2018年10月27日

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監督:榊原有佑
脚本:眞武泰徳
共同脚本:岡本丈嗣
音楽:魚返明未
主題歌:「Winter」作曲:Liam Picker/西川悟平
出演:三浦貴大、阿部進之介、白石聖、池端レイナ、福本清三、鶴見辰吾

真面目な性格で、献身的に患者のサポートに取り組む理学療法士の高野雅哉(三浦貴大)。 幼い頃に母親を亡くし、現在は父親の稔(鶴見辰吾)、妹の遥(白石聖)と離れて暮らしている。そんなある日、雅哉が働く病院にしばらく会っていなかった父・稔が入院してくる。日に日に弱っていく稔の姿、担当患者の病状が悪化するなど理学療法士として何が出来るのか自問自答の毎日で無力感に苛まれる。しかし、そんな時ラグビーの試合中にケガをした新たな入院患者の藤村(阿部進之介)を担当することになった雅哉。その入院患者の懸命に生きようとする姿に感化され、徐々に仕事への熱意を取り戻していく雅哉だったが……。病院という身近な人の死を経験する場所で理学療法士として、雅哉の選択していく生き方とは…。

リハビリで、できることとできないことがある。理学療法士が仕事を通じて生と死に向き合う。次第に溜まっていく無力感。優し過ぎて自分をダメダメに思ってしまう役どころは三浦貴大の得意とするところ。命の儚さ、重さに泣く。それを乗り越え、前に進むきっかけは助けられなかった命だった。ラストの三浦貴大の力強いアップが印象に残る。(堀)

2018年/日本/118分
配給:NexTone
(C) NexTone
http://shiori-movie.com
★10月26日(金)より新宿バルト9ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 23:23| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月21日

ガンジスに還る   原題:Mukti Bhawan  英題:HOTEL SALVATION

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監督・脚本:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘル、ギータンジャリ・クルカルニ、
バロミ・ゴーシュ

77歳になる父ダヤ。息子夫婦と孫娘と食卓を囲んでいる時に、「死期が近づいたのを感じている。明日、牝牛を寄進し、明後日にはバラナシに行く」と宣言する。ガンジス河の畔の聖地バラナシの「解脱の家」で人生の最期を迎えたいというのだ。一人で行かせるわけにもいかず、息子ラジーヴは仕方なく会社を休み付き添っていく。
「解脱の家」では、安らかな死を求める人々が規則を守りながら、思い思いに過ごしている。解脱できなくても滞在期間は15日までだ。12日目、ラジーヴの妻ラタと孫娘スニタが会いに来る。まだ元気なダヤの姿に安心し帰っていく二人。一方、会社を休み顧客を逃したことが気になるラジーヴ。15日目になり、別名で滞在を延長できると知ったダヤは息子に「象は死期が近づくと群れを離れる」と語り、ラジーヴを帰宅させる・・・

解脱の家で息子と二人で過ごしていた父は、息子に「お前は詩をそれはそれはよく書いていたのに、才能を伸ばしてやれなかった」と謝ります。また、結婚式を間近にした孫娘が結婚に乗り気でないことを察したダヤは、「心のおもむくままに生きなさい」と語りかけます。自身の人生を振り返って、今にして悟る、こうすればよかったというダヤの思いが胸に切々と迫ります。
ラジーヴが散歩している時に、薪がうず高く積まれた場所を通ります。充分な量の薪が買えないと、火葬しても灰にならなくて形のあらわな骨をガンジスに流すことになるそうです。「バラナシとガンジス河、どちらが神聖?」という問いに、「ガンジスなら近くでも拝める」と答える場面があります。ヒンドゥー教徒にとって、バラナシで人生の最期を迎え、ガンジスに流してもらうことが最高の幸せなのだなぁと思いました。
ガンジス河を眺めながら、溶けそうなアイスクリームを家族で食べる場面がなんとも愛おしいです。しみじみと味わい深い一作です。(咲)


死期を悟り解脱を求める父と、その父に付き添いながらも携帯が手放せない息子。世俗の垢にまみれた息子の姿が他人事には思えない。親に感謝の気持ちはあるものの、言いたい文句もたくさんある。最期を前にぶつけたことで、お互いの気持ちを分かり合う。
死をテーマにした作品だが、重苦しさはない。監督自らバラナシに行き、解脱の施設を回ってリサーチし、バラナシで死を迎えたい人の願いは家族と一緒に来ることだと気がついたことがきっかけで物語を作ったという。2人が過ごす最期の時間を丁寧にすくい取る。弱冠27歳の監督とは思えない手腕に脱帽である。(堀)


