2017年11月25日
希望のかなた 原題:Toivon tuolla puolen 英題:The Other Side of Hope
監督・脚本: アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ サカリ・クオスマネン イルッカ・コイブラ
フィンランドの首都ヘルシンキの港。船に積まれた石炭の中から男が這い出してくる。内戦で家をミサイルで破壊され、シリアから逃れてきた青年カーリドだ。ハンガリー国境まで来たところではぐれてしまった妹ミリアムを探して、ここまでたどり着いたのだった。警察で難民申請したカーリドは収容施設に入り、イラク人マズダックと親しくなる。
やがてトルコに送還されることが決まったカーリドは収容所を脱出する。とあるレストランのゴミ捨て場で寝泊りしていたところ、その店の主ヴィクストロムに雇い入れられる。
ヴィクストロムは酒浸りの妻に愛想をつかして、それまでの仕事をやめレストラン「ゴールデン・パイント」を買い取ったものの経営が思わしくなかった。寿司屋に鞍替えしてみるも、見事に失敗。試行錯誤するうち、カーリドや従業員たちと不思議な連帯感が生まれていく。
やがて、マズダックから、妹ミリアムがリトアニアの難民センターで見つかったと連絡がくる。カーリドは無事ミリアムと再会できるのか・・・
アキ・カウリスマキ監督は、前作『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)に始まる港町3部作を、難民3部作と自ら呼称を変えた第2作が『希望のかなた』。
監督が世界を覆いつくす不寛容に最初に声をあげたのは、2002年のニューヨーク映画祭に招かれた時のこと。一緒に招かれたアッバス・キアロスタミ監督が、前年に起こった同時多発テロの影響でイラン人というだけでビザが発行されず入国できないとわかりボイコット。 その時の声明が実にウィットに富んでいます。
「世界中で最も平和を希求する人物の一人であるキアロスタミ監督に、イラン人だからビザが出ないと聞き、深い悲しみを覚える。石油すらもっていないフィンランド人はもっと不要だろう。米国務長官は我が国でキノコ狩りでもして気を静めたらどうか。世界の文化の交換が妨害されたら何が残る? 武器の交換か?」
『希望のかなた』でも、監督は辛辣なユーモアで不寛容な世界に声をあげています。
スキンヘッドのネオナチ集団が出会いがしらに「このユダヤ野郎」とカーリドを殴ります。相手がどういう人物であるか理解もせず、ただ異質なものを排除しようという、今の社会を象徴しているようでした。
仮想敵を作ることで、権力を誇示したい者がいる限り、平和共存は実現しないとつくづく思う場面でした。
トルコから船でギリシャに渡り、歩いていくつもの国境を越え、新たな安住の地を求めるカーリドは、今、世界に何百万といる難民の一人。彼らが平穏に暮らせることに手を差しのべるどころか、入国さえ拒否しようとする風潮に暗澹たる気持ちになります。(咲)
主演のシリア難民を演じたシェルワン・ハジさんが9月末、難民映画祭にあわせて来日。
お話を伺いました。
★スタッフ日記『希望のかなた』でシリア難民を演じたシェルワン・ハジさんは、シリアのクルド人 →こちら
★特別記事 シェルワン・ハジさん インタビューは、こちら!
