2018年10月20日
嘘はフィクサーのはじまり 原題: Norman: The Moderate Rise and Tragic Fall of a New York Fixer
監督:ヨセフ・シダー
音楽:三宅純
出演:リチャード・ギア、リオル・アシュケナージ(『運命は踊る』)、Cマイケル・シーン、スティーヴ・ブシェミ、シャルロット・ゲンズブール、ダン・スティーヴンス
ニューヨークで暮らす初老のユダヤ人ノーマン・オッペンハイマー(リチャード・ギア) は、自称フィクサー。世界金融の一端を牛耳るユダヤ人上流社会に食い込もうと、小さな嘘を積み重ねて人脈を広げてきた。ある日、ニューヨーク訪問中のイスラエルの若きカリスマ政治家エシェル(リオル・アシュケナージ)に偶然を装って近づく。高級な革靴をプレゼントし、まんまと私用の電話番号を聞きだす。が、滞在中に再度会うことは叶わなかった。側近が怪しげなノーマンに会わないよう仕向けていたのだ。
3 年後、エシェルはイスラエル首相となり米国にやってくる。ノーマンは弁護士の甥フィリップ(マイケル・シーン)と共にワシントンD C で開催された支援者パーティに参加する。エシェルはノーマンを見るなり抱きしめ、「ニューヨークのユダヤ人名誉大使」と皆に紹介する。会場にいた人々からの羨望の眼差しに、ノーマンは鼻高々。パーティの帰り道、ノーマンはイスラエル法務省の女検察官アレックス(シャルロット・ゲンズブール)と知り合う。イスラエル首相のお墨付きを武器に得意げなノーマンに、彼女が疑惑を持ったとは気づくはずもなかった。やがて、ノーマンの行動は国際的な騒動を巻き起こす・・・
リチャード・ギアがダンディさを封印。ハンティング帽を深く被り、ちょっと猫背で歩き、しょっちゅうブツブツ言ってる、なんとも胡散臭いおっさん! それだけで、もう、どんな映画なのかワクワクしてしまいます。
ヨセフ・シダー監督は、1968 年ニューヨーク生まれ。6 歳でイスラエルに移住。大学在学中に脚本を書いたデビュー作「TIME OF FAVOR」(00)がイスラエル・アカデミー賞で作品賞と脚本賞を含む6冠に輝き、アカデミー賞外国語部門のイスラエル代表に選ばれています。
『CAMPFIRE』(04)『ボーフォート-レバノンからの撤退-』(07)『フットノート』(11)に次ぐ、5作目となる本作はシダー監督初の英語作品。タイトルもエンドロールも、英語とヘブライ語が仲良く並んでいます。
この物語の原点は、歴史の中で差別・迫害されてきたユダヤ人が、少ない職業選択肢の中から、貴族に資金運用や資金貸付を行う銀行家、金融業者、貿易商などとして生きた「宮廷ユダヤ人」の姿だと監督は語っています。現代版宮廷ユダヤ人としてたどり着いたのが、フィクサーという役どころ。「どうして、ユダヤ人は嫌われるのか?」も検証しての脚本づくりだったそうです。
遠く故国を離れていても、結婚式ではグラスを足で割り、ユダヤの音楽で踊り、エルサレムに思いを馳せる人たち。ニューヨークで金融業界を裏で牛耳るユダヤ社会も垣間見せてくれて興味津々。(咲)
「 嘘も方便」を超える嘘で人脈を広げ、イスラエルのカリスマ政治家と知り合い、彼の名前を利用して暗躍する。こう書くとかなりあくどい人物をイメージするだろう。しかし、リチャード・ギアが歩き方から耳の立ち方(?)まで、1年以上かけて役作りした主人公は多少の胡散臭さはあるものの、人は良さそう。なんだか憎めない。嘘はつくが悪気はないように思えてしまう。そんな主人公がユダヤ人同胞のために忖度したラストは衝撃的。人生の悲哀を感じさせる。(堀)
2016年/イスラエル・アメリカ/英語・ヘブライ語/118分/ビスタ/5.1chデジタル
後援:イスラエル大使館
配給: ハーク 配給協力:ショウゲート
公式サイト:http://www.hark3.com/fixer/
★2018年10月27日(土)シネスイッチ銀座、YEBISU GARDE CINEMAほか全国順次公開!
