2018年02月25日
おもてなし
監督・撮影・編集:ジェイ・チャン
脚本:ジェイ・チャン、砂田麻美
出演:田中麗奈、ワン・ポーチエ、余貴美子、ヤン・リエ、ヤオ・チュエンヤオ、藤井美菜、ルー・シュエフォン、マイケル・タオ、青木宗高、眞島秀和、木村多江 /香川京子
琵琶湖畔にたたずむ老舗旅館「明月館」。5年前に父が亡くなり、梨花(田中麗奈)は旅館を一人で切り盛りしている母・美津子(余貴美子)を手伝うため、仕事を辞めて戻ってくる。経営不振で、美津子の大学時代の恋人で、台湾の実業家チャールズ(ヤン・リエ)に旅館を売り渡すことになる。経営再建のため、チャールズの息子・ジャッキー(ワン・ポーチエ)が送り込まれてくる。大幅な改築を提案するジャッキーに、梨花は旅館に根付いている文化も大事にしてほしいと頼む。なにより、旅館を営むには、「おもてなし」の心が大事だと説くが、合理主義のジャッキーの耳にはなかなか届かない。梨花はジャッキーを木村先生(木村多江)が主催する「おもてなし教室」に誘う・・・
監督のジェイ・チャンは、台湾生まれ、アメリカ・テキサス州育ち。短編やテレビドラマ製作を経て、本作で長編映画デビュー。
日本・台湾合作で、田中麗奈が、ワン・ポーチエ演じるジャッキー相手に流ちょうな中国語を披露しています。
おもてなしの心が少しずつわかりかけたジャッキー。どんな再建案を出すのでしょう。
夫が亡くなっているから、大学時代の恋人に旅館再建を託すのもあり?と、ちょっとびっくり。
でも、その元恋人チャールズも癌で余命宣告を受けます。「人生短いって誰も教えてくれなかった」とチャールズが嘆きます。その場におよばないと実感としてわかないかも。いつ人生が終わってもいいように、一日一日悔いのないよう過ごしたいものですね。(咲)
2017年/日本・台湾合作/日本語・中国語・英語/96分/DCP/カラー/シネマスコープ/5.1ch
配給:松竹撮影所、ニチホランド
公式サイト:http://omotenashi-movie.net/
★2018年3月3日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
シェイプ・オブ・ウォーター(原題:The Shape of Water)
監督:原案・脚本:ギレルモ・デル・トロ
撮影:ダン・ローストセン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
視覚効果監修デニス・ベラルディ
出演:サリー・ホーキンス(イライザ)、マイケル・シャノン(ストリックランド)、リチャード・ジェンキンス(ジャイルズ)、ダグ・ジョーンズ(不思議な生きもの)、マイケル・スタールバーグ(ホフステトラー博士)、オクタビア・スペンサー(ゼルダ)
1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で掃除の仕事をしているイライザは、子どものころのトラウマで耳は聞こえるが声を出すことはできない。隣人のジャイルズや同僚のゼルダとは手話を使って話すことができる。ある日研究所に秘かに運び込まれたのは、これまで見たこともない不思議な生き物だった。すっかり心奪われたイライザは人目を避けて“彼”に会いに行くようになる。アマゾンの奥地で発見された“彼”は、実験動物としてストリックランドにひどい扱いをされる。
ギレルモ・デル・トロ監督があて書きし、自らオファーしたキャストがぴたりとはまって、美しく胸があたたまるファンタジー・ロマンスが完成しました。来日・会見した監督は「よそ者を排除する空気が蔓延するこんな時代だからこそ、このおとぎ話が必要だしたくさんの人に観てもらいたい」と熱をこめて語りました。
主人公のイライザ、親友のジャイルズにゼルダ、ホフステトラー博士もみなマイノリティです。彼らは不思議な生き物の“彼”と言葉を介さずに心を繋げたイライザを応援します。ロマンチックな前半から、ダークな色を帯びたスリリングな後半まで、映画賞の最多ノミネートが納得のストーリー運びに、俳優の好演、60人もが関わったクリーチャーの造形(辻一弘氏が目の部分を担当)や美術にもぜひ注目を。背景の色使いや様々な形で登場する水に監督の思いがこめられています。(白)