2016年ヴェネチア国際映画祭 エンリコ・フリキニョーニ賞

2016年/インド/99分/シネスコ
配給:ビターズ・エンド、協力:エア インディア
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ganges/
★2018年10月27日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開!




posted by sakiko at 20:51| Comment(0) | インド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

search サーチ(原題:Searching) 

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監督:アニーシュ・チャガンティ
脚本:アニーシュ・チャガンティ
セブ・オハニアン
出演:ジョン・チョー(デビッド・キム)
デブラ・メッシング(ヴィック捜査官)
ジョセフ・リー(ピーター)
ミシェル・ラー(マーゴット)

デビッドは妻に先立たれて、16歳の娘マーゴットとふたり暮らし。思春期の娘の扱いに戸惑う毎日だが、正しく躾けているつもりだった。しかし、マーゴットが出かけたまま帰宅せず、心当たりに連絡しても行き先がわからない。警察に行方不明として届け出るが、家出か、事件か確定できないまま時間がたっていく。やり手らしい女性捜査官ヴィックに力づけられて、手がかりになるものを探す。マーゴットのパソコンを開いたデビッドは、そこに全く知らなかった娘の姿を見い出して愕然とする。

始まりからラストまで、全編がパソコンの中だけで展開していく。いやはやこんな映画初めてです。でもこれだけパソコンやSNSが普及したら「あり」です。いち早く目をつけて作ってしまった監督&クルーのみなさんに脱帽。アニーシュ・チャガンティ監督は1991年生まれ、27歳の新鋭で、しかも初長編です。うーん、すごい!アイディアだけではなく、サスペンスドラマとしてもよく作られていて、ラストまでぐいぐい引っ張ります。
お父さんのデビッド役は、『スタートレック』シリーズ(2009〜)のエンタープライズ号の主任パイロット、スールー役で世界的にブレイクしたジョン・チョー。HPも映画にあわせて作られていて面白いですよ。2018年サンダンス映画祭観客賞受賞。(白)


連絡が取れなくなった娘を探すため、父はSNSを駆使する。それによってわかる外での娘の様子。一番近くにいるつもりが何もわかっていなかった親子の距離感が浮かび上がってくる。しかし、SNSで見せる顔は本物か。パソコンの向こうにいる存在に父親が違和感を持つ。最後のどんでん返しに驚き、ほっとするラストに後味の良さを感じた。
パソコンの画面に畳みかけるようにいくつものウインドウが出てきて話が展開する。新しい試みは緊迫感たっぷり。アメリカの作品に監督がインド人で、主演が韓国人。そういう時代になったんだと改めて感じた。(堀)


2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/102分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
http://www.search-movie.jp/
★2018年10月26日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 20:47| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Workers 被災地に起つ

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監督:森康行
企画:田中羊子,横山哲平
ナレーター:山根基世

ワーカーズコープ(協同労働の協同組合)は、1971年に西宮市で発足した「失業者・中高年者」の仕事づくりをめざす「事業団」が始まりだそうです。それから名称や事業内容も変化してきました。ワーカーズコープでは働く人や市民が出資者となり、意見を出し合い話し合って運営していきます。みんなが労働者であり、経営者でもあります。
そのしくみと各地での実際の活動を紹介したのが、2013年の『Workers』森康行監督。本作は第2弾として、東北被災地でのワーカーズコープの取り組みを22ヵ月間にわたって記録したドキュメンタリー。

もう何10年も前に生協の委員があたった(?)ことがあります。ろくに活動しないうちに引越しが決まって、それからは近所のコープを買い物で利用するのみ。コープといってもこういう「働きかたのコープ」があったとは今回初めて知りました。東日本大震災の後の被災地で「一人ひとりの願いと困った」から始まった仕事おこしは小さな湧き水が、小さな流れになるように少しずつ広がっていきます。決して大きくなりすぎず、声が届く範囲で。集まった人たちの輪の中で、話し合いが深まっていくようすに胸が温かくなりました。
生き辛い人、困難な環境にある人の願いや困りごとを相談できる場があり、それが一つずつ叶えられ、解決できるようにみんなが考える。
教室に貼ってあった言葉を思い出します。「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」これは「三銃士」の中に出てくることば 「One for All, All for one」が元のようです。ほんとは「共生」の意味でなく「みんなは勝利のために」らしいんですけど、みんなはひとりのためにのほうが優しくていいです。政治家のみなさま忘れないで。一人=1票は選挙のために、じゃありません。(白)