億男
監督:大友啓史
原作:川村元気「億男」(文春文庫刊)
脚本:渡部辰城 大友啓史
音楽:佐藤直紀
主題歌:BUMP OF CHICKEN「話がしたいよ」(TOY’S FACTORY)
出演:佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ / 沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也
図書館司書の一男(佐藤健)は、兄の3,000万円の借金を背負い、夜もパン工場で働きながら借金を返済している。妻・万左子(黒木華)は借金の返済に苦心し窮屈に生きることしか選んでいない一男に愛想を尽かし、離婚届を残して娘を連れて家を出てしまう。
ある日、一男は突然宝くじで3億円が当たる。喜んだのもつかの間、宝くじの高額当選者たちはみな悲惨な人生を送っているという記事をネットで見る。怖くなった一男は、大学時代の親友で、起業して億万長者となった九十九(高橋一生)にアドバイスを求めることにする。久しぶりの再会と九十九プロデュースの豪遊に浮かれて酔いつぶれた一男が翌朝目を覚ますと、3億円と共に九十九は姿を消していた−−
冨を得る。借金を背負う。どちらであってもお金に振り回されると人は自分を見失う。本当に大切なものは何か。
本作の主人公一男は3000万円の借金を返すために、すべてを借金返済に充てようとした。もちろん、返済することは大事。しかし、使うべきお金もある。それが分からず、家庭が崩壊した。それなのに、借金さえ返し終われば、家族は元に戻ると思っている。
そんな一男が宝くじに当選したことで運命が動く。お金を預けた親友の九十九は一男を騙したのか。一男と九十九が学生時代に入っていた落研で、九十九が得意としていた落語「芝浜」が九十九の行動のヒントとなる。
お金には代えられない何かを大切に思えることが幸せなのかもしれない。(堀)
2018年/日本/カラー/116分
配給:東宝
(C)2018映画「億男」製作委員会
http://okuotoko-movie.jp/
★2018年10月19日(金)より全国東宝系にてロードショー
デス・ウィッシュ(原題:Death Wish)
監督:イーライ・ロス
脚本:ジョー・カーナハン
出演:ブルース・ウィリス、ビンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、カミラ・モローネ、ボー・ナップほか
犯罪が多発し、警察の手に負えない無法地帯と化した街、シカゴ。救急救命の患者を診る外科医ポール・カージー(ブルース・ウィリス)は、毎日犯罪に巻き込まれた患者の生死に立ち会っていた。裕福で幸せな家庭だけが彼の平穏の地だった。しかし、ポールが留守のうちに家族は何者かに襲われ、妻は死に、娘は昏睡状態になってしまう。ポールの願いも空しく警察の捜査は一向に進展をみせなかった。怒りの頂点に達したポールは、犯人を抹殺するべく自ら銃を手に取り、危険な街へと繰り出し始める―。
ブライアン・ガーフィールドの「狼よさらば」を原作に、1974年にチャールズ・ブロンソンが主演を務めた伝説の同名映画のリメイク版。主人公ポール・カージーの職業は原作では会計士だが、『狼よさらば』ではチャールズ・ブロンソンが演じることで建築士になり、本作ではシカゴで救急患者を診る外科医とされた。ポールを演じるブルース・ウィリスは外科医より、殺し屋の方がしっくりくると思っていたが、意外に白衣(手術着は青緑だが)も似合っていた。また、これまで他の作品でさんざん銃を扱ってきたブルース・ウィリスが初めて拳銃を手にしたときに見せた動揺は何とも愛いらしい。ネットで銃の扱いを調べて、構造を確認したり、悪人を断罪する様子がネットで話題になり、神扱いされるあたりは、現代ならではだろう。
妻を殺し、娘を昏睡状態に陥らせた憎き犯人に罰を下すため、夜な夜な街に繰り出す。犯人の手がかりを知る人物から情報を聞き出すため、医学知識を使って死なないギリギリのラインで苦しみを与える。この演出は『ノック・ノック』でキアヌ・リーブスをいたぶりまくったイーライ・ロスらしい。
物語の着地点は見事。これで処刑人から足を洗って、外科医に専念できるだろうが、ファンとしてはぜひ続編が見たい。(堀)
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/107分
配給:ショウゲート
(C) 2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved. http://deathwish.jp/
★2018年10月19日(金)全国公開