2016年12月11日

ヒトラーの忘れもの(原題:Under sandet)

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監督・脚本:マーチン・ピータ・サンフリト
撮影:カミラ・イェルム・クヌーセン
出演:ローラン・ムラ(ラスムスン軍曹)、ミゲル・ボー・フルスゴー(エベ大尉)、ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン)、ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ)、エーミール・ベルトン(エルンスト・レスナー)、オスカー・ベルトン(ヴェルナー・レスナー)

1945年5月、ナチス・ドイツ降伏後のデンマーク。ドイツ軍が海岸線に埋めた地雷撤去のため、捕虜のドイツ兵たちが駆り出された。その多くが10代の少年兵たちだった。指揮をとるラスムスン軍曹の元に11名の捕虜が繰り込まれる。双子のエルンストとヴェルナーを始め、少年兵たちは地雷の取り扱いには不慣れで、一人また一人と命を落としていく。ナチを憎み、少年兵たちを罵倒していたラスムスン軍曹も、故国に捨てられた彼らに命がけの作業をさせることに葛藤を覚えていた。

歴史上の事実でありながら、デンマーク国内でもほとんど知られていなかった悲劇を題材にした人間ドラマです。映画はフィクションですが、記録を探し出し、病院や関係者を訪ねて掘り起こしたエピソードが盛り込まれています。長い海岸線に埋められた地雷は200万個に及ぶと言われ、撤去のために派遣された捕虜は2000人。多くが死亡したり、重症を負ったりしています。
ロケ地は戦時中実際に地雷が埋められた海岸。地雷の捜索の終了宣言が出た後も、観光客が発見したことがあったという場所です。ほとんど演技経験のないドイツの少年たちが、地雷捜索の緊迫した空気を出せたのは、その「現地」であったことが大きいと監督。
砂地に腹ばいになって少しずつ進んでいく様子に、じわじわと恐怖が襲ってきました。戦争のために駆り出され、憎み合い、殺し合い、残されたのが地雷だなんて悲しいことです。怖いと思ったのは地雷だけでなく、自分が戦時中に生きていたなら同じように敵国や敵兵を憎んだのではということでした。
軍曹役のローラン・ムラと少年兵役のルイス・ホフマンが第28回東京国際映画祭(当時は『地雷と少年兵』のタイトル)で最優秀男優賞を受賞しました。(白)


2015年/デンマーク・ドイツ合作/カラー/シネスコ/106分
配給:キノフィルムズ
(C)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S & AMUSEMENT PARK FILM GMBH & ZDF
http://hitler-wasuremono.jp/
★2016年12月17日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
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ニーゼと光のアトリエ(原題:Nise da Silveira: Senhora das Imagens)

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監督・脚本:ホベルト・ベリネール
プロデューサー:ホドリーゴ・レチェル
出演:グロリア・ピレス(ニーゼ)、シモーネ・マゼール(アデリナ)、ジュリオ・アドリアォン(カルロス)、クラウジオ・ジャボランジー(エミジオ)、ファブリシオ・ボリベイラ(フェルナンド)

1944年リオデジャネイロ郊外、ニーゼ・ダ・シルヴェイラは赴任してきた精神病院のドアをたたき続ける。ようやく重いドアが開いて中に通される。病院は男性医師ばかりで患者は劣悪な環境にあり、暴力的な治療が続けられていた。敢然と立ち向かうニーゼは疎まれて、作業療法の部署へ回される。物置同然の部屋を片付け、ユングに傾倒していたニーゼは芸術療法を試みようとする。患者に絵具と筆を持たせて決して無理強いせず、思うままに絵を描かせてみた。

実在した女医が旧弊な男性中心の精神病院で果敢に戦った様を描いて、2015年の第28回東京国際映画祭でさくらグランプリと主演女優賞を受賞しました。主演のグロリア・ピレスは子どもの頃から活躍しているスター女優だそうです。これまで観る機会はありませんでしたが、圧倒的な存在感です。実際にモデルのいる患者役の俳優さんたちも作られた演技くささはなく、病院での撮影は俳優の動きにカメラがついていったという監督の言葉にうなずきました。
患者を尊重し、臆することなく新しい治療法を進めたニーゼの仕事ぶりに感心すると共に、愛する夫と猫のいる自宅でのくつろいだ様子にホッとしました。仕事を続けるにはやはり家族の理解と協力が必要ですし、彼女を励まし続けた夫の存在に嬉しくなりました(作品の最後にニーゼご本人の映像も紹介されます)。
ぜひこの偉業を知らせたいと構想から13年、作り始めて4年かかってようやく完成した作品です。ホベルト・ベリネール監督はどこにそんな強い思いを秘めていたのかしら、と思うような穏やかな笑顔の方でした。画像は昨年の映画祭でのQ&Aのときのものです。右がホベルト・ベリネール監督、左がホドリーゴ・レチェルプロデューサー。(白)


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ロボトミー手術やショック療法が正しいものとされ、暴れる患者を人間扱いしない精神病院がほとんどだった1940年代。そこにニーゼは絵や彫刻芸術など、アートをもちいる療法など画期的な改革案を導入するが、彼女の前に男性社会の厚い壁が立ちはだかっていた。非人間的な医学常識に挑む勇気を持った精神科医の苦闘を描く。
現在では普通に行われている絵画を描く療法や音楽療法。その分野に果敢に挑戦した、実在のブラジルの女性精神科医ニーゼを知らしめるため、この作品を作ったと監督は語っていた。(暁)


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2015年東京国際映画祭授賞式で

2015年/ブラジル/カラー/ビスタ/109分
配給:ココロヲ・動かす・映画社○
(C)TvZero
http://maru-movie.com/nise.html
★2016年12月17日(土)渋谷 ユーロスペースほか全国順次ロードショー
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ドント・ブリーズ(原題:Don't Breathe)

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監督:フェデ・アルバレス
脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス
音楽:ロケ・バニョス
出演:ジェーン・レヴィ(ロッキー)、ディラン・ミネット(アレックス)、ダニエル・ゾバット(マニー)、スティーブン・ラング(盲目の老人)

デトロイトに住むロッキーは、自堕落な両親とさびれたこの町から妹を連れて逃げ出したいと思っていた。恋人のマニー、友人のアレックスとの3人で留守宅を狙った窃盗を繰り返して稼いでいたが、逃避行の資金にはまだまだ不足だ。マニーの情報で、過疎地域に住む一人暮らしの盲目の老人が大金を持っているらしいことを知る。下見に行くと、周囲は空き家で盗みに入っても気づかれる心配はなさそうだった。深夜に忍び込んだ3人は意外にも頑丈な施錠に手間取り、しかも盲目の老人と侮っていたのが大きな間違い。息を殺して逃げ回る羽目に陥る。

フェデ・アルバレス監督は、サム・ライミ監督のスプラッターホラー『死霊のはらわた』(1981年)を2013年にリメイクしています。ヒロインの薬物依存症のミア役だったジェーン・レヴィもヒロインで続投。サム・ライミ監督は今回も製作にあたっています。
楽勝だと思っていた盗みが全く予測不能の展開になり、家に押し入ったとたん観ているほうも一緒に緊張の連続を強いられます。か弱い老人だと思っていたら、目が見えない代わりに異常に耳が良く、小さな音も聞き逃しません。おまけに特殊部隊なみに強い老人だった…それで「Don't Breathe(息をするな)」になるわけです。いやもう久々に怖い思いをしました。いかに妹思いの姉でも「盗み」でなんとかしようというその魂胆がいかん。そんな目に遭うのも自業自得と言いたいところです。
この夏アメリカではスマッシュヒットだった作品。外は寒いですが、ドキドキ&ゾ〜っとして来てください。続編も決まったようです。(白)


2016年/アメリカ/カラー/シネスコ/88分
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
(C)2016 CTMG, Inc. All rights reserved.
http://www.dont-breathe.jp/
★2016年12月16日(金)TOHO シネマズ みゆき座ほかロードショー
posted by shiraishi at 19:21| Comment(0) | TrackBack(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

幸せなひとりぼっち   原題:En man som heter Ove  英題:A MAN CALLED OVE

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監督・脚本:ハンネス・ホルム
出演:ロルフ・ラスゴード、バハー・パール(バハール・パールス)、フィリップ・バーグ,アイダ・エングヴォル,カタリナ・ラッソン
原作:フレドリック・バックマン訳:坂本あおい(ハヤカワ書房刊)

59歳のオーヴェは、妻を亡くし、郊外の住宅地で妻の思い出が詰まった家でひとり暮らし。ある日、43年間勤めていた鉄道局から突然クビを言い渡される。かつては町内の自治会長も務めていたが、選挙で落選。もともと厳格な性格のオーヴェは、暇に任せて共同住宅地の敷地内の規律が守られているか見回る日々。それも虚しく、首を吊ろうとしたところに、子ども連れの家族が騒々しく隣りに引っ越してくる。夫パトリックの運転する車がオーヴェ宅の郵便受けを壊してしまい、お詫びにと、妻パルヴァーネは故国イランの料理を差し入れる。「美味しかった」とメモをつけ器を返すオーヴェ。少しずつだが、パルヴァーネや二人の娘たちと打ち解けていくオーヴェ。
ある日、倒れたオーヴェのために家に入ったパルヴァーネは、台所の作りが低めなことより、オーヴェの妻ソーニャが車椅子生活だったことを知る・・・

妻のもとに行こうと首を吊るオーヴェの頭に、母を早くに亡くし、育ててくれた父も残念な事故で亡くした過去や、妻ソーニャと出会った頃のことが走馬灯のように駆け巡ります。頑固で偏屈な性格のオーヴェを、パッと咲いた花のような笑顔で包み込むソーニャ。そのソーニャが車椅子生活を余儀なくされるようになった事故。教師として働きたいソーニャのためにオーヴェがしてあげたこと等々、オーヴェの人生が次第に明かされていきます。
共同住宅地に住み始めた頃、規律を一緒に作った性格の似たルネが、今や認知症になり、強制的にケアハウスに入れられようとしているのを助けたりもします。
私にとっては、何より、隣りに越してきた一家の若い身籠った奥さんがイラン人ということに興味津々。オーヴェに差し入れたのは、サフランを使ったイラン料理。さて、どの料理かなと想像を巡らしてしまいました。演じたBahar Parsさんは、1979年イランのシーラーズ生まれ。10歳の時に家族でスウェーデンに移住。28歳の時、女優として本格的デビューした後、舞台と映画で活躍。近年、映画監督としても活躍しているそうです。
バハー・パールと表記されていますが、バハール・パールスが近いと思います。バハールは「春」の意味。役名のパルヴァーネは、映画の中でも自身で語っていますが「蝶々」のこと。時々、ペルシャ語で独りごとを言うのですが、娘たちにもペルシャ語で話しかけています。二人の娘たちも「yek do seh(ペルシャ語で、1,2,3)」と言いながら縄跳びをしていて、スウェーデンに居ても、母親の母国語も使っているのが嬉しいです。
本作を観て、最近だんだん薄れているご近所付き合いの大切さを思いました。素敵な一作です。(咲)


2015 年/スウェーデン/HD/116 分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/スウェーデン語・ペルシャ語
配給:アンプラグド
公式サイト:http://hitori-movie.com/
★2016年12月17日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ 渋谷ほかにて全国順次公開
posted by sakiko at 17:34| Comment(0) | TrackBack(0) | スウェーデン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

うさぎ追いし 山極勝三郎物語

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監督:近藤明男(『ふみ子の海』『エクレール・お菓子放浪記』)
出演:遠藤憲一、水野真紀、豊原功輔、岡部尚、高橋惠子、北大路欣也
横光克彦、緒方美穂、尾崎右宗、秋月成美、森日菜美、古今亭文菊、白川和子、三上寛

「癌が作れれば、癌は治せる」
その一念で、人工的に癌を発生させる実験を成功させ癌研究に生涯を捧げた山極勝三郎の物語。

江戸から明治への転換期。上田藩の下級武士の家系に生まれ育った山本勝三郎(遠藤憲一)は、16歳のとき、東京で町医者を開業する山極吉哉(横光克彦)の後継ぎとなるべく上京し、吉哉の娘・かね子(水野真紀)の婿養子に入る。郷里の親友、金子滋次郎(豊原功補)とともに東京帝国大学の医科に進学した勝三郎は、臨床医ではなく病理学の道へ進むことを決意する。32歳で東京大学教授に昇進し、3人の子にも恵まれた勝三郎だが、結核に見舞われてしまう。病を患いながらも、「癌刺激説」の証明をめざして、うさぎの耳にあらゆる手段で刺激を加え続け、人工癌が出来るかどうかの実験を続ける。