2017年 第67回ベルリン国際映画祭最優秀監督賞
2017年/フィンランド/フィンランド語、英語、アラビア語/98分/DCP・35o/カラー
配給: ユーロスペース
公式サイト:http://kibou-film.com/
★2017年12月2日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
2017年11月21日
プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード (原題:Interlude in Prague)
監督:ジョン・スティーブンソン
製作:ヒュー・ペナルット・ジョーンズ,ハンナ・リーダー
製作総指揮:サイモン・モーズリー,マシュー・スティルマン
出演:アナイリン・バーナード,モーフィッド・クラーク,ジェームズ・ピュアフォイ 他
1787年、プラハはオペラ「フィガロの結婚」の話題で持ちきりだった。上流階級の名士たちは、モーツァルトをプラハに招き、新作を作曲させようと決める。その頃、モーツァルトは息子を亡くし失意のどん底にあり、喜んでプラハにやってきた。「フィガロの結婚」のリハーサルと新作オペラの作曲にいそしむモーツァルト。やがて、彼は、『フィガロの結婚』のケルビーノ役に抜擢された若手オペラ歌手スザンナと出会い、魅了される。一方、スザンナもモーツァルトが妻帯者と知りながら、その天才ぶりに引き付けられずにはいられなかった。しかし、オペラのパトロンであり、猟色家との噂のあるサロカ男爵もまた、スザンナを狙っていた--
クラシック音楽に興味の無いひとでもモーツァルトの名前くらいは知っている。神童で天才だった音楽家モーツァルトに焦点を当てた『アマデウス』以降の久々に制作された本格的モーツァルト映画。プラハを訪れたモーツァルトが、その地でオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を作曲したという史実があり、猟色家ドン・ジョヴァンニを主人公にしたオペラ創作の背景に、モーツァルト自身を巻き込んだ三角関係があったとする独創的な作品…実際には三角関係は無いけれども、モーツァルトの人となりが伝わってくる。ほんと、あんなに精魂こめて作曲やら演奏活動をしていたら過労死するのも仕方ない…天才は色んな目にも遭うし短命なんですね、、 私、実は音楽一家に育っていて、3歳から15歳の高校受験までの12年間はクラシックピアノを習っていて、将来は音楽の先生になるんだとばかり思っていたのに、どこでどう間違ったのか(笑) …モーツァルト先生の、ゆいいつトルコ行進曲は暗譜してるので、しばらくぶりに弾いてみたくなった。 (千)
(C)TRIO IN PRAGUE 2016
2016年/チェコ・イギリス/103min. 配給:熱帯美術館
公式: http://mozart-movie.jp/
★2017年12月2日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2017年11月19日
gifted/ギフテッド(原題:Gifted)
監督:マーク・ウェブ
脚本:トム・フリン
撮影:スチュアート・ドライバーグ
出演:クリス・エバンス(フランク)、マッケンナ・グレイス(メアリー)、ジェニー・スレイト(ボニー)、リンゼイ・ダンカン(イブリン)、オクタビア・スペンサー(ロバータ)
フロリダの小さな港町。メアリーは生まれてすぐに母親を亡くして、叔父のフランクが親代わりとなった。フランクは独身だが、姉の遺志どおり生まれたばかりのメアリに愛情を注いで育ててきた。7歳になって小学校に行き始めるとすぐに、メアリーの天才的な数学の才能が明らかになってしまう。フランクは頑なに特別扱いを拒み、子どもらしくしなさいと言い聞かせる。学校になじんだころ、フランクの母イブリンが孫娘に英才教育を受けさせようとやってきた。フランクとメアリーに拒絶されると、二人を引き離すために様々な妨害工作を始める。
『(500)日のサマー』(2010年)『アメイジング・スパイダーマン』(2012年、2014年)のマーク・ウェブ監督が大作の後に原点に戻ったかのような、心温まるストーリーを送り出しました。キャプテン・アメリカで一躍名をはせたクリス・エバンスが無精ひげにヨレヨレのシャツ、何かワケありそうな叔父役です。メアリー役マッケンナ・グレイスは長いまつ毛と垂れ気味の大きな目が可愛い!2006年生まれだそうですが、この撮影のときはまだ前歯が生えそろっていません。数学の天才少女の役なので、私にはさっぱり意味不明の数式をすらすらと黒板に書いていきます。これは暗記したのでしょうか?ひれ伏したくなります(筆者:数Tで躓きました)。これからどんな女優に成長するのか楽しみです。
欧米には潜在的能力のある“ギフテッド”と呼ばれる子どもたちに特別の教育を施すクラスや学校があるようです。名前の通り「神から選ばれ、特別な能力を贈られた」と認め、さらに育ようとするんですね。日本でもきっとそんな子どもたちがいるのではと思いますが、教育は浸透するのでしょうか。(白)
2017年/アメリカ/カラー/シネスコ/101分
配給:20世紀フォックス映画
(C)2017 Twentieth Century Fox
http://www.foxmovies-jp.com/gifted/
★2017年11月23日(土)よりTOHOシネマズシャンテほか全国で公開
ローガン・ラッキー(原題:Logan Lucky)
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
脚本:レベッカ・ブラント
撮影:ピーター・アンドリュース
音楽:デビッド・ホームズ
出演:チャニング・テイタム(ジミー・ローガン)、アダム・ドライバー(クライド・ローガン)、ライリー・キーオ(メリー・ローガン)、ダニエル・クレイグ(ジョー・バング)、ヒラリー・スワンク(サラ・グレイソン)、ケイティ・ホームズ(ボビー・ジョー)、セス・マクファーレン(マックス)
足が悪いのを理由に。炭鉱の仕事をクビになったジミー・ローガン。このままでは離婚した妻のところにいる一人娘と会うこともできなくなる。一計を案じたジミーは弟のクライドと妹のメリーを誘ってある計画をぶち上げる。それは全米最大のカーレース中に莫大な売上金を盗み出すという破天荒なもの。たまたま地下の作業で売上金の流れを知って思いついたことだった。しかしこれまで強盗など未経験、とことんツキに見放されたローガンファミリーだけでは絶対に不可能だ。それを可能にする爆破のプロがジョー・バング。彼は服役中だったが、面会に行ったジミーとクライドはジョーに「俺たちが脱獄させる」と言い切る。しかも気づかれないようにまた戻るというのだった。本当にそんなことができるのか。
『オーシャンズ』3部作の後映画界から引退宣言していたソダ―バーグ監督の復活第1作。この作品の監督に誰がいいか相談に乗っていたところ、脚本を読んで俄然自分が撮りたくなったのだそうです。監督のもと豪華キャストが終結して、起死回生のクライム+コメディ作品ができました。『マジック・マイク』に続き主演となったチャニング・テイタムは、今度は子煩悩なパパ。娘とのやりとりにほっこりします。自らブリーチしてプラチナブロンドの髪に変えてきたダニエル・クレイグが007と同じ人とは思えないぶっ飛びぶりです。いや、とっても楽しそうです。
ハラハラさせながらいくつのもシーンをたたみかけるように見せて、とても気分のいい作品になりました。お金の流れのシステムはフィクションだそうですので、これを真似てもネコババはできません。(白)
2017年/アメリカ/カラー/シネスコ119分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、STAR CHANNEL MOVIES
(C)2017 Incarcerated Industries Inc. All Rights Reserved.
http://www.logan-lucky.jp/
★2017年11月18日(土)より公開中
2017年11月18日
まともな男(原題:Nichts passiert)
監督・脚本:ミヒャ・レヴィンスキー
撮影:ピエール・メネル
音楽:マルセル・ブラッティ
出演:デーヴィト・シュトリーゾフ(トーマス)、マレン・エッゲルト(マルティナ)、アニーナ・ヴァルト(ザラ)、ロッテ・ベッカー(ジェニー)、マックス・フーバッヒャー(セヴェリン)、シュテファヌ・メーダー(セヴェリンの父親)、ベアト・マルティ(ザラの父親)
平凡なサラリーマンのトーマスは、妻のマルティナ、15歳の一人娘ジェニーと恒例の家族旅行でスイスのスキー場に向かっている。上司の娘のザラも連れていくことにしぶしぶ同意してくれた妻と娘に肩身が狭い。到着した晩、旧知の青年セヴェリンとパーティに出かけた娘たちを迎えに行くと、ザラが見当たらない。ようやく見つけたザラのただならぬ様子に問いただすと「セヴェリンにレイプされた。誰にも言わないで」と告白された。ザラに良かれと妻にも打ち明けないトーマス。しかし嘘は嘘を呼んで、のっぴきならない事態に陥っていく。
冒頭にセラピーを受けるトーマスの様子が出てきて、どうもお酒で失敗したらしいとわかります。人が良くて頼まれたら断れない平凡なサラリーマンが、上司の娘を預かったばかりに陥る悲劇のスパイラル。ところはスイスで主人公はドイツ人ですが、どこの国でもありそうな問題がちりばめられています。家族、仕事、レイプされた少女、ストレスと飲酒、暴力 etc,etc...。
初めにボタンを掛け違えたばかりに、次々と問題に直面する「まともな男」は自分であり、家族であるかもしれません。観終わってすっきりするのでなく、宿題をもらったような感じが残ります。一緒に観た人と、自分ならどうする?と話題が沸騰しそうです。スイスでヒットし、映画祭では数々の受賞を果たしています。
今回初来日したミヒャ・レヴィンスキー監督に本日お話を伺いました。(白)
急ぎスタッフ日記にインタビュー記事アップしました。こちら。
●シネジャHP特別記事に画像を加えてアップしました。こちら
2015年/スイス/カラー/92分
配給:カルチュアルライフ
(C)Cultural Life & PLAN B FILM. All Rights Reserved.
http://www.culturallife.jp/matomonaotoko
★2017年11月18日(土)より 新宿K‘s cinemaほか全国公開中!