2017年08月27日
ザ・ウォール(原題:The Wall)
監督:ダグ・リーマン
脚本:ドウェイン・ウォーレル
撮影:ロマン・バシャノフ
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン(アイザック)、ジョン・シナ(マシューズ)
2007年イラク戦争中。アメリカ兵のアイザックとマシューズが遺体の点在する砂漠を偵察していると、突然銃弾がマシューズを襲う。アイザックは倒れているマシューズを助けようと、一つ残っていた瓦礫の壁の後ろに駆け込む。敵兵がどこにいるのか見当もつかない。無線で救援を呼ぶと、かすかに訛りが聞き取れた。相手はアメリカ軍ではなく、敵のスナイパーで、アメリカ兵が“死神”と怖れているジューパ。アメリカ兵に偽装してこちらの位置を確定していたのだった。
砂漠に登場するのは死体と二人のアメリカ兵。それに姿を見せずに二人を狙い撃ちするジューパと呼ばれる男の声だけ。そのやりとりと銃撃戦だけで、90分間緊張が途切れずに続きました。アイザックは壁を頼りに孤独な闘いを続けるのですが、レンガを積んだだけで隙間だらけの心もとないもの。自分もその場で狙われていたかのようで、観終わってどっと疲れが出ました。
世界中で戦争がなくならないのは「させたい(自分は出ない)」人がいるんでしょうね。もっとも今や遠く離れた安全な地で、パソコンゲームのようにピンポイントで狙い撃ちする方に変わっているのですが。その後、身体でなく、心に傷を負う兵士たちも生まれています。闘いたいトップの人だけ「ガチンコ勝負」したらどうなんでしょう。誰も出てこないはず。
アーロン・テイラー=ジョンソンはいつも目を引く美形ですが、孤軍奮闘する今回は最後まで軍装で汗と砂まみれ。相棒の屈強なマシューズ役のジョン・シナは、WWEに所属する現役のプロレスラーだそうです。相手が飛び道具で組み討ちはできず。(白)
2017年/アメリカ/カラー/シネスコ/90分
配給:プレシディオ
(C)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
http://thewall-movie.jp/
★2017年9月1日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
二度めの夏、二度と会えない君
監督:中西健二
原作:赤城大空「二度めの夏、二度と会えない君」(ガガガ文庫刊)
脚本:長谷川康夫
主題歌:たんこぶちん
出演:村上虹郎(篠原智)、吉田円佳(森山燐)、加藤玲奈(菅野瑛子)、金城茉奈(花京院姫子)、山田裕貴(石田六郎)、本上まなみ(布施敦子)、菊池亜希子(榎本優)
高校3年の夏の始め、智は「バンドやろう!」と転校生の森山燐に声をかけられる。北高の文化祭で智とライブをするのが夢なのだという。バンド活動が禁止されている北高だったが、燐の奔走で花京院姫子、石田六郎という異色のメンバーが集められる。特訓の末ライブは成功し、夏の終りに智は燐に自分の思いを伝えるが、激しい拒絶にあい、智は2度と燐に会えなくなった。大きな後悔を抱えていた智はある日、突然6か月前に戻ってしまい、半信半疑のままもう一度あの夏をやり直そうと決心する。
これまた大好きな時を遡るタイムトラベルもの。
タイムリープとも言われていますが、これはタイムとリープ(跳躍)を合わせた和製英語らしいです。英語ではタイムトラベルかタイムワープというのがふつうだと、さきほど検索・調査済。ともあれ、「もう一度やり直せる」というのは大きな誘惑であります。しかーし、現在がどう変化するかわからないリスクも…。このごろは「トラベル前」「トラベル後」どちらも両立する「平行宇宙」という考え方もあるようです。
この作品では、女子に告白したのを後悔していた男子が「今度は絶対好きにならないぞ」と決心して2度目の夏を迎えるのです。はてさて…。
出演作が続く村上虹郎と、これが映画初出演のガールズバンド“たんこぶちん”ボーカル吉田円佳の組み合わせがなかなか良くて、察しの悪い智にイラッとしながらも「今度はうまくいきますように」と応援する気持ちになりました。同世代の皆様はもっと感情移入できることでしょう。(白)
2017年/日本/カラー/ビスタ/106分
配給:キノフィルムズ
(C)赤城大空・小学館/『二度めの夏、二度と会えない君』パートナーズ
http://nido-natsu.com/
★2017年9月1日(金)新宿バルト9他全国ロードショー
トリガール!
監督:英勉
原作:中村航「トリガール!」(角川文庫刊)
脚本:高橋泉
撮影:小松高志
出演:土屋太鳳(鳥山ゆきな)、間宮祥太朗(坂場大志)、高杉真宙(高橋圭)、池田エライザ(島村和美)、矢本悠馬(古沢)、前原滉(横原)、佐生雪(メガネ女子)、ナダル(アナウンサー)、羽鳥慎一(ペラ夫)、轟二郎(轟二郎似の住職)
これまで深く考えることなく、お気楽に流されて生きて来た鳥山ゆきな。一浪して入った理系大学に夢も希望も持っていなかった。ストレートで入学した年下の和美に誘われ、和美お目当てのサークル見学にしぶしぶついていく。そこは鳥人間コンテスト%賞を目指す人力飛行サークル。殺し文句をささやかれた圭先輩に一目惚れしてしまい、撮影が趣味の和美と一緒に入部する。自転車通学で脚力だけはあるゆきなはパイロット班。これで圭先輩と2人になれる、と甘い想像を巡らしていたゆきなを打ち砕いたのは、最強のパワーを持つ坂場先輩。ハンサムだけれどヤンキーな外面とは反対にメンタルは最弱。失敗のトラウマを乗り越えられないままでいる坂場とコンビを組むことになってしまった。
テレビの特別番組の鳥人間コンテスト≠ヘ我が家もずいぶん前から見ていました。発足はなんと40年前、途中断続しながら今も続いています。つい7月には20qで向きを変えて折り返し20qを戻り着水(まだ余力はあった模様)、往復40qという新記録が生まれました。
映画では挑戦する大学サークルでの舞台裏、学生たちの奮闘ぶりが細かに描かれます。
同名の原作は中村航。コンテストの常連だった母校の芝浦工業大学のサークルをモデルに書かれた青春部活¥ャ説です。2人乗り自転車のパワーでプロペラを回して空を飛ぼうというのですから、想像しただけで足がつりそうです。俳優さんたちさすがに若い! 全力疾走です。
英勉(はなぶさつとむ)監督は『ハンサム★スーツ』(2008)でデビュー後、貞子で怖がらせながら、『行け!男子高校演劇部』(2011)『ヒロイン失格』(2015)などの青春もので笑わせ楽しませてくれました。
お年頃の美男美女の4人、あちこちを向いている恋愛ベクトルがどうなるのかは観てのお楽しみ。(白)
2017年/日本/カラー//98分
配給:ショウゲート
(C)2017「トリガール!」製作委員会
http://torigirl-movie.com/
★2017年9月1日(金)TOHOシネマズ新宿他、全国ロードショー
もうろうをいきる
監督:西原孝至『わたしの自由について SEALDs 2015』
撮影:加藤孝信、山本大輔
音楽:柳下美恵
目が見えず耳も聞こえない“盲ろう”の人たちは日本全国に14000人ほどいるそうです(把握していない方もいるはず)。彼らの日常生活、介助者、支援する組織などを追ったドキュメンタリー。新潟県佐渡島で支援を受けながら一人で暮らしている女性、震災と津波に襲われた石巻市の男性、柔道に打ち込みながら自立し、結婚したいと願う広島の男性、通訳者の訪問を心待ちにしている女性たち…の日常に密着。東京大学先端科学技術研究センターの福島智(ふくしま さとし)教授ら各方面の関係者、支援者、団体も紹介。
盲ろうであるというのは「まるで宇宙にたった一人でとり残されたよう」と表現した方がいます。健常者には想像することも難しい状態ですが、自分がその立場になったら果たして、こんなに生き生きと暮らしていけるだろうか。ここにたどり着くまでにどれほどの不安や怖れを抱いて日々を過ごしたのだろうかと胸がつまるようでした。盲ろう者のコミュニケーションの手段には、点字のほかに通訳者や介助者に触れる触手話、指点字、書き文字(手のひらに指で書く)などがあります。いつからどちらが失われたのか、盲とろうどちらがベースか、などで変わってきます。どの方も一心に集中して、嬉しそうに“会話”しているのが印象的でした。
人と人が関わって暮らしていくことを厭うような風潮が見られるこのごろです。目が見え、耳が聞こえても、心に高い垣根を張り巡らしていれば孤独から抜け出すことはできません。障がいのある人にかぎらず、誰もがバリアフリーな社会を目指せばもっと生きやすくなるとしみじみ思いました。
福島智教授は腕白坊主だったそうですが、子どものころからだんだん見えなくなり3歳で右目、9歳で左目の摘出手術を受けます。それでも点字を覚え、読書やスポーツ、軽音楽を楽しんでいた盲学校中学生のときに右耳、高校生で左耳の聴力を失ってしまいます。18歳でどん底まで落ち込んだ後、自分の「見えない、聞こえない」状態は何か意味があるのだろうと自分で納得します。大きなハンデを背負いながら盲ろう者として初めて大学進学をし、全国の盲ろう者に希望を与えました。2008年より東京大学先端科学技術研究センター教授。
今、日本全国に広く知られている「指点字」は福島教授のお母さんの福島令子さんが、考案したもの。ちょうど台所にいて簡易点字器も紙もなく、智さんの指に自分の指を乗せ、点字タイプライターの要領で「さ と し わ か る か」としたのが始まりであったそうです。著書「さとしわかるか」(2009年/福島令子/朝日新聞出版)に智さんの生い立ちから詳しく書かれていました。(白)
2017年/日本/カラー//91分
配給:シグロ
(C)2017 Siglo
https://www.facebook.com/mourou.ikiru/
★2017年8月26日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
新感染 ファイナル・エクスプレス 原題:釜山行き 英題:Train to Busan ...
監督: ヨン・サンホ
出演: コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、キム・ウィソン
早朝5時半、ソウル駅発プサン行き高速鉄道KTX。
証券マンのソグ(コン・ユ)は、プサンで別居中の妻のもとに幼い娘スアンを送り届けるべく、KTX 3号車に乗り込んだ。列車は、試合に向かう野球部員の学生たちや、臨月で実家に向かう夫妻など、早朝から大勢の乗客で混みあっていた。
発車間際、足から血を流した女が12号車に駆け込む。女は、何者かに足を噛まれ、人間を凶暴化させるウィルスに感染していて、突然発作を起こし、女性乗務員に噛み付く。たちまち感染し、11号車に乗っていた野球部員たちも次々に凶暴化していく。パニック状態が、やがて4号車まで押し寄せ、スアンを4号車のトイレに連れて行ったソグは大慌てで3号車に戻る。その時、ソグは感染者が自力ではドアを開けられないことに気付く。ソグは、無事、スアンをプサンまで送り届けることができるのか・・・
感染して次々とゾンビと化していく中で、なんとか自分は襲われないようにと身を守る人々。エゴ丸出しで、まだ襲われていない人までも締め出そうとする男も。離れ離れになり、感染してしまった姉を見守るしかない妹。身重の妻を守る頑強な夫(このところ、あちこちの映画で活躍のマ・ドンソクさんが好演)。危険が身に迫る中、これまで仕事人間で家族を省みなかったことを思うソグ・・・。様々な人間模様が繰り広げられます。
発車間際に駆け込んだ足から血を流した様子の変な女を演じているのは、映画『怪しい彼女』のシム・ウンギョン。なのですが、変わり果てた姿に、彼女だとわかりませんでした。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚にあたるアニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(9月30日公開https://pandemic-movie.com/)で、夜を彷徨う女性ヘスンの声を担当しているのがシム・ウンギョン。
本作を観たあと、先に作られた『ソウル・ステーション/パンデミック』を観たのですが、アニメで描いたゾンビの動きを、忠実に実写で再現したのがわかって、そっくりな動きに思わず笑ってしまいました。ぜひ見比べてみてください。(咲)
2016年/韓国/118分
配給:ツイン
公式サイト:http://shin-kansen.com/
★2017年9月1日(金)新宿ピカデリー他全国公開