2017年08月19日
パターソン(原題:Paterson)
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレデリック・エルムス
美術:マーク・フリードバーグ
衣装:キャサリン・ジョージ
出演:アダム・ドライバー(パターソン)、ゴルシフテ・ファラハニ(ローラ)、バリー・シャバカ・ヘンリー(ドク)、クリフ・スミス(メソッド・マン)、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー(マリー)、永瀬正敏(詩人)
アメリカ ニュージャージー州パターソン市。パターソンはここで生まれ育ち、市営バスの運転手をしている。小さな家に妻のローラとブルドッグのマーヴィンと住み、毎朝決まった時間に起き、朝食をとり、ランチボックスを持って出勤する。同僚と挨拶を交わし、決まったルートをバスで走る。聞こえてくる乗客の会話に微笑み、空き時間には秘密のノートに詩を書きつける。帰宅してローラと話しながら夕食。マーヴィンと夜の散歩に出かけ、いつものバーでビールを1杯飲んで一日が終わる。時間がゆったりと流れていく。
映画は毎朝、夫婦が眠るベッドの上からのシーンで始まります。日曜日まで概ね同じような毎日が繰り返されます。だからと言って「もっと別の何か!」とか「ここではないどこか!」とか、叫んだりしません。若い頃の黒澤久雄さんにちょっと似たアダム・ドライバー演じるパターソンは、マッチのラベルにも詩を感じとり、愛妻と愛犬との生活に満足しています。ローラは夫の詩の讃美者であり、アーティスト。白黒の模様にこだわり、インテリアや洋服、カップケーキにも描いてしまう可愛い妻を『彼女が消えた浜辺』のイランの女優ゴルシフテ・ファラハニが魅力たっぷりに演じています。バーでの一騒動やバスの故障、マーヴィン(パルム・ドッグ賞!)のいたずらの他たいした事件もないけれど、詩心を持っていれば退屈なんてありえません。パターソンがノートに綴る詩は、ジャームッシュ監督が好きなアメリカの詩人ロン・バジェット作だそうです。アダム・ドライバーの筆跡で、語りに合わせて画面に上書きされていきます。綺麗で読みやすい字でした。
パターソンが出会う日本の詩人は、旧知の永瀬正敏のために監督が作った役。短い間に強い印象を刻んでいきました。aha!
グーグルアースで探してみたら、パターソン市はニューヨークの近く。広さも人口も多摩市くらい。滝もすぐ見つかります。パターソンが歩く道筋、バスの走る道も追いかけることができそうです。お試しを。(白)
2016年/アメリカ/カラー/ビスタ/118分
配給:ロングライド
Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
http://www.ttcg.jp/topics/master-selection/
★2017年8月26日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ボブという名の猫 幸せのハイタッチ(原題:A Street Cat Named Bob)
監督:ロジャー・スポティスウッド
原作:ジェームズ・ボーウェン
脚本:ティム・ジョン、マリア・ネイション
撮影:ピーター・ウンストーフ
美術:アントニア・ロウ
衣装:ジョー・トンプソン
音楽:デビッド・ハーシュフェルダー
キャスト:ルーク・トレッダウェイ(ジェームズ・ボーエン)、ルタ・ゲドミンタス(ベティ)、ジョアンヌ・フロガット(ヴァル)、アンソニー・ヘッド(ジャック・ボーエン)、キャロライン・グッドオール(メアリー)
ロンドンの片隅で食べ物をあさっている若いホームレスのジェームズは、自称ミュージシャン。親に反発して家を出、歌い続けていたが芽が出ずに挫折。ドラッグに溺れて福祉局の指導を受けて更生プログラム中だった。意思の弱さからヘロインに手を出し、福祉局のヴァルから「次はない」ときつく念を押され、やっと小さなアパートに入ることができた。久しぶりの家に感激していると、どこからか茶トラ猫が迷い込んできた。
猫を保護したのをきっかけに、動物好きで優しい隣人ベティと知り合う。ベティは薬物中毒の兄を亡くしていた。茶トラ猫をボブと名付け、肩にのせてストリートに連れていくと、これまでになく人が集まってくれる。ボブはジェームズのお守りで「招き猫」になった。ある日ベティに中毒者であることを知られたジェームズは、今度こそ本気でクスリを断とうとする。
