公開劇場情報 http://www.moviola.jp/talentime/theaters/index.html
監督・脚本:ヤスミン・アフマド
撮影:キョン・ロウ
音楽:ピート・テオ
出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
2009年 マレーシア
カラー |115分 | マレー語・タミル語・英語・広東語・北京語
公式サイト http://www.moviola.jp/talentime/
不寛容の時代に届けたい作品
マレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドは2003年に監督デビューし、2009年に51歳で亡くなりましたが、6年の活動期間でマレーシア映画の新潮流を牽引し続け、6作の長編を残しました。この作品は6作目。8年の時を経て日本で劇場公開されます。
マレーシアは、マレー系、中国系、インド系と、主に3つの民族が住む多民族,多宗教国家ですが、ヤスミン監督の作品の底流にあるのは、民族、宗教、言語の違いを越えて生きる人々の姿です。民族、宗教の異なる恋愛や友情、近所づきあいが描かれ、民族間の争いによる悲劇もあるけど、違いを受け入れ応援する人々が必ず登場します。現実の社会では難しく、これはヤスミン監督が強い信念を持って、あるべき人々の姿を描いているともいえます。
この作品は、ある高校で開かれた音楽の才能を競うコンテスト「タレンタイム」を巡る物語。タレンタイムとは、「タレント性を発揮する時間」というような意味合いの造語だと思うのだけど、学校対抗の音楽コンクールに望むための学内オーディションを軸に、高校生の友情や恋、家族との絆など、マレーシアの若者の青春を瑞々しく描いています。
学校対抗の大会に出場が決まったマレー系の女生徒ムルーと、バイクでの送迎を担当するインド系男子学生マヘシュ。二人を巡る淡い恋の物語が進行します。二胡演奏が得意な中華系の生徒カーホウは、歌やギターが上手なマレー系の転校生ハフィズにトップの成績を奪われ敵対心を持ちます。マヘシュの叔父が近所のイスラム教徒に殺され、ムルーとの交際に強く反対するマヘシュの母。闘病を続けるハフィズの母。民族や宗教の違いによる葛藤を抱えながら迎えるコンクール当日。彼らの恋や対立の行方は…。ムルーとマヘシュの周りの友人や家族との関係を描きながら、マレーシア社会の現実が浮かび上がってきます。民族や宗教の壁を越えるヤスミン・ワールド全開の作品です。
初めてヤスミン監督の作品を観たのは2005年の東京国際映画祭で上映された『細い目』でした。それまでに観たマレーシア映画とは全然違う独特の表現、ユーモア感を持つヤスミンワールドに魅せられ、その後、映画祭やマレーシア映画の上映会などでほとんどの作品を観ました。
私が初めて行った外国はマレーシアということもあり、とても興味を持ったというのもあります。マレーシアはマレー系、中国系、インド系と主に3つの民族が暮らしていますが、住んでいる区域が民族ごとにけっこう明確に分かれていて、ヤスミン映画の中のように、他の民族同士がすれ違い交流するというにはほど遠い世界にも感じました。もっとも私がマレーシアに行ったのは1990年と26年も前なので、その後ヤスミン映画の中で描かれているような状況になっているのかもしれませんが…。
ヤスミン監督の作品には多民族国家であるマレーシアにおいて、異民族間の共存の意志がいつも描かれていますが、何かの記事に「三回結婚して、一度目はインド系、二度目は中華系の人」と語っていて、自分の実感が込められているのかなとも思います。あるいはあってほしい社会を描いてきた人だともいえます。
また、ヤスミン監督の家族はマレーシアではかなり進歩的な一家で、それが作品に反映されていると思います。たとえばお手伝いさんが家族と同等な立場で会話をしているシーンがあったり、妻や子供たち(女の子)が強くてお父さんはいつもやり込められていたりといったような場面にそれが生きていると思います。
ユーモアとヒューマンな心を持って作品を作っていたヤスミン監督。この不寛容な時代に一石を投じるヤスミンワールド。この作品をぜひ観ていただけたらと思います。
『タレンタイム〜優しい歌』では、いつもヤスミン監督の作品の中で、お手伝いさん役で出てくる貫禄あるアディバ・ヌールさんが、校長先生役で出てきて思わずニヤリ。その他にも、ヤスミン監督作品の常連俳優たちが出てきます。それを確認するために、あるいは、マレーシア社会をもっと理解するために、この作品の前に作られた5作品もぜひ観ていただけたらと思います(暁)。
ヤスミン・アフマド監督の他の作品が特集上映されます。ぜひ『タレンタイム』を観る前にごらんになってみてください。
特集上映期間:3月18日(土)3月24日(金)の1週間
シアター・イメージフォーラムにて
上映作品:『ラブン』(2003)
『細い目』(2004)
『グブラ』(2005)
『ムクシン』(2006)
『ムアラフ-改心』(2007)
参考記事
●2009.10.23 東京国際映画祭
アジアの風部門『タレンタイム』:ピート・テオ(音楽)インタビュー
http://2009.tiff-jp.net/report/daily.php?itemid=1310
●シネマジャーナルでは2007年にピート・テオさんにインタビューしています。
シネマジャーナルHP ピート・テオインタビュー記事
http://www.cinemajournal.net/special/2007/peteteo/index00.html
●ホー・ユーファン監督にもインタビューしています
http://www.cinemajournal.net/special/2009/Ho_Yuhang/
●シネマジャーナルスタッフ日記2015年4月 マレーシア映画ウィークの紹介
http://cinemajournal.seesaa.net/article/417481741.html
●シネマジャーナル本誌69号ではヤスミン・アハマド監督を特集しています
http://www.cinemajournal.net/bn/69/contents.html