2017年/アメリカ/カラー/ビスタ/124分
配給:20世紀フォックス映画
(C)2017 Twentieth Century Fox
http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/
★2018年3月1日(土)ロードショー
ブラックパンサー(原題:Black Panther)
監督:ライアン・クーグラー
脚本:ライアン・クーグラー、ジョー・ロバート・コール
撮影:レイチェル・モリソン
美術:ハンナ・ビークラー
衣装:ルース・カーター
音楽:ルートヴィッヒ・ヨーランソン
出演:チャドウィック・ボーズマン(ブラックパンサー/ティ・チャラ)、マイケル・B・ジョーダン(エリック・キルモンガー)、レティーシャ・ライト(シュリ)、ルピタ・ニョンゴ(ナキア)、ダナイ・グリラ(オコエ)、マーティン・フリーマン(エヴェレット・ロス)、アンディ・サーキス(ユリシーズ・クロウ)、ダニエル・カルーヤ(ウカビ)、ウィンストン・デューク(エムバク)、アンジェラ・バセット(ラモンダ)、フォレスト・ウィテカー(ズリ)
ワカンダはアフリカの中央部に位置する“主要国が気にもしない小さな農業国”・・・が、それは表向き。500年前から超絶パワーを秘めた鉱石<ヴィブラニウム>を産出、その力により今ではどこよりも進んだテクノロジーを持ち、平和な文明国家を建設していた。ヴィブラニウムが悪用されぬよう、その秘密を代々の国王は巧妙に隠し、国とその民を守りぬいてきた。父・国王の急死により王子ティ・チャラは、継承のための戦いを経て国王の座を継ぐことになった。ティ・チャラは漆黒のヒーロー<ブラックパンサー>となり、国王としての使命を遂行せねばならない。
原作はマーベルコミックス、史上初の黒人ヒーローです。出演者を見ると、CIAエージェントのマーティン・フリーマン、武器商人のアンディ・サーキスだけが白人です。監督をはじめスタッフも多くのアフリカン・アメリカンの方たちが集合したそうです。ここまで来た、と嬉しかったことでしょうね。ライアン・クーグラー監督は、地元オークランドの事件を元にした『フルートベール駅で』(2013)、ロッキーシリーズの新作『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)とヒット。この『ブラック・パンサー』も高評価を受けています。
映画の冒頭は数十年前のオークランドの下町。各国に放っているワカンダのスパイの元に突然飛行物体が現われ、一騒動の後時が流れます。後半に繋がる事件なので記憶にとどめてください。王子様のティ・チャラに敵対するのが、因縁浅からぬエリック・キルモンガー。クーグラー監督の前作2本に続けて出演しているマイケル・B・ジョーダン。彼が演じるキルモンガーのドラマのほうに、王子と生まれたティ・チャラよりもグッときます。
隠されたワカンダが姿を現わす場面、アクション場面など凝った美術、アフリカテイストいっぱいの色鮮やかなコスチュームやメイクアップが素敵です。近衛兵が女性で、ものすごく強いのもいい!(白)
2018年/アメリカ/カラー/シネスコ/135分
配給:ディズニー
(C)Marvel Studios 2017
http://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther.html
★2018年3月1日(木)ロードショー
一陽来復 Life Goes On
監督:ユンミア(尹 美亜)
撮影監督・共同監督:辻健司
ナレーション:藤原紀香、山寺宏一
2011年3月11日に起こった東日本大震災。津波で家や家族を失った人、原発事故で避難を余儀なくされた人。多くの人たちが今も深い悲しみと、どこにもぶつけることのできないやるせない思いを抱えて暮らしている。
本作は、岩手県釜石市、宮城県石巻市・南三陸町、福島県川内村・浪江町で被災した人たちの思いを追ったドキュメンタリー。
宮城県石巻市。木工職人の遠藤さん。子ども3人を津波で亡くし、奥さんと二人で暮らす。津波の犠牲になったアメリカ人英語教師テイラー・アンダーソンさんの両親から娘の名前を冠した文庫を作りたいと本棚の製作を依頼され、仕事を再開する。
宮城県南三陸町。そろばん教室に通うリサトちゃん。両親は震災の前日に結婚式を挙げたが、パパは津波の犠牲になり、写真のパパしか知らない。
毎朝「語り部バス」を運行している海辺のホテル。従業員の伊藤さんは、震災の記憶が風化していくことを懸念して、「なかったことにしたくない」と語り続ける。
借金をして個人商店を再興した酒屋さんや花屋さん。仮設の美容室にも昔の常連さんが戻ってくる。
アワビ獲りをする後藤さんは、水質検査をしてみたら、津波が汚れを一掃してくれて、海が50年若返ったと、思わぬ津波の功能を語る。
福島県川内村。原発から30キロ圏内に住む秋元さん夫婦。避難指示に従わず、有機にこだわり米や野菜を作り続けている。検査結果、放射能は検出されないものの出荷はできない。
商工会会長の井出さん。電力会社の人たちとは震災前からの付き合い。許せない人もいるだろうけど、復興のパートナーとして取り組まなければと語る。
福島県浪江町。6年経っても8万人が避難生活をしている。原発から15キロに位置する「希望の牧場」。被爆して殺処分対象の牛を今も飼い続ける吉沢さん。「殺処分した人も正しい」と複雑な胸の内を語る。
岩手県釜石市。鵜住居(うすのまい)神社の秋祭り。神輿も虎舞の衣装も流されたが、なんとか復興させた。避難所ともなった神社は町民の拠り所と神社総代の二本松富太郎さん。
一陽来復(いちようらいふく):冬が去り春が来ること。悪いことが続いたあと、ようやく物事がよい方に向かうこと。
震災で人生を一変させられてしまった人たち・・・
石巻の木工職人、遠藤さんの「子ども3人亡くしたって顔に書いてあるわけじゃない。人はそれぞれ色々背負って生きている」という言葉がぐっと胸に迫りました。
そして、3月11日の追悼式の日、ある女性の「6年目の節目と言われても、何か変わるわけじゃないけど、階段を作ってもらっているのかなと思う」という言葉に、震災の犠牲になった家族への思いを抱えながら、前に向かって生きていくしかないことをずっしり感じさせられました。
本作では、日本の美しい自然も映し出されていて、息をのみます。自然がもたらすのは禍だけでないことも感じさせられました。(咲)
東日本大震災で被災した人々を取材し続けるドキュメンタリーは、今も何作も作られているが、こんなにもたくさんの方たちに取材した作品というのはあまりないのではないかと思う。それぞれの「一陽来復」を祈らずにはいられない。
宮城県や福島県でほんとにいろいろな被災状況と、その後の生活の変遷を丁寧に取材していると思った。それにしても、こんなにたくさんの方たちの取材を続けるというのは並大抵のことではできないと思いつつ、今後もこの方たちを追い続けていってほしいと思う。(暁)
監督のユン ミア(尹 美亜)さんは、1975年生まれ、長野県出身。津田塾大学国際関係学科を卒業後、インドのタゴール国際大学でデザインを勉強。帰国後広報代理店やIT企業の広報担当後、映画の世界へ入る。2010年から、益田裕美子さんが代表を務める平成プロジェクトに参加。映画『李藝-最初の朝鮮通信使』(13)『サンマとカタール 女川つながる人々』(16/以上、乾弘明監督)制作プロデューサー、『シネマの天使』(15/時川英之監督)、『こいのわ 婚活クルージング』(17/金子修介監督)のプロデューサーを経て、本作で監督デビュー。
*本作は、復興庁「心の復興」事業の補助を受けて製作されました。
2017年/日本/81分/デジタル/5.1ch/16:9
制作・配給:平成プロジェクト
製作:心の復興映画製作委員会
(C) 2017 Kokoro Film Partners
公式サイト:http://www.lifegoeson-movie.com
★2018年3月3日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
15時17分、パリ行き 原題:The 15:17 to Paris
監督: クリント・イーストウッド