原作は本人のジェームズ・ボーウェンが書いた「ボブという名のストリート・キャット」。猫とミュージシャンの実話は英国のベストセラーとなり、日本でも翻訳出版(辰巳出版刊)されていてさっそく読みました。ハイタッチしてくれるボブは、ストリートですっかり有名になり、ジェームズが生活を立て直す原動力となりました。映画に出演する猫はたいていトレーナーに訓練されたプロの役者猫?ですが、このボブは本人。全く物怖じせず、カメラなどないかのように自然に動いています。
ルーク・トレッダウェイは結合双生児のロックミュージシャンの映画『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』(2005)で双子のハリーと出演、そちらでも歌声を披露していましたが、以後の出演は別々のようです。ただの猫大好き映画ではなく、イギリスの若者の貧困と薬物中毒もリアルに描き出しています。ジェームスにヘロインを薦めた中毒の若者の悲惨な最後に、この子にも仕事と住むところがあれば違っただろうにと思ってしまいます。ボブがいることで立ち直ったジェームズは、そういう若者たちの支援活動中とか。ラストのサイン会に本人がちょっと出演しています。ボブはもちろん今も元気で、ジェームズのかけがえのない相棒です。私もボブとハイタッチしたい〜。(白)
2016年/イギリス/カラー/シネスコ/103分
配給:コムストック・グループ
(C)2016 STREET CAT FILM DISTRIBUTION LIMITED ALL RIGHTS RESERVED.
http://bobthecat.jp/
★2017年8月26日(土)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち 原題:日曜日式散歩者
監督:黃亞歷(ホアン・ヤーリー)
出演:梁俊文(リァン・チュンウェン)、李銘偉(リー・ミンウェイ)、沈君石(イアン・シェン)、沈華良(イーブン・シェン)、何裕天(デヴン・ホー)
1933年春、台湾南部の古都、台南の町でモダニズム詩人のグループ「風車詩社」が結成された。日本による統治が40年ほど経ち、日本語で教育を受けた若者たちによる、新しい台湾文学を創ろうという動きだった。日曜日になると、皆で集まり、台南の町を散歩しながら詩を語った。
1945年、日本の統治が終焉を迎え、日本語が禁じられた中で、二二八事件、白色テロなど、彼らは迫害を受けるようになる・・・
「風車詩社」に集った人たちの詩が数多くの写真や映像とともに紹介され、日本統治時代の台湾を垣間見ることができました。戦前の10年ほど、母が台湾の基隆で暮らしていた時代とも重なり、感無量でした。戦争が始まり、戦勝を祝っての提灯行列や、出征する男たちを旗を振って見送る人々の姿・・・ 母もあの中にいたような思いにかられました。母の台湾人の同級生からの美しい日本語で綴られた手紙のことも思い出しました。あの時代、日本語教育を受けた台湾の人たちにとって、詩も手紙も日本語で綴るのが自然なことだったのだと。
戦後70年以上経った今になって、「風車詩社」を通じて日本統治時代の台湾のことを台湾人の監督が映像に残してくれたことに感謝したい。(咲)
◆トークイベント: シアター・イメージフォーラムにて10:45回上映後
8/19(土) 吉増剛造(詩人)
8/20(日) 河原功(一般財団法人台湾協会理事)
日本統治期の台湾文学について・実際の書籍資料を用いて
8/26(土) 三木直大(台湾現代詩研究/前・広島大学教授)
詩と歴史のモンタージュ・台湾超現実主義詩の1930年代と1950年代
8/27(日) 笠井裕之(20世紀フランス文学/慶應義塾大学教授)
コクトーと日本のモダニズム−−風車詩社の視点から
9/2(土) 陳允元(映画顧問/政治大学台湾文学研究科博士)
映画『日曜日の散歩者』が出来るまで―風車詩社の文学を中心に
9/3(日) 八木幹夫(詩人/元日本現代詩人会理事長)
台湾のモダニズム詩と西脇順三郎の初期詩篇について
配給:ダゲレオ出版
配給協力/宣伝:太秦
後援:台北駐日経済文化代表処 、台湾新聞社
2015年/台湾/カラー/DCP/5.1ch/162分
公式サイト:http://www.sunpoday.com
★2017年8月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー!