2017年07月23日
ダイ・ビューティフル(原題:Die Beautiful)
監督:ジュン・ロブレス・ラナ
脚本:ロディ・ベラ
撮影:カルロ・メンドーサ
音楽:リカルド・ゴンサレス
出演:パオロ・バレステロス(トリシャ)、ジョエル・トーレ(トリシャの父)、グラディス・レイエス(トリシャの姉)、クリスチャン・バブレス(バーブ)
ミス・ゲイ・フィリピーナで念願のミスコン女王に輝いた直後、急死してしまったトランスジェンダーのトリシャ。彼女の遺言は「ゴージャスなセレブメイクで、美しい姿で逝きたい」というもの。それも日替わりで7日間。トリシャの父親は元の男性の姿に戻そうと反対するが、友人達は彼女の遺言どおりにして送るべく、病院から遺体を盗み出す。そして腕によりをかけてトリシャに美しいメイクを施すのだった。
昨年10月の東京国際映画祭で主演男優賞と観客賞に輝いた作品。フィリピンでトランスジェンダーのトリーシャを妖艶かつ可愛らしく演じたパオロ・バレステロス、ご覧のとおりのイケメンです。メイクは全部彼自身がしているので、監督は「メーキャップ担当を雇わなくて済んで助かった」そうです。「男優賞・女優賞どちらでしょうか」という記者の質問にパオロは「どっちも!」と回答。場内大ウケでした。「日本の観客にこんなに喜んでもらえて嬉しい」と声を詰まらせていたロブレス監督。フィリピンでトランスジェンダーの殺害事件があり、心無い中傷をした人たちにもっと理解してほしいと思って企画した作品だそうです。ありのままの自分に誇りを持ち、最後まで自分らしく美しく生きたトリシャの波乱の物語をご覧ください。(白)
2016年/フィリピン/カラー/ビスタ/120分
配給:ココロヲ・動かす・映画社○
(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films
https://www.cocomaru.net/diebeautiful
★2017年7月22日(土)より新宿シネマカリテにてロードショー
君はひとりじゃない(原題:Body/Cialo)
監督:マウゴシュカ・シュモフスカ
脚本:マウゴシュカ・シュモフスカ、ミハウ・エングレルト
撮影:ミハウ・エングレルト
出演:ヤヌシュ・ガヨス(ヤヌシュ)、マヤ・オスタシェフスカ(アンナ)、ユスティナ・スワラ(オルガ)
検察官のヤヌシュは妻を亡くし、娘のオルガと二人で暮らしている。オルガは母親が亡くなってから心を閉ざしてしまい、摂食障害を患って日に日にやせ細っていた。そんな娘をどう扱っていいかわからないヤヌシュは、セラピストのアンナのもとへオルガを連れていく。アンナは独自の療法で傷ついた人々癒していたが、自身も8年前に生まれたばかりの息子を亡くし、仕事と愛犬が心の支えだった。
最初に現れるのが、外で首つり自殺をした男性と検死の人々。ヤヌシュもこの中にいますが、みんながあれこれやっているときに遺体が突然スタスタと歩き出し、向こうへ行ってしまいます。誰も気にせず、観ているこちらは「何?!」とあっけにとられてしまいました。
ヤヌシュは仕事柄毎日のように死体を見て感覚がマヒしているのか、どんなに陰惨な現場の遺体であっても、それはすでにモノ。平気でランチの肉にかぶりつき、後輩に奇異の目で見られます。妻が死んだ後、家の中で起こる現象も不思議とは思いません。娘オルガは父親を嫌い、セラピーでその憤懣をぶつけます。
このオルガ役のユスティナ・スワラは全くの素人、シュモフスカ監督がfacebookで彼女の写真に目を止めて、出演することになったのだとか。痩せ細った身体が痛々しいですが、なかなかの目力です。アンナ役のマヤ・オスタシェフスカは映画と舞台で活躍する女優。声がおなかの底から出ています。観る人によって、シリアスにもコメディにもとれるふり幅の大きい作品。もう亡くなってしまった大切な人がそばで見守っていてくれるといいなぁ、と思います。たまには目もつぶって。
2015年東京国際映画祭ワールドフォーカス部門で上映。この年の第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞、本国ポーランドでも多数受賞しています。(白)
2015年/ポーランド/カラー/90分
配給:シンカ
(C)Jacek Drygala
http://hitorijanai.jp/