出演: アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン
2015年8月21日、15時17分アムステルダム発パリ行きの高速列車タリス#9364。ヨーロッパを旅行中だったアメリカ人の青年、アンソニー、アレク、スペンサーの3人が乗り込む。
17時49分、列車が北フランスとベルギーとの国境を猛スピードで走っていたとき、ただ一人起きていたアレクは、突如、銃声とガラスが割れるような音を聞く。乗務員が乗務員室に逃げ込んでいく。振り返ると、重装備した典型的なテロリスト風の男が自動小銃を構えていた・・・
テロリストを取り押さえた3人の青年が、本人役を演じた実話
本作は、列車に乗り合わせていたアメリカの3人の青年アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンが、イギリス人やフランス人の乗客と共に果敢にもテロリストを取り押さえ、554名の乗客をテロから救った実話に基づく物語。
事件の数日後、3人は、一緒に犯人を取り押さえたイギリス人のクリストファー・ノーマンと共にエリゼ宮殿に招待され、フランス最高の勲章を大統領から受け取る。
その後、3人は、米国スパイクTVが視聴者の投票によって選ぶ「ガイズ・チョイス賞」のヒーロー賞を受賞。イーストウッドは、プレゼンターとして3人に出会う。その折、3人が本を書いていることを知り、本が出来上がったら読ませてくれと頼む。約束通り、書き終えてすぐゲラをイーストウッドに送る。その本には、武装した男に挑んだ向こう見ずな行動と共に、3人が幼い頃から築いてきた友情について書かれていた。校長室に呼び出される常連だったことも! しかも、3人は、イーストウッドも青年期を過ごしたカルフォルニア州サクラメントの郊外で育った幼馴染だった。
3人のうち、アレクとスペンサーは、壁一つ隔てた家で、ともにシングルマザーに育てられた、5歳の頃からの友達。中学に入り、アンソニーが仲間に入る。きっかけは、ファミリーネームのアルファベット順に並ばされて隣だったから。(実に、私の高校時代からの親友も、50音順で席を決められて、隣だったから!)
イーストウッドは映画化権を獲得。有名な俳優をキャスティングすることも考えたそうだが、3人と映画の詳細について話すうち、本人たちに自身を演じて貰うことが最善だと、出演をオファーする。演技経験もない3人だったが、イーストウッドは幼いときからの憧れのスターであり監督。これは引き受けるしかないと思い切る。
それぞれの道を歩んでいた幼馴染の3人。軍人としてアフガニスタンに駐留していたアレクの引き上げ時期と、ポルトガルのラジェス航空基地に駐留していたスペンサーの仕事明けが偶然一致。大学生のアンソニーにも声をかけ、実現した3人のヨーロッパの旅。
3人は、撮影を通じて、その旅も追体験する。3人とも、とても爽やかで、ほんとに自分自身を自然に演じていて、そのまま役者になれそう。
幼い頃のエピソードも、丁寧に語られている。勇気ある人になりたいと密かに思っていたことも。
「この映画はごく普通の人々に捧げた物語である」と、クリント・イーストウッド。
テロに出会うことも、今の世の中、誰しもに起こりうること。その時、どう対処するのか、瞬発力が試されることになる。そんな目にあいたくないけれど! この映画を観て思い出したのが、韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』。あちらはありえないゾンビ発生に逃げ惑う話だけど、理屈は同じ。協力しあって対処することが、助かる道だと、本作も教えてくれました。(咲)
2018年/アメリカ/94分/スコープサイズ/5.1chリニアPCM+ドルビーサラウンド7.1(一部劇場にて)
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:http://1517toparis.jp/
★2018年3月1日(木)より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー