2018年06月03日
最初で最後のキス(原題:Un bacio)
監督・脚本:イヴァン・コトロネーオ
撮影:ルカ・ビガッツィ
出演:リマウ・グリッロ・リッツベルガー(ロレンツォ)、ヴァレンティーナ・ロマーニ(ブルー)、レオナルド・パッツァーリ(アントニオ)、トマス・トラバッキ(レナト/ロレンツォの父)、デニス・ファゾーロ(サントロ先生)、アレッサンドロ・スペルドゥーティ(マッシモ/アントニオの兄)
イタリア北部の町。孤児のロレンツォに里親が決まった。養父母となった2人は心から彼を歓迎し、新しい部屋に案内する。転入する高校の前まで送ってもらい、出たときと違うポップな服に着替えて一人教室へと入るロレンツォ。さっそくに意地悪な視線にさらされるが、ひるまずに言い返す。同じように学校で浮いている女子生徒ブルーに自分はゲイだと明かすが、ブルーは「ゲイの友だちは初めて」と全く気にしない。バスケットボール部のアントニオは、ブルーを秘かに思っていたが、内気で声をかけることができない。ブルーを中傷する落書きを一人消し続けていた。そんなアントニオにロレンツォは惹かれ、3人はこれまでと違う高校生活を満喫するようになる。
男子2人と女子1人の青春のひとときを描いた作品。2008年にアメリカで実際にあった事件をもとに、コトロネーオ監督が小説「UN BACIO」を書き、それを映画化したもの。主演の3人が私には初めてだったので、何の色もつけずに観ることができました。くっきりした目鼻立ちが印象的なリマウ・グリッロ・リッツベルガーは、インドネシア人の父とオーストリア人の母とのハーフ。これが初の映画出演。
ロレンツォはスターになるのが夢で、わが道をゆくタイプ。アントニオがブルーを好きなのを知っていても、アントニオへの気持ちを抑えられません。年上の恋人に傷つけられても認めたくないブルー。1人浮いていても、耐えられる強さがあります。アントニオは兄が若くして死んで、両親の過干渉や兄の亡霊(アントニオの妄想?)に悩まされています。三者三様の屈託があるのですが、いっとき楽しい日々を送ります。そのシーンが眩しすぎるくらい明るいので、若くて無知なゆえに引き寄せてしまう痛切なラストにため息が出ました。救いは「もしも・・・だったら」という、もう一つのラストが示されること。
3人の家庭環境が特に悪いわけでもなく、それぞれの親たちも愛情を注ぐのに、悲劇は起こってしまいました。3人と同世代の若い人たちにぜひ観てほしい作品です。(白)
2016年/イタリア/カラー/シネスコ/106分
配給:ミモザフィルムズ
(c)2016 Indigo Film - Titanus
http://onekiss-movie.jp/
★2018年6月2日(土)ロードショー
ビューティフル・デイ(原題:You Were Never Really Here)
監督・脚本:リン・ラムジー
原作:ジョナサン・エイムズ「ビューティフル・デイ」(早川書房)
撮影:トム・タウネンド
音楽:ジョニー・グリーンウッド
出演:ホアキン・フェニックス(ジョー)、ジュディス・ロバーツ(ジョーの母)、エカテリーナ・サムソノフ(ニーナ)、ジョン・ドーマン(ジョン・マクリアリー)、アレックス・マネット(ヴォット議員)
元兵士のジョーは、行方不明者を捜索するスペシャリストとして、手段を選ばずに解決していく。子どものころ父に虐待され、一緒に耐え忍んだ母と暮らしている。頭の中ではいつも爆音とあらゆる苦痛が渦巻き、それから逃れられる死を渇望していた。ある日の依頼は州上院議員からだった。彼の10代の娘ニーナが売春組織に囚われているので、取り戻してほしいという。奪還を約束し、ハンマーを片手に娼館に向かい、感情が欠落し無表情で横たわっていたニーナを救い出す。しかし、まもなくニーナはまた何者かに拉致されてしまった。
リン・ラムジー監督の前作は『少年は残酷な弓を射る』(2012)。母親と望まぬ妊娠で生まれた長男との愛憎を描いて、エズラ・ミラーの美しさと共に忘れられない作品です。6年ぶりの新作は、トラウマを抱えた中年男が美しい少女を娼館から救い出す話。せっかくのハンサムな顔の半分がヒゲに覆われて、むさ苦しいことこの上ないホアキン・フェニックス、おまけにおなかも出ているし、と『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』(2008)のスマートなホアキンが好きなので、最初ちょっと残念でしたが、これは全く爽快さとは無縁なストーリー。思い切り暗くて不穏な、しかしスタイリッシュな画面にジョニー・グリーンウッド(レディオ・ヘッド)の音楽がガンガン被さって、ひきずりまわされた感覚でした。残酷な場面は始まりと結果だけ、アクションもセリフもできるだけ省いています。ヒゲも体型も全て役のため。寡黙なジョーはその肉体に語らせているということ。ホアキンはラムジー監督に会う前に出演を決め、早くから役作りのために監督と話し合ったとか。宣伝のためにこんなに露出することも珍しいそうで、お気に入り作品なのですね。ホアキンファンは必見。カンヌ国際映画祭で脚本賞と男優賞の2冠を獲得しました。(白)
2017年/イギリス/カラー/シネスコ/90分
配給:クロックワークス
Copyright (C) Why Not Productions, Channel Four Television Corporation, and The British Film Institute 2017. All Rights Reserved. (C) Alison Cohen Rosa / Why Not Productions
http://beautifulday-movie.com/
★2018年6月1日(金)新宿バルト9 ほか全国ロードショー
father カンボジアへ幸せを届けた ゴッちゃん神父の物語
監督:渡辺考
出演:後藤文雄、メアス・ブン・ラー、チア・ノル、チア・サンピアラ、ソムナム・ダッチ
2015年、8月。吉祥寺カトリック教会の神父・後藤文雄、愛称・ゴッちゃん(撮影当時86歳)は、「これが最後の旅になるかもしれない」と、カンボジアへ旅立つ。現地で迎えるのは、彼が育てた子どもたち。1981年、ポル・ポト政権下での内乱や殺戮から逃れて日本にやってきたカンボジア難民の子どもたちを、独身の後藤神父が養子として受け入れ、育てあげたのだ。総勢14人。故国に帰った子どもからの要望を受け、後藤神父はカンボジアで学校作りをしてきた。その数、19校にのぼる。
本作は、1929年に新潟県長岡市で浄土真宗の寺の次男として生まれた後藤文雄の人生を追ったドキュメンタリー。
後藤さんの人生を大きく変えたのが、1945年8月1日の長岡空襲。最愛のお母様と、妹と弟二人を失います。1年半後に再婚した父への反発。そして、初恋。彼女に連れていかれた教会・・・ まさに、運命。妻帯できない神父となったゴッちゃんが、その後、カンボジア難民の子どもたちを受け入れたのも、空襲で身内を亡くした思いが大きく影響しているのでしょう。
実は私の叔母がカトリック信者で、上京の折にお世話になっていたのが、吉祥寺カトリック教会でした。滋賀県のカトリック系幼稚園を定年退職したあとは、信者仲間がいるからと、長岡の老人施設に入りました。後藤神父の故郷です。何かのご縁があるに違いないと思いながら、叔母はもうこの世になく、想像するだけでした。
先日、吉祥寺に住む従姉に会った折に聞いてみたところ、叔母はもちろん後藤神父と親交があったのですが、なんと、祖父の納骨の時に、多摩墓地にいらしてくださったのが、後藤神父だったと判明。昭和38年(1963年)11月10日のことです。まだ若かった後藤神父にお会いしていたという次第でした。
祖父は島根県の神社の長男として生まれましたが、神職を継がず上京。その後、カトリックに入信。お寺に生まれた後藤神父に見送っていただいたことに、人の縁の不思議を噛みしめています。
公開前に紹介しそこねて、東京での新宿武蔵野館に続く、吉祥寺・COCOMARU THEATERでのロングラン上映も終わってしまったのですが、今後、横浜シネマ・ジャック&ベティはじめ、まだまだ各地での上映が続きます。ゴッちゃん神父の人間味溢れる素敵な人生を是非ご覧ください。(咲)
2018年/日本/カラー/ドキュメンタリー/16:9/HD/95分
配給:新日本映画社
公式サイト:http://father.espace-sarou.com/
★2018年4月7日(土) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開