今年も日本人研究者がノーベル賞を受賞されました。山極勝三郎博士も受賞には至らなかったものの、数度にわたってノーベル賞候補に推薦されたことがあるそうです。まさに、日本が世界に誇る研究者のお一人だと、本作を観て知りました。
映画には、信州上田への深い郷土愛も描かれています。プロデューサーの永井正夫氏も上田のご出身。大腸癌を患ってがん研有明病院に入院された折に、がん研究会設立者の中に見つけた山極勝三郎博士が、自身と同じ上田の出身であることを後に知ります。山極勝三郎博士と親友の小河滋次郎氏が明治18年に設立した「郷友会」は、130年経った今も健在。私の同級生や知人にも上田高校出身の方がいて、郷友会の会報を何度かいただいたことがあります。誰しも故郷への思いは深いものですが、上田の方たちの郷土愛の強さいには格別のものがあるように感じます。(咲)


2016年/ビスタサイズ/カラー/DCP/111分
配給:新日本映画社
公式サイト:http://usagioishi.jp/
★2016年12月17日(土)より有楽町スバル座他全国ロードショー
(11月5日(土)よりTOHOシネマズ上田・長野グランドシネマズ他先行公開)
posted by sakiko at 14:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

フィッシュマンの涙   原題:突然変異 英題:Collective Invention

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監督・脚本:クォン・オグァン
エグゼクティブ・プロデューサー:イ・チャンドン
プロデューサー:キム・ウサン
出演:イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン

パク・グ(イ・グァンス)は、大学を出て定職につけないままフリーターを続けていた。高報酬目当てで製薬会社の新薬のテストに参加し、副作用で上半身が魚になってしまう。
彼が魚人間として一躍有名になったのは、テレビ局の見習い記者サンウォン(イ・チョニ)が目にとめた「私の彼は魚人間」というネットの投稿がきっかけだった。サンウォンは書き込みをしたジン(パク・ボヨン)に会いに行く。一夜限りの関係を結んだパク・グが、魚人間になってしまい逃げ場を求めてジンのところにやって来たが、ジンは製薬会社に彼を売ってしまったという。製薬会社に忍び込み、魚人間の存在をスクープしたサンウォンは正式にテレビ会社に採用される。魚人間もまた時代の寵児として一世を風靡する。しかしそれも束の間、製薬会社の悪意の証言で世の中から葬られてしまう・・・

大学を出て、公務員を目指すもなかなか試験に受からないパク・グ、一流大学を出ていない為、やっと見つけた職場でも肩身の狭いサンウォン。日本よりさらに就職難で学歴重視の韓国社会の現状がひしひしと伝わってくる物語でした。
歴史大河ドラマ「トンイ」で愛敬のある宮廷楽師を演じていたイ・グァンス主演とのことで、楽しみにしていたのですが、ずっと顔は魚のままで素顔が観られませんでした。(一瞬素顔が出たのかも) 長身の彼が大きな魚の頭なので目立つことこの上なし。
見習い記者サンウォンを演じたイ・チョニは、ドラマ「オンリー・ユー」でハン・チェヨン演じるイタリア料理店見習いシェフに片思いするシェフ役や、ペ・ドゥナ主演ドラマ「グロリア」でナイトクラブの用心棒役で、暗い男のイメージが強かったのですが、本作では、三流大学出ながら真実を伝えたい記者を好演していました。

新薬開発といえば、私の同級生に製薬関係の仕事に就いている人がいて、やはり実験に参加することがあるそうで、危険度の高いほど報酬が高いとのこと。
新薬開発のための実験台というテーマは、アル・パチーノとアンソニー・ホプキンスに加えイ・ビョンホンも出演している『ブラック・ファイル 野心の代償』(2017年1月7日公開)でも取り上げられています。これまで治癒できなかった病のための新薬開発が、多くの人の勇気ある実検によって成されてきたことを再認識させられました。(咲)


2015/韓国/92分/カラー/シネスコ/ドルビー 5.1
配給:シンカ 
公式サイト:http://fishman-movie.jp
★2016年12月17日(土)よりシネマート新宿、HTC渋谷ほかロードショー
posted by sakiko at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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