★2017年7月22日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
ビニー/信じる男(原題:Bleed for This)
監督・脚本:ベン・ヤンガー
撮影:ラーキン・サイプル
出演:マイルズ・テラー(ビニー・パジェンサ)、アーロン・エッカート(ケビン・ルーニー)、ケイティ・セイガル(ルイーズ・パジェンサ)、キアラン・ハインズ(アンジェロ・パジェンサ)、テッド・レヴィン(ルー・デュバ)
スーパーライト級のプロボクサー、ビニー・パジェンサはチャンピオンのロジャー・メイウェザーに叩きのめされ、さすがの鼻っ柱も折れたかに見えた。プロモーターから引退をすすめられたビニーは逆に奮起、かつては名トレーナー、今や酒浸りのケビン・ルーニーを訪ねていく。二人の猛特訓が功を奏し、二つ上の階級で挑んだビニーはジュニアミドル級チャンピオンとなった。しかし、直後の交通事故によりビニーは首の骨を折る重傷、日常生活への復帰さえ危ういと診断された。ボクサーとして再起を望むビニーは、周囲の反対を押し切って手術はせず、頭を金属の装具ハローで固定する方法を選んだ。
これが実話をもとにしているというのにまず驚きました。ひん死の重傷から生還しただけではなく、誰も予想しなかった無謀ともいえるボクシングへの再挑戦を成し遂げたとは、まるでスポ根ものヒーローです。
ビニー役のマイルズ・テラーはプロボクサーの身体を作るため12sの減量、ケビン役のアーロン・エッカートは自堕落な生活を送るトレーナーを表現するため18sの増量。いつもスマートな彼が、頭を半分剃り上げ、メタボ体形で登場したので別人かと思いました(次の仕事のため、すぐ減量したそうです)。
マイルズ・テラーは『セッション』(2014)のアンドリュー役の印象が強いせいか、まだ20代初めかと思っていましたが1987年2月生まれなので、30代でした。続いて『ダイバージェント』のピーター役、このビニー役、と、自分の身体で説得力を倍増させる俳優です。息長く活躍してほしいです。(白)
2016年/アメリカ/カラー/117分
配給:ファントム・フィルム
(C)BLEED FOR THIS, LLC 2016
http://vinny-movie.com/
★2017年7月21日(土)TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
静かなる情熱 エミリ・ディキンスン 原題:A Quiet Passion
監督:テレンス・デイヴィス
出演:シンシア・ニクソン、ジェニファー・イーリー、キース・キャラダイン
アメリカを代表する女性詩人エミリ・ディキンスン(1830−1886)のベールに包まれた半生を描いた物語。
清教徒主義の影響を受けるアメリカ東部の上流階級で生まれ育ったエミリ。ある時を境に、白いドレスを身にまとい、自然に包まれた屋敷から出ることなく、1986年、55歳の生涯を閉じた。エミリの死後、妹のラヴィニアは姉の整理ダンスの引出から、清書されて46束にまとめられた1800篇近くに及ぶ詩稿を発見する・・・
エミリの詩は、彼女が生きている間にはほとんど評価されることがなかったそうですが、死後発見された詩が発行され、その後、多くの芸術家に影響を与えています。サイモン&ガーファンクルは彼女にまつわる歌「エミリー・エミリー」「夢の中の世界」をアルバムに収め、ターシャ・テューダーは「まぶしい庭へ」で挿絵を手がけ、チャールズ・シュルツの漫画「スヌーピー」の題材にもされています。ウディ・アレンもエミリのファン。
こんなにも多くの芸術家に愛された詩人エミリ・ディキンスンのことを、私は全く知りませんでした。孤独な半生を送ったエミリの胸のうちを垣間見ることのできる一作。アメリカも相当男尊女卑の社会だったことも知ることができました。(咲)
2016年/イギリス・ベルギー/英語/カラー/125分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/DCP
配給:アルバトロス・フィルム、ミモザフィルムズ
公式サイト:www.dickinson-film.jp
★2017年7月29日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー