューヨークへ一家3人で移住。貧困と暴力が渦巻く環境の中で、父は幼いピアソラに中古のバンドネオンを買い与え、息子の奏でる音に聞き惚れていたという。アルゼンチンに帰国し、本場のタンゴを聞きまくり、当時大人気だったトロイロ楽団に入団。妻となるデデと出会い、娘ディアナと息子ダニエルに恵まれる。自身の楽団を立ち上げるが、革新的なタンゴは非難をあび、古巣のニューヨークに舞い戻る。そして、故国から届いた愛する父の訃報。30分で書き上げた父に捧げた曲「アディオス・ノニーノ」は、後にピアソラの代表曲となる。アルゼンチンに帰国し、五重奏団を結成。ようやく耳の肥えた音楽ファンに注目されるようになる・・・
ピアソラというと、私が思い浮かべるのは、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』で流れた2曲。なんともけだるいムーディな曲。あの音色は、バンドネオンの奏でるものだったのだと知りました。
息子ダニエルが語る父の姿。ダニエルが幼い頃の8mmフィルムの映像も多用されていて、郷愁をそそられます。ですが、1966年2月に、ピアソラは家族を残して家を出てしまいます。息子の目から見た父親の歴史なので、その後の女性遍歴などは、さすがに語られていません。
世に数々の名曲を遺したピアソラにも不遇の時代があったこと、それを支えた家族がいたこと、彼の生きた時代のことなどが、憂いあるメロディーとともに語られ、なんとも切ない思いにかられました。(咲)
2017年/アルゼンチン・フランス/英語・フランス語・スペイン語/94分/カラー(一部モノクロ)
配給:東北新社 クラシカ・ジャパン
後援:アルゼンチン共和国大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京
公式サイト:http://piazzolla-movie.jp/
★2018年12月1日(土)Bunkamuraル・シネマ ほか全国順次ロードショー.