ワーカーズコープHP http://www.roukyou.gr.jp/jwcu/

2018年/日本/カラー/HD/16:9/89分
配給:一般社団法人 日本社会連帯機構
   日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会
(C)日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団
http://workers2-movie.roukyou.gr.jp/
★2018年10月20日(土)ロードショー
posted by shiraishi at 20:17| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

オズランド 笑顔の魔法おしえます。

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監督:波多野貴文
脚本:吉田恵里香
原作:小森陽一「オズの世界」(集英社文庫刊)
出演:波瑠、西島秀俊、岡山天音、深水元基、戸田昌宏、朝倉えりか、久保酎吉、コング桑田、中村倫也、濱田マリ/橋本愛/柄本明


22歳の波平久瑠美(波瑠)は、彼のトシ君(中村倫也)と同じ超一流ホテルチェーンに就職。大学を卒業して、晴れて同じ職場で働けると楽しみにしていたのに、配属されたのは地方にある系列遊園地グリーンランド。ふてくされながら任地に赴き初出勤すると、いきなり園内の緊急事態。同期入社の吉村(岡山天音)と共に、爆発物の入った紙袋を遠くに持ち出すよう命じられる。これは実は新入社員への通過儀礼。ヒーローショーの舞台に誘導された二人は拍手喝采をあびる。「あり得ない」と、トシ君に電話して愚痴をこぼすと、優秀社員MVPになれば本社に戻れると励まされる。
MVP目指して張り切る久瑠美なのに、上司の小塚慶彦(西島秀俊)からは新入りの吉村と共に園内のゴミ拾いを命じられ、不本意だ。だが、ようやくゴミ拾いが園内のことを把握するためという小塚の意図だったと悟り、小塚が皆から“魔法使い”と呼ばれ慕われていることも納得する。仕事にやりがいを感じて楽しくなってきた久瑠美は、小塚に憧れとも淡い恋心ともいえない気持ちを持ち始める。夏休みの最大イベント、一万発の花火大会を前に、久瑠美は小塚の秘密を知ってしまい、なんとしてでも花火大会を成功させなければと誓う。

ちょっとダサいおじさん風の西島秀俊さんですが、ご自身の演出だとか。家族の思い出づくりにかかせない遊園地。それを下支えする人たちの思いがじわ〜っと伝わってくる物語です。
高級ホテルに就職したはずなのに、遊園地に配属され、そのギャップに戸惑う新入社員の久瑠美。これまた、多くの人が経験していることでしょう。与えられた場で、自分の生き甲斐を見つけていく姿が素敵です。
原作は、小森陽一の人気小説「オズの世界」。熊本県に実在する遊園地「グリーンランド」がモデルで、小説での遊園地名は「東洋スーパーワンダーランド」。映画は、実際に「グリーンランド」で撮影が行われ、遊園地の名前も制服もそのまま使われています。
子どもの頃、四季折々に両親に連れていってもらった宝塚ファミリーランドのことを思い出したひと時でした。(咲)


思いもよらない人事に不満いっぱいの新人社員が仕事を通じて成長する姿を描く。主人公の平久美を演じるのは波瑠。原作者の小森陽一が最初から波瑠をイメージして書き、その思いが名前にも表れている。その波平の上司、小塚に西島秀俊。『MOZU』シリーズなどのクールな役から一変して、三枚目をコミカルに演じる。こんな西島秀俊、見たことがない! また同僚・玉地役の橋本愛もいつものイメージと比べてテンション高め。熊本県出身の橋本愛の地元愛の現れだろうか。元気のお裾分けがもらえた気分になる。
ゴミ集めなどの新人仕事を適当に済ませて、企画の立案に勤しむ波平。もう一人の新人、吉村は愚直に取り組む。2カ月後にその差が如実に表れる。どんな仕事にも意味があり、そこから学ぶことがある。これに気づけるかどうかが、人としての分かれ道なのかもしれない。波平にとって不本意だった人事も、人生を考えたときには大きなチャンスだったのだ。
「こんなことして意味あるの?」と愚痴りたくなるときこそ、大きく羽ばたくチャンスなのだと作品は教えてくれた。(堀)



2018年/日本/105分
配給:HIGH BROW CINEMA、ファントム・フィルム
(C)小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会
公式サイト:http://ozland.jp/
★2018年10月26日(金)より TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー




posted by sakiko at 09:24| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする